弁護士清水大地のブログ

日頃考えたことを徒然なるままに書き散らします。

旅行法令研究〔第7回〕~旅行業法編:旅行業・旅行業者代理業の登録制度③(第5条)~

 前回まで、旅行業又は旅行業者代理業の登録を受けようとする申請者(以下「登録申請者」といいます。)側の手続について概観しましたが、今回は、「登録申請者から申請を受ける側」について取り上げます。前回の記事はこちら↓↓↓

ds-law.hatenablog.jp

 

登録申請者による申請の法的性質

 前回の記事でも解説したように、登録申請者は、その登録を受けようとする業種の別にしたがって、それぞれに対応した行政庁に登録申請を行います。

 ここまで、登録申請者が行政庁に対して登録を求める行為のことを「申請」と呼称してきており、法5条1項でも「申請」という言葉が使われています。

 

○旅行業法
(登録の実施)
第五条 観光庁長官は、前条の規定による登録の申請があつた場合においては、次条第一項の規定により登録を拒否する場合を除くほか、次に掲げる事項を旅行業者登録簿又は旅行業者代理業者登録簿に登録しなければならない。
 前条第一項各号に掲げる事項
 登録年月日及び登録番号
 (略)

 

 このような「申請」という言葉を見たとき、それが行政手続法2条3号にいう「申請」に該当するのかが問題となり得ます。

 

○行政手続法
(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
 (略)
 申請 法令に基づき、行政庁の許可、認可、免許その他の自己に対し何らかの利益を付与する処分(以下「許認可等」という。)を求める行為であって、当該行為に対して行政庁が諾否の応答をすべきこととされているものをいう。
四~ (略)

 

 行政手続法上の「申請」に該当するのであれば、行政手続法上の「申請に対する処分」の手続が保障されるほか、申請に対する行政庁の応答は「処分」に当たり、これに不服がある場合には、審査請求(行政不服審査法3条)、取消訴訟及び申請満足型義務付け訴訟(行政事件訴訟法3条6項2号)で争うことができるようになります*1

 もっとも、法文上「申請」という言葉が使われていても、それが直ちに行政手続法上の「申請」に該当するわけではありませんので、別途判断を必要とします*2

 

授益処分を求める行為であること

 法文から分かるように、「申請」の概念の中心的要素は、自己に対し何らかの利益を付与する処分(授益処分)を求める行為であることです*3

 法文上は「行政庁の許可、認可、免許」が明記されていますが、これは例示的列挙であって、これらに限定されるものではなく、承認、認定、決定、検査、登録等も含まれます*4

 旅行業法では「登録」制度を採用しています。「登録」とは、第5回の記事(旅行法令研究〔第5回〕~旅行業法編:旅行業・旅行業者代理業の登録制度①(第3条)~ - 弁護士清水大地のブログ)でも触れたように、一定の法律事実又は法律関係を行政庁等に備える公簿に記載することをいいます。したがって、登録の主たる効果は、これらの法律事実又は法律関係の存否を公に表示し、または証明することにあり、旅行業法上の登録にあっても、ある者が旅行業を営む資格を有する者である旨、その者の住所、営業所所在地等の事項を公に表示するという効果をもちます*5。また、登録を受けて初めて旅行業を営むことができるという旅行業法の建前からすれば、旅行業法上の登録の効果は、営業の許可の方法としても使われています*6。このような効果からすれば、旅行業法上の登録は、申請者に対し、旅行業を営んでもよいという地位を付与する行為であるといえるため、登録のための申請は授益処分を求める行為であるということができます。

 

法令に基づくものであること

 法文から明らかなように、授益処分を求める行為が法令に基づいて行われる必要があります。

 この点、旅行業又は旅行業者代理業の登録を求める行為は、旅行業法に基づいて行われるものですので、この要件は満たします。

 

当該行為に対して行政庁が諾否の応答をすべきこととされているものであること

 行政手続法上の「申請」にあたるのは、当該申請に対して行政庁が諾否の応答義務を課せられている場合、すなわち、申請人の側に法令上申請権がある場合に限られます。したがって、申請に対する行政庁の応答が、行政庁の裁量にあるにすぎない場合には、行政手続法上の「申請」にはあたりません*7。申請人に法令上申請権が認められているかどうかの判断は、当然ですが、行政手続法の規定ではなく、個別法の規定の解釈によって行われます*8

