弁護士清水大地のブログ

日頃考えたことを徒然なるままに書き散らします。

交通事故における「車両時価額」の認定に関する最近の裁判例

はじめに

 交通事故事件では、車両の修理費用を相手方に請求するにあたり、特に経済的全損の可能性が指摘された場合に、当該車両の時価額が問題になることがあります。

 車両の時価額の算定について、最判昭和49年4月15日民集28巻3号385頁は、「いわゆる中古車が損傷を受けた場合、当該自動車の事故当時における取引価格は、原則として、これと同一の車種・年式・型、同程度の使用状態・走行距離等の自動車を中古車市場において取得しうるに要する価額によつて定めるべきであり、右価格を課税又は企業会計上の減価償却の方法である定率法又は定額法によつて定めることは、加害者及び被害者がこれによることに異議がない等の特段の事情のないかぎり、許されないものというべきである」と指摘しており、実務上もこの要素を拾って時価額が算定されているところと思われます。

 本記事では、直近の裁判例(令和以降のもの)において、時価額算定に当たってどのような事情が考慮されているかを概観したいと思います。なお、本記事では、二輪車に関する裁判例は除きました。

 

 

裁判例一覧

A 中古車市場によって認定した裁判例

A-1 大阪地判令和元年10月29日2019WLJPCA10298027
  • 原告車両概要 三菱ふそうキャンター、初度登録平成13年6月、走行距離75万5800km
  • 事故発生日時 平成27年9月3日
  • 原告主張時価 160万円(事故直前の売却予定金額)
  • 被告主張時価 35万7000円(不明)
  • 裁判所認定額 160万円(中古車市場等)
  • 判旨

 原告車はトラックであり,トラックは本体価格に加えて,施す架装によって附属品の価格が相当高額になるのが一般的であり(甲8の「車両本体価格」欄及び「付属品」欄参照),かつ,その架装はさまざまであるから完全に同一の車両が存在することはまれであるといえる。そうすると,同一の車種・年式・型の車両による中古車市場は観念し難いともいい得る。
 しかし,架装にも一定の類型があるから,それに応じて振り分けを行うことは可能であって,一般的な乗用車ほどに充実した市場は観念できないとしても,振り分けた類型における中古車市場を観念することは可能である。本件においても,カーセンサー,グーネット等のインターネットを利用した販売サイトが存在しており,これらは中古車市場といえるから,再調達価格を算定する際に参考にすべきものである…。レッドブック等の基準価格を参考にして,標準使用年数等を踏まえて算出した時価も無視はできないが,それのみによって再調達価格を算定すべきではなく,中古車市場において実際に販売されている価格も踏まえて,再調達価格を定めるべきである。
 この点,甲15ないし20,24ないし28を参考にして検討するも,走行距離が75万キロメートル程度にまで上る車両は見当たらない。ウイング車以外も含め,走行距離に着目すれば,45.7万キロメートルの車両の車両本体価格が118万円(甲16の1・3枚目の下から2つ目の車両・平成15年初度登録),55.1万キロメートルの車両の車両本体価格が220万円(甲16の3・7枚目の一番下の車両・平成15年初度登録),70.6万キロメートルの車両の車両本体価格が45万円(甲16の4・4枚目の上から2番目の車両・平成15年初度登録)であり,これらの価格は開きがあるものの一応参考になる。なお,走行距離が67万キロメートルの車両で265万円の価格が付されているものもあるが(甲28の上の車両),この車両は初度登録が平成20年であり,原告車とは7年もの差異が存在しており,このことは価格に大きな影響を及ぼすと考えられるから,参考にすべきではない。
 他方,ウイング車であることに着目すれば,走行距離が40万キロメートルの車両の価格が178万円(甲20の上から2つ目の車両・平成17年初度登録),12.5万キロメートルの車両の価格が148万円(甲20の上から3つ目の車両・平成16年初度登録)である。なお,この2車両を比較すれば,前者の方が,初度登録が1年遅いとはいえ,走行距離ははるかに上回っているが,時価は高額である。そうすると,時価判断の際,走行距離は重要な考慮要素であることは否定できないとしても,必ずしもそれのみによって価格の高低が決定されるものではないといえる。
 以上からすれば,平成13年初度登録であり,走行距離が75万5800キロメートルである原告車について160万円(消費税込み)という価格は,走行距離からすればやや高額とも思われるが,ウイング車であることに加え,架装の詳細内容によって価格は左右されるであろうことを踏まえれば,中古車市場においてあり得ない価格とはいえないというべきである。
 加えて,原告は,本件事故以前に原告車を160万円(消費税込みの価格)で売却する契約を締結していたのであるところ,その売却が原告と買主の特殊な関係に基づく売却である等の事情は窺われないから,この原告車に付された160万円という価格は,原告車の時価を検討するにあたり,参考になるといえる。
 以上を総合して考慮すれば,原告車の時価は160万円(消費税込みの価格)と認めることが相当である。

 

A-2 名古屋地判令和2年2月19日2020WLJPCA02198014
  • 原告車両概要 マツダ・プレマシー20C、初度登録平成17年12月、走行距離12万3987km
  • 事故発生日時 平成30年5月9日
  • 原告主張時価 27万円(中古車市場)
  • 被告主張時価 18万6000円(中古車市場、税込で20万0880円)
  • 裁判所認定額 23万5440円(中古車市場)
  • 判旨

 インターネット上の中古車価格の検索サイトにおいて,原告車と概ね同一の車種・年式・型・同程度の使用状態・走行距離等の中古車の販売価格は,原告の調査によれば27万円(税込み),被告の調査によれば18万6000円(税別)であったことが認められる。
 そうすると,本件事故当時の原告車の車両時価額は23万5440円(原告調査額である27万円と,被告調査額の税込み価格20万0880円の中間値)と認めるのが相当であり,これを覆すに足りる証拠はない。

 

A-3 名古屋地判令和2年12月15日2020WLJPCA12158020
  • 原告車両概要 ホンダ・ステップワゴン(Gタイプ特別仕様車,HDDナビスタイルセレクト)、初度登録平成19年8月、走行距離9万5000km
  • 事故発生日時 平成30年10月8日
  • 原告主張時価 35万8888円(平成31年2月中古車市場)
  • 被告主張時価 18万円(令和2年6月中古車市場)
  • 裁判所認定額 35万8888円(平成31年2月中古車市場)
  • 判旨

 尾張自動車損害調査サービスセンターは,平成31年2月頃,インターネットの中古車情報サイトにより,C車と同車種,同年式,走行距離7万km以上の中古車を検索したところ,条件に該当する車両が9台あり,そのうち車両本体価格の上位2台及び下位2台を除いた5台について車両本体価格の平均額を求めると,35万8888円(税抜き)であった。なお,上記5台のうちの2台(車両本体価格が税込みで39万円のものと39万8000円のもの)は,車検の残期間のないものであった。

 前記認定事実によると,本件事故によるC車の修理費用相当額を51万0490円,本件事故当時のC車の時価額を35万8888円と認めることができるところ,修理費用相当額が時価額を上回るから,経済的全損として,前記時価額をもって損害額と認めることができる。

 控訴人は,C車の時価額は18万円程度であると主張し,インターネットの中古車情報サイトを利用した調査結果(乙1)を証拠提出しているところ,同証拠に記載されたC車と同種・同年式の中古車4台の車両本体価格の平均額は18万1250円であることが認められる。
 しかし,前記乙1の調査結果は,控訴人によれば令和2年6月頃のものであり,本件事故から1年半以上が経過した時点のものである。本件事故時のC車の時価額を算定するための資料としては,本件事故時により近い時期に行われた…の調査の結果を用いる方が適切であるといえるから,前記乙1の調査結果は,前記…の時価額の認定を左右するに足りない。

 

A-4 大阪地判令和3年2月5日交民54巻1号242頁
  • 被告車両概要 ミラジーノ、初度登録平成12年6月,走行距離7万1686km
  • 事故発生日時 
  • 被告主張時価 不明
  • 原告主張時価 10万円程度(減価償却)
  • 裁判所認定額 20万円(中古車市場)
  • 判旨

 被告車…と同種・同程度の車両は,中古車市場において,12万8000円,13万円,21万円,25万円などの20万円前後の価格帯で取引されていると認められる…。そうすると,被告車は本件事故により経済的全損となり,被告には車両時価額20万円の損害が生じたと認めることができる。
 なお,原告は,被告車の車両時価額が10万円程度にとどまる旨主張するが,原告主張金額…は,新車価格から減価償却をして算出したものであり,車両時価額の損害は,同種・同程度の車両の再調達価格とするべきところ,原告の上記主張は採用できない。

 

A-5 大阪地判令和3年3月25日交民54巻2号473頁
  • 被告車両概要 スズキ・ワゴンR(660RR)、初度登録平成14年、走行距離11万4321km
  • 事故発生日時 平成30年12月12日
  • 被告主張時価 50万円(不明)
  • 原告主張時価 9万9750円(不明)
  • 裁判所認定額 20万2600円(中古車市場)
  • 判旨

 証拠…によって認められる,被告車と同車種で年式や走行距離が類似する車両の本体価格(①8万円,②9万円,③28万円,④24万円,⑤9万9000円,⑥13万円,⑦18万8000円,⑧29万円,⑨39万9000円,⑩23万円)の平均である20万2600円をもって被告車の時価額と認めるのが相当である。

 

A-6 名古屋地判令和3年3月29日自保2096号92頁
  • 原告車両概要 事業用大型貨物自動車、初度登録平成26年12月25日、走行距離33万0675km
  • 事故発生日時 平成30年11月16日
  • 原告主張時価 車両本体855万円+標準架装部分180万円(平成30年11~12月レッドブック)
  • 被告主張時価 600万円(中古車市場)
  • 裁判所認定額 700万円(中古車市場を修正)
  • 判旨

 原告車両と同型・同年式であり架装部分は原告車両と同様パブコ社製である車両(ただし,走行距離は原告車の2倍弱である。)がインターネット上で令和元年10月に588万円で販売されていること,訴訟前の交渉過程で東京海上日動が原告に対して時価額として670万円を提示していること,レッドブックには原告車両と同型・同年式の車両について時価額855万円とされていること(なお,証拠…上,「架装部分 180万円」との記載があるが,誰の手による記載か不明であり,採用できない。)が認められる。また,原告は,原告車両の新車価格について,車両本体価格1811万4000円,一次架装価格653万4400円であるとし,架装部分のうち原告仕様とするための追加費用を274万2400円(セトライン特別架装価格653万4400円からウイング車標準架装価格379万2000円を控除した額)であると主張する…。
 ところで,原告は,時価額は購入価格によって左右されないとして,原告車両の購入価格を開示しない。しかし,購入価格は入手当時の原告と売り手との間で車両価格について合意した結果であり,購入当時の車両の価値を反映しているといえ,そこからの経過年数や使用状況を踏まえて,事故当時の原告車両の時価を推認させる資料となり得るものである。この点,原告代表者は,原告車両の購入価額に関する資料を会社で保管していない,必要ないと思っている,などと供述する一方で,資産台帳を見ればわかる,など矛盾した供述をしており,それらの資料を本件訴訟においては提出しないと述べる。原告代表者の供述は合理的でなく,このことからは原告が原告車両の購入価格を伏せておく意向を有していることがうかがわれ,原告代表者自身,車両は値切りして購入している,と供述していることも踏まえると,原告車両の購入価格は相応の値引きがされていると推認できる。
 以上の認定を前提に原告車両の本件事故時の時価額を検討するに,原告車両の特別な仕様を施された事業用車両の時価額は個別性が強いこと,上記のとおり原告車両の購入価格は相応の値引きをされていることが推認できることからすると,原告が主張するレッドブック等に基づく評価は相当でなく,実際の取引価格を参考に算定するのが相当である。
 他方,原告車両の時価額を算定する際には,被告が提出するインターネット上の中古車情報記載の同種,同年式車両の走行距離が原告車両の2倍弱であることを考慮する必要がある。また,原告車両には原告仕様の特別架装がされていることも上記中古車情報記載の車両とは異なり,原告車両の価値を増額させる要素であるから,この点も考慮する必要がある。
 そうすると,車両本体部分及び標準架装部分の時価額は合計700万円程度であると認められ…る。

  • 備考 特殊装備について「新車価格における原告仕様とするための追加費用は,車両本体価格と一次架装価格の合計の11%程度(274万2400円÷(1811万4000円+653万4400円))であることからすると,特別架装部分の時価額は77万円(700万円×11%=77万円)であると認められる。」とも判示している。

 

A-7 飯田簡判令和3年9月22日2021WLJPCA09226004
  • 原告車両概要 普通貨物自動車
  • 事故発生日時 令和2年4月19日
  • 原告主張時価 不明(中古車市場?)
  • 被告主張時価 10万8900円(新車価格の10%)
  • 裁判所認定額 23万1500円(中古車市場)
  • 判旨

 被告は,原告車の初度登録が平成11年で,本件事故時には初度登録から20年以上経過していたのであるから,本件事故時の原告車の時価額は原告車の新車価格の10%である10万8900円とするのが相当と主張する。しかし,時価額は,当該自動車の事故当時における取引価格であり,本件事故時における原告車の車種,年式,グレード及び同程度の走行距離数3台の取引価格及び1台の見積価格の平均価額23万1500円であることが認められる。

 

A-8 東京地判令和3年11月1日2021WLJPCA11018007
  • 原告車両概要 三菱ふそうスーパーグレード・ウィング12.9t積みバン、初度登録平成24年4月、走行距離28万9700km
  • 事故発生日時 平成30年12月12日
  • 原告主張時価 500万円(中古車市場)
  • 被告主張時価 204万5000円(減価償却)
  • 裁判所認定額 470万円(中古車市場)
  • 判旨

 原告車と同車種・型である三菱ふそうスーパーグレード大型アルミウィングの中古車市場における再取得価格は以下のとおりである。なお,原告車の新車価格は2044万5000円である。
 (ア) 年式:平成23年,走行距離69万5000km
 448万円
 (イ) 年式:平成24年,走行距離44万8000km
 660万円
 (ウ) 年式:平成23年,走行距離53万9000km
 435万円
 (エ) 年式:平成24年,走行距離51万7000km
 470万円
 (オ) 年式:平成24年,走行距離46万9000km
 495万円

 原告車と同車種の中古車市場における再取得価格のうち最高価格と最低価格を除いた車両の平均価格は471万円であるところ,原告車の年式,走行距離を踏まえると,原告車の時価額は少なくとも470万円であると認められる。

 この点,被告は,原告車が累積走行距離32万km,登録から6年を経過している車両であるから,減価償却の方法に従って時価額を算定し,204万5000円である旨主張する。しかしながら,減価償却の方法による時価額の算定は計算上の評価額にとどまるものであって,同様車種の中古車市場が存在する場合は,その価格がより取引価格の実体に合致し,当該車両の時価額を算定するに当たり,これを参考にすべきであるから,被告らの上記主張を採用することはできない。

 

A-9 大阪地判令和3年11月12日交民54巻6号1502頁(F-4と同裁判例)
  • 被告車両概要 日野デュトロ、初度登録平成16年5月、走行距離22万5300km
  • 事故発生日時 平成30年7月17日
  • 被告主張時価 238万5000円(中古車市場)
  • 原告主張時価 55万5000円(減価償却)
  • 裁判所認定額 220万円(中古車市場)
  • 判旨

 被告車両と概ね同年式の中古車両は,中古車市場において198万円(平成16年式:走行距離8.3万km),268万円(平成17年式:走行距離12.8万km)といった価格で販売されていることが認められ,被告車両の車両時価が上記修理費用を上回るものであるとは認められない。

 そして,上記各中古車両は,いずれも被告車両(走行距離22万5300km)より走行距離が少ないものであるところ,被告車両の車両時価は,上記中古車価格を参考に220万円と認めるのが相当である。

 なお,原告は,減価償却による評価によって被告車両の車両時価が55万5000円であると主張するが,採用することはできない。

 

A-10 名古屋地判令和3年11月26日交民54巻6号1545頁
  • 原告車両概要 トヨタ・クラウンコンフォート、初度登録平成26年2月、走行距離31万5800km
  • 事故発生日時 令和2年1月13日
  • 原告主張時価 なし(分損前提で修理費用94万9069円のみ主張)
  • 被告主張時価 22万2000円(新車価格の10%)
  • 裁判所認定額 55万円(中古車市場)
  • 判旨

 令和2年11月時点で,上記原告車両と同一の車種・年式・型の車両である平成23~26年初度登録のクラウンコンフォート(走行距離は20.8万km~47万km)の販売価格は,概ね50万円~59万7000円の範囲内にあり,その平均的価格は,約55万円程度と認められるから,原告車両の本件各事故当時の時価額を55万円と認める。

 

A-11 名古屋地判令和3年11月26日2021WLJPCA11268040
  • 原告車両概要 ホンダ・ステップワゴンD、初度登録平成15年2月、走行距離13万5000km
  • 事故発生日時 令和元年9月29日
  • 原告主張時価 27万円(中古車市場)
  • 被告主張時価 19万6000円(損保の損害レポート)
  • 裁判所認定額 27万円(中古車市場)
  • 判旨

 令和2年1月8日時点で,上記原告車両と同一の車種・年式・型の車両である平成15年初度登録のステップワゴンD(走行距離は8.1万km~14.6万km)の本体価格は,概ね10万円~45万円の範囲内にあり,その平均的価格は,約27万円程度と認められるから,原告車両の本件事故当時の時価額を27万円と認める。

 被告は,原告車両の時価相当額を19万6000円にとどまる旨主張するが,その根拠とする「自動車車両損害調査報告書別紙(時価額算定シート)」は,必ずしもその算定に使用した資料が明らかではなく,直ちに採用することができない。

 

A-12 名古屋地判令和3年12月20日2021WLJPCA12208023
  • 原告車両概要 BMW130iMスポーツパッケージ、初度登録平成20年9月、走行距離14万6810km
  • 事故発生日時 平成30年9月13日
  • 原告主張時価 なし(分損前提で修理費用96万0783円のみ主張)
  • 被告主張時価 60万円(中古車市場)
  • 裁判所認定額 80万円(中古車市場の90%)
  • 判旨

 中古車市場における初度登録が平成20年以前又は走行距離が10万キロメートルを超えるBMW130iMスポーツパッケージ17台の本体価格の平均は86万8000円であると認められる。このことに,上記17台の平均走行距離は9万キロメートルであり,X1車の走行距離よりも5万キロメートル以上短いことを併せ考えると,本件事故当時のX1車の時価額は,上記平均価格よりも1割程度を減じた80万円と認めるのが相当である。なお,原告側は,X1車の時価額に関し,平成28年10月末頃,現金約90万円で購入し,その後約30万円の整備代を支出して,同車を整備したと主張するが,その売買代金額や整備費用を裏付ける証拠はなく,X1車の時価額についての上記認定を左右しない。

 

A-13 名古屋地判令和4年1月11日2022WLJPCA01118009(D-5と同裁判例)
  • 被告車両概要 ダイハツ・ムーヴLリミテッド、初度登録平成16年3月、走行距離9万8475km
  • 事故発生日時 令和元年9月7日
  • 被告主張時価 13万7000円(中古車市場)
  • 原告主張時価 10万2000円(新車価格の10%)
  • 裁判所認定額 13万7000円(中古車市場)
  • 判旨

 被告車については,本件事故当時のレッドブックに掲載はないものの,インターネットの中古車販売サイト上,同年式・同車種・同型式・走行距離9万km以上の車両5台が平均額およそ14万円(消費税10%込み)で販売されている。上記サイトの価格時点は令和3年10月であり,本件事故から約2年が経過していることに照らすと,本件事故時の被告車の時価額は,同価格を消費税8%込みに換算した13万7000円(千円未満四捨五入)を下回らないと認めるのが相当である。

 

A-14 大阪地判令和4年3月24日2022WLJPCA03248036
  • 原告車両概要 ホンダDio110、初度登録平成23年、走行距離5万4600km
  • 事故発生日時 令和元年6月19日
  • 原告主張時価 10万円(中古車市場?)
  • 被告主張時価 不明(原告主張時価の否認のみ)
  • 裁判所認定額 10万円(中古車市場の約62%)
  • 判旨

 原告車と同じ車種・年式の車両について,走行距離2万2831kmの車両につき車両価格14万9000円(支払総額16万9000円),2万8650kmの車両につき車両価格13万5000円(支払総額15万5000円)で販売されていることが認められるところ,これらの事実を踏まえれば,原告車の車両時価額は10万円と認めるのが相当である。

 

A-15 大分地判令和4年5月19日2022WLJPCA05196003
  • 原告車両概要 トヨタ・シエンタ、初度登録平成17年6月、走行距離15万3200km
  • 事故発生日時 令和2年7月10日
  • 原告主張時価 21万3363円(中古車市場)
  • 被告主張時価 14万9000円(新車価格の10%)
  • 裁判所認定額 16万円(中古車市場平均の75%)
  • 判旨

 原告車は、初度登録年月が平成17年6月であり、令和元年12月11日時点の走行距離が15万3200kmであること、原告車と同種の車両(トヨタ シエンタ。初度登録年月平成17年6月)と同種の車両が中古市場において5万9000円から36万円までの間の価格で取引されていること、原告車の右後部に本件事故前から凹痕の傷があったこと等に照らせば、車両時価額は、中古市場における平均時価額(乙7号証により認め得る取引価格のうち最低価格と最高価格を除いたものの平均額)21万3363円から約2割5分を減額した16万円と認めるのが相当である。

 なお、被告は、原告車の初度登録年月や走行距離を踏まえれば、原告車の時価額は、新車価格に10%を乗じた14万9000円にすぎない旨主張するが、中古車が損傷を受けた場合、当該自動車の事故当時における取引価格は、原則として、これと同一の車種・年式・型、同程度の使用状態・走行距離等の自動車を中古車市場において取得するのに要する価額によって定めるのが相当である(最高裁昭和48年(オ)第349号同49年4月15日第二小法廷判決・民集28巻3号385頁参照)ところ、本件においてこれと異なる扱いをすべき事情があるものとは認められないから、被告の上記主張は採用することができない。

 

A-16 名古屋地判令和4年6月10日2022WLJPCA06108002
  • 被告車両概要 トヨタ・ソアラ、初度登録平成13年5月、走行距離14万1846km
  • 事故発生日時 令和2年7月6日
  • 被告主張時価 83万4428円(中古車市場?)
  • 原告主張時価 60万円(新車価格の10%)
  • 裁判所認定額 74万円(中古車市場)
  • 判旨

 同型式、同年式、概ね同程度の走行距離数の中古車13台(なお、同一の車両を除いた台数である。)を参考に、被告車両の市場価格を算定するのが相当である。

 まず、走行距離14万キロメートルから14万5000キロメートルの車両7台の平均価格は約69万5000円であり、さらに走行距離14万9000キロメートルまでの車両6台を加えると、平均価格は74万円となる。

 これらの価格に買替諸費用として登録代行費用2万9800円、書類作成費用1万9800円、検査代行料1万9800円及びリサイクル料1万4220円の合計8万3620円を加えると、いずれにせよ被告車両の修理費用72万5087円を超える。したがって、被告車両は経済的全損とはならない。よって、被告車両の損害は、同修理費用である72万5087円と認められる。

 

A-17 名古屋地判令和4年6月29日2022WLJPCA06298002
  • 原告車両概要 プレオL2WDマイルドチャージ、初度登録平成13年、走行距離9万9000km
  • 事故発生日時 平成30年8月29日
  • 原告主張時価 14万1882円(中古車市場17台)
  • 被告主張時価 7万2000円(中古車市場3台)
  • 裁判所認定額 9万7200円(中古車市場5台)
  • 判旨

 別紙「プレオL車両価格一覧表」のうち、2002年式の車両(番号3、8、9、10)、駆動が4WDの車両(番号2、7、13、16)及びスーパーチャージャーの車両(番号3、6)は、原告車の同一の車種・年式・型の車両ということはできない。

 また、同一覧表の番号1、15、17の車両は走行距離が原告車と大きく異なっており、また、番号18の車両は価格時点が本件事故時と2年半以上離れており、いずれも参照することは相当でない。

 そうすると、原告車の時価額は、上記各車両を除く5台(番号4、5、11、12、14)の平均価格である9万7200円と認めるのが相当である。

 

A-18 東京地判令和4年8月25日2022WLJPCA08258007
  • 原告車両概要 自家用普通乗用自動車
  • 事故発生日時 令和2年6月19日
  • 原告主張時価 54万1800円(中古車市場)
  • 被告主張時価 15万円(新車価格の10%)
  • 裁判所認定額 不明(中古車市場)
  • 判旨

 控訴人X2は、初度登録から10年が経過している車両の時価額が新車価格の10%であることを前提に、被控訴人車の時価額は15万円であるから経済的全損である旨主張する。

 しかし、中古車の事故当時の車両価格(時価額)は、原則として、同一の車種・年式・型、同程度の使用状態・走行距離等の自動車を中古車市場において取得するに要する価額によって定めるべきであり、本件において、初度登録から10年が経過した車両の時価額を新車価格の10%と認めるべき事情もなく、修理費用が時価額を超えると認めるべき証拠もない。

 したがって、控訴人X2の上記主張は、採用できない。

 

A-19 東京地判令和4年8月25日交民55巻4号1030頁
  • 原告車両概要 事業用準中型貨物自動車
  • 事故発生日時 令和2年11月9日
  • 原告主張時価 不明(中古車市場)
  • 被告主張時価 50万3000円(減価償却)
  • 裁判所認定額 不明(中古車市場)
  • 判旨

