弁護士清水大地のブログ

日頃考えたことを徒然なるままに書き散らします。

旅行法令研究〔第1回〕~旅行に関係する法令~

はじめに

 弁護士業務とは関係なく,完全に個人的趣味で始めるシリーズです。「旅行法令研究」と題して,旅行に関係する法令について個人的に気になったことをまとめた記事を不定期に投稿していく予定です。個人的にとはいえ,ブログなので読者がいることは想定しており,法律のことはあまり詳しくないという方も読めるくらいのものにすることを意識しています。一応,旅行業務取扱管理者試験の法令・約款と海外旅行実務の法令部分にも対応していますが,たぶんオーバースペックなので過去問を解いた方がはやいです。

 「旅行法令」とは,ここでは,旅行業や旅行契約など広く旅行にまつわる法令くらいの大雑把に定義したものとして使っています。

 連載の大きな流れとしては,総論→旅行業法→標準旅行業約款→宿泊約款・運送約款等の各種約款→海外渡航法令→その他,という形を考えていますが,変わるかもしれません。

 突然の思い付きで始めた連載であり,何をどれだけ書くのか,一体連載がいつまで続くのか,そもそもこの連載の目的は何なのかといったことは全く決まっていません。連載が進むにつれてなんとなく決まっていくのではないでしょうか。

 この分野は,簡単に調べてみたところ,どうもコンメンタール的なものが出ていないようです。解説本については,この分野では有名な三浦雅生先生が旅行業法と標準旅行業約款について出されており,後者については民法改正直前くらいの比較的新しい時期に改訂されておられますが,前者については少し古くなっているようです。佐々木正人先生の本もありますが,どこにも売っておらず,Amazonですごい値をつけられたものを買うかどうかというところ。

 そのため,なかなか参照できるものも少なく,半ば実験的な内容になってしまうかもしれません。コンメンタールの代わり(には到底ならない)みたいなものを作るのも,この連載の一つの目的かもしれません。

 読者の皆様におかれては,内容の是非に細心の注意を払いながら読まれた方がいいのではないかと思います。

 

旅行と法令

法令の適用場面

 第1回は「旅行業に関係する法令」ということで,旅行業を営む上でどのような規制がかかるのか,契約締結上どのような法令の適用があるのかについてまとめておきたいと思います。

 旅行というと,普段生活している所とは別の土地を訪れて,その土地の観光地を巡ったり,食を堪能したり,旅館に泊まってみんなでワイワイ騒いだりといったことが想起されます。行く先も,国内を堪能したいという人もいれば海外こそ至高という人もいるかもしれません。その土地に行くまでの間には,電車・飛行機・バスといった交通機関を利用することもあるでしょう。また,旅行の日程を組むのも交通機関や宿泊施設を手配するのも全部自分でやるところまで含めて旅行だという人もいますし,他方で旅行会社が募集しているツアーに参加する気軽さがいいという人もいるかもしれません。

 上に見るように,旅行に出かけるにあたっては,旅行計画の策定→利用施設の手配→旅行の実施という過程を経るとともに,その過程の中で,宿泊施設や交通機関,場合によっては旅行会社といった様々な人と関わり合いを持つことになります。このような人たちとのかかわりの中で,トラブルが生じないように,あるいは発生したトラブルの解決のために,法令による利害調整が期待されています。

 また,海外旅行に行く場合には,国内旅行には見られない特有の問題が生ずることがあります。そこで,海外旅行特有の問題に対処するための法令も用意されています。

 さらに,旅行者が旅行会社を利用する場合には,旅行会社がいい加減なことをすると,旅行者の利益が損なわれてしまいます。そこで,旅行会社には,特にその適格を判断するための法令が整備されています。

 旅行にまつわる法令は,大きく分けると以上の3つになります。以下で,①旅行契約に関する法令,②海外旅行に関する法令,③旅行業に関する法令という括りで,その概要について触れておきます。

 