 この点、旅行業法は、登録行政庁は、申請者が第6条に規定する登録拒否事由に該当しないのであれば登録しなければならず(法5条1項柱書)、登録をした場合であっても、登録の拒否をした場合であっても、その旨を申請者に通知しなければならないと規定しています(法5条2項、6条2項)。このように、登録行政庁においては、申請者から申請があれば、登録をするかしないかの判断を行い、その判断を申請者に対して示さなければならない仕組みになっていることからすれば、登録行政庁は、申請者による申請に対して応答すべき義務があり、それはすなわち申請者が登録行政庁に登録の認否を要求する権利を有するものと解されます。

 したがって、旅行業法上の申請は、これに対して行政庁が諾否の応答をすべきこととされているものと考えられます。

 以上から、旅行業法上の申請は、行政手続法上の「申請」に該当すると解されます。

 

実際に「申請に対する処分」として扱われていること

 以上述べたとおり、旅行業法上の登録の申請は行政手続法上の申請に該当すると解されますが、観光庁は、旅行業法上の登録が行政手続法上の申請に対する処分に該当することを前提として各種取扱いを定めており、実務上も旅行業法上の登録の申請が行政手続法上の申請に該当するものとして取り扱われています。

 行政手続法上の申請に対する処分を行う場合には、当該処分をするにあたっての審査基準を設定・公表することが義務付けられている(行政手続法5条)とともに、申請があってから処分を行うまでの標準処理期間を定めておく努力義務が課せられます(行政手続法6条)。

○行政手続法
(審査基準)
第五条 行政庁は、審査基準を定めるものとする。
 行政庁は、審査基準を定めるに当たっては、許認可等の性質に照らしてできる限り具体的なものとしなければならない。
 行政庁は、行政上特別の支障があるときを除き、法令により申請の提出先とされている機関の事務所における備付けその他の適当な方法により審査基準を公にしておかなければならない。
(標準処理期間)
第六条 行政庁は、申請がその事務所に到達してから当該申請に対する処分をするまでに通常要すべき標準的な期間(法令により当該行政庁と異なる機関が当該申請の提出先とされている場合は、併せて、当該申請が当該提出先とされている機関の事務所に到達してから当該行政庁の事務所に到達するまでに通常要すべき標準的な期間)を定めるよう努めるとともに、これを定めたときは、これらの当該申請の提出先とされている機関の事務所における備付けその他の適当な方法により公にしておかなければならない。

 観光庁は、旅行業法上の登録について、その審査基準を「旅行業法」、「旅行業法施行規則」、「旅行業者等が旅行者と締結する契約等に関する規則」、「旅行業法施行要領」とし、標準処理期間を60日とする旨定めています*9

 また、例えば、東京都では、申請から登録決定までの標準処理期間を30~40日としています*10

 

行政庁による登録審査

 旅行業の登録を希望する者が、必要書類をまとめて所轄の行政庁に申請を行うと、当該行政庁において、登録審査が行われます。

 

○旅行業法
(登録の実施)
第五条 観光庁長官は、前条の規定による登録の申請があつた場合においては、次条第一項の規定により登録を拒否する場合を除くほか、次に掲げる事項を旅行業者登録簿又は旅行業者代理業者登録簿に登録しなければならない。
 前条第一項各号に掲げる事項
 登録年月日及び登録番号
 観光庁長官は、前項の規定による登録をした場合においては、遅滞なく、その旨を登録の申請者に通知しなければならない。

 

「次条第一項の規定により登録を拒否する場合を除くほか」

 法5条1項は、法6条1項の規定により登録を拒否する場合を除くほかは、申請に係る登録を行わなければならない旨規定しています。つまり、行政庁は、法6条1項所定の事由が認められる場合に限って登録を拒否することができるのであり、その他の場合にまで裁量的に登録拒否を行ってはならないわけです。したがって、行政庁が審査を行うのは、法6条1項所定の事由の該当性のみです。

 なお、登録審査とは直接関係しませんが、都道府県によっては、法人が申請する場合には、商号が既存旅行業者と類似することを避けるため、申請書提出前に電話確認を必要とする場合や、定款等所定の目的に旅行業の登録を申請するときは「旅行業」あるいは「旅行業法に基づく旅行業」、旅行業者代理業の登録を申請するときは「旅行業者代理業」あるいは「旅行業法に基づく旅行業者代理業」の記載を必要とする場合がありますので、注意が必要です*11

 