 被控訴人車は、平成19年初年度登録のアルミバン架装された2tトラックであり……、中古車市場における価格算定の資料がないと認めるに足りる証拠はなく、控訴人と被控訴人会社との間で定率減価償却による時価額の算定方法を適用するとの合意もない。したがって、修理費用が定率減価償却により算出された時価額を超えていることをもって、経済的全損であると認めることはできず、控訴人の上記主張は採用できない。

 

A-20 名古屋地判令和4年9月7日2022WLJPCA09078003
  • 被告車両概要 トヨタカローラフィールダーベースグレードX特別仕様車X・HIDセレクション、初度登録平成20年、走行距離7万5000km
  • 事故発生日時 令和3年1月1日
  • 被告主張時価 36万2250円(中古車市場)
  • 原告主張時価 16万1000円(新車価格の10%)
  • 裁判所認定額 不明(中古車市場)
  • 判旨

 平成19年式及び平成20年式の原告車と同型車が掲載された中古車販売サイト(グーネット……及びカーセンサー……)の内容は別紙「カローラフィールダー中古車価格一覧表」のとおりであり、原告車と同年式、同型車2台……の販売価格に照らしても、本件事故時の被告車の価額及び買替諸費用の合計額は上記……の修理費用を上回るものと認められる。

 原告は、販売サイトに掲載された車両の台数は少ないことから市場性は認められず、被告車の価額は定率法により新車価格の10%に相当する16万1000円と認定すべきである旨主張するが、上記別紙のとおり、被告車よりも年式が古い車両や走行距離が長い車両であっても販売されている上、市場で販売されている中古車のすべてが上記各サイトに掲載されるものでもないから、原告の主張は採用できない。

 

A-21 東京地判令和4年10月31日2022WLJPCA10318002
  • 原告車両概要 不明
  • 事故発生日時 令和2年6月26日
  • 原告主張時価 28万円(中古車市場)
  • 被告主張時価 不明(原告主張時価の否認のみ)
  • 裁判所認定額 28万円(中古車市場)
  • 判旨

 原告車両と同型の車両の中古小売価格は28万円と認められるから……、原告車両の時価額は同額を下らないといえる。

 

A-22 名古屋地判令和4年11月8日自保2144号164頁
  • 原告車両概要 冷蔵冷凍車、初度登録平成18年4月、走行距離82万1300km
  • 事故発生日時 平成29年3月22日
  • 原告主張時価 220万5492円(中古車市場)
  • 被告主張時価 200万円(中古車市場+走行距離)
  • 裁判所認定額 200万円(税抜・中古車市場+走行距離考慮)
  • 判旨

 原告提出に係るレッドブックによれば、原告車両と同型の車両(平成18年式)の平成27年3~4月における中古小売価格は250万円(消費税を含まない。)、平成28年3~4月における中古小売価格は230万円(消費税を含まない。)とされる。また、原告車両のような冷凍車(8トン、平成20年以前の年式)については、これらの価格に9万円が加算される。さらに、(小型)トラックについては、走行距離に応じた加減評価がなされることとなっており、120か月超かつ走行距離が82万kmを超えて83万km以内の車両については、78万円減価(目安)とされる。……

 被告提出に係る中古車市場価格の調査資料によれば、原告車両と同じメーカー、車名、年式及びボディの形状(冷凍バン/冷凍ウィング/保冷バン/保冷ウィング)の価格は、走行距離が47万5000kmのものが195万8000円(消費税を含む。)、42万9000kmのものが239万7000円(消費税を含む。上記2台の平均価格は217万7500円である。)にて売り出されている……。

 原告車両の修理費用はその時価額を上回り、原告車両は本件事故によって経済的全損に陥ったことが明らかといえるから、本件事故による損害と認められるのは原告車両の時価額に限られる。そして、その金額は、上記……から窺われる相当な市場価格に加え、原告車両の走行距離が極めて長距離に及んでいること等に鑑み、200万円(消費税を含まない。)と認めるのが相当である。

 

A-23 名古屋地判令和4年11月11日自保2136号136頁
  • 原告車両概要 ダットサントラック
  • 事故発生日時 令和元年10月24日
  • 原告主張時価 91万4667円(購入価格+中古車市場)
  • 被告主張時価 11万円(レッドブック)
  • 裁判所認定額 少なくとも80万円程度(中古車市場)
  • 判旨

 原告車の時価については、レッドブック上の価格を参考とすると、多くとも30万円台であり、例年のレッドブック上の価格推移から推計すると、被告らが主張する時価額という見方も成り立ち得る。

 しかし、原告車については、年式等において参考にし得る車両に係る取引の実情(市場)があるから、実際上の車両価値を検討するには、こうした取引価格を相応に考慮する必要がある。

 そして、当該取引の実情に照らすと、原告が主張するように原告車の車種……について需要が高まっていたり、海外輸出が盛んであったりするかは措くとしても、令和2年以降の実情としては、かなり古い年式のものについても相応に高額で取引されている事例があること(したがって、必ずしも時間の経過のみによって、通常の車両と同程度に価値が減殺される車種であるとまではいい難い。)、原告車自体についても、原告が令和元年6月に89万8737円で購入しているが、この価格は上記の取引の実情に照らして不自然とはいえず、これが当時の原告車の価値を示すものとして一定程度考慮し得ることなどによれば、少なくとも本件事故当時の原告車の時価を算出するにあたって、レッドブックの記載を過大視すべきではなく、これら具体的な取引価格を参酌すべきであると解する。

 そして、原告車の取引の実情を見ると、令和2年及び令和4年当時の検索結果によれば安いもので55万円、高いもので213万円の価格がついており、令和2年当時も安いもので59万円、高いもので198万円の価格がついているのであり(その平均は、一番高い198万円の車両を除いても70万円を上回る。)、原告車……については、少なくとも60万円から百数十万円程度の市場価格があるものと認められる。なお、こうした取引価格の幅は、当該車両に係る仕様や装備、整備の状態等を反映しているものと解される。そして、原告車は令和元年6月頃に約90万円で購入されているが(この価格についても、原告車の整備状況等を一定程度反映したものと推察される。)、原告車の価値が本件事故までの数か月の間(長くとも5か月程度)に10%を超えて低減するとは考えにくい。

 以上を総合すると、本件事故当時の原告車には、少なくとも80万程度の価値があり、また、車両の再取得においては、一定の諸経費(少なくとも原告主張に係る検査登録手続代行費用2万5000円、車庫証明代行費用1万5000円、ナンバープレート1440円、検査・登録印紙代3220円、車庫証明費用2700円といったものは認めることができる。)を要することも考慮すべきである。

 そうすると、原告車の時価額は少なくとも修理費用である81万2559円を上回るといえる。したがって、修理費用81万2559円をもって原告車に係る車両損害と認めるべきである。

 

A-24 東京地判令和4年11月18日2022WLJPCA11188001
  • 原告車両概要 日産クリッパートラック、初度登録平成21年11月
  • 事故発生日時 令和元年7月1日
  • 原告主張時価 25万1000円(中古車市場)
  • 被告主張時価 不明(原告主張時価の否認のみ)
  • 裁判所認定額 25万1000円(中古車市場)
  • 判旨

 平成20年式及び平成21年式の日産クリッパートラック13台の中古車価格の平均額は25万1000円であるから、原告車の時価額は同額であること、他方、原告車の修理には27万9742円を要することがそれぞれ認められ、これに反する証拠はない。

 

A-25 大阪地判令和4年11月25日2022WLJPCA11258017
  • 原告車両概要 スバル・フォレスター、初度登録平成13年1月、走行距離15.2万km
  • 事故発生日時 令和2年4月21日
  • 原告主張時価 不明
  • 被告主張時価 18万6000円(不明)
  • 裁判所認定額 42万1102円を下回らない(中古車市場)
  • 判旨

 本件事故により原告車両は左リヤドア等が損傷し、その修理には42万1102円を要するものと認められる……。

 被告Y1は、原告車両の車両時価額が18万6000円であり、同額を超える損害は認められない旨主張するが、本件で提出された原告車両と概ね同年式の同種車両……の価格資料……による市場価格は別紙「中古車市場価格」のとおりである。そして、原告車両のモデル(S/tb-StiⅡ)は同種車両の中でもグレードが高く、新車価格は他のモデルより高額な255万5000円(「2.0 S/tb 4WD」は219万7000円、「S/20タイプA」は211万円)であったと認められるところ……、原告車両の時価額を検討するにあたって下位モデルの中古価格を直ちに参考にするべきとはいえず、同じモデルの中古車市場価格は、原告車両……よりも走行距離がやや少ない車両のものであるとはいえ、平均で50万6000円であるから、原告車両の車両時価額が上記修理金額を下回ると認めるには足りないというべきである。

 したがって、原告Xには、本件事故により修理費用相当額である42万1102円の損害が生じたものと認められる。

 

A-26 東京地判令和4年12月13日交民55巻6号1615頁

【原告車両】

  • 原告車両概要 不明
  • 事故発生日時 令和元年5月21日
  • 原告主張時価 不明
  • 被告主張時価 65万4400円(不明)
  • 裁判所認定額 162万4979円を下回らない(中古車市場+パワーゲート)
  • 判旨

 本件事故による原告車の修理費は162万4979円であると認められる。この点、被告は、原告車が本件事故当時法定耐用年数を大きく超過していたとして、原告車は経済的全損である旨主張する。しかしながら、原告車は、販売価格195万円のパワーゲートを装着した車両であるところ、パワーゲートを装着していない原告車と同様の車種で年式が原告車より古い車両でも100万円以上で販売されていることに鑑みると、原告車の時価が、原告車の修理費を下回っているとは認められない……。

 したがって、原告車が経済的全損であるとは認められないから、原告車の車両損害は、修理費である162万4979円であると認めるのが相当である。

 

【被告車両】

  • 被告車両概要 タクシー
  • 事故発生日時 令和元年5月21日
  • 被告主張時価 100万円程度(中古車市場+架装)
  • 原告主張時価 34万7000円ないし37万4000円(不明)
  • 裁判所認定額 50万円(中古車市場+経年)
  • 判旨

 本件事故により、被告車が損傷し、その修理費は106万4677円であると認められる……。

 しかし、被告車の新車価格は347万円であるものの、初度登録平成19年であり、被告車と同車種の時価は平成29年当時63万円であったことが認められる。そして、本件事故があったのはさらに2年後の令和元年であるから、本件事故当時の被告車の時価は50万円程度であったと認めるのが相当であり、被告車の価値が上記修理費を下回るから経済的全損である……。

 被告は、被告車はタクシーであり、種々の架装がなされていることから本件事故当時の時価額が100万円程度であった旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

 したがって、本件事故による被告車の損害は50万円であると認められる。

 

A-27 名古屋地判令和5年1月11日交民56巻1号1頁(D-9と同裁判例)
  • 被告車両概要 北米トヨタセコイヤ、製造年平成20年
  • 事故発生日時 令和3年1月31日
  • 被告主張時価 298万円(不明)
  • 原告主張時価 220万5000円(中古車市場・同グレード)
  • 裁判所認定額 240万円(中古車市場・最高額と最低額を除く)
  • 判旨

 被告車両の走行距離については、輸入の過程でメーターに細工がされていると被告Y1が供述しているところ、自動車検査証上の数値(令和2年8月4日時点で5万9100マイル……)が正確な数値とは認めがたい上、メーターの上がり方(1マイル毎か、1km毎か)も明らかでなく、購入後の走行距離も明らかでないことから、本件事故時の被告車両の走行距離は不明というほかない。また、中古車市場の販売状況……を見ても、販売価格と走行距離との相関関係が強いとは言い難い。そのため、走行距離は、時価算定の観点では重視しない。

 そこで、被告車両の時価は、上記10台のうち、最低価格の車両(甲23の出品番号27149)及び最高価格の車両(甲23の出品番号70238)を除いた8台の平均売買価格を参考に240万円と認める。なお、被告車両はプラチナムグレード・後輪駆動であるが、グレードないし駆動方式と売買価格の相関関係はいずれも必ずしも明らかでなく、またプラチナムグレード・後輪駆動に限定すると参照できる車両が限定されてしまい、車両ごとの特徴が価格に及ぼす影響が大きくなり、相当でないから、他のグレード・駆動方式の車両も含むこととした。(なお、被告らが援用する中古車価格(298万円……)は、製造年が明らかでなく、参考にしない。)

 

A-28 福岡高判令和5年1月20日自保2151号111頁
  • 原告車両概要 日野レンジャー、初度登録平成14年6月
  • 事故発生日時 令和元年9月18日
  • 原告主張時価 不明
  • 被告主張時価 60万円(保険価額)又は74万円(新車価格の10%)
  • 裁判所認定額 100万円を下回らない(中古車市場)
  • 判旨

 被控訴人車両と同じ車種……で、年式が平成13年から平成15年まで……、走行距離18万km以上の中古車の価格をインターネットの中古車情報のウェブサイトで検索した結果……によれば、その販売価格はいずれも100万円を下回らないことが認められる。

 ……被控訴人車両が損傷した場合に、被控訴人会社が被控訴人車両を被保険車両として被控訴人保険会社と締結した自動車保険契約に基づいて支払われる保険金の上限は、車両保険協定価額60万円であることが認められるが、この事実をもって、被控訴人車両の本件事故当時の時価額が60万円を超えないということはできない。

 また、証拠(……自動車車両損害調査報告書)には、被控訴人車両の時価が74万円である旨の記載があるが、これは、被控訴人車両の新車価格を740万円であるとした上でその10%の金額を時価とするという便宜的なものであり、10%という数値の根拠も示されていないから、これをもって被控訴人車両の本件事故当時の時価額が74万円を超えないということはできない。

 

A-29 金沢地判令和5年2月21日2023WLJPCA02216014
  • 原告車両概要 不明
  • 事故発生日時 令和元年8月15日
  • 原告主張時価 不明
  • 被告主張時価 9万4000円(不明)
  • 裁判所認定額 53万4000円(中古車市場)
  • 判旨

 証拠……によれば、原告車両の時価額は、同種車両の取引価格に照らし、53万4000円と認められることからすれば、本件事故による車両損害の額は、53万4000円と認められる。

 

A-30 旭川地判令和5年3月16日判時2580・2581号229頁
  • 原告車両概要 ホンダステップワゴン、初度登録平成17年9月走行距離10万6600km
  • 事故発生日時 令和3年2月3日
  • 原告主張時価 不明
  • 被告主張時価 7万1765円(不明(初度登録が古いこと等の指摘))
  • 裁判所認定額 36万円(中古車市場(買替諸費用込み))
  • 判旨

 平成27年当時のシルバーブック上の価格が61万円程度で……、令和3年12月当時の同年式及び同程度の走行距離の車両中古価格(諸費用込)は概ね31万円から42万円程度である……。以上の諸事情、特に甲6を踏まえると、ステップワゴンの本件事故当時の時価額としては、買替にかかる諸費用を含めて36万円の限度で認めるのが相当である。

 

A-31 東京地判令和5年3月20日2023WLJPCA03208005
  • 原告車両概要 不明
  • 事故発生日時 令和元年9月27日
  • 原告主張時価 18万9333円(中古車市場)
  • 被告主張時価 なし(原告主張時価の否認のみ)
  • 裁判所認定額 18万9333円(中古車市場)
  • 判旨

 証拠……によれば、原告車両の修理費は39万3756円であること、原告車両と同じ車種、年式の中古市場の平均額が18万9333円であることが認められる。したがって、原告車両は、時価額が修理費を下回ることから、経済的全損といえ、時価相当額の18万9333円が本件事故と相当因果関係ある損害となる。

 

A-32 東京地判令和5年3月20日2023WLJPCA03208006
  • 原告車両概要 ニッサンセレナ、初度登録平成20年8月、走行距離10万7900km
  • 事故発生日時 令和2年12月23日
  • 原告主張時価 なし
  • 被告主張時価 21万4000円(不明)
  • 裁判所認定額 39万円(中古車市場)
  • 判旨

 証拠……によれば、C車の修理費用は50万9445円と認められるところ、反訴被告らは、C車の本件事故当時の時価額は21万4000円であり、修理費用を下回るから、経済的に全損である旨を主張するので、以下検討する。

 C車と同車種、年式の車両(ニッサン・セレナ)のうち、走行距離が9.1万kmであった車両2台の価格は、それぞれ19万1000円(買替諸費用を含む価格は32万8000円)、39万円(買替諸費用を含む価格は49万9000円)であったことが認められる。

 C車の本件事故当時の走行距離は少なくとも上記10万7900km以上であったと認められるところ、C車と同車種、年式の車両のうち走行距離が近い車両については、買替諸費用を含む価格がいずれも上記修理費用を下回ることが認められるから、C車は経済的全損であって、反訴原告は本件事故当時のC車の価格及び買替諸費用の賠償を受けるにとどまる。そして、C車と同車種、年式の車両のうち走行距離が近い車両のうち、本件事故発生日に近い価格等は39万円(買替諸費用を含む価格は49万9000円)であると認められる(同価格が記載された乙第6号証は、令和3年1月時点のものであり、本件事故に近い車両の価格等を示すものと認められる。)。

 

A-33 名古屋地判令和5年3月27日交民56巻2号427頁
  • 原告車両概要 不明
  • 事故発生日時 平成30年12月13日
  • 原告主張時価 不明
  • 被告主張時価 不明
  • 裁判所認定額 40万円(中古車市場)
  • 判旨

 原告AIGは、車両保険金を支払うに当たり、F車を40万円と査定している……。

 F車の時価額は、F車と同一の車種・年式・型・同程度の使用状態・走行距離の自動車の中古市場価格によって認定すべきところ、被告F及び原告AIGの提出する中古車販売広告……には、F車と同年式又はそれよりも古く、かつ、排気量が2300ccの車両が4台掲載されており(乙14の5枚目の1台目及び3台目、同6枚目の3台目、同8枚目の2台目)、その価格はいずれも40万円を上回っている。上記販売広告は令和4年8月時点のものであることからすると、原告AIGの査定額は相当といえる。

 

A-34 名古屋地判令和5年5月17日2023WLJPCA05178011
  • 原告車両概要 トヨタカローラフィールダー1.5X Gエディション、初度登録平成20年10月、走行距離10万2819km
  • 事故発生日時 令和3年7月4日
  • 原告主張時価 33万6000円(被告主張時価争わず)
  • 被告主張時価 33万6000円(中古車市場)
  • 裁判所認定額 33万6000円(中古車市場)
  • 判旨

 原告車と同種・同年式であり、かつ、走行距離が10万km前後の車両の市場価格については、本体価格28万円(支払総額41.6万円)、本体価格41.8万円(支払総額55万円)、本体価格31万円(支払総額39.9万円)のものがあり(グーネットによる検索結果)、その本体価格の平均は33.6万円となる。

 原告車の価値について検討するに、上記認定事実(原告車に係る市場価格)によれば、33万6000円と見るのが相当である。

 

A-35 東京地判令和5年6月28日2023WLJPCA06288009
  • 被告車両概要 普通貨物自動車
  • 事故発生日時 令和3年3月14日
  • 被告主張時価 26万6750円(インターネット)
  • 原告主張時価 22万6571円(インターネット)
  • 裁判所認定額 22万6571円(インターネット)
  • 判旨

 被告は、中古車検索サイトの検索結果……に基づき、被告車と同じ車種及び年式として該当した8台の中古車の平均価格が26万6750円であったと主張する。しかし、被告が提出する検索結果のうち1台は冷蔵冷凍車の改造がされ、54万8000円という高額となっているから、被告車と同等価値の車両とはいえない。したがって、被告車の車両時価額は、他の7台の平均価格である22万6571円とするのが相当である。

 

A-36 東京地判令和5年6月30日2023WLJPCA06308023
  • 原告車両概要 スバルフォレスター、初度登録平成22年3月、走行距離約3万km
  • 事故発生日時 令和4年2月22日
  • 原告主張時価 148万9100円(インターネット+部品代・取付工賃)
  • 被告主張時価 33万7000円(不明)
  • 裁判所認定額 80万円(インターネット+部品代を考慮)
  • 判旨

 インターネット上の中古車販売サイトにおいて、平成22年式の反訴原告車と同車種の車両7台(走行距離2万9000km~9万5000km)が本体価格49万8000円から78万円で販売されていることが認められる。

 そうすると、反訴原告車の車両本体の時価額は、反訴原告が主張するとおり70万円と認めるのが相当である。

 次に、反訴原告は、反訴原告車に合計37万7100円相当の部品が取り付けられていた旨主張し、証拠……によれば反訴原告車に多数の部品が取り付けられていたと認められる。しかし、本件全証拠によってもこれらの部品の購入から本件事故までの経過期間及び本件事故時における部品の状態が十分に明らかにされたとはいえないことからすれば、部品による反訴原告車の増価分は、反訴原告が主張する上記部品代の4分の1強である10万円を超えないというべきである。

 以上によれば、車両損害は80万円(=70万円+10万円)とするのが相当である。

 

A-37 大阪地判令和5年7月28日2023WLJPCA07288019
  • 原告車両概要 不明
  • 事故発生日時 令和3年8月9日
  • 原告主張時価 139万9000円(不明)又は97万5865円(レッドブックに事故前からある損傷を考慮し買替諸費用を上乗せ)
  • 被告主張時価 24万2000円(不明(事故前からある損傷を考慮))
  • 裁判所認定額 39万5818円(市場価格に事故前からある損傷を考慮)
  • 判旨

 本件事故当時の原告車両と同等の車両の時価は、86万3818円と認められる……(計算式:(139万9000円(税込み価格)……+73万6636円(税抜き価格)×1.1×10台)÷11台≒86万3818円)。

 原告車両には、本件事故より前に損傷が生じており、その損傷を修理するための費用は46万8000円と認められる……。第1事件原告は、本件事故より前に生じていた損傷の修理費用について、概算お見積書……を前提として、14万3759円であると主張するが、同見積書の内容は、原告車両の損傷の全ての箇所に対応するものということはできないから……、第1事件原告の前記主張を採用することはできない。

 第1事件原告が原告車両を買い替えるに当たって要する諸費用は10万円を下回らないと認められる……。

 以上を踏まえると、本件事故当時の原告車両の時価は、39万5818円(=86万3818円-46万8000円)と認めるのが相当である。

 

A-38 東京地判令和5年9月11日自保2167号175頁
  • 原告車両概要 ホンダフォルツァ・Z、初度登録平成25年
  • 事故発生日時 令和3年4月8日
  • 原告主張時価 不明
  • 被告主張時価 不明
  • 裁判所認定額 28万7072円(インターネット?)
  • 判旨

 双方当事者が提出する原告車と同種同等の車両の中古車(合計11台)の車両価格の平均額は28万7072円であることが認められ、原告車の時価額として同額を損害と認める。

 

A-39 東京地判令和5年9月14日2023WLJPCA09148013
  • 原告車両概要 ニッサンキャラバン、初度登録平成16年
  • 事故発生日時 令和3年7月6日
  • 原告主張時価 46万8250円(不明)
  • 被告主張時価 32万8000円(不明)
  • 裁判所認定額 44万2166円(インターネット?)
  • 判旨

 平成14年式から平成16年式までの同車種の車両8台が、支払総額33万5000円~74万3000円(車両本体価格28万5000円~63万3000円)で売却に付されていること、上記8台のうち最低価格の車両と最高価格の車両を除く6台の支払総額の平均額が44万2166円(車両本体価格33万5833)であることが認められる。

 以上によれば、被控訴人車の時価額は上記支払総額の平均額である44万2166円と認めるのが相当である。

 これに対し、控訴人X1は、①諸費用を含む支払総額の平均額をもって時価額とすることは相当ではないし、②被控訴人車とは年式の異なる車両を含めて平均額を算出することも相当ではない旨主張する。

 しかし、上記①について、車両を購入する際に法定費用及び手続代行費用等の諸費用を要するのは公知の事実である上、上記のとおりの支払総額の平均額と車両本体価格の平均価格の差額からすれば、諸費用の平均額の水準が不相当であるともいい難いから、諸費用を含む支払総額の平均額をもって被控訴人車の時価額とすることは何ら不相当ではない。上記①は理由がない。

 上記②について、支払総額の平均額を算出するに当たって取り上げた各車両の年式は、いずれも被控訴人車の年式に近接するものである上、被控訴人車と異なる年式の車両はいずれも被控訴人車よりも古く、特段の事情のない限り、その時価額は被控訴人車の時価額よりも低額となるはずであり、これらの車両を含めて平均額を算出することによって、それが不当に高額となるおそれはないものと解される。そして、証拠上、年式の古い車両の時価額が高額となることをうかがわせるに足りる特段の事情は認められない。したがって、被控訴人車とは年式の異なる車両を含めて平均価格を算定することが不相当であるとはいえない。上記②も理由がない。

 

A-40 東京地判令和5年10月3日2023WLJPCA10038004
  • 原告車両概要 トヨタノア(グレードS1)、初度登録平成28年4月、走行距離2万7000km
  • 事故発生日時 令和4年1月1日
  • 原告主張時価 251万円以上(インターネット?)
  • 被告主張時価 不明
  • 裁判所認定額 217万1800円(インターネット?)
  • 判旨

 控訴人提出の中古車販売価格に関する書証……によっても、平成28年式の同程度の走行距離のトヨタ、ノア(グレードS1)の令和4年時の時価額は217万1800円であり、控訴人は、上記修理費用相当額と買取代金とを合わせて、これとほぼ遜色のない211万円以上の車両価値を回収していることになる。