①旅行契約に関する法令

 旅行をするとなったとき,上記のように,全部旅行会社にお任せしてツアーで連れて行ってもらうという人もいれば,自分で行程も組んで電車や宿の手配も全部やってしまうという人もいます。

 基本的に,人と人が何かの契約を結ぶときには,その契約の成立や拘束力については「民法」という法律によって規律されます。旅行会社にツアーを申し込む場面では,旅行者と旅行会社との間で,旅行会社が用意したツアーに参加することを目的とした契約を締結します。自分で行程を立てるのであれば,交通機関を運営している会社や旅館と,運送契約,宿泊契約といった契約を締結することになります。このように,旅行に出かけるというときには,ほとんどの場合,旅行者は誰かしらと契約を締結することになります。ここでの契約関係に何かトラブルが生じたのであれば,「民法」の規定に従ってトラブルの解決を図る可能性があります。

 ただし,「民法」は,旅行に関する契約に限らない,世の中の幅広い契約について規律する法律です。そのため,旅行に関する契約特有の問題が生じたときに,「民法」によっては解決できない問題も生じ得ます。

 そこで,旅行に関する契約特有の問題に対処するために,様々な「約款」が定められていることがあります。旅行会社が企画したツアーに参加する場面では「旅行業約款」,鉄道会社と運送契約を締結する場面では「旅客営業規則」をはじめとする運送約款,宿泊施設と宿泊契約を締結する場面では「宿泊約款」,etc... といった「約款」によって,様々な場面を想定して,こういうときにはこう処理しますということが事細かに定められています。また,これらの「約款」では,上記の「民法」で定められたルールが修正されていることもあります。

 以上から,旅行に関する契約については,まずは各種の「約款」の適用を考え,「約款」に書かれていない一般的なルールについては「民法」が適用されるという関係にあります(【図1-1】も参照)。

 

 

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②海外旅行に関する法令

 海外旅行をする場合には,国内旅行にはない特別なルールが設けられています。例えば,海外旅行をするときにはパスポートを携帯する必要があります。また,海外で買った商品を日本に持ち込む(輸入)ときには,税関をパスする必要があります。海外旅行の経験がある方であれば,イメージはつきやすいと思います。

 これらの法制は,国民が国外にいる場合でも国家としてその安全に配慮しなければならないことや,国内に危険な物を持ち込まれて国内の安全が脅かされることを防ぐことといった,海外旅行特有の問題に対処するために整備されています。

 このような国内旅行にはない海外旅行特有の問題に対処するための法令として,「旅券法」や「出入国管理法」,「関税法」といった法令が制定されています。

 

③旅行業に関する法令

 上記のように,旅行者の中には,旅行会社に頼んで旅行の計画を立ててもらったり,既に旅行会社が設計したツアーに参加したりするなど,旅行会社の援助を受けて旅行に出かけるという人も少なくないと思います。

 しかし,旅行の相談をしていた旅行会社が全然旅行に関する知識を持っていなかったり,旅行中の事故について全く責任をとってくれなかったりすると,もはや旅行会社を信用することができず,旅行者の快適な旅行が阻害されてしまいます。

 そのようなことが起きないためにも,旅行会社には一定の適格があることが要求されます。そのような適格について定めている大本の法令が「旅行業法」です。旅行業法では,登録を受けた者でないと旅行業を営むことができないことであったり,万が一事故を起こした場合に補償ができるように準備しておくことなどが定められています。

 また,「旅行業法」に書ききれなかった細かい事項については,「旅行業法施行規則」,「旅行業法施行令」,「旅行業者営業保証金規則」,「旅行業者等が旅行者と締結する契約等に関する規則」等に規定されています。

 これらの法制によって,旅行会社が適切に業務を遂行することを担保しています。

 

第1回のまとめ

  このように,普段何気なく出かけている旅行でも,あらゆる場面に法令の適用があることが分かります。それぞれの法令の役割と適用場面を大まかに知った上で,次回以降の法令研究を読んでいただくと,少しは理解しやすくなるかもしれません。

 

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