弁護士清水大地のブログ

日頃考えたことを徒然なるままに書き散らします。

旅行法令研究〔第4回〕~旅行業法編:定義規定(第2条)②~

今回は,定義規定(第2条)のうち,前回の記事で触れていない「旅行業者代理業」と「旅行サービス手配業」について取り上げます。

前回の記事はこちら↓↓↓ 

ds-law.hatenablog.jp

 

 

旅行業者代理業

(定義)
第二条 (略)
 この法律で「旅行業者代理業」とは、報酬を得て、旅行業を営む者のため前項第一号から第八号までに掲げる行為について代理して契約を締結する行為を行う事業をいう。
3~ (略)

 

旅行業者代理業の定義

 旅行業者代理業は,法2条1項1号から8号までに掲げる行為,すなわち,旅行業者が行う企画旅行契約及び手配旅行契約について,旅行業者を代理して契約を締結する行為を行う事業をいいます。旅行業法改正前の「旅行代理店業」に相当します*1。旅行業者代理業を営む者を「旅行業者代理業者」といいます。

 旅行業者代理業者は,あくまで旅行業者の代理人として取引を行うことができるにすぎないため,旅行業務の取扱いに関し,自己の名において取引上の契約を締結することはできません(旅行業法施行要領第一.2.1))。旅行業者代理業者が代理する旅行業者を「所属旅行業者」といいます(法11条)。

 旅行業者代理業者は,法14条の2に基づき,所属旅行業者の認めた募集型企画旅行の代理販売を行う場合を除き,所属旅行業者以外の旅行業者を代理することができません(旅行業法施行要領第一.2.1))。また,旅行業者代理業者は,取引の相手方に対し,旅行業者代理業者である旨及び所属旅行業者名を明示することが必要です(法14条の3)。

 

旅行業者代理業に関連する特例

 平成20年に「観光圏の整備による観光旅客の来訪及び滞在の促進に関する法律」(以下「観光圏整備法」といいます。)という法律が制定され,「観光圏」の形成支援による国際競争力の高い魅力ある観光地域づくりが推進されるようになりました。

 観光圏整備法では,観光圏整備事業を実施しようとする滞在促進地区内の宿泊業者(ホテル・旅館等)が,観光圏内に限定した旅行業務の取扱いを行うことができることとされており,この場合,旅行業法上の「旅行業者代理業」そのものの登録申請を行わなくとも,その登録があったものとみなされます(観光圏整備法12条1項)。このように,旅行業者代理業についてみなし登録を受けた宿泊業者を「観光圏内限定旅行業者代理業者」といいます。

(旅行業法の特例)
第十二条 観光圏整備事業を実施しようとする者であって滞在促進地区において旅館業法(昭和二十三年法律第百三十八号)第二条第一項に規定する旅館業(同条第四項に規定する下宿営業その他の国土交通省令で定めるものを除く。)を営むもの(旅行業法第三条の登録を受けた者を除く。)が、観光旅客の宿泊に関するサービスの改善及び向上を図るために実施する旅行業法第二条第二項に規定する旅行業者代理業であって、当該観光圏内の旅行(宿泊者の滞在の促進に資するものとして国土交通省令で定めるものに限る。)に関し宿泊者と同条第三項に規定する旅行業務(以下単に「旅行業務」という。)の取扱いに係る契約を締結する行為を行うもの(以下「観光圏内限定旅行業者代理業」という。)に関する事項が記載された観光圏整備実施計画について、第八条第三項の認定を受けた場合において、認定観光圏整備実施計画に従って観光圏内限定旅行業者代理業を実施するに当たり、同法第三条の旅行業者代理業の登録を受け、又は同法第六条の四第三項の規定による届出をしなければならないときは、これらの規定による登録を受け、又は届出をしたものとみなす。この場合においては、同法第十二条の九第一項の規定は、適用しない。
2~4 (略)

 

 これにより,観光圏内限定旅行業者代理業者である宿泊業者は,そのフロントで着地型旅行商品等募集型企画旅行(パッケージツアー)の販売ができるほか,電車,バス及び宿泊予約等の手配業務,所属旅行業者が他の旅行業者と委託販売契約を結んだ募集型企画旅行商品(パッケージツアー)の販売ができます。

 一方で,観光圏内限定旅行業者代理業者である宿泊業者であっても,通常の旅行業者代理業者と同様に自ら旅行商品を企画販売したり,所属旅行業者以外の旅行業者が実施する募集型企画旅行を販売してりすることはできないのはもちろん,▼観光圏のエリアを越える旅行商品を取り扱うことや,▼認定を受けた自らの宿泊施設の宿泊者以外(日帰り客等)を対象とした旅行業務をすることはできません*2

 