 なお、控訴人は、前記の中古車販売価格に関する書証により、控訴人車の車両時価額があたかも251万円以上であるかのような主張をするが、平均価格を算定する対象車両としてより若い平成29年式の車両も混在していて、抽出条件の設定が平成28年式の控訴人車の車両時価算定方法として不適切であり、採用の限りでない。

 

A-41 東京地判令和5年10月4日2023WLJPCA10048005
  • 原告車両概要 日産リーフ、初度登録平成28年9月、走行距離2万1800km
  • 事故発生日時 令和2年7月17日
  • 原告主張時価 154万7000円(レッドブック)
  • 被告主張時価 62万円(インターネット?)
  • 裁判所認定額 125万1066円(インターネット?)
  • 判旨

 同年初度登録、走行距離2万キロメートルから3万キロメートルの同車種の中古車15台の平均価格は、125万1066円である……。

 以上によれば、原告車の時価額は125万1066円であり、これを損害額と認めるのが相当である。  

 

A-42 東京地判令和5年11月6日2023WLJPCA11068005
  • 原告車両概要 ベンツG500ロング4WD、初度登録平成21年、走行距離7万5200km
  • 事故発生日時 令和3年4月17日
  • 原告主張時価 648万円(インターネット)
  • 被告主張時価 500万円(インターネット)
  • 裁判所認定額 574万4900円(インターネット)
  • 判旨

 証拠……及び弁論の全趣旨によれば……、②原告車と同種・同程度の年式(いずれも2006年から2009年までの年式)・同程度の走行距離(いずれも6万6000kmから12万1000kmのもの)を条件とするインターネット上で取引される中古車10台(別紙「本件被害車両との比較表」の1番(甲2)、同比較表の2番から8番(甲9、なお、8番は乙3の一番目の車両と同じ。)、被告提出の乙3号証の二番目と三番目の車両の合計)の車両本体価格の平均額は、買替諸費用を除いても574万4900円であることが認められる。

 そうすると、原告車の時価額は、買替諸費用を含めて580万円を下らないというべきである。

 被告は、原告車と同種の車両は500万円程度で購入可能である旨主張するが、上記10台のうち500万円程度で購入できるものは上記のインターネット上で取引される中古車10台のうち2台にとどまる上、同10台は全体的に原告車よりも年式が古く走行距離が長い車が相当数含まれているもので、特に高額な車両のみを集積したものとも認められないのであるから、500万円を時価額と認めるのは低額に過ぎる。

 

A-43 横浜地判令和5年11月9日自保2170号106頁
  • 原告車両概要 レクサス・GS350、初度登録平成17年12月、走行距離16万9873km
  • 事故発生日時 令和2年4月15日
  • 原告主張時価 不明
  • 被告主張時価 52万円(新車価格10%)又は58万4000円(中古車市場)
  • 裁判所認定額 58万4000円(中古車市場)
  • 判旨

 同年式のレクサス・GS350の中古車10台の平均価格が58万4000円であることからすると、原告自動車の時価額は58万4000円であると認められる。そうすると、原告自動車の修理費用は81万8158円……であるから、修理費用が時価額を上回る経済的全損であり、上記時価額が原告自動車の損害と認められる。

 これに対し、原告X1は、原告自動車と同じ平成17年式でも修理費用を上回る数多くの売出し事例が存在するから、原告自動車の整備状態が良好であったことを踏まえると、原告自動車は分損であり、修理費用である81万8158円が損害と認定されるべきであると主張する。

 しかし、原告X1が指摘する売出し事例は、走行距離が4万2000kmから9万8000kmと、いずれも原告自動車よりも走行距離が大幅に少ない車両ばかりであり、これらの売出価格をもって原告自動車の時価額と認めることはできない。

 よって、原告X1の上記主張は採用できない。

 

A-44 東京地判令和5年12月1日2023WLJPCA12018002
  • 原告車両概要 ホンダS2000、初度登録平成13年、走行距離11万4500km
  • 事故発生日時 令和4年4月29日
  • 原告主張時価 298万円(インターネット?)
  • 被告主張時価 159万円(レッドブック)
  • 裁判所認定額 269万円(インターネット)
  • 判旨

 原告車と同種同年式の車両が以下のとおりインターネット上で販売されている(下記aないしcに関する記載は左から順に走行距離、車両本体価格(消費税を含む。)、修復歴の有無である。)……。
  a 10万7000km 298万円 なし
  b 14万3000km 233万円 あり
  c 11万4000km 240万円 なし

 前記認定事実によれば、原告車の本件事故当時の時価額は、修復歴がなく走行距離が近接する前記……a及びcの各車両の車両本体価格の平均額である269万円とするのが相当である。

 

A-45 東京地判令和6年2月16日2024WLJPCA02168008
  • 原告車両概要 ホンダPCX125、初度登録平成30年11月
  • 事故発生日時 令和3年10月24日
  • 原告主張時価 27万8005円(インターネット)
  • 被告主張時価 17万7000円(レッドブック)
  • 裁判所認定額 27万8005円(インターネット)
  • 判旨

 同年式・同車種の車両がインターネット上で多数販売に付されていることが認められ、これらの販売価格の傾向(車両価格の最安値19万8000円、最高値33万4700円)からすれば、亡A所有車の時価額を原告らが主張する27万8005円と認めるのが相当である。

 これに対し、被告は、時価額がレッドブックに記載された17万7000円を超えない旨主張するが、同価格には消費税及び買替諸費用が含まれていないことからすれば、上記主張には理由がない。

 

A-46 名古屋地判令和6年2月28日自保2179号150頁
  • 被告車両概要 トヨタシエンタ、初度登録平成19年2月、走行距離10万8800km
  • 事故発生日時 令和2年11月18日
  • 被告主張時価 なし(分損前提で修理費用29万2735円)
  • 原告主張時価 15万2000円(中古車市場)
  • 裁判所認定額 15万2000円(中古車市場)
  • 判旨

 被告車両は、平成19年2月初度登録のトヨタシエンタであり、令和2年10月6日時点の走行距離は10万8800kmであり、これと同車種、同年式、同程度の走行距離の中古車市場における車両本体価格(税込み)は、平均して約15万2000円であることが認められ、これを被告車両の時価額と認める。

 

A-47 東京地判令和6年3月27日2024WLJPCA03278002
  • 原告車両概要 ジムニー・シエラ、初度登録令和元年
  • 事故発生日時 令和3年2月16日
  • 原告主張時価 299万0230円(購入金額)
  • 被告主張時価 193万5000円(スタンダードプライスガイド)
  • 裁判所認定額 250万円(中古車市場+スタンダードプライスガイド等)
  • 判旨

 インターネットのウェブサイトにおける令和4年7月時点の価格情報によれば、同サイトに掲載されたベージュ色のジムニー・シエラの平均価格は、268万7000円であるところ、これらの車両の初度登録年は、令和2年から令和3年までであるのに対し、原告車は初度登録年が令和元年であることから、原告車の車両時価額について、同金額をそのまま採用することはできない。同金額に加え、原告車の購入価格や使用年数、スタンダートプライスガイドの小売基準価格等に照らすと、原告車の車両時価額を250万円と認めることが相当であり、同金額が原告車の車両損害であると認められる。

 なお、原告は、原告車の購入金額を車両損害として主張するが、原告車の車両時価額がその購入金額以上であることを認めるに足りる証拠はない。

 

A-48 東京地判令和6年3月28日2024WLJPCA03288035
  • 原告車両概要 スズキアドレス、初度登録平成27年以降
  • 事故発生日時 令和3年3月27日
  • 原告主張時価 13万8000円(中古車市場)
  • 被告主張時価 1万9000円(新車価格の10%)
  • 裁判所認定額 7万8500円(中古車市場平均の57%)
  • 判旨

 原告車と同種の車両のレッドブック上の中古車価格が10万円であり、販売価格平均が13万8000円程度であると認められるところ、本件事故により原告車には相当程度の損傷が発生し、同車の損傷状況を確認した修理業者からも修理に否定的な見解が述べられたことから同車を修理するには少なくとも上記販売価格平均以上の修理費が必要となることがうかがわれる一方、同車は既に廃車にされているためその詳細な状態等が明らかでなく、時価額を正確に評価するのが困難であることからすると、本件事故により原告車が経済的全損となったものとみて、その時価額を上記販売価格平均よりもやや控えめに見積もり7万8500円(上記販売価格平均13万8000円の約57%)と認めてもおよそ不相当であるとはいえない(なお、控訴人X2は、本件事故当時の時価額は新車価格19万円の10%である1万9000円とするのが相当であると主張するが、これを認める根拠はなく、上記認定に照らして理由がない。)。

 

A-49 千葉地判令和6年7月19日交民57巻4号939頁
  • 原告車両概要 ダイムラー(型式E-DLW)、初度登録平成3年
  • 事故発生日時 平成31年1月13日
  • 原告主張時価 572万4000円(中古車市場1台)
  • 被告主張時価 126万5000円(新車価格10%)
  • 裁判所認定額 378万0800円(中古車市場5台平均)
  • 判旨

 被告は、原告車両は初度登録から約28年経過しているから、その時価額は新車価格の10%程度である126万5000円であると主張する。しかし、いわゆるクラシックカーについては、初度登録からの経過年数に応じて時価額が下がるとは直ちにはいえない。

 他方、原告は、同種・同等の車両の市場価格は572万4000円であると主張する。しかし、いわゆるクラシックカーについては、車種や年式が同じであっても、その状態等に応じて価格が大きく異なり得るところ、原告らが提出する甲第9号証の車両が、原告車両と同等の価値があるかは明らかでない。

 そこで、原告車両と車種や年式が同じである甲第9号証の車両及び乙第19号証記載の4台の車両の価格の平均値である378万0800円(=(572万4000円+365万円+385万円+330万円+238万円)÷5)を、原告車両の時価額として、損害と認めるのが相当である。

 

A-50 東京高判令和6年8月7日自保2179号111頁
  • 原告車両概要 不明
  • 事故発生日時 令和2年8月14日
  • 原告主張時価 300万円(中古車市場)
  • 被告主張時価 244万7000円(新車購入価格・登録落ち・レッドブック)
  • 裁判所認定額 300万円(中古車市場)
  • 判旨

 原告車両は、本件事故当時、新車登録から約7か月が経過していた車両であるところ、原告車両と同グレードの初年度登録から1年以内の中古車において、新車購入価格より高額で取引されている事例が複数あること、2023年(令和5年)登録、2024年(令和6年)登録の、原告車両と同じグレードの中古車において、販売価格300万円を超える金額で販売されている事例が複数あること、原告車両は経済的全損となっており、買替諸費用が発生するものであることがそれぞれ認められ、これらに照らせば、原告車両の時価額は、少なくとも300万円を下回らないものと認められる。

 被告は、時価額算定チェックシートを基に、本件事故当時の原告車両の時価額が300万円であることを否定するが、時価額算定チェックシートをみても、本件事故時(令和2年8月)という時期において、その新車購入価格(254万5000円)につき「一般的値引き」をして算定することや、「登録落ち(10%控除)」の算定をすることについての合理的根拠の有無が明らかでなく、上記説示に照らし、その信用性を肯定することは困難といわざるを得ない。

 

B レッドブックによって認定した裁判例

B-1 神戸地判令和元年12月5日交民52巻6号1461頁
  • 原告車両概要 マツダ・タイタン、初度登録平成29年2月、走行距離5万9671km
  • 事故発生日時 平成30年5月2日
  • 原告主張時価 353万8692円(減価償却)
  • 被告主張時価 257万円(レッドブック)
  • 裁判所認定額 257万円(レッドブック)
  • 判旨

 レッド・ブックに車種や型式の他,取引価格が記載されていることからすれば,原告車と同種・同等の車両は,中古車市場において,一定数の取引が行われているものと認めることができる…。
 したがって,原告車の時価額は,中古車市場における価格を参考に算定するのが相当であり,レッド・ブックによれば,原告車と同種・同等の車両は,中古車市場に存在し,平成29年時点において,その中古車価格は,270万円であることが認められる…。レッド・ブックに記載の取引価格を算定の資料とすべきではない合理的な理由は認められない。この点,原告X社は,株式会社神戸マツダにおいては原告車と同種のタイタンの中古車取引がなかった旨を主張し,それに沿った記載のある同社作成の書面…を提出するが,同社において取引がなかったとしても,中古車市場の一マーケットにすぎない同社の取引経過をもって,中古のタイタンの中古車市場がないとか,あるいは,原告車と同車種の車両の入手が困難であると認めるに足りない…。
 そして,本件事故時における原告車の走行距離が5万9671キロメートルであることからすれば…,走行距離による減額をするのが相当であり,初度年月から本件事故までの月数が18か月以内であることを考慮し,13万円の減額をするのが相当であるから…,原告車の時価額は,257万円となる。
 そうすると,上記修理費用は,原告車の時価を上回るから,原告車は,本件事故により経済的全損の状態になったと認めるのが相当である。

  • 備考 原告は経済的全損でも修理費用を損害と認めるべきである旨主張したのに対し、裁判所は「確かに,損害の公平な分担の観点からすれば,被害車両と同種同等の自動車を中古車市場において取得することが至難であるとか,あるいは,被害者の所有車が,被害車両の代物を取得するに足る価格相当額を超える高額の修理費用を投じても被害車両を修理して引き続き使用したいと希望することを社会通念上是認することが相当な事由が存する場合にあっては,これを特段の事情があるものとして時価額を超える修理費用を認める余地もある」との一般論を示しつつ、本件については「原告車と同種・同等の車両については中古車市場が形成されており,その入手が至難であるとは認め難いし,特段希少性があるとも認め難く,原告X社主張に係る特段の事情があるということはできず,他に,特段の事情があると認めるに足りる証拠はない」として排斥している。

 

B-2 名古屋地判令和2年6月12日交民53巻3号662頁
  • 被告車両概要 マツダ・タイタントラック・ロング・WH63H・DX・4600、初度登録平成12年8月
  • 事故発生日時 平成29年10月12日
  • 被告主張時価 39万8000円(中古車市場)
  • 原告主張時価 33万8000円(レッドブック)
  • 裁判所認定額 33万8000円(レッドブック)
  • 判旨

 原告東京海上及び原告あいおいの双方の損害調査会社が,被告車の時価額を,レッドブック記載の小売価格の10%として33万8000円と算定していたことが認められるから,同額を被告車の時価額と認定するのが相当である。
 原告東京海上は,乙16(中古車情報サイトの検索結果)に基づき,被告車と同車種の車両13台の平均価格は100万5200円であるから,被告車の時価額は39万8000円を下らないと主張するが,同証拠によると,同13台の価格には相当な幅があり,荷台部分の形状等が大きく異なるものも含まれていることが認められるから,直ちに採用できない。
 原告X2は,スクラップ価格5万2000円を控除すべきであると主張し,この点,前記前提事実,証拠…及び弁論の全趣旨によると,原告東京海上は,被告車に係る車両保険金額を算定するに当たり,スクラップ価格を5万2000円と算定していたことが認められる。しかし,証拠…によると,実際に被告車が本件事故後直ちにスクラップにされたわけではないことが認められ,上記スクラップ価格がどのように算定されたのかは明らかでなく,他に被告車のスクラップ価格を裏付ける的確な証拠もないことからすると,上記スクラップ価格を控除するのは相当でない。

 

B-3 京都地判令和2年10月28日交民53巻5号1304頁
  • 原告車両概要 自家用普通乗用自動車、初度登録平成20年8月
  • 事故発生日時 平成29年8月24日
  • 原告主張時価 不明(修理費用の請求であり時価額主張なし)
  • 被告主張時価 16万円(新車価格の5%)
  • 裁判所認定額 33万円(レッドブックの4分の1)
  • 判旨

 甲5(見積書)の添付写真によれば,原告車の各所に本件事故以前からの多数の損傷がみられるなど保守状態が相当に悪いから,大幅な減価が避けられないと推察され,中古車価格137万円の4分の1程度(約34万円),新車価格321万9000円の1割程度(32万円)の時価額となるものと見込まれる。加えて,修理費が時価額を上回る経済的全損の場合には,時価額に買替諸費用を加算した金額が損害となるところ,買替諸費用に10万円程度を要するのが通例である。そうすると,原告車の損害額は42万円~44万円程度となるところ,その中間額43万円をもってその損害額と認める。

 

B-4 半田簡判令和2年11月18日2020WLJPCA11186009
  • 原告車両概要 ニッサンノート15G、初度登録平成22年5月
  • 事故発生日時 令和2年1月18日
  • 原告主張時価 40万6700円(中古車市場)
  • 被告主張時価 不明
  • 裁判所認定額 31万9000円(レッドブック)
  • 判旨

 原告Xは,原告車の車両時価額として,中古車サイトで検索した車両9台の「支払総額」…の平均値約40万6700円を主張するが,「支払総額」には「車両本体価格」にどのような費用が加算されているのか不明であるから,「支払総額」の平均値で求めるのは相当でない。また,一般的に中古車の「車両本体価格」には,装備内容や外観程度等による価格差が反映されており,「車両本体価格」の平均値で求めた金額も正確な時価額とはいえない。そこで,本件においては,個々の車両の個別の特性を除いた一般的な価格基準として用いられるレッドブックの小売価格を基準にするのが相当であり,同基準によれば,原告車の車両時価額は,29万円(税込み価格31万9000円)と認めることができる…。

 

B-5 東京地判令和2年12月25日交民53巻6号1606頁
  • 原告車両概要 事業用大型貨物自動車、初度登録平成18年5月
  • 事故発生日時 平成30年9月21日
  • 原告主張時価 450万円(レッドブック修正)
  • 被告主張時価 187万1900円(新車価格の10%)
  • 裁判所認定額 448万3234円(レッドブック修正)
  • 判旨

 証拠…によれば,C車と同種同年式の車両の価格は,本件事故の2年前時点で485万円(消費税抜き)であり,さらに1年前の時点で550万円(消費税抜き)であると認められる。また,ウイングボディの本件事故当時の時価は75万円(消費税抜き)であると認められる。したがって,次のとおり,ウイングボディを含む本件事故当時のC車の時価は448万3234円(消費税込み)であると認められ,同額がC車の車両損害額となる。
 〈計算〉
 4,850,000×4,850,000/55,000,000×4,850,000/55,000,000×4,850,000/55,000,000=3,325,668
 3,325,668×0.1=332,566
 750,000×0.1=75,000
 3,325,668+750,000+332,566+75,000=4,483,234

 

B-6 大阪地判令和3年1月19日2021WLJPCA01198033
  • 被告車両概要 普通乗用自動車
  • 事故発生日時 令和元年8月23日
  • 被告主張時価 172万6250円(中古車市場)
  • 原告主張時価 101万5000円(レッドブック)
  • 裁判所認定額 101万5000円(レッドブック)
  • 判旨

 証拠…及び弁論の全趣旨によると,本件事故によって時価額101万5000円のC車が損傷し,経済的全損が生じたことが認められる。
 したがって,本件事故と相当因果関係のある車両損害は101万5000円であると認めるのが相当である。
 これに対し,被告は,C車と同種車両の中古車市場における平均価格である172万6250円が被告の車両損害であると主張し,インターネットの各種ホームページの印刷物…を証拠として提出する。しかし,前記101万5000円はレッドブックに依拠して認められる時価額であり,同印刷物に記載された情報をもってしても,前記時価額の認定が不相当であるとまではいえないから,この点に係る被告の主張は採用することができない。

 

B-7 函館地判令和3年3月25日交民54巻2号486頁
  • 原告車両概要 冷凍車、車軸3軸のうち車両後方の車軸2軸が駆動輪となっている「ツーデフ」と呼ばれる大型トラックである、初度登録平成16年9月
  • 事故発生日時 平成27年12月26日
  • 原告主張時価 439万円(レッドブック修正?)
  • 被告主張時価 268万8700円(減価償却)
  • 裁判所認定額 439万円(レッドブック修正)
  • 判旨

 原告車のシャーシー部分となったトラックについて,レッドブックに掲載された中古車市場価格は平成17年初度登録の車両の価格360万円までであるが,平成18年初度登録の車両の価格400万円からの減価率(90%)をもとに計算すると324万円となり,10t冷凍車の特装部分の平成20年以前のものの価格115万円を加算すると,原告車の時価額は439万円と認められる…。
 これに対して,被告は,法定耐用年数をもとにした減価償却率によって時価額を算定すべきと主張するが,同種同等の車両を中古車市場で調達した場合の価格が時価額というべきであるから,被告の主張は採用できない。

 

B-8 名古屋地判令和3年4月7日交民54巻2号517頁
  • 原告車両概要 不明
  • 事故発生日時 平成29年4月12日
  • 原告主張時価 1318万2400円(減価償却)
  • 被告主張時価 1290万円(レッドブック)
  • 裁判所認定額 1290万円(レッドブック)
  • 判旨

 車両の時価額は,同一の車種・年式・型,同程度の使用状態・走行距離等の自動車を,中古車市場において取得するに要する価格をもって決するのが相当である。

 本件においては,B車と同一の車種・年式・型の自動車について,レッドブックの記載があり,本件は市場価格が判明する場合といえるから,定率減価償却法によるべきであるとの原告Aの主張は採用できない。

 そして,上記レッドブックではB車と同種車両の時価について1290万円とされている。なお,B車は本件事故の約半年前の時点での走行距離は約2万キロであり,初度登録から8年経過している自動車としては,走行距離がさほど長いとはいえないから,レッドブック記載の上記金額から走行距離や使用状態を踏まえて減価する必要はないものと認められる。したがって,本件事故時のB車の時価額は,1290万円と認められる。

 

B-9 札幌地判令和3年8月17日自保2121号107頁
  • 被告車両概要 車種不明、初度登録平成21年7月、走行距離11万8598km
  • 事故発生日時 令和2年1月26日
  • 被告主張時価 36万2593円(購入価格)
  • 原告主張時価 21万3700円(レッドブック)
  • 裁判所認定額 21万3700円(レッドブック)
  • 判旨

 被告は,被告車両の購入価格である36万2593円をもって本件事故時における時価額とすべきと主張するが,本件事故の1年以上前の購入価格をもって相当な時価額として評価すべきとする被告の主張は採用することができない。証拠によれば,被告車両の初度登録は平成21年7月であり,本件事故時直近の走行距離は11万8598キロメートル,車検有効期間満了日は令和2年9月9日であったことが認められ,有限会社オートガイド発行のレッドブックの最終掲載時(平成31年1月)における被告車両の同型・同年式車の小売価格は39万円である。同額に前年小売価格からの減額率を乗じた上,同誌における被告車両の年式及び走行距離並びに車検残期間による修正を考慮して被告車両の時価額を21万3700円とする原告の主張は概ね合理的なものであるといえ,これを覆すに足りる主張立証はない。したがって,被告車両の時価額は同額を相当と認める。

 

B-10 大阪地判令和3年11月12日2021WLJPCA11128025
  • 原告車両概要 不明
  • 事故発生日時 平成31年2月16日
  • 原告主張時価 253万円(レッドブック)
  • 被告主張時価 なし(修理費用のみ争い分損である旨主張)
  • 裁判所認定額 253万円(レッドブック)
  • 判旨

 原告車の時価額は,230万円(レッドブック価格)に消費税を加えた253万円(2,300,000×1.1)であるところ,精算見積書によれば,原告車の修理費として451万7834円を要することが認められる。したがって,原告車は,経済的全損であると評価されることから,車両時価額として標記の金額を認めるのが相当である。

 

B-11 大阪地判令和4年7月7日2022WLJPCA07078004
  • 原告車両概要 スズキハスラー(型式DAA-MR41S)、初度登録平成27年12月、走行距離8万3383km、車検残月数22か月
  • 事故発生日時 令和3年2月1日
  • 原告主張時価 99万7700円(平成31年1月発売車両のレッドブック)
  • 被告主張時価 不明
  • 裁判所認定額 68万9000円(レッドブック)
  • 判旨

 原告車両は、軽自動車であるスズキハスラー(型式DAA-MR41S)であり、初度登録年月平成27年12月であって、本件事故当時の価格としてレッドブック上80万円であり、走行距離が8万3383キロメートルであること、車検残月数が22か月であることに照らして11万1000円を減額し、本件事故当時の原告車両の時価は、68万9000円と認められる。

 これに対し、原告らは、時価額算定チェックシートを根拠として99万7700円と主張するものの、同チェックシート記載のレッドブック価格は平成31年1月発売の車両のものであることに照らして、採用できない。

 

B-12 名古屋地判令和4年12月2日2022WLJPCA12028003
  • 原告車両概要 トヨタbB・5ドアワゴン(QNC21)、初度登録から12年経過、走行距離9万6000km
  • 事故発生日時 令和2年10月3日
  • 原告主張時価 33万円(レッドブック)
  • 被告主張時価 16万4300円(新車価格の10%)
  • 裁判所認定額 33万円(レッドブック)
  • 判旨

 本件事故後に被控訴人車両と同一の車種・年式・仕様の車両は、本件事故のあった令和2年10月のレッドブックには掲載がなく、また、本件事故の約1年2月後(令和3年12月頃)に中古車販売サイトで検索したところ、該当件数は0件であった。……

 レッドブックによれば、被控訴人車両と同一の車種・年式・仕様の車両の中古車販売価格は、平成30年10月時点において61万円、令和元年10月時点において49万円(その差額は12万円で、1年間の減価率は19.7%である。)であった。また、被控訴人車両は、本件事故時において車検残月数が1か月以上2か月未満、令和2年10月29日時点において走行距離が9万6116kmであったところ、レッドブックによれば、被控訴人車両の車両クラスの車検残月数による価値評価は、1か月以上2か月未満の車両につき4万5000円の減価、初度登録から120か月超かつ走行距離9万km超10万km以下の車両につき4万円の減価とされている。被控訴人会社側のアジャスターはこれらを踏まえ、被控訴人車両の本件事故時の時価額を、基本価格39万円(≒令和元年10月時点の時価額49万円×減価率(1-0.197))とし、上記各減価要素を加味して、30万円(税抜)と算定した。