「旅行業者登録簿又は旅行業者代理業者登録簿」

 登録が行われると、旅行業者は「旅行業者登録簿」に、旅行業者代理業者は「旅行業者代理業者登録簿」に、それぞれ登録が行われます。この「旅行業者登録簿」及び「旅行業者代理業者登録簿」がどのようなものかについては、施行規則2条に定めがあります。

 

○旅行業法施行規則
(旅行業者登録簿及び旅行業者代理業者登録簿の様式)
第二条 法第五条第一項の旅行業者登録簿及び旅行業者代理業者登録簿の様式は、第三号様式とする。

 

 「第三号様式」の見本は、こちらから見ることができます。

 この様式にあるように、登録が行われると、氏名・住所・営業所の所在地等が記載された登録簿が作成され、公に表示されることとなります(法21条)。

 

「遅滞なく」

 法5条2項は、登録を行った場合には、その旨を、遅滞なく登録の申請者に通知することを定めています。

 「遅滞なく」とは、時間的即時性を強く表す場合に用いられる語です。もっとも、「直ちに」とは異なり、正当な又は合理的な理由による遅滞は許容されるものと解されています*12*13

 

「通知」

 登録行政庁は、旅行業等の登録申請に対して登録を行った場合には、登録申請者に対して、登録を行った旨の通知を行うものとされています。この通知は、登録通知書等の書面によってされます。

 登録通知書には、登録された旅行業者等の名称又は氏名、商号、登録番号、登録年月日、登録有効期間等が記載されており、この記載のとおり登録された旨が記載されています。

 

第7回のまとめ

 旅行業・旅行業者代理業の登録手続は、上記のように登録申請が行手法上の申請とされているため、各登録行政庁において具体的に定められていることが多いです。旅行業等の登録申請を行う場合には、予め、各登録行政庁のホームページ等で手続を確認しておくのがよいでしょう。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

お問い合わせ・ご相談は下記までどうぞ

弁護士 清水大

TEL : 06-6311-8800

Email : d.shimizu@kyowa-sogo.gr.jp

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

*1:曽和俊文ほか『事例研究行政法〔第3版〕』(日本評論社,2016年)52頁

*2:この点について、宇賀克也『行政法概説Ⅰ行政法総論〔第7版〕』(有斐閣,2020年)452頁は、「行政手続法の制定過程では,同法の『申請』に該当するものにはどのようなものがあり,『届出』に該当するものにはどのようなものがあるかについての検討はなされたが,たとえば,個別の法律で『申請』という用語が使用されていても,行政手続法にいう『届出』に該当する場合に,個別の法律を改正して用語を整理するという作業までは行われなかった。したがって,個別の法律で使用されている用語にとらわれず,行政手続法の『申請』か『届出』かを検討する必要がある。」と指摘しています。

*3:室井力ほか『コンメンタール行政法Ⅰ〔第2版〕行政手続法・行政不服審査法』(日本評論社,2008年)25頁

*4:一般財団法人行政管理研究センター『逐条解説行政手続法〔改正行審法対応版〕』(ぎょうせい,2016年)22頁

*5:旅行業法制研究会『旅行業法解説〔第3版〕』58頁

*6:前掲旅行業法解説58頁

*7:宮田三郎『行政手続法』(信山社,1999年)83頁

*8:塩野宏行政法Ⅰ〔第6版〕行政法総論』(有斐閣,2015年)317頁

*9:観光庁参事官(産業政策担当)「旅行業法における申請に対する処分の審査基準及び標準処理期間について」観観産第622号・平成29年12月28日

*10:東京都「旅行業の新規登録を申請される方へ(第2種・第3種・地域限定)

*11:東京都「旅行業の新規登録を申請される方へ(第2種・第3種・地域限定)」第3⑵、大阪府旅行業登録制度・主な手続きについて(大阪府)

*12:法令用語研究会『有斐閣法律用語辞典〔第5版〕』(有斐閣,2020年)781頁

*13:法令上、時間的即時性を求める場合には、「直ちに」、「速やかに」、「遅滞なく」の3種類が用いられます。「直ちに」という場合には、「遅滞なく」に比べて一切の遅滞が許されず、「速やかに」比べて急迫の程度が高いものとして用いられることが多いです(前掲法律用語辞典763頁)。「速やかに」という場合には、「直ちに」や「遅滞なく」に比べて中程度の時間的近接性を求めるもので、「できるだけ」、「できる限り」などを付けて又はそのままで訓示的な意味で用いられます(前掲法律用語辞典664頁)。