旅行サービス手配業

(定義)
第二条 (略)
2~ (略)
 この法律で「旅行サービス手配業」とは、報酬を得て、旅行業を営む者(外国の法令に準拠して外国において旅行業を営む者を含む。)のため、旅行者に対する運送等サービス又は運送等関連サービスの提供について、これらのサービスを提供する者との間で、代理して契約を締結し、媒介をし、又は取次ぎをする行為(取引の公正、旅行の安全及び旅行者の利便の確保に支障を及ぼすおそれがないものとして国土交通省令で定めるものを除く。)を行う事業をいう。
 この法律で「旅行サービス手配業務」とは、旅行サービス手配業を営む者が取り扱う前項に規定する行為をいう。

 

改正の経緯

 「旅行サービス手配業」は,平成29年の法改正により新たに設けられた類型です。従来の旅行業法は,個人の旅行者に直接サービスを提供する旅行業者のみが対象になっており,旅行業者の委託等を受け,宿泊施設や運送手段・ガイド等を手配するランドオペレーターは,様々な旅行におけるサービスを手広く扱っておきながら,同法の対象外となっていました*3

 改正の契機となったのは,軽井沢スキーバス事故の発生です。この事故は,平成28年1月15日午前1時55分頃,長野県軽井沢町の国道18号線碓氷バイパス入山峠付近において,貸切バス(乗客乗員41名)がガードレールを突き破り,道路右側に転落,乗客乗員15名が死亡,乗客26名が重軽傷を負った重大な事故でした。

 事故同日,国土交通省がこの貸切バスを運行していたバス事業者に特別監査を実施したところ,始業点呼の未実施,運行指示書の未作成,運転者の健康診断の未受診,運賃の下限割れといった問題が発覚するに至りました。特に,旅行業者からランドオペレーターを介して貸切バス事業者に対して下限割れ運賃での運送の手配が行われており,これがバス運転手の劣悪な環境を生み出していたことが,当時注目されました。

 そのため,このような事故を二度と発生させないために,様々な対策が採られることとなり,その一環として,ランドオペレーターに対する規制の在り方も検討されました*4*5。その結果,平成29年の旅行業法改正により,「旅行サービス手配業」が新設され,ランドオペレーターにも法規制が及ぶようになりました。

 

旅行サービス手配業該当性

 平成30年1月4日以降に国内でランドオペレーター業務を行う者について,「旅行サービス手配業」の登録が必要となります。

 具体的な行為が「旅行サービス手配業」に該当するかどうかは,「旅行業」該当性の判断のときと同様に,条文上の要件を充たすか否か,すなわち,

 ① 旅行業者のため、旅行者に対する運送等サービス又は運送等関連サービスの提供について、これらのサービスを提供する者との間で、代理して契約を締結し、媒介をし、又は取次ぎをする行為(以下「手配行為」といいます。)であること

 ② ①の行為を事業として行っていること

 ③ ①の行為を報酬を得て行っていること

の全てを満たすか否かによって判断します。これらを全て満たすのであれば,その行為を行うに当たっては「旅行サービス手配業」の登録が必要ということになりますし,1つでも欠けていれば登録は不要ということになります。

 なお,②事業として行っていること,③報酬を得ていること,の2つについては,基本的には「旅行業」該当性を判断するにあたっての「事業」「報酬」の考え方が当てはまるものと思われますので,前回のブログを併せて確認してください。

 

①手配行為

 「代理契約」とは旅行業者を代理して,サービス提供者とけいやくを締結する行為,「媒介」とは旅行業者とサービス提供者間の契約成立に向けて尽力する行為,「取次」とは旅行業者のために自己名義でサービスを提供する行為を,それぞれいいます*6

 例えば,⒜ 運送(鉄道,バス等)又は宿泊(ホテル,旅館等)の手配,⒝ 全国通訳案内士及び地域通訳案内士以外の有償によるガイドの手配,⒞ 免税店における物品販売の手配,といった行為がこれにあたります*7

 

②事業として行うこと

 旅行業のときと同様に,日常的に反復継続して実施されているものであるかどうかが,最大のポイントになります(旅行業法施行要領第一.6.1))。

 例えば,⒜ 貸切バス事業者が当初から他者へ下請に出すことを意図したうえで受注し,日常的に他社への運送の依頼を行っている場合や,⒝ 宿泊事業者が資金を持ち寄り,共同で宿泊案内所を設け,旅行業者からの依頼を受けて宿泊施設に関する予約を日常的に行っている場合などは,行為の反復継続の意思が認められると考えられています(旅行業法施行要領第一.6.3))。

 