 以上によれば、被控訴人車両の本件事故時の時価額を、レッドブックに基づいて33万円(税込)と見積もることには一定の合理性があると認められる。

 控訴人は、被控訴人車両の同年式、同型車両が、本件事故があった月のレッドブックや中古車販売サイトに掲載されていないことを指摘して、中古車市場価格による時価額の算定が不相当である旨主張するが、中古車販売サイトの掲載状況はあくまで一時点におけるものにとどまることに加え、レッドブックへの掲載も終了から1年程度しか経過していないことを併せ考えると、控訴人の主張を踏まえても、上記算定の合理性は左右されない。他に上記算定の合理性を覆すに足りる証拠はなく、被控訴人車両が本件事故によって経済的全損に陥ったとは認められない。

 

B-13 名古屋地判令和5年1月27日交民56巻1号110頁
  • 原告車両概要 トヨタハリアー、初度登録平成17年12月、走行距離10万9500km、車検残月11月以上12月未満
  • 事故発生日時 平成28年1月28日
  • 原告主張時価 不明
  • 被告主張時価 不明
  • 裁判所認定額 85万円(レッドブック・税抜)
  • 判旨

 原告車両と同種車両……の時価額は、平成27年11月のレッドブックによれば103万円、同年12月のレッドブックによれば101万円とされる……。

 レッドブックによれば、原告車両の車両クラスについては、車検残月数が11月以上12月未満の車両については5万円の減価を、初度登録から120月超かつ走行距離10万km超11万km以内の車両については9万円の減価がなされるべきとされる……。

 原告車両の本件事故当時の時価額は、99万円(本件事故前1か月間で、平成27年12月時点の時価額から更に2万円(=103万円-101万円)程度減価すると考えられる。)であり、これに車検残月数減価(-5万円)、走行距離減価(-9万円。なお、被告は、上記……以降の走行距離を推計して本件事故当時の原告車両の走行距離が13万kmを超えると主張するが、あくまで推論にとどまり、これを認めるに足りる証拠はない。)をすると、その時価額は85万円となる。

 

B-14 飯田簡判令和5年3月13日2023WLJPCA03136001
  • 原告車両概要 ダイハツムーヴコンテ、初度登録平成25年11月、走行距離8万6378km
  • 事故発生日時 令和4年3月28日
  • 原告主張時価 77万3000円(中古車市場)
  • 被告主張時価 62万7000円(レッドブック)
  • 裁判所認定額 62万7000円(レッドブック)
  • 判旨

 令和4年3月、4月版のレッドブックにおける原告車と同じ年式の同種・同型式・同仕様車の価格は57万円(本体価格。消費税抜き)であること、被告保険会社担当者が上記事項〔車種、年式、走行距離を含む〕を考慮し、原告車の時価額を62万7000円と査定したことがそれぞれ認められ、上記の事実からすると、本件事故当時の原告車の時価は、62万7000円であると認められる。この点、原告が、原告車の時価を示すものとして提出した資料に基づき、原告車の車両価格は77万3000円である旨を主張するが、その算定根拠は明らかではなく、上記資料を原告車の時価の算定の基礎とすることはできない。また、原告は、令和4年4月時点のインターネット検索の結果では、原告車と同種・同年式・同型式・同仕様で売り出されている車両は原告主張の時価額同様に高価格で売り出しされているとも主張するが、原告車は、売出し事例に比して走行距離が長いことが認められ、原告主張の車両価格が一般的価格ということはできない。したがって、原告の車両価格に関する主張は採用できない。

 

B-15 名古屋地判令和5年3月24日2023WLJPCA03248051
  • 原告車両概要 車種不明、初度登録平成21年、走行距離8万8000km
  • 事故発生日時 令和3年8月1日
  • 原告主張時価 16万円(レッドブック)
  • 被告主張時価 8万2000円(新車価格の10%)
  • 裁判所認定額 16万円(レッドブック)
  • 判旨

 控訴人Y1は……、X車両と同車種の中古車市場価格の資料として4台分の中古車情報サイトのページ……を提出するが、同資料は登録台数が15台であるのに対し4台分の中古車情報しか記載されておらず、これをもってX車両と同種、同年式、同走行距離の車両の市場価格が控訴人Y1主張の価格にとどまると認めるには足りないというべきである。

 却って、証拠……によれば、令和元年7月時点のX車両と同車種、同年式(平成21年式)の車両(新車価格82万円)の中古車価格は、レッドブックで27万円(税抜き)とされていたことが認められ、初度登録後の10年間の減価額が55万円(計算式:82万円-27万円=55万円)であることから、特段の事情がない限り、上記令和元年7月時点の価格(27万円)から本件事故時(令和3年8月)までの約2年間に11万円(計算式:55万円÷10年×2年=11万円)を超えて減価することは想定し難いというべきであり、本件事故時点のX車両の車両本体の時価額も16万円(税抜き)(計算式:27万円-11万円=16万円)を下らなかったと推認できる。

 

B-16 名古屋地判令和5年6月14日交民56巻3号707頁
  • 原告車両概要 三菱ふそうトラック、初度登録平成27年4月、走行距離46万4874km
  • 事故発生日時 令和3年3月30日
  • 原告主張時価 1034万円(レッドブック)
  • 被告主張時価 786万5880円(減価償却)
  • 裁判所認定額 1034万円(レッドブック)
  • 判旨

 令和3年3月発行のレッドブック(商用車)によると、原告車と同年式・同型車の中古車小売価格は税抜940万円(ウィングボディのため加算された95万円を含む。)であり、これに消費税(10%)を加算した1034万円が、原告車の時価額と認められる。

 被告らは、レッドブック価格は参照すべきでなく、原告車の時価額を減価償却方法で算定すべきと主張する。

 しかし、被害車両の時価額は、原則として、これと同一の車種・年式・型、同程度の使用状態・走行距離等の自動車を中古車市場において取得するのに要する価額によって定めるべきであり、右価格を課税又は企業会計上の減価償却の方法である定率法又は定額法によって定めることは、加害者及び被害者がこれによることに異議がない等の特段の事情のないかぎり、許されないものというべきである(最高裁判所第2小法廷昭和49年4月15日・民集28巻3号385頁)。

 被告らは、上記特段の事情として、原告が原告車を新車として購入する際に値引きを受けていることや原告車が事業用大型貨物自動車である点を指摘するが、いずれも同事情に該当するものではないと思料する。

 したがって、被告らの主張は採用できない(なお、東京海上日動火災も、令和3年8月18日に作成した損害確認報告書において、原告車の時価をレッドブックに基づいて1034万円と査定していた……。)。

 

B-17 東京地判令和5年11月10日2023WLJPCA11108008
  • 原告車両概要 アウディS4、初度登録平成22年6月
  • 事故発生日時 令和元年10月3日
  • 原告主張時価 不明(インターネット?)
  • 被告主張時価 139万7000円(レッドブック)
  • 裁判所認定額 139万7000円(レッドブック)
  • 判旨

 経済的全損をいう被告Y1の主張に対し、原告X1は同種車両の取引事例……を引用し、原告車両の時価は修理費用よりも高額であると主張する。しかしながら、レッドブック……の内容と比較して見ると、甲13号証に表示されている価格(791万円など)は、本件の原告車両のような相当の使用歴のある中古車の交換価値ではなく、新車等の価格であるように思われ、これ以外に原告X1から特段の立証もない。そうすると、原告車両の当時の時価としては、レッドブック(平成22年の同型のアウディの標準中古価格を170万円とし、走行距離等により43万円の減算を行う内容)に基づき、消費税込みで139万7000円……との被告Y1の主張額を超える時価を認定することはできないから、同額による経済的全損と認める。

 

B-18 神戸地姫路支判令和6年5月21日自保2177号128頁
  • 原告車両概要 生産期間の短い人気モデル
  • 事故発生日時 令和4年8月5日
  • 原告主張時価 83万円(中古車市場2台)
  • 被告主張時価 56万9000円(レッドブック)
  • 裁判所認定額 56万9000円(レッドブック)
  • 判旨

 原告車両の生産期間が短く人気モデルとされているが、原告が提出する証拠はわずか2例に過ぎないことからすれば、原告車両が人気モデルであることを考慮しても、この平均額をもって原告車両の時価額とすることは相当ではない。

 

B-19 千葉地判令和6年7月26日交民57巻4号972頁
  • 被告車両概要 不明
  • 事故発生日時 令和4年1月10日
  • 被告主張時価 31万8000円(レッドブック)
  • 原告主張時価 43万円(中古車市場)
  • 裁判所認定額 34万9800円(レッドブック+消費税)
  • 判旨

 被告車両の時価額は、同年式の同車種のレッドブックの価格である31万8000円(基本価格である43万円から、走行キロによる10万円の減算、車検残り月数による1万2000円の減算をしたもの。)に消費税を加えた34万9800円と認めるのが相当である。

 なお、乙第13号証及び乙第14号証に記載された取引事例は、修復歴の有無や装備品の有無が被告Y1車両と異なっていることが窺われるから、直ちに参照することができないというべきである。

 

B-20 大阪地判令和6年12月5日交民57巻6号1566頁
  • 原告車両概要 メルセデス・ベンツ
  • 事故発生日時 令和3年10月25日
  • 原告主張時価 297万円(損害レポート)
  • 被告主張時価 218万円(レッドブック・税込239万8000円)
  • 裁判所認定額 239万8000円
  • 判旨

 被告らは、レッドブックを根拠として原告車の時価額を218万円(税抜)と算定しており…、かかる算定には合理性が認められる。
 よって、原告車の車両損害として218万円及びこれに対する消費税21万8000円の合計239万8000円を認める。
 これに対し、原告らは、原告X1車の車両時価額が270万円であると主張し、原告三井住友作成の車両損害調査報告書…には原告車の時価額が270万円である旨が記載されている。しかし、上記車両損害調査報告書には、その根拠となる車価表等は添付されておらず、どのような根拠で原告車の時価額を270万円と算定したのか明らかでない。原告らの主張は採用できない。

 

C 購入価格を基に認定した裁判例

C-1 名古屋地判令和2年2月12日2020WLJPCA02128007
  • 原告車両概要 ニッサンセレナ・ハイウェイスター(型式DBA-CC25)、初度登録平成19年9月
  • 事故発生日時 平成28年6月23日
  • 原告主張時価 132万7000円(不明)
  • 被告主張時価 63万5400円(不明)
  • 裁判所認定額 95万円(購入価格×レッドブック下落率)
  • 判旨

 平成26年3月,原告は,原告車を157万4250円(車両本体販売価格)で購入した。購入時の原告車の走行距離は3万0385kmであった。平成26年10月2日当時の原告車の走行距離は3万8600kmであった。

 平成28年7月当時のインターネット上(グーネット,カーセンサー)の原告車と同年式(平成19年9月初度登録),同車種の中古車販売価格は,最低価格が16万8000円,最高価格が115万円であった。最高価格の次に高額であったのは79万8000円,次に高額であったのは76万8000円であった。

 平成26年3月当時の原告車の時価額は,当時の購入価格である157万4250円と認めるのが相当である。
 そして,本件事故当時の原告車の時価額については,平成26年3月から本件事故時(平成28年6月)のレッドブック価格の下落率(40%)に照らし,95万円と認めるのが相当である。
 なお,上記金額は,本件事故当時の原告車と同年式,同車種の中古車販売価格に照らしても,不相当ではない。
 したがって,原告車の車両損害は95万円と認められる。

 

C-2 大阪地判令和2年9月3日2020WLJPCA09038011
  • 原告車両概要 トヨタ・ヴィッツ、初度登録平成18年5月、走行距離6万2000km
  • 事故発生日時 平成29年6月9日
  • 原告主張時価 不明(修理費用の請求のみで時価額主張なし)
  • 被告主張時価 11万6000円(不明)
  • 裁判所認定額 16万8000円(購入価格の80%)
  • 判旨

 平成17年式のトヨタのヴィッツで,走行距離が原告車と同程度の中古車14台の本体価格は,10万円から38万4000円まで幅があるが,うち10台は15万円を上回っていること…,原告車を購入した当時の車両価格は21万円であるから,本件事故時には,車両価格はこれより低くなっていると考えられること,もっとも,上記購入から本件事故まで約4か月であり,車両価格が大幅に低下しているとは考え難いことからすると,本件事故時における原告車の時価は,購入時の価格の8割である16万8000円をもって相当と認め…る。

 

C-3 東京地判令和3年12月20日自保2117号164頁
  • 原告車両概要 マセラティシャマル、初度登録平成4年4月、走行距離5万5154km
  • 事故発生日時 平成30年10月31日
  • 原告主張時価 1480万円(査定)
  • 被告主張時価 93万5000円(新車価格の10%)
  • 裁判所認定額 200万円(購入価格の3分の1)
  • 判旨

 原告車両が希少な外国車であり,高額で取引される事例があるとしても,原告車両の取得時の価格と対比すると,一般的な中古市場が形成されているとは認められないこと,原告が,原告車両を入手してから本件事故までに約13年が経過していること,走行距離が5万kmを超えていること,本件事故後の原告車両のオークションの入札額などを考慮すると,取得時の価格の約3分の1に当たる200万円とするのが相当である。

 原告は,原告車両の時価額が1480万円と主張し,これに沿う査定書を提出する。しかし,同査定書を作成したマイクロ・デポ株式会社は,原告と取引関係にあることが認められ,その査定内容に中立性,客観性が担保されているとはいい難い。また,同査定書は,原告車両について,希少性,原告の整備等による付加価値,マイクロ・デポ株式会社のブランド力等を根拠に高額な車両としているが,その内容は,車両価格だけではなく,営業利益や付加価値等を考慮しているところ,それらを車両価格に反映させる合理的根拠が明らかではなく,にわかに信用することはできない。よって,原告車両の時価額について,マイクロ・デポ株式会社の査定書を採用することはできず,原告の主張には理由がない。

  • 備考 原告は、時価額の査定料も請求していたが、本件事故と相当因果関係のない損害であると判断されている。

 

C-4 東京地判令和5年9月29日2023WLJPCA09298011
  • 原告車両概要 アストンマーチンDB9のミッション車
  • 事故発生日時 令和4年6月11日
  • 原告主張時価 1132万7150円(国内外の取引実績)
  • 被告主張時価 440万円(原告車の購入経緯)
  • 裁判所認定額 600万円(原告車の購入額+整備費用の85%)
  • 判旨

 原告は、知人から原告車を購入するに当たり、当初802万9080円(消費税及び諸費用を含む。)との売却価額を提示されたが、タイヤの摩耗及び走行中の異音等の不具合があったことから、これを減額した574万2280円(消費税及び諸費用を含む。)で令和3年3月30日に購入した……。

 原告は、原告車を購入した後、合計127万0616円を費やして部品交換等を行った……。

 ……原告は原告車の入手及び整備に合計701万2896円(=574万2280円+127万0616円)を要しており、原告車の入手から本件事故までの経過期間をも併せ考慮すれば、原告が主張する前所有者との関係性を踏まえても、原告車の本件事故当時の時価額は、上記701万2896円の約85%相当額である600万円とするのが相当である。

 これに対し、原告は、①原告車と車種、年式、型、使用状態、走行距離等を同じくする車両を中古車市場で入手するには1132万7150円を要する、②令和2年以降中古車市場が高騰している旨主張する。

 上記①については、証拠……によれば国内外において原告車と同種の車両5台が804万円~1761万0900円で取引されたことが、証拠……によれば1台が1350万円で売却に付されていることが、それぞれ認められる。しかしながら、これらの車両の使用状態が、前記のとおり原告の購入前には通常の走行にも支障を来たす程度の不具合を有し相当の費用を投じての整備を要した原告車と同程度であったことを認めるに足りる主張立証はないから、同種車両の取引例から直ちに原告車の時価額を算出するのは相当でない。

 また、上記②については、原告が提出する証拠……によっても、原告車と同種の車両の本件事故までの時価額への外的な事情による具体的な影響は明らかでない。

したがって、原告の上記主張は理由がない。

 

C-5 東京地判令和5年11月17日2023WLJPCA11178015
  • 原告車両概要 スバルサンバー(冷凍車)、初度登録平成22年8月
  • 事故発生日時 令和2年11月8日
  • 原告主張時価 100万円以上?(インターネット?)
  • 被告主張時価 51万8186円(購入価格+部品交換費用等?)
  • 裁判所認定額 51万8186円(購入価格+部品交換費用等)
  • 判旨

 原告車は……、原告が令和2年8月頃車両本体価格11万円で購入し、40万8186円を費やして部品交換や整備等を行ったことが認められ、これらの事実によれば、原告車の本件事故当時の時価額は上記各金額の合計である51万8186円を超えないというべきである。

 これに対し、原告は、①前記51万8186円は車両の購入価格、エンジン等のパーツ費用及び工賃の実費であり、原告によるエンジン換装等の手間賃相当額や登録諸経費を含んでいない、②原告車の買替えには100万円以上を要するなどと主張する。

 しかし、車両購入後の部品交換及び整備に要した費用全額が車両時価額の増価分になるとはいえない上、原告が購入代金として支払った11万円が購入当時の時価額を大幅に下回ることをうかがわせる事情も見当たらないことからすれば、買替時には車両本体以外の費用を要することを考慮しても、上記①の主張は前記……の認定判断を左右しない。

 また、インターネット上に掲載された本体価格115万円の車両……は原告車と異なる車両である上、走行距離が約9000kmで原告車(走行距離64万kmを超える……。)より大幅に少ないため、原告車の時価額を算定する根拠とはなり得ず、他に原告車と同等の車両を購入するために100万円以上を要することをうかがわせる証拠もないから、上記②の主張も採用できない。

 

D 新車価格を基に認定した裁判例

D-1 東京地判令和2年10月6日2020WLJPCA10068003
  • 被告車両概要 ホンダフィット、初度登録平成16年1月、走行距離27万4500km
  • 事故発生日時 平成28年3月6日
  • 被告主張時価 35万円(中古車市場)
  • 原告主張時価 13万5000円(新車価格の10%)
  • 裁判所認定額 13万5000円(新車価格の10%)
  • 判旨

 控訴人会社は,Y1車と同一登録年の車両が令和元年6月頃に39万8000円で中古車市場に流通していると主張し,それに沿う証拠…を提出するが,同車両の走行距離は18万6000kmとY1車のそれより約10万km少ないものであり,これをもってY1車と同等の車両が中古車市場を形成しているとまでは認め難いから,控訴人会社の主張は採用できない。

 

D-2 名古屋地判令和3年6月30日交民54巻3号853頁
  • 原告車両概要 初度登録平成29年1月(車種不明)
  • 事故発生日時 平成29年6月22日
  • 原告主張時価 137万4000円(不明)
  • 被告主張時価 109万円(中古車市場?)
  • 裁判所認定額 129万円(新車価格から10万円引き)
  • 判旨

 原告車両の初度登録年月は平成29年1月と認められ,その時価額の認定に当たっては,平成29年1月式の同種車両の価額を参照すべきところ,平成28年11月式の同種車両の新車価格は139万円(税抜き)と認められる。また,同種車両の初度登録後1年半後の中古車価格は概ね30万円程度新車価格から下落していることが認められるから,同事実から,初度登録後半年の下落額は約10万円と推認することができ,かかる事実から,原告車両の時価額は,上記新車価格から10万円を減価した129万円(税抜き)と推認することができる。

 

D-3 神戸地判令和3年9月21日交民54巻5号1202頁
  • 原告車両概要 車種不明、初度登録平成14年7月、走行距離8万7742km
  • 事故発生日時 平成28年6月28日
  • 原告主張時価 13万2000円(不明)
  • 被告主張時価 10万円(新車価格の約10%)
  • 裁判所認定額 10万円(新車価格の約10%)
  • 判旨

 証拠によれば,原告車は本件事故により大きく損傷し,経済的全損となり,その時価額は10万円であると認められる。

 

D-4 東京地判令和3年9月30日交民54巻5号1249頁
  • 原告車両概要 普通乗用自動車
  • 事故発生日時 平成23年1月30日
  • 原告主張時価 45万円(車両価格協定保険額)
  • 被告主張時価 27万9800円(新車価格の10%)
  • 裁判所認定額 41万9700円(新車価格の15%)
  • 判旨

 原告は,保険会社との自動車保険契約における車両価格協定保険額を基に,本件事故当時の原告車の時価は45万円であると主張する。この額は,同程度の条件の中古車の市場販売価格を踏まえたものと解されるものの,具体的な算定根拠は証拠上必ずしも明らかではない。
 原告車が新車登録後約13年を経過していることも考慮すると,原告車の時価は,新車価格279万8000円の15%に当たる41万9700円と認めるのが相当であり,これを左右するに足りる証拠はない。

 

D-5 名古屋地判令和4年1月11日2022WLJPCA01118009(A-13と同裁判例)
  • 原告車両概要 トヨタ・アリオンA15、初度登録平成18年3月、走行距離6万8000km
  • 事故発生日時 令和元年9月7日
  • 原告主張時価 23万円(同車種他型式車両の販売価格を参照)
  • 被告主張時価 16万円(新車価格の10%)
  • 裁判所認定額 17万3000円(新車価格の10%+消費税8%)
  • 判旨

 本件事故当時のレッドブックに掲載はなく,同年式・同車種・同型式の中古車販売事例も発見されなかったというのであって,本件事故時の時価額としては,新車価格160万円の10%である16万円に8%の消費税(本件事故当時)を加算した17万3000円(千円未満四捨五入)と認定するのが相当である。

 原告は,原告車とは別の型式の車両が,同型式の新車価格の10%よりも高額(1.44倍)で販売されているとして,原告車の価格も同様に算定すべきである旨主張するが,原告が参照する別の型式の車両の新車価格は,原告車と同型式の車両と比較して数十万円も高額であり,かかる別の型式の車両の傾向を,原告車の時価の資料として用いることは相当でない。

 

D-6 東京地判令和4年3月7日2022WLJPCA03078005
  • 原告車両概要 不明
  • 事故発生日時 令和2年6月29日
  • 原告主張時価 不明(修理費用の主張のみ)
  • 被告主張時価 1万8500円(新車価格の10%)
  • 裁判所認定額 5万5000円(新車価格の30%)
  • 判旨

 原告車両は,平成19年ころに購入されたものであること,原告車両と同型の車両の新車価格は約18万5000円であること,原告は,令和元年12月15日頃にも原告車両に乗っていた際に追突事故に遭い,一部のパーツを交換して修理したこと,原告車両は,本件事故により,右STIレバーが曲がったほか,車体に複数の細かい損傷が生じたことが認められる。以上の事実によれば,原告車両のパーツの一部は,本件事故の約半年前に交換されており,一定の価値は維持されているとはいえるが,これにより,原告車両の価値が新車価格と同じかそれ以上の価値まで増大したとはいえない。よって,上記認定の事情に鑑みれば,原告車両の時価額は,新車価格の約3割は残存しているということができ,5万5500円とするのが相当である。

 

D-7 東京地判令和4年10月21日2022WLJPCA10218003
  • 原告車両概要 BMW・M535iA、初度登録昭和62年11月、走行距離33万km
  • 事故発生日時 令和2年6月18日
  • 原告主張時価 549万0970円(中古車市場)
  • 被告主張時価 74万6900円(新車価格の10%)
  • 裁判所認定額 187万円(新車価格の25%)
  • 判旨

 原告車が属するBMWの5シリーズの車両の中古車価格は、製造時期からの期間経過により徐々に低下し、いわゆる旧車と称される程度に期間が経過した場合には車両の状態等により左右される度合いが高まるといえる。

 原告車は、平成26年3月頃までは毎月1500km~2000kmに及ぶ距離を走行し、本件事故時には33万kmを超えていた上、車検の有効期間が経過してから5年を超える期間が経過していたものである。

 そして、原告車とは車種が異なり、その希少性の程度も異なるとはいえ、製造時期から相応の期間が経過し、原告車より走行距離が遥かに少ない5シリーズの車両の前記の販売価格をも踏まえれば、製造時期から長期間が経過した車両については旧車として独自の市場価値が付与され得ることを考慮しても、原告車の本件事故当時の時価が新車購入価格746万9000円の約25%である187万円を超えるとは認められない。

 これに対し、原告は、頻繁な部品交換や整備等の原告車の維持管理状況によれば原告車の状態は良好で、原告車と同一車種・年式・型、同程度の使用状態・走行距離等の車両を取得するには500万円以上を要する旨主張し、これに沿う証拠(甲11、12)を提出する。

 しかし、上記証拠は、前記のインターネット上の中古車情報サイト上の記載のように中古車市場に直接公開されたものとはいえないところ、時価額算出過程・根拠が明らかではなく、前記認定事実のとおり期間が経過した車両の価格については販売店の定め方次第である旨の指摘がされていることをも踏まえると、上記証拠に記載された見積額を直ちに原告車の時価と認めることはできない。

 また、原告が主張する維持管理状況については、原告が提出する証拠(甲15)自体によって明らかとはいえず、同証拠に関する原告代表者の供述(本人調書19頁)を併せても的確に裏付けられているとはいえない。

 これに加え、①原告が常時2台同一型式の車両を保有し、業務用運行準備に備え、あらかじめ両車共通定期交換保守部品、消耗部品を取り寄せていた旨主張する(訴状3頁)一方で、遅くとも平成25年末頃までには「常時2台同一型式の車両」を保有する状態ではなかった旨主張していること(第2準備書面2頁)、②本件事故当時において、車検を近々取得する予定だった旨主張する(訴状4頁)一方で、平成28年末頃に不具合が判明したスタータモータの交換を要し、令和3年12月7日時点でも取寄せ中であり(原告第2準備書面2頁)、令和4年8月19日時点でも入手していないこと(原告代表者)、③本件事故直前の2か月間はコロナ禍で緊急事態宣言が発出され地方出張の予定がなくなったこともあり原告車のエンジンをかけていなかった旨主張する(第1準備書面4頁)一方で、原告代表者が東北出張等の業務多忙のためエンジンをかけていなかった旨供述し(本人調書8頁、23頁)、さらに、令和2年4月~6月は繁忙期でないとも供述していること(本人調書2頁)から、主張相互間、主張と供述間、供述相互間、主張と客観的状況との間の各整合性に疑問が残ることを併せ考慮すれば、原告の主張する維持管理状況を認めることはできない。

 以上によれば、原告車は、修理費用494万8612円が時価額187万円を超えるから、経済的全損であり、187万円の限度で相当因果関係ある損害と認められる。

 

D-8 大阪地判令和4年11月18日自保2136号1頁
  • 被告車両概要 ホンダフィット、初度登録平成15年2月
  • 事故発生日時 平成27年11月11日
  • 被告主張時価 11万5000円(新車価格の10%)
  • 原告主張時価 不明(時価額を争点化していない?)
  • 裁判所認定額 11万5000円(新車価格の10%)
  • 判旨

 A車両の車両時価は11万5000円とするのが相当であり(……A車両は平成15年2月初度登録のホンダフィットであり、本件事故当時、初度登録後12年以上が経過していたから、新車価格の概ね1割相当額である上記金額を時価とすることは相当であるといえる。)、A車両の損傷状況……を踏まえると、修理費用が上記車両時価を上回ることは明らかであるから、被告Aには上記車両時価額の損害が生じたと認められる。

 

D-9 名古屋地判令和5年1月11日交民56巻1号1頁(A-27と同裁判例)
  • 原告車両概要 納車から7日のランドクルーザープラド、走行距離70km
  • 事故発生日時 令和3年1月31日
  • 原告主張時価 588万6220円(新車価格+買替諸費用)
  • 被告主張時価 437万3000円(レッドブック)
  • 裁判所認定額 530万6909円(新車価格の95%)
  • 判旨

 原告車両は、本件事故当時、納車から7日しか経過しておらず、走行距離も70kmと極めて短距離であった。本件事故当時の原告車両の上記状態を踏まえると、原告車両は購入価格より若干減価した程度の価値を保持していたものというべきであり(原告車両は本件事故の7日前に納車されて、通常の運転利用に供されていた以上、新車価格をもって損害とすべきとの原告らの主張は採用できない。また、原告車両の時価額はレッドブック……記載の限度であるとの被告らの主張も採用できない。)、その時価額は新車価格から5%減価した530万6909円と認める。

 

D-10 名古屋地判令和5年5月31日2023WLJPCA05318013
  • 原告車両概要 不明
  • 事故発生日時 令和3年9月18日
  • 原告主張時価 8万4000円(新車価格の10%)
  • 被告主張時価 なし(原告主張時価に対する否認のみ)
  • 裁判所認定額 8万4000円(新車価格の10%)
  • 判旨

 原告車両の修理費用は36万3341円と見積もられたことが認められるが、証拠……及び弁論の全趣旨によれば、原告車両の時価額は8万4000円にとどまると認められるから、いわゆる経済的全損と認められ、同金額を車両損害と認める。

 

E 定率法又は定額法によって認定した裁判例

E-1 神戸地判令和元年12月5日交民52巻6号1454頁
  • 原告車両概要 トヨタクラウンコンフォート(型式TA-YXS10)、初度登録平成14年7月、走行距離67万4401km
  • 事故発生日時 平成28年12月12日
  • 原告主張時価 不明(修理費用の請求のみで時価額主張なし)
  • 被告主張時価 20万1000円(新車価格+装備費用に減価償却残率を乗じた額)
  • 裁判所認定額 17万1000円(新車価格に減価償却残率を乗じた額)
  • 判旨

 一般に,中古車の価額評価については,原則として,これと同一車種・年式・型,同程度の使用状況・走行距離等の自動車を中古車市場において取得し得るに要する価額によって定められるべきであり,課税又は企業会計上の減価償却の方法である定率法又は定額法によって定めることは原則として許されないと解されているが,市場価格が形成されないために個別的,具体的な価格算定の資料がない等の事情がある場合など特段の事情があるときは,減価償却の方法によることは損害額の算定として許されると解される。

 原告車は,LPガスを使用した走行距離が約67万キロメートルのタクシー車両であるところ,その時価については,中古車市場が存在する同一車種,同一年式のガソリン車を使用する車両の中古車価格を参考として,その時価を認定するのは困難である。また,インターネット上では中古タクシーを取り扱う業者も存在し,中古タクシーの出品も見られるが…,こうした業者のホームページには価格表示の記載はなく…,中古タクシーの市場はないか,あるいは,少なくとも中古車市場が形成されている状況にあるとは認め難い。
 そうすると,中古車市場が存在せず,また,原告車のように相当年式が古く,走行距離も極めて長い中古タクシー車両については,前記…に記載の方法により損害額を算定するのが相当であり,そうすると,原告車は,本件事故時においてすでに残価率は10パーセント程度であったと認められ(弁論の全趣旨),しかも,タクシー車両の耐用年数は3年…あるいはタクシー中古車業者によっても長くて7年程度…であるから,原告車は,その初度登録年月からすれば,すでにタクシー車両の一般的な耐用年数も超えていたと認められる。
 そうすると,このようなことを総合すれば,本件事故当時の原告車の時価は,新車購入価格に架装費用を加えた額の10パーセント程度と認めるのが相当である。

 

E-2 大阪地判令和元年12月10日2019WLJPCA12108014
  • 被告車両概要 日野デュトロに油類運搬用のタンクを設置するなどの特殊架装をしたタンクローリー、初度登録平成25年2月
  • 事故発生日時 平成29年9月4日
  • 被告主張時価 不明(修理費用の請求のみで時価額主張なし)
  • 原告主張時価 296万8000円(購入価格に減価償却残率を乗じた額)
  • 裁判所認定額 361万5000円(購入価格に減価償却残率を乗じた額)
  • 判旨

 証拠…及び弁論の全趣旨によれば,被告車は特殊車両であり,中古車市場に出回っている車両数が極めて少なく,中古車市場における取引価格を算定するのが困難である。そのため,被告車の時価については,被告が主張する定率法による減価償却価格を考慮して算定するのが相当である。
 そして,被告車の購入価格は665万円…であることから,同額を基準とし,標準使用年数については,平成29年度の自動車平均使用年数が16.71年とされていること…,また,被告がタンクローリーを一番古いもので十何年間使用している旨を述べていること…も考慮し,17年程度とするのが相当である。残存価値については,甲第21号証では5パーセントとして計算しているが,これを10パーセントとするのが相当である(この場合,使用年数に係る償却率は約0.126673838,使用月数に係る償却率は約0.011223605となる。)。以上を基に計算すると,本件事故時点(初度登録から約4年6か月経過した時点)における被告車の時価額は,約361万5000円となる。
 なお,被告は,中古のタンクローリーが500万円を超える金額で取引されている旨の証拠…を提出しているが,これらの証拠に挙がっている車両は,被告車とは車種もタンク等の架装状況も異なるものであるから,当該証拠をもって被告車の時価額を算定することは相当でない。
 したがって,被告車の時価額は,361万5000円と認めるのが相当であり,そうすると,時価額が修理費用額を下回るため,本件事故による被告車の車両損害は,同額と認めるのが相当である。

 

E-3 大阪高判令和2年8月27日2020WLJPCA08276014
  • 原告車両概要 クラウンコンフォートLPGスタンダード(型式TA-YXS10 AEPRN)、初度登録平成14年、走行距離67万km
  • 事故発生日時 平成28年12月12日
  • 原告主張時価 101万6628円(不明)
  • 被告主張時価 不明
  • 裁判所認定額 25万6000円(新車価格+架装費用の最終残価率10%)
  • 判旨

 業界最大手を宣伝文句とする中古タクシーのインターネットサイトをみても,中古車市場において,控訴人車と同一の車種・年式・型,同程度の使用状態・走行距離等の車両を見出すのは困難である。また,控訴人が見積書を提出する中古車は,年式,走行距離において控訴人車と大きく異なり,これによって控訴人車の中古車市場における価格を認定することもできない。したがって,控訴人車については,損害額の算定につき減価償却の方法によることが認められる特段の事情があるというべきである。
 そして,前記認定事実によれば,控訴人車と同一の車種・年式・型の車両の新車価格は171万円であり,タクシー車両用の架装費用は約85万円と認められる。したがって,本件事故当時の控訴人車の時価は,その合計額の10%である25万6000円と認めるのが相当である。
 控訴人は,控訴人車については,タクシー営業車として頻繁に点検整備,改装がされ,1日4万円を超える収益を上げていたことを考慮すると,一般的な自家用車のように減価償却の方法によるべきではない旨主張する。
 しかし,一般的な自家用車についても,定期点検や車検の際,劣化した部品は交換するのが通常であって,減価償却の方法により車両の評価額を算定する場合には,そうした部品の交換等も考慮されているとみるのが相当であるから,控訴人が主張する点は,タクシー営業車についてのみ特別に考慮すべき事情とはいえない。控訴人車について本件事故に近接した時期にされた車検の作業内容をみても(甲20),特別の作業や部品の交換が行われたとは認められないし,他に,外装の塗り直しやシートの交換等の改装が頻繁に行われていたことを認めるに足りる証拠もない。
 また,控訴人は,控訴人車は,本件事故当時1日4万円を超える収益力があり,本件事故により少なくとも車検期間満了日までの使用価値68万6000円(1日2000円×343日分)を失ったとも主張する。しかし,車両価格は,事故当時の被害車両の再取得価格を基に算定されるべきものであること,タクシーの収益力は,当該タクシーが配車され,走行する場所,地域や運転手の稼働時間等によって左右され,車両の状態から決まるものではないことからすると,収益力をもって評価額を算定することが相当とはいえない。

 

E-4 大阪地判令和3年7月6日交民54巻4号873頁
  • 原告車両概要 BMW530iMSport、初度登録平成31年2月28日、走行距離1320km
  • 事故発生日時 平成31年4月15日
  • 原告主張時価 841万円(値引き前車両本体価格)
  • 被告主張時価 691万1500円(購入価格に減価償却残率を乗じた額)
  • 裁判所認定額 691万1520円(購入価格に減価償却残率を乗じた額)
  • 判旨

 原告が原告車両を新車として購入した際の車両本体価格は,841万円のところが127万円の値引きがされて714万円であった。

 被告の契約する保険会社の担当者は,原告車両の時価額につき,新車価格に耐用年数6年を前提とした減価償却残率0.968を乗じて査定している。

 原告車両は,本件事故当時,初度登録から約1か月半が経過し,走行距離も約1320kmであったもので,一定の使用利益を得ているものであって,新車価格を原告車両の車両本体価格と認めることはできない。

 また,上記のとおり初度登録からの期間が限られており,中古車市場があるとはいえず,また,レッドブック等による中古車価格の認定をすることもできない。

 これらによれば,減価償却率を考慮して,車両本体価格を認定することも許されるものというべきである。

 そこで,本件事故当時の原告車両の車両本体価格は,原告が原告車両を購入した際の値引き後の価格である714万円に減価償却率0.968を乗じた691万1520円(計算式:714万円×0.968)と認めることができる。

 この点,原告は,減価償却率を用いる場合,値引き前の価格に減価償却率を乗ずるべきである旨の主張をしている。しかしながら,原告は,従前にもBMW社製の車両を所有し,原告車両についても上記の値引きで購入できたことに照らすと,原告は,これからも同程度の値引きで同車種の新車を購入できる可能性が十分にあるというべきところ,値引き前の価格に減価償却率を乗ずると814万円となり(計算式:841万円×0.968),現実に取得し得る新車の車両本体価格(714万円)を大きく超過し得るものであって,そのような算定が合理的なものと言い難く,原告の上記主張は採用できない。

 

E-5 東京地判令和4年8月24日交民55巻4号1023頁
  • 被告車両概要 トヨタジャパンタクシー匠、初度登録から2年11月、走行距離29万5000km
  • 事故発生日時 令和2年12月14日
  • 被告主張時価 84万5640円(新車価格の26.1%(タクシーの一般的な使用期間5年・最終残価率10%))
  • 原告主張時価 37万4414円(新車価格の10.7%(耐用年数3年))
  • 裁判所認定額 84万5640円(新車価格の26.1%(タクシーの一般的な使用期間5年・最終残価率10%))
  • 判旨

 被告車のようなLPガスを使用する運送事業用車両の中古車市場はうかがわれないところ、被告車のリース期間からもうかがわれるタクシー車両の一般的な使用期間からすると、法定耐用年数を基準として定率法により減価償却して車両時価を算定することは適切ではないから、被告車の時価は、タクシー車両の一般的な使用期間5年間を前提に、最終残価率を10%として算定するのが相当である。

 そうすると、被告車は、本件事故当時には初度登録から約2年11か月が経過していたことから、その時価は新車価格324万円(税抜)に26.1%を乗じた84万5640円であったと認めるのが相当である。

 

F 分類し難い裁判例

F-1 名古屋地判令和3年1月13日自保2092号145頁
  • 原告車両概要 トヨタ・ヴォクシーグレードX、初度登録平成30年、レンタカー
  • 事故発生日時 平成31年2月24日
  • 原告主張時価 220万8000円(中古車市場)
  • 被告1主張時価 136万8100円(減価償却)
  • 被告2主張時価 198万円(平成31年2月レッドブック・税込で213万8400円)
  • 裁判所認定額 217万3200円(中古車市場とレッドブックの平均)
  • 判旨

 レッドブックは裁判実務における中古車価格の認定において一定の役割を担ってきたものであり,少なくとも5台平均価格と同等の客観性を有するといえるから,Y1車の本件事故時の価格は,レッドブック価格と5台平均価格の中間値である217万3200円と認めるのが相当である。
 なお,被告Y2は,インターネットに掲載されている中古車価格は売主の希望価格にすぎないなどと主張するが,5台平均価格は本件事故から約半年後のインターネットに掲載されていたものであり,本件事故時のY1車の時価の資料としては抑制的な価格といえるし,甲10号証に掲載されていた5台の中古車は原告代理人が令和2年9月に同一条件で検索した際には掲載されていなかったというのであるから…,5台平均価格をY1車の事故時の時価の参考とすることが不相当とはいえない。

  • 備考 被告からは、原告車両がレンタカーであることから減価すべきである旨主張されていたが、裁判所は「平成31年3月20日に中古車業者向けオークションにおいて,レンタカーとして使用されていた,走行距離1万4106キロ(Y1車よりも5000キロ程度長い),平成30年4月初度登録(Y1車よりも2月古い)の同年式の同型車が,210万6000円(消費税を含む。)で落札されていること…に照らすと,レンタカーとして利用されていたことをもって,減価する必要があるとは認められない。」と判示している。

 

F-2 名古屋地判令和3年4月7日2021WLJPCA04078007
  • 原告車両概要 ホンダN-BOX・CustomG・Lパッケージ、初度登録平成24年4月、走行距離2万1004km
  • 事故発生日時 平成31年2月20日
  • 原告主張時価 なし(分損前提で修理費用のみ主張)
  • 被告主張時価 91万円(レッドブック)
  • 裁判所認定額 110万1275円(中古車市場+レッドブックの中間値)
  • 判旨

 年6回(奇数月)発行されるオートガイド自動車価格月報・軽自動車(以下「レッドブック」という。)の平成31年1-2月号において,原告車と同型式の車両の価格は90万円(消費税抜き)である。

 本件事故時における初度登録からの経過年数,走行距離を勘案すると,原告車は,5万円加算され(レッドブックにおける「84ケ月以内」と走行距離2.5万km以下のクロスする欄),他方,残存車検期間から4万円減算されるので(レッドブックにおける「3ケ月未満」。乙2の4枚目参照),レッドブックから算定される車両時価は91万円(消費税抜き)となり,消費税を含めると98万2800円となる。

 平成31年2月当時,原告車と同年式かつ同型式の車両が車両本体価格128万9000円(消費税込み)で広告に掲載されていた(以下「参考価格1」という。)。

 また,原告が,平成31年4月ころ,ディーラーを通じて取得した,原告車と同年式かつ同型式の車両の購入見積書(商談メモ)によれば,車両本体価格は125万円(消費税込み)であった(以下「参考価格2」という。)。

 本件事故から相当期間経過後の時点で,原告車と同年式かつ同型式の車両が車両本体価格119万円(消費税込み),115万円(消費税込み)で広告に掲載されていた(以下,それぞれ「参考価格3」,「参考価格4」という。)。

 この点,原告が提出する証拠における同年式・同型式の4台の価格は上記参考価格1ないし4のとおりであり,その平均は121万9750円(消費税込み)である。被告は,原告の提出する証拠は,少数の事例に基づくにすぎず,原告車の時価(市場価格)を反映しているとはいえない旨主張する。しかし,原告が提出する証拠のうち,参考価格3及び4は,それが本裁判に提出された時期に照らし,本件事故後相当期間が経過した時点での価格であるし,このうち参考価格3については走行距離が6万7000kmという条件の悪い車両を対象とするから,いずれも本件事故時の原告車の時価の資料としては抑制的な価格といえるのであって,これらを原告車の事故時の時価の参考とすることが不相当とはいえない。

 もっとも,レッドブックは裁判実務における中古車価格の認定において一定の役割を担ってきたものであり,少なくとも参考価格1ないし4の4台平均価格と同等の客観性を有するといえるから,原告車の本件事故時の価格は,レッドブックにおける査定価格と参考価格1ないし4の平均価格の中間値である110万1275円と認めるのが相当である。

 これに対し,原告は,本件事故当時の原告車の時価を150万円(消費税抜き)と主張するが,原告車の新車価格が152万6191円(消費税抜き)であることからすれば,高額にすぎ,採用できない。

 

F-3 名古屋地判令和3年6月16日交民54巻3号757頁
  • 原告車両概要 日野レンジャープロ、初度登録平成14年3月、走行距離25万2800km
  • 事故発生日時 平成30年3月28日
  • 原告主張時価 なし(分損前提で修理費用のみ主張)
  • 被告主張時価 82万5000円(本体価格・クレーン価格合計額の10%)又は170万円から195万円(中古車市場)
  • 裁判所認定額 不明
  • 判旨

 なお,被告Y1らは,本件車両の本件事故時の時価額は82万5000円である,被告Y7らは本件車両と同車種,同型式の中古車小売価格は170万~195万円であると主張するが,原告が本件事故の約2年4か月前に購入当時初度登録から約13年9か月経過した本件車両を495万円程度で購入したことや本件車両のよう貨物自動車は個別性が強いことに照らし,レッドブック記載の金額は本件車両の時価額を的確に反映したものとは認められない。本件事故時の車両価格が本件車両の修理費用(代車費用45万円を除くと,293万7204円)を優に超えることは明らかである。したがって,本件事故による車両損害としては,修理費用の賠償が認められる。

 

F-4 大阪地判令和3年11月12日交民54巻6号1502頁(A-9と同裁判例)
  • 原告車両概要 キャブオーバ、初度登録平成18年6月、走行距離67万4200km
  • 事故発生日時 平成30年7月17日
  • 原告主張時価 不明
  • 被告主張時価 67万8000円(減価償却)
  • 裁判所認定額 324万円(原告が事故後購入した同種車両との比較)
  • 判旨

 原告会社は,原告車両と同車種である本件代替車両を344万8760円で購入している。

 そして,原告車両が平成18年6月初度登録の走行距離67万4200kmの車両であるのに対し,本件代替車両が平成19年2月初度登録の走行距離46万1500kmの車両であり,一般に中古車両の価格は,初度登録からの経過月数と走行距離に応じて加減評価されることによれば,本件代替車両より走行距離が20万km以上多い原告車両の車両時価が本件代替車用の購入価格を超えるものと認めることはできず,むしろ,同価格を一定程度下回るというべきである。そして,走行距離1万kmごとに1万円程度の減価評価があり得ることを踏まえると,原告車両の車両時価は324万円とするのが相当というべきであり,本件事故による原告会社の車両損害(経済的全損による車両時価額の損害)は324万円であると認められる。

 なお,被告は,原告車両の車両時価につき取得価格から減価償却を行う方法により残価が67万8000円であるとして,同額が原告会社の車両損害であると主張する。しかし,車両時価は特段の事情がない限り同種車両を中古車市場で再調達する場合の価格(再調達価格)をもって評価するべきであり,上記主張は採用できない。

 

F-5 東京地判令和4年6月15日2022WLJPCA06158005
  • 原告車両概要 サーブ9000エアロ2.3ターボのオートマチック車、初度登録平成9年8月、サンルーフ装備、外装色シルバー塗装、右ハンドル車、走行距離19万5355km
  • 事故発生日時 令和2年8月31日
  • 原告主張時価 370万円(中古車市場)
  • 被告主張時価 30万円(減価償却)
  • 裁判所認定額 50万円
  • 判旨

 原告は、原告車両の時価額について、別件車両の販売価格を基準に370万円とすべきである旨主張する。

 しかしながら、前記認定事実のとおり、原告車両は、平成9年式で右ハンドルのオートマチック車であり、走行距離が19万5355kmと多いこと、室内は経年劣化によるシートの亀裂が見られ、外観をみても経年に応じた塗装のむら等が見られるのに対し、別件車両は、平成5年式で特に希少とされる左ハンドルの5速マニュアルミッション車であり、走行距離が約4万4000kmと少ないこと、別件車両の保管状況は良く、室内シートの経年劣化は少なく、外観は比較的人気の高いブラック塗装であって良好に保持されていることといった点で大きく異なるのであり、特にビンテージ車とみるのであれば保守状態も重要な要素となるのであるから、別件車両の販売価格を基に原告車両の時価を算定すべき旨の原告主張は採用できない。調査報告書(甲5)では、原告車両と別件車両の違いを考慮した上で、原告車両の価格を別件車両から若干減額した300万円と算定しているが、減額の具体的な根拠を示しているものではなく、直ちに採用することはできない。

 他方、原告車両において、別件車両と同様、一部の愛好者間で高額で取引される希少価値のある車両であることも否定できない。もっとも、原告は、平成25年6月頃、インターネット上のオークションサイトで原告車両を6万円で購入したところ、上記オークションでの出品期間や参加者の状況等が明らかではなく、原告車両の車種の特性等を踏まえるとこれを参考とするのにも限度があるが、その当時から本件事故時までの間に価格が高騰するような事情は見当たらないことからすれば、一定の市場での価格として参考になるべきものである。

 以上によれば、一定の希少性の認められる原告車両の車種・年式・型、使用状態・保守状況、走行距離、原告車両の新車価格、原告の購入価格等を踏まえ、原告車両の時価額を50万円と認めるのが相当である。

 

 

若干のコメント

1 一般論

 経済的全損が問題となる事案では、経済的全損を主張し修理費用全額の賠償を否認する側が、車両時価額が修理費用を下回るものであることを主張立証する必要があります(東京地判令和5年2月14日交民56巻1号196頁参照)。したがって、通常は加害者側において、被害者側車両の時価額を積極的に争うことになります。

 B-1は、経済的全損であっても修理費用を請求できる場合について言及している点で注目されますが、このように例外的に修理費用が請求できる場面はごく限られていると思います。

 同一車両が同一機会に多重に衝突するなどして複数個所に損傷を来したような場合、先行事故の時点で経済的全損に至ったときは、後行事故では新たな価値的損害は発生しないため、後行事故の加害者に損害の賠償を請求できないとした裁判例があります(東京地判令和3年9月21日2021WLJPCA09218012)。多重事故の場合には、請求の相手方と損害の整理に留意が必要です。

 

2 最判昭和49年4月15日の各要素について

 前記最判昭和49年4月15日は、中古車市場における時価額を参照する場合に比較すべき車両について、車種・年式・型については「同一の」、使用状態・走行距離等については「同程度の」としているため、車種・年式・型については近似のものとの比較も許さない趣旨にも読むことができます。

 もっとも、A-28、A-39、A-50は、初度登録年の前後1年の年式の車両についても比較対象に含めています。年式は、それだけで直ちに時価額に影響を与える要素ではなく、むしろ使用状態や走行距離と相まって時価額を左右する要素であるといえますので、全く同一の年式でなければならないというものではないと思われます(ただし、A-47は、初度登録と1、2年異なる中古車の販売価額はそのまま採用できないとしています。)。

 D-5は、同車種他型式の車両の市場価格の算定方式を参照すべきであると主張したものですが、型式が異なることで新車価格にも乖離が大きいことを理由に参照すべきでないとされています。これ自体は当然の結論だと思いますが、他型式であっても新車価格が近似しており、その他の相違部分も大きくないのであれば、時価額算定において参照できる余地はありそうです。

 

3 中古車サイトによる立証

 A-10及びA-11は、前記最判昭和49年4月15日の判示内容をさらに敷衍して、「事故車両がいわゆる経済的全損に至っているかの判断に関して当該車両の時価相当額を認定することになるところ,中古車市場における中古車の価額は,基本的に(具体的,個別的な価格算定の資料がないときを除き)その車の製造会社,車種,年式,使用状態,走行距離,その車種の需要度,市場の動向等の具体的要因により具体的,個別的に定めるものと解され,事故当時の車両価格は,事故車両と同一の車種・年式・型の車両について,インターネットの中古車関連サイトの販売価格情報等の資料を参考に判断するのが相当である。」と述べ、中古車サイトを基本として捉える姿勢を見せています。上記裁判例の多く(A1~50)は中古車サイトをベースとして判断しており、この傾向にあります。