③報酬を得ていること

 事業者が手配行為を行うことによって,経済的収入を得ていれば報酬となります(旅行業法施行要領第一.6.2)(1))。

 また,旅行業者からの金員の徴収がない場合や,行為と収入との間には直接的な対価関係がない場合でも,⒜ 旅行者を消費税免税店に送客し,後に消費税免税店からいわゆるキックバックを受けている場合や,⒝ 旅行業者からの依頼に基づき無料で貸切バスを手配するが,後にこれによる割戻し(いわゆるキックバック等)を貸切バス事業者から受けている場合など,相当の関係があるときには,報酬を得ていると認められることになります(旅行業法施行要領第一.6.2)(2))。

 

国土交通省令で除外される類型

 法2条6項かっこ書は,「取引の公正,旅行の安全及び旅行者の利便の確保に支障を及ぼすおそれがないものとして国土交通省令で定めるもの」については,旅行サービス手配業にあたらないことを示しています。ここにいう「国土交通省令」とは,「旅行業法施行規則」のことをいいます(以下「施行規則」といいます。)。旅行サービス手配業にあたらない類型を,施行規則1条は下記のように定めています。

(法第二条第六項の国土交通省令で定める行為)
第一条 旅行業法(昭和二十七年法律第二百三十九号。以下「法」という。)第二条第六項の国土交通省令で定める行為は、次に掲げるものとする。
 旅行者に対する本邦外における運送等サービス又は運送等関連サービスの提供について、これらのサービスを提供する者との間で、代理して契約を締結し、媒介をし、又は取次ぎをする行為
 旅行者に対する本邦内における運送等関連サービス(通訳案内士法(昭和二十四年法律第二百十号)第二条第一項に規定する通訳案内(報酬を得ずに行うもの並びに同項に規定する全国通訳案内士及び同条第二項に規定する地域通訳案内士が行うものを除く。)及び輸出物品販売場(消費税法(昭和六十三年法律第百八号)第八条第六項に規定する輸出物品販売場をいう。)における物品の譲渡を除く。)の提供について、これらのサービスを提供する者との間で、代理して契約を締結し、媒介をし、又は取次ぎをする行為

 

 施行規則1条1号は「本邦」の「運送等サービス」と「運送等関連サービス」の双方について手配行為を行うことが,同条2号は「本邦」の「運送等関連サービス」のみについて手配行為を行うことが,それぞれ「旅行サービス手配業」には当たらないことを定めています。

 施行規則1条1号,2号にいう「運送等サービス」,「運送等関連サービス」の意義は,法2条1号,2号のそれらと同じものと考えられます。「運送等サービス」は,例えば,貸切バスやホテル・旅館等の運送又は宿泊のサービスを指し,「運送等関連サービス」は,例えば,通訳ガイド・土産物店・レストラン・劇場等の運送又は宿泊以外の旅行に関するサービスを指します*8

 施行規則1条2号にはかっこ書きがあり,▼通訳案内と▼輸出物品販売場における物品の譲渡についての手配行為は,運送等関連サービスについての手配行為ではあるものの,旅行サービス手配業の登録が必要とされています。

 ここでいう「通訳案内」とは,外国人に付き添い,外国語を用いて,旅行に関する案内をすることをいいます(通訳案内士法2条1項)。したがって,旅行に関する案内をしない者を手配するだけであれば,ここにいう「通訳案内」には当たらないこととなるため,旅行サービス手配業の登録は不要となります。例えば,病院内で医療通訳のみを行う者の手配であれば,旅行に関する案内が含まれませんので,通訳案内に当たらず,旅行サービス手配業の登録は不要です*9

 また,ここでの通訳案内からは,ボランティアガイドや全国・地域通訳案内士は除外されていますので,ボランティアガイド等についての手配行為であれば,旅行サービス手配業の登録は不要となります。

 

第4回のまとめ

 今回は,定義規定のうち「旅行業者代理業」と「旅行サービス手配業」について確認しました。特に旅行サービス手配業は,規制対象の範囲を理解するのが少し面倒なところがあります。ご自身の行為が規制対象に含まれるかどうかが不明確であるときは,専門家に相談されることをおススメします。

 次回は,旅行業・旅行業者代理業の登録制度について触れたいと思います。

 

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*1:第132回国会参議院運輸委員会第5号荒井政府委員発言039

*2:観光庁観光圏整備事業における旅行業法の特例の概要」2頁

*3:観光庁観光産業課「旅行業法の改正について」1頁

*4:観光庁旅行業法の改正について」4-6頁

*5:このほかに,貸切バスの不適正な運賃・料金に関する情報を通報する窓口が設けられるなどの対策が採られています。詳しくは,国土交通省貸切バスの運賃・料金に関する通報窓口のご案内」をご覧ください。

*6:観光庁旅行業法の改正について」14頁

*7:観光庁観光産業課「旅行サービス手配業(ランドオペレーター)の登録制度が始まります」1頁

*8:観光庁旅行業法施行規則等の一部を改正する省令を公布しました」1頁

*9:観光庁観光産業課「旅行業法の改正について」9頁