 インターネット上の中古車サイトにおいて比較対象となる車両を検索したとき、車種等によっては類似車両のヒット件数が少ないこともあります。このときに、わずかしかない台数によって算出される時価額が中古車市場として参照に値するのかは疑問が残るところです。もっとも、A-20では、中古車サイトに掲載されている車両の台数が4台しかなかったケースですが、被告車よりも年式が古い車両や走行距離が長い車両であっても販売されている上、市場で販売されている中古車のすべてが中古車サイトに掲載されるものでもないことを理由に、なお中古車サイト上の車両をベースに時価額を算出しています。また、F-2も4台の事例ですが、うち2台は相当期間経過後に掲載されているものであるため抑制的な金額を算出していることなどから、なおサイト上の車両を考慮して時価額を算出しています。わずかな台数しかヒットしないにしても、現実にその金額で販売されている中古車が存在するわけですので、市場価格を推し量るうえで重要な要素となり得ます。

 中古車サイトに掲載されている中古車は、取引が行われていく結果、調査時点によって車両が入れ替わり、金額も変動します。中古車サイトを調査するときは、事故から時間が経過しないうちに一度行っておくべきです(A-3)。

 B-4は、中古車サイトの「支払総額」には本体価格以外にどのような費用が加算されているか不明であること等を理由に中古車サイトの支払総額の平均値は採用できないとしています。しかしながら、多くの中古車サイトで「支払総額」という表示をしていると思われますし、加算されている費用も通常は買替諸費用に相当するような費用や自賠責保険料です。それを、何が加算されているか分からないというだけで切り捨てていたのでは、中古車サイトを用いた時価額の認定はできなくなってしまいます。少し調べたら凡その費用の内訳は分かることが多いですので、想像するに裁判所が当事者にも求釈明しないまま、このような判断をしたのではないでしょうか。少し非常識な判断だと思います。

 A-48は、事故車両が既に廃車されているため正確な時価額の評価が困難であるとし、中古車市場の平均額から割合的に減額しています。通常は、事故車両の損害レポートが作成されているはずですので、事故車両の状態等はそれをもって立証されるはずですが、この裁判例の事案ではどのような立証がなされていたのか不明です。あまり一般化できない事例であるように思います。

 F-1は、レンタカー車両であることを理由に減価を主張された事案で、このような主張は損害保険会社から時々なされます。走行距離が比較的長くなることなどを理由とするものだと思われますが、同程度の走行距離で中古車市場を設定しているのであれば、比較対象となる車両は同程度の価値を有することになりますので、レンタカーか否かは時価額算定にはあまり関係がないと思います。

 

4 レッドブックによる立証

 一方で中古車サイトによる時価額が主張され、他方でレッドブックによる時価額が主張されているときに、大体の傾向としては中古車サイトによる時価額が採用されます(A-6、A-41、A-44、A-45、A-50)。

 もっとも、事故車両の個別性が高く、中古車サイトでヒットした車両と乖離するなど、中古車サイトによる時価額が適切でない場合には、レッドブックによる時価額が採用されることもあります(B-2)。しかし、個別性が高いことによる乖離はレッドブックにも当てはまり得ますので、必ずしも中古車サイトによる時価額を採用しないでレッドブックの価額を採用する理由にはならないと思います。結局、中古車市場もレッドブックも的確に参照できるものがない場合には、減価償却の方法によることも検討する必要が出てくると思います(後記5)。

 なお、F-1は、中古車市場とレッドブックの平均値を採用していますが、このような手法はこの裁判例以外には見られません。

 レッドブックは、頻繁に発刊されていますし、年式等も細かく掲載されていますので、レッドブックを用いて時価額立証を行う場合は、年式等の選択を誤らないように留意が必要です(B-11)。

 B-3のように、事故前の既存傷がある場合には、レッドブックを基準として割合的に減額する手法も見られます。

 

5 減価償却による場合

 前記最判昭和49年4月15日は、定率法又は定額法によって時価額を算出することは、当事者間で異議がないような場合でなければ許容されないとしています。中古車市場がある場合には、大体の場合、減価償却によって算出される価格よりも中古車市場での価格の方が上回ることが多いと思われますので、あえて減価償却によることで合意するメリットはないように思われます。

 一方で、中古車市場がないために個別的,具体的な価格算定の資料がない等の事情がある場合などには,減価償却の方法によることは損害額の算定として許されるとする裁判例が見られます(E-1~5)。この場合、まずは中古車市場がないことを、車両時価額を争う側において主張立証する必要があると思われます(A-19参照)。

 

6 その他

 時価額の調査にあたり専門業者の査定を入れる場合が見受けられますが、査定額をそのまま採用している裁判例はほとんど見当たりません。調査手法や比較対象とした車両等によって、その信用性が厳格に判断されているためだと思われます。このような査定を経た場合に、査定料が発生しますが、査定額が信用できないとして採用されない場合には、査定料も否定されることになります(C-3)。

 

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フリーランス保護法違反に対する勧告事例

(令和8年3月20日14時55分更新:テレビ北海道の事例を追加しました。)

(令和8年3月31日17時57分更新:京都放送の事例を追加しました。)

(令和8年5月26日14時12分更新:シアーの事例を追加しました。)

(令和8年6月5日11時18分更新:Timewitchの事例を追加しました。)

 

はじめに

 いわゆるフリーランス法が令和6年11月1日に施行されて以降、公正取引委員会が同法に基づく勧告を行った事例は、本記事作成(令和8年3月3日)時点で8件あります。そこで、公正取引委員会が公表している勧告事例を、自分の整理のため条文別でまとめました(条文別に整理する修正を行った程度ですので、書いてあることは公正取引委員会で公表されているのとほとんど変わりません。)。

 今後、勧告が行われた事例が公表され(たことに気付き)次第、更新したいと思います。

 

 

法3条1項(取引条件の明示義務)違反

(特定受託事業者の給付の内容その他の事項の明示等)
第三条 業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を、書面又は電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって公正取引委員会規則で定めるものをいう。以下この条において同じ。)により特定受託事業者に対し明示しなければならない。ただし、これらの事項のうちその内容が定められないことにつき正当な理由があるものについては、その明示を要しないものとし、この場合には、業務委託事業者は、当該事項の内容が定められた後直ちに、当該事項を書面又は電磁的方法により特定受託事業者に対し明示しなければならない。
 (略)

(令和7年6月17日)株式会社光文社に対する勧告

 違反事実の概要

 光文社は、個人であって、従業員を使用しないもの又は法人であって、一の代表者以外に他の役員がなく、かつ、従業員を使用しないもの(以下「特定受託事業者」という。)に対し、自らが出版する月刊誌、週刊誌、文庫本等に関する原稿、写真データ、イラスト等の作成、ヘアメイクの実施、撮影道具等の手配等を委託している(以下、これらの委託を「本件業務委託」と総称する。)。
 光文社は、令和6年11月1日から令和7年2月27日までの間、特定受託事業者31名に対し本件業務委託をした際に、直ちに、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項(フリーランス・事業者間取引適正化等法第3条第1項に規定するものをいう。以下「明示事項」という。)を、書面又は電磁的方法により当該事業者に対し明示しなかった。

 

 勧告の概要

⑴ 光文社は、フリーランス・事業者間取引適正化等法を遵守する体制を確立するため、次の措置を講ずること。

 ア 次の事項を取締役会の決議により確認すること

  (ア) 前記…行為が、フリーランス・事業者間取引適正化等法第3条第1項の規定に違反するものであること

  (イ) 今後、特定受託事業者に対し業務委託をした場合に、直ちに、明示事項を、書面又は電磁的方法により当該特定受託事業者に対し明示すること

  (ウ)、(エ) (略)

 イ 令和6年11月1日から令和7年6月17日までの間に、特定受託事業者31名に対し業務委託をした内容と同種又は類似の内容の業務委託をした特定受託事業者に係る取引について、フリーランス・事業者間取引適正化等法第3条第1項…の観点から問題が生じていなかったのかを調査し、問題が認められた場合には、特定受託事業者に係る取引の適正化のために必要な措置を講ずること

 ウ 以下について、自社の役員及び従業員に対するフリーランス・事業者間取引適正化等法の研修を行うなど社内体制の整備のために必要な措置を講ずること

  (ア) 今後、特定受託事業者に対し業務委託をした場合に、直ちに、明示事項を、書面又は電磁的方法により当該特定受託事業者に対し明示すること

  (イ) (略)

⑵ 光文社は、前記⑴に基づいて採った措置を自社の役員及び従業員に周知徹底すること。

⑶ 光文社は、前記⑴及び⑵に基づいて採った措置を取引先特定受託事業者に通知すること。

⑷ 光文社は、前記⑴から⑶までに基づいて採った措置を速やかに公正取引委員会に報告すること。

 

(令和7年6月17日)株式会社小学館に対する勧告

 違反事実の概要

 小学館は、個人であって、従業員を使用しないもの又は法人であって、一の代表者以外に他の役員がなく、かつ、従業員を使用しないもの(以下「特定受託事業者」という。)に対し、自らが出版する月刊誌及び週刊誌に関する原稿、写真データ、イラスト等の作成、ヘアメイクの実施等を委託している(以下、これらの委託を「本件業務委託」と総称する。)。

 小学館は、令和6年12月1日から同月31日までの間、特定受託事業者191名に対し本件業務委託をした際に、直ちに、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項(フリーランス・事業者間取引適正化等法第3条第1項に規定するものをいう。以下「明示事項」という。)を、書面又は電磁的方法により当該事業者に対し明示しなかった。

 

 勧告の概要

⑴ 小学館は、フリーランス・事業者間取引適正化等法を遵守する体制を確立するため、次の措置を講ずること。

 ア 次の事項を取締役会の決議により確認すること

  (ア) 前記…行為が、フリーランス・事業者間取引適正化等法第3条第1項の規定に違反するものであること

  (イ) 今後、特定受託事業者に対し業務委託をした場合に、直ちに、明示事項を、書面又は電磁的方法により当該特定受託事業者に対し明示すること

  (ウ)、(エ) (略)

 イ 令和6年11月1日から令和7年6月17日までの間に、特定受託事業者191名に対し業務委託をした内容と同種又は類似の内容の業務委託をした特定受託事業者に係る取引について、フリーランス・事業者間取引適正化等法第3条第1項…の観点から問題が生じていなかったのかを調査し、問題が認められた場合には、特定受託事業者に係る取引の適正化のために必要な措置を講ずること

 ウ 以下について、自社の役員及び従業員に対するフリーランス・事業者間取引適正化等法の研修を行うなど社内体制の整備のために必要な措置を講ずること

 (ア) 今後、特定受託事業者に対し業務委託をした場合に、直ちに、明示事項を、書面又は電磁的方法により当該特定受託事業者に対し明示すること

 (イ) (略)

⑵ 小学館は、前記⑴に基づいて採った措置を自社の役員及び従業員に周知徹底すること。

⑶ 小学館は、前記⑴及び⑵に基づいて採った措置を取引先特定受託事業者に通知すること。

⑷ 小学館は、前記⑴から⑶までに基づいて採った措置を速やかに公正取引委員会に報告すること。

 

(令和7年6月25日)島村楽器株式会社に対する勧告

 違反事実の概要

 島村楽器は、個人であって、従業員を使用しないもの又は法人であって、一の代表者以外に他の役員がなく、かつ、従業員を使用しないもの(以下「特定受託事業者」という。)に対し、自らが運営する音楽教室のうちミュージックスクールにおいて行う消費者向けのレッスン、体験レッスン(音楽教室のうちミュージックスクールへの入会前に消費者が無料でレッスン内容を体験することをいう。以下同じ。)、スクール短期レッスン等の実施、当該音楽教室が主催する発表会や音楽イベントでの演奏や運営等の実施等を委託している(以下、これらの委託を「本件業務委託」と総称する。)。

 島村楽器は、令和6年11月1日から令和7年2月6日までの間、特定受託事業者97名に対し、本件業務委託をした際に、直ちに、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項(フリーランス・事業者間取引適正化等法第3条第1項に規定するものをいう。以下「明示事項」という。)を、書面又は電磁的方法により当該事業者に対し明示しなかった。

 

 勧告の概要

⑴ (略)

⑵ 島村楽器は、フリーランス・事業者間取引適正化等法を遵守する体制を確立するため、次の措置を講ずること。

 ア 次の事項を取締役会の決議により確認すること

  (ア) 前記…行為が、フリーランス・事業者間取引適正化等法第3条第1項の規定に違反するものであること

  (イ) 今後、特定受託事業者に対し業務委託をした場合に、直ちに、明示事項を、書面又は電磁的方法により当該特定受託事業者に対し明示すること

  (ウ)~(カ) (略)

 イ 令和6年11月1日から令和7年6月25日までの間に、前記2⑵から⑷までの特定受託事業者に対し業務委託をした内容と同種又は類似の内容の業務委託をした特定受託事業者に係る取引について、フリーランス・事業者間取引適正化等法第3条第1項…の観点から問題が生じていなかったのかを調査し、問題が認められた場合には、特定受託事業者に係る取引の適正化のために必要な措置を講ずること

 ウ 以下について、自社の役員及び従業員に対するフリーランス・事業者間取引適正化等法の研修を行うなど社内体制の整備のために必要な措置を講ずること

  (ア) 今後、特定受託事業者に対し業務委託をした場合に、直ちに、明示事項を、書面又は電磁的方法により当該特定受託事業者に対し明示すること

  (イ)、(ウ) (略)

⑶ 島村楽器は、前記⑴及び⑵に基づいて採った措置を自社の役員及び従業員に周知徹底すること。

⑷ 島村楽器は、前記⑴から⑶までに基づいて採った措置を取引先特定受託事業者に通知すること。

⑸ 島村楽器は、前記⑴から⑷までに基づいて採った措置を速やかに公正取引委員会に報告すること。

 

(令和7年9月26日)株式会社九州東通に対する勧告

 違反事実の概要

 九州東通は、個人であって、従業員を使用しないもの又は法人であって、一の代表者以外に他の役員がなく、かつ、従業員を使用しないもの(以下「特定受託事業者」という。)に対し、テレビジョン放送事業者等から請け負う放送番組等の制作に係る動画撮影、音声収録、出演等を委託している(以下、これらの委託を「本件業務委託」と総称する。)。

 九州東通は、令和6年11月1日から令和7年3月31日までの間、特定受託事業者44名に対し本件業務委託をした際に、直ちに、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項(フリーランス・事業者間取引適正化等法第3条第1項に規定するものをいう。以下「明示事項」という。)を、書面又は電磁的方法により当該事業者に対し明示しなかった。

 

 勧告の概要

⑴ 九州東通は、フリーランス・事業者間取引適正化等法を遵守する体制を確立するため、次の措置を講ずること。

 ア 次の事項を取締役会の決議により確認すること

  (ア) 前記…行為が、フリーランス・事業者間取引適正化等法第3条第1項の規定に違反するものであること

  (イ) 今後、特定受託事業者に対し業務委託をした場合に、直ちに、明示事項を、書面又は電磁的方法により当該特定受託事業者に対し明示すること

  (ウ)、(エ) (略)

 イ 令和7年4月1日から令和7年9月26日までの間に、特定受託事業者44名に対し業務委託をした内容と同種又は類似の内容の業務委託をした特定受託事業者に係る取引について、フリーランス・事業者間取引適正化等法第3条第1項…の観点から問題が生じていなかったのかを調査し、問題が認められた場合には、特定受託事業者に係る取引の適正化のために必要な措置を講ずること

 ウ 以下について、自社の役員及び従業員に対するフリーランス・事業者間取引適正化等法の研修を行うなど社内体制の整備のために必要な措置を講ずること

 (ア) 今後、特定受託事業者に対し業務委託をした場合に、直ちに、明示事項を、書面又は電磁的方法により当該特定受託事業者に対し明示すること

 (イ) (略)

⑵ 九州東通は、前記⑴に基づいて採った措置を自社の役員及び従業員に周知徹底すること。

⑶ 九州東通は、前記⑴及び⑵に基づいて採った措置を取引先特定受託事業者に通知すること。

⑷ 九州東通は、前記⑴から⑶までに基づいて採った措置を速やかに公正取引委員会に報告すること。

 

(令和7年12月5日)株式会社ZWEIに対する勧告

 違反事実の概要

 ZWEIは、個人であって従業員を使用しない事業者(以下「特定受託事業者」という。)に対し、会員同士のお見合いの日程調整、会員からの結婚相談に係るカウンセリング、「婚活パーティー」と称するイベントの司会及びマーケティングに係るコンテンツ等の制作等の業務を委託している(以下、これらの委託を「本件業務委託」と総称する。)。

 ZWEIは、令和6年11月1日から令和7年4月30日までの間、特定受託事業者134名に対し本件業務委託をした際に、直ちに、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項(フリーランス・事業者間取引適正化等法第3条第1項に規定するものをいう。以下「明示事項」という。)を、書面又は電磁的方法により当該事業者に対し明示しなかった。

 

 勧告の概要

⑴ ZWEIは、フリーランス・事業者間取引適正化等法を遵守する体制を確立するため、次の措置を講ずること。

 ア 次の事項を取締役会の決議により確認すること

  (ア) 前記…の行為が、フリーランス・事業者間取引適正化等法第3条第1項の規定に違反するものであること

  (イ) 今後、特定受託事業者に対し業務委託をした場合に、直ちに、明示事項を、書面又は電磁的方法により当該特定受託事業者に対し明示すること

 イ 今後、特定受託事業者に対し業務委託をした場合に、直ちに、明示事項を、書面又は電磁的方法により当該特定受託事業者に対し明示することについて、自社の役員及び従業員に対するフリーランス・事業者間取引適正化等法の研修を行うなど社内体制の整備のために必要な措置を講ずること

⑵ ZWEIは、前記⑴に基づいて採った措置を自社の役員及び従業員に周知徹底すること。

⑶ ZWEIは、前記⑴及び⑵に基づいて採った措置を取引先特定受託事業者に通知すること。

⑷ ZWEIは、前記⑴から⑶までに基づいて採った措置を速やかに公正取引委員会に報告すること。

 

(令和7年12月5日)グロービジョン株式会社に対する勧告

 違反事実の概要

 グロービジョンは、個人であって従業員を使用しない事業者(以下「特定受託事業者」という。)に対し、テレビジョン放送事業者等から請け負う映画、アニメ番組等の制作に係る演出、翻訳、編集、音声出演等を委託している(以下、これらの委託を「本件業務委託」と総称する。)。

 グロービジョンは、令和6年11月1日から令和7年1月31日までの間、特定受託事業者55名に対し本件業務委託をした際に、直ちに、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項(フリーランス・事業者間取引適正化等法第3条第1項に規定するものをいう。以下「明示事項」という。)を、書面又は電磁的方法により当該事業者に対し明示しなかった。

 

 勧告の概要

⑴ グロービジョンは、フリーランス・事業者間取引適正化等法を遵守する体制を確立するため、次の措置を講ずること。

 ア 次の事項を取締役会の決議により確認すること

  (ア) 前記…行為が、フリーランス・事業者間取引適正化等法第3条第1項の規定に違反するものであること

  (イ) 今後、特定受託事業者に対し業務委託をした場合に、直ちに、明示事項を、書面又は電磁的方法により当該特定受託事業者に対し明示すること

  (ウ)、(エ) (略)

 イ 令和7年2月1日から令和7年12月5日までの間に、特定受託事業者55名に対し業務委託をした内容と同種又は類似の内容の業務委託をした特定受託事業者に係る取引について、フリーランス・事業者間取引適正化等法第3条第1項…の観点から問題が生じていなかったのかを調査し、問題が認められた場合には、特定受託事業者に係る取引の適正化のために必要な措置を講ずること

 ウ 以下について、自社の役員及び従業員に対するフリーランス・事業者間取引適正化等法の研修を行うなど社内体制の整備のために必要な措置を講ずること

  (ア) 今後、特定受託事業者に対し業務委託をした場合に、直ちに、明示事項を、書面又は電磁的方法により当該特定受託事業者に対し明示すること

  (イ) (略)

 ⑵ グロービジョンは、前記⑴に基づいて採った措置を自社の役員及び従業員に周知徹底すること。

 ⑶ グロービジョンは、前記⑴及び⑵に基づいて採った措置を取引先特定受託事業者に通知すること。

 ⑷ グロービジョンは、前記⑴から⑶までに基づいて採った措置を速やかに公正取引委員会に報告すること。

 

(令和8年2月25日)株式会社共同通信社に対する勧告

 違反事実の概要

 共同通信社は、個人であって従業員を使用しない事業者(以下「特定受託事業者」という。)に対し、自社が企画運営する囲碁や将棋のイベントの立会い、撮影、観戦記の点検・校正、自社が出版する年鑑等の原稿の執筆、自社が運営するWebメディアの記事の執筆、イラスト作成、配信する海外リリースの翻訳、自社が開催するイベント等での講演や撮影などの業務を委託している(以下、これらの委託を「本件業務委託」と総称する。)。

 共同通信社は、令和6年11月1日から令和7年2月13日までの間、特定受託事業者45名に対し本件業務委託をした際に、直ちに、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項(フリーランス・事業者間取引適正化等法第3条第1項に規定するものをいう。以下「明示事項」という。)を、書面又は電磁的方法により当該事業者に対し明示しなかった。

 

 勧告の概要

⑴ 共同通信社は、フリーランス・事業者間取引適正化等法を遵守する体制を確立するため、次の措置を講ずること。

 ア 次の事項を取締役会の決議により確認すること

  (ア) 前記…行為が、フリーランス・事業者間取引適正化等法第3条第1項の規定に違反するものであること

  (イ) 今後、特定受託事業者に対し業務委託をした場合に、直ちに、明示事項を、書面又は電磁的方法により当該特定受託事業者に対し明示すること

  (ウ)、(エ) (略)

 イ 令和6年11月1日から令和8年2月25日までの間に、特定受託事業者45名に対し業務委託をした内容と同種又は類似の内容の業務委託をした特定受託事業者に係る取引について、フリーランス・事業者間取引適正化等法第3条第1項…の観点から問題が生じていなかったのかを調査し、問題が認められた場合には、特定受託事業者に係る取引の適正化のために必要な措置を講ずること

 ウ 以下について、自社の役員及び従業員に対するフリーランス・事業者間取引適正化等法の研修を行うなど社内体制の整備のために必要な措置を講ずること

  (ア) 今後、特定受託事業者に対し業務委託をした場合に、直ちに、明示事項を、書面又は電磁的方法により当該特定受託事業者に対し明示すること

  (イ) (略)

⑵ 共同通信社は、前記⑴に基づいて採った措置を自社の役員及び従業員に周知徹底すること。

⑶ 共同通信社は、前記⑴及び⑵に基づいて採った措置を取引先特定受託事業者に通知すること。

⑷ 共同通信社は、前記⑴から⑶までに基づいて採った措置を速やかに公正取引委員会に報告すること。

 

(令和8年2月27日)中部電力株式会社に対する勧告

 違反事実の概要

 中部電力は、個人であって従業員を使用しない事業者又は法人であって、一の代表者以外に他の役員がなく、かつ、従業員を使用しない事業者(以下「特定受託事業者」という。)に対し、総務・広報、人事・労務、経理・法務、研究・開発、設備の管理・評価等に関する支援業務を委託している(以下、これらの委託を「本件業務委託」と総称する。)。

 中部電力は、令和6年11月1日から令和7年9月17日までの間、特定受託事業者39名に対し本件業務委託をした際に、直ちに、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項(フリーランス・事業者間取引適正化等法第3条第1項に規定するものをいう。以下「明示事項」という。)を、書面又は電磁的方法により当該事業者に対し明示しなかった。

 

 勧告の概要

⑴ 中部電力は、フリーランス・事業者間取引適正化等法を遵守する体制を確立するため、次の措置を講ずること。

 ア 次の事項を取締役会の決議により確認すること

  (ア) 前記…行為が、フリーランス・事業者間取引適正化等法第3条第1項の規定に違反するものであること

  (イ) 今後、特定受託事業者に対し業務委託をした場合に、直ちに、明示事項を、書面又は電磁的方法により当該特定受託事業者に対し明示すること

  (ウ)、(エ) (略)

 イ 令和6年11月1日から令和8年2月27日までの間に、特定受託事業者39名に対し業務委託をした内容と同種又は類似の内容の業務委託をした特定受託事業者に係る取引について、フリーランス・事業者間取引適正化等法第3条第1項…の観点から問題が生じていなかったのかを調査し、問題が認められた場合には、特定受託事業者に係る取引の適正化のために必要な措置を講ずること

 ウ 以下について、自社の役員及び従業員に対するフリーランス・事業者間取引適正化等法の研修を行うなど社内体制の整備のために必要な措置を講ずること

  (ア) 今後、特定受託事業者に対し業務委託をした場合に、直ちに、明示事項を、書面又は電磁的方法により当該特定受託事業者に対し明示すること

  (イ) (略)

⑵ 中部電力は、前記⑴に基づいて採った措置を自社の役員及び従業員に周知徹底すること。

⑶ 中部電力は、前記⑴及び⑵に基づいて採った措置を取引先特定受託事業者に通知すること。

⑷ 中部電力は、前記⑴から⑶までに基づいて採った措置を速やかに公正取引委員会に報告すること。

 

(令和8年3月16日)株式会社テレビ北海道に対する勧告

 違反事実の概要

 テレビ北海道は、個人であって従業員を使用しない事業者又は法人であって、一の代表者以外に他の役員がなく、かつ、従業員を使用しない事業者(以下「特定受託事業者」という。)に対し、放送番組の制作に係る動画、音声データ等の作成、ディレクター業務等を委託している(以下、これらの委託を「本件業務委託」と総称する。)。

 テレビ北海道は、令和6年11月1日から令和7年7月15日までの間、特定受託事業者33名に対し本件業務委託をした際に、直ちに、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項(フリーランス・事業者間取引適正化等法第3条第1項に規定するものをいう。以下「明示事項」という。)を、書面又は電磁的方法により当該事業者に対し明示しなかった。

 

 勧告の概要

⑴ テレビ北海道は、フリーランス・事業者間取引適正化等法を遵守する体制を確立するため、次の措置を講ずること。

 ア 次の事項を取締役会の決議により確認すること

  (ア) 前記…行為が、フリーランス・事業者間取引適正化等法第3条第1項の規定に違反するものであること

  (イ) 今後、特定受託事業者に対し業務委託をした場合に、直ちに、明示事項を、書面又は電磁的方法により当該特定受託事業者に対し明示すること

  (ウ)、(エ) (略)

 イ 令和7年7月16日から令和8年3月16日までの間に、前記…特定受託事業者に対し業務委託をした内容と同種又は類似の内容の業務委託をした特定受託事業者に係る取引について、フリーランス・事業者間取引適正化等法第3条第1項…の観点から問題が生じていなかったかを調査し、問題が認められた場合には、特定受託事業者に係る取引の適正化のために必要な措置を講ずること

 ウ 以下について、自社の役員及び従業員に対するフリーランス・事業者間取引適正化等法の研修を行うなど社内体制の整備のために必要な措置を講ずること

  (ア) 今後、特定受託事業者に対し業務委託をした場合に、直ちに、明示事項を、書面又は電磁的方法により当該特定受託事業者に対し明示すること

  (イ) (略)

⑵ テレビ北海道は、前記⑴に基づいて採った措置を自社の役員及び従業員に周知徹底すること。

⑶ テレビ北海道は、前記⑴及び⑵に基づいて採った措置を取引先特定受託事業者に通知すること。

⑷ テレビ北海道は、前記⑴から⑶までに基づいて採った措置を速やかに公正取引委員会に報告すること。

 

(令和8年3月31日)株式会社京都放送に対する勧告

 違反事実の概要

 京都放送は、個人であって、従業員を使用しない事業者又は法人であって、一の代表者以外に他の役員がなく、かつ、従業員を使用しない事業者(以下「特定受託事業者」という。)に対し、放送番組等の制作に係る構成台本の作成、出演、ヘアメイク、スタイリング等を委託していた(以下、これらの委託を「本件業務委託」と総称する。)。

 京都放送は、令和6年11月1日から令和7年9月9日までの間、特定受託事業者132名に対し本件業務委託をした際に、直ちに、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項(フリーランス・事業者間取引適正化等法第3条第1項に規定するものをいう。以下「明示事項」という。)を、書面又は電磁的方法により当該事業者に対し明示しなかった。

 

 勧告の概要

⑴ (略)

⑵ 京都放送は、フリーランス・事業者間取引適正化等法を遵守する体制を確立するため、次の措置を講ずること。

 ア 次の事項を取締役会の決議により確認すること

 (ア) 前記…行為が、フリーランス・事業者間取引適正化等法第3条第1項の規定に違反するものであること

 (イ) 今後、特定受託事業者に対し業務委託をした場合に、直ちに、明示事項を、書面又は電磁的方法により当該特定受託事業者に対し明示すること

 (ウ)~(カ) (略)

イ 令和7年9月10日から令和8年3月31日までの間に、前記…特定受託事業者に対し業務委託をした内容と同種又は類似の内容の業務委託をした特定受託事業者に係る取引について、フリーランス・事業者間取引適正化等法第3条第1項…の観点から問題が生じていなかったのかを調査し、問題が認められた場合には、特定受託事業者に係る取引の適正化のために必要な措置を講ずること

ウ 以下について、自社の役員及び従業員に対するフリーランス・事業者間取引適正化等法の研修を行うなど社内体制の整備のために必要な措置を講ずること

 (ア) 今後、特定受託事業者に対し業務委託をした場合に、直ちに、明示事項を、書面又は電磁的方法により当該特定受託事業者に対し明示すること

 (イ)、(ウ) (略)

⑶ 京都放送は、前記⑴及び⑵に基づいて採った措置を自社の役員及び従業員に周知徹底すること。

⑷ 京都放送は、前記⑴から⑶までに基づいて採った措置を取引先特定受託事業者に通知すること。

⑸ 京都放送は、前記⑴から⑷までに基づいて採った措置を速やかに公正取引委員会に報告すること。

 

(令和8年5月29日)株式会社Timewitchに対する勧告

 違反事実の概要

 Timewitchは、個人であって、従業員を使用していない事業者(以下「特定受託事業者」という。)に対し、顧客から請け負った企画書等の資料作成、自社の総務、経理等の事務に係る業務等を委託していた(以下、これらの委託を「本件業務委託」と総称する。)。 

 Timewitchは、令和6年11月1日から令和7年9月30日までの間、特定受託事業者236名に対し本件業務委託をした際に、直ちに、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項(フリーランス・事業者間取引適正化等法第3条第1項に規定するものをいう。以下「明示事項」という。)を、書面又は電磁的方法により当該事業者に対し明示しなかった。 

 

 勧告の概要

1 (略)

2 Timewitchは、フリーランス・事業者間取引適正化等法を遵守する体制を確立するため、次の措置を講ずること。

 ⑴ 次の事項を取締役による決定により確認すること

  ア 前記…行為が、フリーランス・事業者間取引適正化等法第3条第1項の規定に違反するものであること

  イ 今後、特定受託事業者に対し業務委託をした場合に、直ちに、明示事項を、書面又は電磁的方法により当該特定受託事業者に対し明示すること

  ウ~オ (略)

 ⑵ 令和7年10月1日から令和8年5月29日までの間に、特定受託事業者に対し業務委託をした内容と同種又は類似の内容の業務委託をした特定受託事業者に係る取引について、フリーランス・事業者間取引適正化等法第3条第1項…の観点から問題が生じていなかったのかを調査し、問題が認められた場合には、特定受託事業者に係る取引の適正化のために必要な措置を講ずること

 ⑶ 今後、以下について、自社の役員及び従業員に対するフリーランス・事業者間取引適正化等法の研修を行うなど社内体制の整備のために必要な措置を講ずること

  ア 特定受託事業者に対し業務委託をした場合に、直ちに、明示事項を、書面又は電磁的方法により当該特定受託事業者に対し明示すること

  イ (略)

3 Timewitchは、次の事項を自社の役員及び従業員に周知徹底すること。

 ⑴ この勧告を受けたこと及びこの勧告書…の内容

 ⑵ 前記1及び2に基づいて採った措置

4 Timewitchは、次の事項を取引先特定受託事業者に通知すること。

 ⑴ この勧告を受けたこと及びこの勧告書…の内容

 ⑵ 前記1から3までに基づいて採った措置

5 Timewitchは、前記1から4までに基づいて採った措置を速やかに公正取引委員会に報告すること。

 

法4条5項(期日における報酬支払義務)違反

(報酬の支払期日等)
第四条 (略)
2~4 (略)
 特定業務委託事業者は、第一項若しくは第三項の規定により定められた支払期日又は第二項若しくは前項の支払期日までに報酬を支払わなければならない。ただし、特定受託事業者の責めに帰すべき事由により支払うことができなかったときは、当該事由が消滅した日から起算して六十日(第三項の場合にあっては、三十日)以内に報酬を支払わなければならない。
 (略)

(令和7年6月17日)株式会社光文社に対する勧告

 違反事実の概要

 光文社は、個人であって、従業員を使用しないもの又は法人であって、一の代表者以外に他の役員がなく、かつ、従業員を使用しないもの(以下「特定受託事業者」という。)に対し、自らが出版する月刊誌、週刊誌、文庫本等に関する原稿、写真データ、イラスト等の作成、ヘアメイクの実施、撮影道具等の手配等を委託している(以下、これらの委託を「本件業務委託」と総称する。)。
 光文社は、令和6年11月1日から令和7年2月27日までの間、特定受託事業者31名に対し本件業務委託をした際に、直ちに、報酬の支払期日を当該事業者に明示しておらず、当該事業者に対し、当該事業者の給付を受領した日又は当該事業者から役務の提供を受けた日までに報酬を支払わなかった。

 

 勧告の概要

⑴ 光文社は、フリーランス・事業者間取引適正化等法を遵守する体制を確立するため、次の措置を講ずること。

 ア 次の事項を取締役会の決議により確認すること

  (ア)、(イ) (略)

  (ウ) 前記…行為が、フリーランス・事業者間取引適正化等法第4条第5項の規定に違反するものであること

  (エ) 今後、特定受託事業者に対し業務委託をした場合に、当該特定受託事業者に対し、フリーランス・事業者間取引適正化等法第4条第1項の規定により定められた支払期日までに報酬を支払うこと

 イ 令和6年11月1日から令和7年6月17日までの間に、特定受託事業者31名に対し業務委託をした内容と同種又は類似の内容の業務委託をした特定受託事業者に係る取引について、フリーランス・事業者間取引適正化等法…第4条第5項の観点から問題が生じていなかったのかを調査し、問題が認められた場合には、特定受託事業者に係る取引の適正化のために必要な措置を講ずること

 ウ 以下について、自社の役員及び従業員に対するフリーランス・事業者間取引適正化等法の研修を行うなど社内体制の整備のために必要な措置を講ずること

  (ア) (略)

  (イ) 今後、特定受託事業者に対し業務委託をした場合に、当該特定受託事業者に対し、フリーランス・事業者間取引適正化等法第4条第1項の規定により定められた支払期日までに報酬を支払うこと

⑵ 光文社は、前記⑴に基づいて採った措置を自社の役員及び従業員に周知徹底すること。

⑶ 光文社は、前記⑴及び⑵に基づいて採った措置を取引先特定受託事業者に通知すること。

⑷ 光文社は、前記⑴から⑶までに基づいて採った措置を速やかに公正取引委員会に報告すること。

 

(令和7年6月17日)株式会社小学館に対する勧告

 違反事実の概要

 小学館は、個人であって、従業員を使用しないもの又は法人であって、一の代表者以外に他の役員がなく、かつ、従業員を使用しないもの(以下「特定受託事業者」という。)に対し、自らが出版する月刊誌及び週刊誌に関する原稿、写真データ、イラスト等の作成、ヘアメイクの実施等を委託している(以下、これらの委託を「本件業務委託」と総称する。)。

 小学館は、令和6年12月1日から同月31日までの間、特定受託事業者191名に対し本件業務委託をした際に、直ちに、報酬の支払期日を当該事業者に明示しておらず、当該事業者に対し、当該事業者の給付を受領した日又は当該事業者から役務の提供を受けた日までに報酬を支払わなかった。

 

 勧告の概要

⑴ 小学館は、フリーランス・事業者間取引適正化等法を遵守する体制を確立するため、次の措置を講ずること。

 ア 次の事項を取締役会の決議により確認すること

  (ア)、(イ) (略)

  (ウ) 前記…行為が、フリーランス・事業者間取引適正化等法第4条第5項の規定に違反するものであること

  (エ) 今後、特定受託事業者に対し業務委託をした場合に、当該特定受託事業者に対し、フリーランス・事業者間取引適正化等法第4条第1項の規定により定められた支払期日までに報酬を支払うこと

 イ 令和6年11月1日から令和7年6月17日までの間に、特定受託事業者191名に対し業務委託をした内容と同種又は類似の内容の業務委託をした特定受託事業者に係る取引について、フリーランス・事業者間取引適正化等法…第4条第5項の観点から問題が生じていなかったのかを調査し、問題が認められた場合には、特定受託事業者に係る取引の適正化のために必要な措置を講ずること

 ウ 以下について、自社の役員及び従業員に対するフリーランス・事業者間取引適正化等法の研修を行うなど社内体制の整備のために必要な措置を講ずること

  (ア) (略)

  (イ) 今後、特定受託事業者に対し業務委託をした場合に、当該特定受託事業者に対し、フリーランス・事業者間取引適正化等法第4条第1項の規定により定められた支払期日までに報酬を支払うこと

⑵ 小学館は、前記⑴に基づいて採った措置を自社の役員及び従業員に周知徹底すること。

⑶ 小学館は、前記⑴及び⑵に基づいて採った措置を取引先特定受託事業者に通知すること。

⑷ 小学館は、前記⑴から⑶までに基づいて採った措置を速やかに公正取引委員会に報告すること。

 

(令和7年6月25日)島村楽器株式会社に対する勧告

 違反事実の概要

 島村楽器は、個人であって、従業員を使用しないもの又は法人であって、一の代表者以外に他の役員がなく、かつ、従業員を使用しないもの(以下「特定受託事業者」という。)に対し、自らが運営する音楽教室のうちミュージックスクールにおいて行う消費者向けのレッスン、体験レッスン(音楽教室のうちミュージックスクールへの入会前に消費者が無料でレッスン内容を体験することをいう。以下同じ。)、スクール短期レッスン等の実施、当該音楽教室が主催する発表会や音楽イベントでの演奏や運営等の実施等を委託している(以下、これらの委託を「本件業務委託」と総称する。)。

ア 島村楽器は、令和6年11月12日に行った本件業務委託について、特定受託事業者1名の本件業務委託に係る報酬の支払期日を「毎月末日締切、翌々月10日支払」として、当該事業者から役務の提供を受けた日から起算して60日を超える期日に定め、当該事業者に明示しており、当該事業者に対し、当該期日に報酬を支払った。

イ 島村楽器は、令和6年11月1日から令和7年2月6日までの間、特定受託事業者85名に対し本件業務委託をした際に、直ちに、報酬の支払期日を当該事業者に明示しておらず、当該事業者に対し、当該事業者の給付を受領した日又は当該事業者から役務の提供を受けた日までに報酬を支払わなかった。

 

 勧告の概要

⑴ (略)

⑵ 島村楽器は、フリーランス・事業者間取引適正化等法を遵守する体制を確立するため、次の措置を講ずること。

 ア 次の事項を取締役会の決議により確認すること

  (ア)、(イ) (略)

  (ウ) 前記…行為が、フリーランス・事業者間取引適正化等法第4条第5項の規定に違反するものであること

  (エ) 今後、特定受託事業者に対し業務委託をした場合に、当該特定受託事業者に対し、フリーランス・事業者間取引適正化等法第4条第1項の規定により定められた支払期日までに報酬を支払うこと

  (オ)、(カ) (略)

 イ 令和6年11月1日から令和7年6月25日までの間に、前記2⑵から⑷までの特定受託事業者に対し業務委託をした内容と同種又は類似の内容の業務委託をした特定受託事業者に係る取引について、フリーランス・事業者間取引適正化等法…第4条第5項…の観点から問題が生じていなかったのかを調査し、問題が認められた場合には、特定受託事業者に係る取引の適正化のために必要な措置を講ずること

 ウ 以下について、自社の役員及び従業員に対するフリーランス・事業者間取引適正化等法の研修を行うなど社内体制の整備のために必要な措置を講ずること

  (ア) (略)

  (イ) 今後、特定受託事業者に対し業務委託をした場合に、当該特定受託事業者に対し、フリーランス・事業者間取引適正化等法第4条第1項の規定により定められた支払期日までに報酬を支払うこと

  (ウ) (略)

⑶ 島村楽器は、前記⑴及び⑵に基づいて採った措置を自社の役員及び従業員に周知徹底すること。

⑷ 島村楽器は、前記⑴から⑶までに基づいて採った措置を取引先特定受託事業者に通知すること。

⑸ 島村楽器は、前記⑴から⑷までに基づいて採った措置を速やかに公正取引委員会に報告すること。

 

(令和7年9月26日)株式会社九州東通に対する勧告

 違反事実の概要

 九州東通は、個人であって、従業員を使用しないもの又は法人であって、一の代表者以外に他の役員がなく、かつ、従業員を使用しないもの(以下「特定受託事業者」という。)に対し、テレビジョン放送事業者等から請け負う放送番組等の制作に係る動画撮影、音声収録、出演等を委託している(以下、これらの委託を「本件業務委託」と総称する。)。

 九州東通は、令和6年11月1日から令和7年3月31日までの間、特定受託事業者44名に対し本件業務委託をした際に、報酬の支払期日を定めておらず、当該事業者に対し、当該事業者から役務の提供を受けた日までに報酬を支払わなかった。

 

 勧告の概要

⑴ 九州東通は、フリーランス・事業者間取引適正化等法を遵守する体制を確立するため、次の措置を講ずること。

 ア 次の事項を取締役会の決議により確認すること

  (ア)、(イ) (略)

  (ウ) 前記…行為が、フリーランス・事業者間取引適正化等法第4条第5項の規定に違反するものであること

  (エ) 今後、特定受託事業者に対し業務委託をした場合に、当該特定受託事業者に対し、フリーランス・事業者間取引適正化等法第4条第1項の規定により定められた支払期日までに報酬を支払うこと

 イ 令和7年4月1日から令和7年9月26日までの間に、特定受託事業者44名に対し業務委託をした内容と同種又は類似の内容の業務委託をした特定受託事業者に係る取引について、フリーランス・事業者間取引適正化等法…第4条第5項の観点から問題が生じていなかったのかを調査し、問題が認められた場合には、特定受託事業者に係る取引の適正化のために必要な措置を講ずること

 ウ 以下について、自社の役員及び従業員に対するフリーランス・事業者間取引適正化等法の研修を行うなど社内体制の整備のために必要な措置を講ずること

  (ア) (略)

  (イ) 今後、特定受託事業者に対し業務委託をした場合に、当該特定受託事業者に対し、フリーランス・事業者間取引適正化等法第4条第1項の規定により定められた支払期日までに報酬を支払うこと

⑵ 九州東通は、前記⑴に基づいて採った措置を自社の役員及び従業員に周知徹底すること。

⑶ 九州東通は、前記⑴及び⑵に基づいて採った措置を取引先特定受託事業者に通知すること。

⑷ 九州東通は、前記⑴から⑶までに基づいて採った措置を速やかに公正取引委員会に報告すること。

 

(令和7年12月5日)グロービジョン株式会社に対する勧告

 違反事実の概要

 グロービジョンは、個人であって従業員を使用しない事業者(以下「特定受託事業者」という。)に対し、テレビジョン放送事業者等から請け負う映画、アニメ番組等の制作に係る演出、翻訳、編集、音声出演等を委託している(以下、これらの委託を「本件業務委託」と総称する。)。

ア グロービジョンは、令和6年11月1日から令和7年1月31日までの間、特定受託事業者1名に対し本件業務委託をした際に、請求書の提出が遅れたことを理由として、当該事業者の役務の提供を受けたにもかかわらず、あらかじめ定められた支払期日までに報酬を支払わなかった。

イ グロービジョンは、令和6年11月1日から令和7年1月31日までの間、特定受託事業者54名に対し本件業務委託をした際に、報酬の支払期日を定めておらず、当該事業者に対し、当該事業者の給付を受領した日又は当該事業者から役務の提供を受けた日までに報酬を支払わなかった。

 

 勧告の概要

⑴ グロービジョンは、フリーランス・事業者間取引適正化等法を遵守する体制を確立するため、次の措置を講ずること。

 ア 次の事項を取締役会の決議により確認すること

  (ア)、(イ) (略)

  (ウ) 前記…行為が、フリーランス・事業者間取引適正化等法第4条第5項の規定に違反するものであること

   (エ) 今後、特定受託事業者に対し業務委託をした場合に、当該特定受託事業者に対し、フリーランス・事業者間取引適正化等法第4条第1項の規定により定められた支払期日までに報酬を支払うこと

 イ 令和7年2月1日から令和7年12月5日までの間に、特定受託事業者55名に対し業務委託をした内容と同種又は類似の内容の業務委託をした特定受託事業者に係る取引について、フリーランス・事業者間取引適正化等法…第4条第5項の観点から問題が生じていなかったのかを調査し、問題が認められた場合には、特定受託事業者に係る取引の適正化のために必要な措置を講ずること

 ウ 以下について、自社の役員及び従業員に対するフリーランス・事業者間取引適正化等法の研修を行うなど社内体制の整備のために必要な措置を講ずること

  (ア) (略)

  (イ) 今後、特定受託事業者に対し業務委託をした場合に、当該特定受託事業者に対し、フリーランス・事業者間取引適正化等法第4条第1項の規定により定められた支払期日までに報酬を支払うこと

⑵ グロービジョンは、前記⑴に基づいて採った措置を自社の役員及び従業員に周知徹底すること。

⑶ グロービジョンは、前記⑴及び⑵に基づいて採った措置を取引先特定受託事業者に通知すること。

⑷ グロービジョンは、前記⑴から⑶までに基づいて採った措置を速やかに公正取引委員会に報告すること。

 

(令和8年2月25日)株式会社共同通信社に対する勧告

 違反事実の概要

 共同通信社は、個人であって従業員を使用しない事業者(以下「特定受託事業者」という。)に対し、自社が企画運営する囲碁や将棋のイベントの立会い、撮影、観戦記の点検・校正、自社が出版する年鑑等の原稿の執筆、自社が運営するWebメディアの記事の執筆、イラスト作成、配信する海外リリースの翻訳、自社が開催するイベント等での講演や撮影などの業務を委託している(以下、これらの委託を「本件業務委託」と総称する。)。

 共同通信社は、令和6年11月1日から令和7年2月13日までの間、特定受託事業者41名に対し本件業務委託をした際に、報酬の支払期日を定めておらず、当該事業者に対し、当該事業者の給付を受領した日又は当該事業者から役務の提供を受けた日までに報酬を支払わなかった。

 

 勧告の概要

⑴ 共同通信社は、フリーランス・事業者間取引適正化等法を遵守する体制を確立するため、次の措置を講ずること。

 ア 次の事項を取締役会の決議により確認すること

  (ア)、(イ) (略)

  (ウ) 前記…行為が、フリーランス・事業者間取引適正化等法第4条第5項の規定に違反するものであること

  (エ) 今後、特定受託事業者に対し業務委託をした場合に、当該特定受託事業者に対し、フリーランス・事業者間取引適正化等法第4条第1項の規定により定められた支払期日までに報酬を支払うこと

 イ 令和6年11月1日から令和8年2月25日までの間に、特定受託事業者45名に対し業務委託をした内容と同種又は類似の内容の業務委託をした特定受託事業者に係る取引について、フリーランス・事業者間取引適正化等法…第4条第5項の観点から問題が生じていなかったのかを調査し、問題が認められた場合には、特定受託事業者に係る取引の適正化のために必要な措置を講ずること

 ウ 以下について、自社の役員及び従業員に対するフリーランス・事業者間取引適正化等法の研修を行うなど社内体制の整備のために必要な措置を講ずること

  (ア) (略)

  (イ) 今後、特定受託事業者に対し業務委託をした場合に、当該特定受託事業者に対し、フリーランス・事業者間取引適正化等法第4条第1項の規定により定められた支払期日までに報酬を支払うこと

⑵ 共同通信社は、前記⑴に基づいて採った措置を自社の役員及び従業員に周知徹底すること。

⑶ 共同通信社は、前記⑴及び⑵に基づいて採った措置を取引先特定受託事業者に通知すること。

⑷ 共同通信社は、前記⑴から⑶までに基づいて採った措置を速やかに公正取引委員会に報告すること。

 

(令和8年2月27日)中部電力株式会社に対する勧告

 違反事実の概要

 中部電力は、個人であって従業員を使用しない事業者又は法人であって、一の代表者以外に他の役員がなく、かつ、従業員を使用しない事業者(以下「特定受託事業者」という。)に対し、総務・広報、人事・労務、経理・法務、研究・開発、設備の管理・評価等に関する支援業務を委託している(以下、これらの委託を「本件業務委託」と総称する。)。

 中部電力は、令和6年11月1日から令和7年9月17日までの間、特定受託事業者12名に対し本件業務委託をした際に、報酬の支払期日を定めておらず、当該事業者に対し、当該事業者から役務の提供を受けた日までに報酬を支払わなかった。

 中部電力は、令和6年11月1日から令和7年9月17日までの間、特定受託事業者2名に対し本件業務委託をした際に、当該事業者から役務の提供を受けた日から起算して60日を超えて報酬の支払期日を定め、当該事業者から役務の提供を受けた日から起算して60日を経過する日までに報酬を支払わなかった。

 

 勧告の概要

⑴ 中部電力は、フリーランス・事業者間取引適正化等法を遵守する体制を確立するため、次の措置を講ずること。

 ア 次の事項を取締役会の決議により確認すること

  (ア)、(イ) (略)

  (ウ) 前記…行為が、フリーランス・事業者間取引適正化等法第4条第5項の規定に違反するものであること

  (エ) 今後、特定受託事業者に対し業務委託をした場合に、当該特定受託事業者に対し、フリーランス・事業者間取引適正化等法第4条第1項の規定により定められた支払期日までに報酬を支払うこと

 イ 令和6年11月1日から令和8年2月27日までの間に、特定受託事業者39名に対し業務委託をした内容と同種又は類似の内容の業務委託をした特定受託事業者に係る取引について、フリーランス・事業者間取引適正化等法…第4条第5項の観点から問題が生じていなかったのかを調査し、問題が認められた場合には、特定受託事業者に係る取引の適正化のために必要な措置を講ずること

 ウ 以下について、自社の役員及び従業員に対するフリーランス・事業者間取引適正化等法の研修を行うなど社内体制の整備のために必要な措置を講ずること

  (ア) (略)

  (イ) 今後、特定受託事業者に対し業務委託をした場合に、当該特定受託事業者に対し、フリーランス・事業者間取引適正化等法第4条第1項の規定により定められた支払期日までに報酬を支払うこと

⑵ 中部電力は、前記⑴に基づいて採った措置を自社の役員及び従業員に周知徹底すること。

⑶ 中部電力は、前記⑴及び⑵に基づいて採った措置を取引先特定受託事業者に通知すること。

⑷ 中部電力は、前記⑴から⑶までに基づいて採った措置を速やかに公正取引委員会に報告すること。

 

(令和8年3月16日)株式会社テレビ北海道に対する勧告

 違反事実の概要

 テレビ北海道は、個人であって従業員を使用しない事業者又は法人であって、一の代表者以外に他の役員がなく、かつ、従業員を使用しない事業者(以下「特定受託事業者」という。)に対し、放送番組の制作に係る動画、音声データ等の作成、ディレクター業務等を委託している(以下、これらの委託を「本件業務委託」と総称する。)。

 テレビ北海道は、令和6年11月1日から令和7年7月15日までの間、特定受託事業者32名に対し本件業務委託をした際に、報酬の支払期日を定めておらず、当該事業者に対し、当該事業者の給付を受領した日又は当該事業者から役務の提供を受けた日までに報酬を支払わなかった。

 

 勧告の概要

⑴ テレビ北海道は、フリーランス・事業者間取引適正化等法を遵守する体制を確立するため、次の措置を講ずること。

 ア 次の事項を取締役会の決議により確認すること

  (ア)、(イ) (略)

  (ウ) 前記…行為が、フリーランス・事業者間取引適正化等法第4条第5項の規定に違反するものであること

  (エ) 今後、特定受託事業者に対し業務委託をした場合に、当該特定受託事業者に対し、フリーランス・事業者間取引適正化等法第4条第1項の規定により定められた支払期日までに報酬を支払うこと

 イ 令和7年7月16日から令和8年3月16日までの間に、前記2⑵及び⑶の特定受託事業者に対し業務委託をした内容と同種又は類似の内容の業務委託をした特定受託事業者に係る取引について、フリーランス・事業者間取引適正化等法…第4条第5項の観点から問題が生じていなかったかを調査し、問題が認められた場合には、特定受託事業者に係る取引の適正化のために必要な措置を講ずること

 ウ 以下について、自社の役員及び従業員に対するフリーランス・事業者間取引適正化等法の研修を行うなど社内体制の整備のために必要な措置を講ずること

  (ア) (略)

  (イ) 今後、特定受託事業者に対し業務委託をした場合に、当該特定受託事業者に対し、フリーランス・事業者間取引適正化等法第4条第1項の規定により定められた支払期日までに報酬を支払うこと

⑵ テレビ北海道は、前記⑴に基づいて採った措置を自社の役員及び従業員に周知徹底すること。

⑶ テレビ北海道は、前記⑴及び⑵に基づいて採った措置を取引先特定受託事業者に通知すること。

⑷ テレビ北海道は、前記⑴から⑶までに基づいて採った措置を速やかに公正取引委員会に報告すること。

 

(令和8年3月31日)株式会社京都放送に対する勧告

 違反事実の概要

 京都放送は、個人であって、従業員を使用しない事業者又は法人であって、一の代表者以外に他の役員がなく、かつ、従業員を使用しない事業者(以下「特定受託事業者」という。)に対し、放送番組等の制作に係る構成台本の作成、出演、ヘアメイク、スタイリング等を委託していた(以下、これらの委託を「本件業務委託」と総称する。)。

 京都放送は、令和6年11月1日から令和7年9月9日までの間、特定受託事業者110名に対し本件業務委託をした際に、報酬の支払期日を定めておらず、当該事業者に対し、当該事業者の給付を受領した日又は当該事業者から役務の提供を受けた日までに報酬を支払わなかった。

 

 勧告の概要

⑴ (略)

⑵ 京都放送は、フリーランス・事業者間取引適正化等法を遵守する体制を確立するため、次の措置を講ずること。

 ア 次の事項を取締役会の決議により確認すること

  (ア)、(イ) (略)

  (ウ) 前記…行為が、フリーランス・事業者間取引適正化等法第4条第5項の規定に違反するものであること

  (エ) 今後、特定受託事業者に対し業務委託をした場合に、当該特定受託事業者に対し、フリーランス・事業者間取引適正化等法第4条第1項の規定により定められた支払期日までに報酬を支払うこと

  (オ)、(カ) (略)

 イ 令和7年9月10日から令和8年3月31日までの間に、前記…特定受託事業者に対し業務委託をした内容と同種又は類似の内容の業務委託をした特定受託事業者に係る取引について、フリーランス・事業者間取引適正化等法…第4条第5項…の観点から問題が生じていなかったのかを調査し、問題が認められた場合には、特定受託事業者に係る取引の適正化のために必要な措置を講ずること

 ウ 以下について、自社の役員及び従業員に対するフリーランス・事業者間取引適正化等法の研修を行うなど社内体制の整備のために必要な措置を講ずること

  (ア) (略)

  (イ) 今後、特定受託事業者に対し業務委託をした場合に、当該特定受託事業者に対し、フリーランス・事業者間取引適正化等法第4条第1項の規定により定められた支払期日までに報酬を支払うこと

  (ウ) (略)

⑶ 京都放送は、前記⑴及び⑵に基づいて採った措置を自社の役員及び従業員に周知徹底すること。

⑷ 京都放送は、前記⑴から⑶までに基づいて採った措置を取引先特定受託事業者に通知すること。

⑸ 京都放送は、前記⑴から⑷までに基づいて採った措置を速やかに公正取引委員会に報告すること。

 

法5条1項2号(報酬の減額の禁止)違反

(特定業務委託事業者の遵守事項)
第五条 特定業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託(政令で定める期間以上の期間行うもの(当該業務委託に係る契約の更新により当該政令で定める期間以上継続して行うこととなるものを含む。)に限る。以下この条において同じ。)をした場合は、次に掲げる行為(第二条第三項第二号に該当する業務委託をした場合にあっては、第一号及び第三号に掲げる行為を除く。)をしてはならない。
  (略)
  特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、報酬の額を減ずること。
  (略)
 (略)

(令和8年3月31日)株式会社京都放送に対する勧告

 違反事実の概要

 京都放送は、個人であって、従業員を使用しない事業者又は法人であって、一の代表者以外に他の役員がなく、かつ、従業員を使用しない事業者(以下「特定受託事業者」という。)に対し、放送番組等の制作に係る構成台本の作成、出演、ヘアメイク、スタイリング等を委託していた(以下、これらの委託を「本件業務委託」と総称する。)。

 京都放送は、特定受託事業者67名に対し、1か月以上の期間、本件業務委託を行っていた。

 京都放送は、報酬を上記アの特定受託事業者67名の金融機関口座に振り込む際の手数料を当該事業者の負担とすることを書面又は電磁的方法で合意することなく、当該事業者に対し令和6年11月1日から令和7年9月9日までの間、当該事業者の責めに帰すべき事由がないのに、報酬の額から手数料を差し引いた(※)。

(※)令和8年1月1日以降に業務委託する取引から、特定受託事業者との合意の有無にかかわらず、特定受託事業者の金融機関口座に報酬を振り込む際の手数料を特定受託事業者に負担させ、手数料を報酬の額から差し引くことは報酬の減額に該当する。

 

 勧告の概要

⑴ 京都放送は、前記…特定受託事業者に対し、報酬の額から差し引いた額を速やかに支払うこと。

⑵ 京都放送は、フリーランス・事業者間取引適正化等法を遵守する体制を確立するため、次の措置を講ずること。

 ア 次の事項を取締役会の決議により確認すること

  (ア)~(エ) (略)

  (オ) 前記…行為が、フリーランス・事業者間取引適正化等法第5条第1項第2号に掲げる行為に該当し、同項の規定に違反するものであること

  (カ) 今後、特定受託事業者に対しフリーランス・事業者間取引適正化等法第5条に規定する業務委託をした場合に、特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、報酬の額を減じないこと

 イ 令和7年9月10日から令和8年3月31日までの間に、前記…特定受託事業者に対し業務委託をした内容と同種又は類似の内容の業務委託をした特定受託事業者に係る取引について、フリーランス・事業者間取引適正化等法…第5条第1項第2号の観点から問題が生じていなかったのかを調査し、問題が認められた場合には、特定受託事業者に係る取引の適正化のために必要な措置を講ずること

 ウ 以下について、自社の役員及び従業員に対するフリーランス・事業者間取引適正化等法の研修を行うなど社内体制の整備のために必要な措置を講ずること

  (ア)、(イ) (略)

  (ウ) 今後、特定受託事業者に対しフリーランス・事業者間取引適正化等法第5条に規定する業務委託をした場合に、特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、報酬の額を減じないこと

⑶ 京都放送は、前記⑴及び⑵に基づいて採った措置を自社の役員及び従業員に周知徹底すること。

⑷ 京都放送は、前記⑴から⑶までに基づいて採った措置を取引先特定受託事業者に通知すること。

⑸ 京都放送は、前記⑴から⑷までに基づいて採った措置を速やかに公正取引委員会に報告すること。

 

(令和8年5月29日)株式会社Timewitchに対する勧告

 違反事実の概要

 Timewitchは、個人であって、従業員を使用していない事業者(以下「特定受託事業者」という。)に対し、顧客から請け負った企画書等の資料作成、自社の総務、経理等の事務に係る業務等を委託していた(以下、これらの委託を「本件業務委託」と総称する。)。 

 Timewitchは、特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、⑴特定受託事業者148名に対する報酬の額から、「コンプライアンス対応費用調整額」として計4,463,380円を、⑵特定受託事業者29名に対する報酬の額から、当該報酬の額に11分の1を乗じて得た計1,055,754円をそれぞれ差し引いた。 

 

 勧告の概要

1 Timewitchは、特定受託事業者に対し、減じた額計5,519,134円を速やかに支払うこと。

2 Timewitchは、フリーランス・事業者間取引適正化等法を遵守する体制を確立するため、次の措置を講ずること。

 ⑴ 次の事項を取締役による決定により確認すること

  ア、イ (略)

  ウ 特定受託事業者に対しフリーランス・事業者間取引適正化等法第5条に規定する業務委託をした際に、当該事業者の責めに帰すべき事由がないのに、報酬の額から「コンプライアンス対応費用調整額」として減じた行為は、同条第1項第2号に掲げる行為に該当し、同項の規定に違反するものであること

  エ 特定受託事業者に対しフリーランス・事業者間取引適正化等法第5条に規定する業務委託をした際に、当該事業者の責めに帰すべき事由がないのに、報酬の額から当該報酬の額に11分の1を乗じて得た額を減じた行為は、同条第1項第2号に掲げる行為に該当し、同項の規定に違反するものであること

  オ 今後、特定受託事業者に対しフリーランス・事業者間取引適正化等法第5条に規定する業務委託をした場合に、特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、報酬の額を減じないこと 

 ⑵ 令和7年10月1日から令和8年5月29日までの間に、特定受託事業者に対し業務委託をした内容と同種又は類似の内容の業務委託をした特定受託事業者に係る取引について、フリーランス・事業者間取引適正化等法…第5条第1項第2号の観点から問題が生じていなかったのかを調査し、問題が認められた場合には、特定受託事業者に係る取引の適正化のために必要な措置を講ずること

 ⑶ 今後、以下について、自社の役員及び従業員に対するフリーランス・事業者間取引適正化等法の研修を行うなど社内体制の整備のために必要な措置を講ずること

  ア (略)

  イ 特定受託事業者に対しフリーランス・事業者間取引適正化等法第5条に規定する業務委託をした場合に、特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、報酬の額を減じないこと

3 Timewitchは、次の事項を自社の役員及び従業員に周知徹底すること。

 ⑴ この勧告を受けたこと及びこの勧告書…の内容

 ⑵ 前記1及び2に基づいて採った措置

4 Timewitchは、次の事項を取引先特定受託事業者に通知すること。

 ⑴ この勧告を受けたこと及びこの勧告書…の内容

 ⑵ 前記1から3までに基づいて採った措置

5 Timewitchは、前記1から4までに基づいて採った措置を速やかに公正取引委員会に報告すること。

 

法5条2項1号(不当な経済上の利益の提供要請の禁止)違反

(特定業務委託事業者の遵守事項)
第五条 (略)
 特定業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託をした場合は、次に掲げる行為をすることによって、特定受託事業者の利益を不当に害してはならない。
  自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。
  (略)

(令和7年6月25日)島村楽器株式会社に対する勧告

 違反事実の概要

 島村楽器は、個人であって、従業員を使用しないもの又は法人であって、一の代表者以外に他の役員がなく、かつ、従業員を使用しないもの(以下「特定受託事業者」という。)に対し、自らが運営する音楽教室のうちミュージックスクールにおいて行う消費者向けのレッスン、体験レッスン(音楽教室のうちミュージックスクールへの入会前に消費者が無料でレッスン内容を体験することをいう。以下同じ。)、スクール短期レッスン等の実施、当該音楽教室が主催する発表会や音楽イベントでの演奏や運営等の実施等を委託している(以下、これらの委託を「本件業務委託」と総称する。)。

ア 島村楽器は、特定受託事業者11名に対し、1か月以上の期間、本件業務委託を行っている。

イ 島村楽器は、令和6年11月1日から令和7年2月6日までの間、当該特定受託事業者11名に対し、合計19回の体験レッスンを無償で行わせていた。

 

 勧告の概要

⑴ 島村楽器は、前記…特定受託事業者に対し、合計19回の体験レッスンを無償で行わせていたことによる当該体験レッスンの対価に相当する額を、公正取引委員会の確認を得た上で、速やかに支払うこと。

⑵ 島村楽器は、フリーランス・事業者間取引適正化等法を遵守する体制を確立するため、次の措置を講ずること。

 ア 次の事項を取締役会の決議により確認すること

  (ア)~(エ) (略)

  (オ) 前記…行為が、フリーランス・事業者間取引適正化等法第5条第2項第1号に掲げる行為に該当し、同項の規定に違反するものであること

  (カ) 今後、特定受託事業者に対し、自己のために経済上の利益を提供させることにより、当該特定受託事業者の利益を不当に害さないこと

 イ 令和6年11月1日から令和7年6月25日までの間に、前記…特定受託事業者に対し業務委託をした内容と同種又は類似の内容の業務委託をした特定受託事業者に係る取引について、フリーランス・事業者間取引適正化等法…第5条第2項第1号の観点から問題が生じていなかったのかを調査し、問題が認められた場合には、特定受託事業者に係る取引の適正化のために必要な措置を講ずること

 ウ 以下について、自社の役員及び従業員に対するフリーランス・事業者間取引適正化等法の研修を行うなど社内体制の整備のために必要な措置を講ずること

  (ア)、(イ) (略)

  (ウ) 今後、特定受託事業者に対し、自己のために経済上の利益を提供させることにより、当該特定受託事業者の利益を不当に害さないこと

⑶ 島村楽器は、前記⑴及び⑵に基づいて採った措置を自社の役員及び従業員に周知徹底すること。

⑷ 島村楽器は、前記⑴から⑶までに基づいて採った措置を取引先特定受託事業者に通知すること。

⑸ 島村楽器は、前記⑴から⑷までに基づいて採った措置を速やかに公正取引委員会に報告すること。

 

(令和8年5月19日)シアー株式会社に対する勧告

 違反事実の概要

 シアーは、特定受託事業者1,674名に対し、フリーランス・事業者間取引適正化等法第5条に規定する業務委託をした際に、自己のために無償で体験レッスン(シアーミュージックスクール及びオンピーノ子供ピアノ教室への入会前に消費者が無料でレッスン内容を体験することをいう。)を行わせることにより、当該事業者の利益を不当に害していた。

 

 勧告の概要

⑴ シアーは、別表の「特定受託事業者」欄記載の事業者に対し、無償で体験レッスン(シアーミュージックスクール及びオンピーノ子供ピアノ教室への入会前に消費者が無料でレッスン内容を体験することをいう。以下同じ。)を行わせたことによる対価に相当する額を、公正取引委員会の確認を得た上で、速やかに支払うこと。

⑵ シアーは、次の事項を取締役において確認すること。

 ア 別表の「特定受託事業者」欄記載の事業者に対し、フリーランス・事業者間取引適正化等法第5条に規定する業務委託をした際に、自己のために無償で体験レッスンを行わせることにより、当該事業者の利益を不当に害していた行為は、同条第2項第1号に掲げる行為に該当し、同項の規定に違反するものであること

 イ 今後、特定受託事業者に対しフリーランス・事業者間取引適正化等法第5条に規定する業務委託をした場合に、自己のために経済上の利益を提供させることにより、特定受託事業者の利益を不当に害さないこと

⑶ シアーは、今後、特定受託事業者に対しフリーランス・事業者間取引適正化等法第5条に規定する業務委託をした場合に、自己のために経済上の利益を提供させることにより、特定受託事業者の利益を不当に害さないことについて、自社の役員及び従業員に対するフリーランス・事業者間取引適正化等法の研修を行うなど社内体制の整備のために必要な措置を講ずること。

⑷ シアーは、次の事項を自社の従業員に周知徹底すること。

 ア この勧告を受けたこと及びこの勧告書(別表を除く。)の内容

 イ 前記⑴から⑶までに基づいて採った措置

⑸ シアーは、次の事項を取引先特定受託事業者に通知すること。

 ア この勧告を受けたこと及びこの勧告書(別表を除く。)の内容

 イ 前記⑴から⑷までに基づいて採った措置

⑹ シアーは、前記⑴から⑸までに基づいて採った措置を速やかに公正取引委員会に報告すること。 

 

さいごに

 現時点で行われた勧告は、取引条件明示義務違反と報酬支払義務違反の事例に対するものがほとんどであり、唯一、島村楽器の不当利益提供要請の事例に対するものがあるにとどまります。

 取引条件明示義務と報酬支払義務は、法令に義務の内容が明記されていますので、いずれの事例もこれらに形式的に反したものであって、個別事案の特色があまり見受けられません。一方で、不当利益提供要請は、不当な経済上の利益に該当するかを具体的事情から判断することになるため、個別事例の分析が参考になるところですが、こちらは事例の集積が待たれるところです。

 法施行後まだ期間が経過していないこともあり、勧告事例が集積されていないところですので、現時点では、ガイドラインQ&A指導例、各種解説書等を参考に検討するしかないと思います。

 

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懲戒処分の公表と不法行為責任

はじめに

 令和6年1月13日付の日本経済新聞に、「懲戒の社内公表、悩む企業 名誉毀損リスクで『非開示』の流れ 再発防止と両立課題」という記事が出ていました。
 社内で懲戒処分が行われた場合に、企業としては類似事案発生の予防のために懲戒処分が行われた事実を公表する動機がある一方、懲戒処分を行われた従業員からすれば、自身に対して懲戒処分がなされたことは他の従業員に知られたくないと考える事柄であり、公表によって当該従業員の名誉権・名誉感情が害されることも懸念されます。そこで、懲戒処分の事実を公表することの違法性について判断した最近の裁判例を紹介します。

社内での公表に関する裁判例

不法行為責任を肯定した裁判例

A-① 長崎地判令和4年11月16日労判1290号32頁

【事案の概要】
 原告らが、被告会社の従業員を引き抜くことを目的に、被告会社の体制等の批判を繰り返すなどしたため、懲戒解雇、諭旨解雇、降格の処分を受けたもの。被告会社は、全従業員が日々閲覧するグループウェア上に、原告らに対する本件各懲戒処分の内容、経緯等を記載した文書を掲載したほか、従業員に対して説明会を開催し、前記文書と同旨の内容等をより詳細に記載した文書を配布した。
 原告らは、被告会社の前記文書の掲載・配布が、原告らの名誉を毀損するものであると主張して、不法行為に基づく損害賠償100万円の支払いを請求した。
【判旨】
「被告が本件各懲戒処分について公表したことは、原告らの社会的評価を低下させるものであり、名誉棄損に該当すると認められる。
 被告は、…懲戒処分運用規程12条に基づく社内への公表や、取引先への説明としてしたものであり、違法性がない旨主張するが、…本件懲戒解雇及び本件降格処分は懲戒権を濫用したものとして無効であり、本件諭旨解雇は懲戒事由に該当するとは認められず無効であるから、被告主張の根拠を欠き、上記名誉棄損について、違法性は阻却されない。」
 ただし、損害額は請求額の一部のみ認容。

不法行為責任を否定した裁判例

B-① 東京地判令和4年11月22日2022WLJPCA11228001

【事案の概要】
 カウンセラーである原告が、ハラスメント行為を行ったことなどを理由として復帰条件付き契約一部解除(同契約は労働契約と認定)とされたもの。被告会社の代表者は、被告会社のカウンセラー及びスタッフ全員に対してメールを送信し、被告らとの間で契約を締結しているカウンセラー1名について、同人が他のカウンセラー及びスーパーバイザーに対するモラルハラスメントを複数回行い、個人の尊厳を傷つけたことなどを理由に、復帰条件付き契約一部解除の懲戒処分を行った旨を通知した。
 原告は、未払賃金の請求などともに、公表行為によって原告の名誉が毀損されたとして不法行為に基づく損害賠償20万円の支払を請求した。
【判旨】
「被告らが…被告会社のカウンセラー及びスタッフ全員に対して送信したメールには、カウンセラー1名につき、復帰条件付き契約一部解除の懲戒処分をした旨の記載があるにとどまり、原告が名指しされているわけではない上、仮に、上記カウンセラーが原告であると特定できた者がおり、その者との関係で、原告の社会的評価が低下したとしても、被告らは、…被告会社のカウンセラー及びスタッフ全員に対し、再びメールを送信する方法によって、…カウンセラーに対する懲戒処分の撤回を通知するとともに、当事者及び関係者に、このような事態を招いたこと、報告が遅くなったことについて心からおわびする旨を通知しており、本件公表行為の相手方となった者は、上記懲戒処分が撤回され、被告らが当事者に謝罪しているとの認識を有するに至っており、原告の社会的評価の回復が図られていると認められることに照らすと、少なくとも、原告に金銭で慰謝すべき精神的苦痛が生じているということはできない。」

B-② 鹿児島地判令和5年3月29日2023WLJPCA03296011

【事案の概要】
 被告独立行政法人に雇用されて同法人が設置運営する病院に勤務する原告が、ハラスメント行為を理由として停職10日間とされたもの。被告法人は、同病院内の職員184人に対し、同病院のある職員が病院内においてほかの職員に対しパワー・ハラスメント行為となる人格を否定するような発言を行ったこと、被告法人が発言をした職員に対し懲戒処分を行ったこと等をメールにより周知した。
 原告は、懲戒処分の無効確認等を請求するとともに(この点については量定の相当性を失するため無効であると判断)、懲戒処分を公表したことが名誉毀損不法行為に当たると主張して損害賠償(慰謝料等)300万円の支払を請求した。
【判旨】
「メールによる周知については、その内容に照らすと、これを受信した…病院の職員においてパワー・ハラスメント行為となる発言をした者を特定することができたとは認められず、これにより原告の社会的評価が低下したとは認められない。」

B-③ 東京地判令和5年5月24日労経速2544号37頁

【事案の概要】
 被告会社と無期労働契約を締結し経理部長代理であった原告が、被告会社の営業秘密を複製、漏洩したこと等を理由として、自宅待機の後に懲戒解雇されたもの。被告会社は、「当社の従業員(管理職)1名が、当社の機密情報を含む社内データを私的利用で自宅に持ち帰り、また、特定の者の求めに応じて社内データを複数回漏洩する等の複数の重大な非違行為を行っていたことが判明したため、本日付けで懲戒解雇処分としました」と社内に公示した。
 原告は、未払賃金や退職金の支払等を請求するとともに、社内公示行為によって原告の名誉が毀損されたとして不法行為に基づく損害賠償200万円の支払を請求した。
【判旨】
「本件公示…には、原告の氏名は記載されておらず、本件公示により原告の社会的評価が低下したとはいえない。仮に他の従業員から、本件公示により懲戒解雇されたものが原告であることが認識できるとしても、本件懲戒処分が有効である以上、被告が、就業規則71条(懲戒処分を社内に公示できる旨の規定。…)に従い、その内容を社内に公表すること自体は相当な行為であって、被告総務部の従業員の行為が不法行為を構成するとはいえない。」

社外に対する公表に関する裁判例

不法行為責任を肯定した裁判例

C-① 長崎地判令和4年11月16日労判1290号32頁

【事案の概要】
 A-①参照。被告会社は、他社担当者に対して、原告らに対する懲戒処分の内容、経緯等を説明した。
 原告らは、被告会社の前記説明が、原告らの名誉を毀損するものであると主張して、不法行為に基づく損害賠償100万円の支払いを請求した。
【判旨】
 A-①記載のとおり。

C-② 名古屋地判令和4年11月30日2022WLJPCA11306007

【事案の概要】
 被告財団の元理事である原告が、外部の人物に対し被告財団の内部情報や被告財団に対する誹謗中傷等を含むメールを複数回送信したり、ハラスメントに関する社内による調査に不当に干渉したりしたことを理由として、減給処分相当とされたもの。被告財団の職員は、その外部会社の代表らに宛て、原告は職員に対するパワハラや組織の機密情報漏洩など被告財団の利益を損ねたという理由で被告財団の懲罰委員会で認定され“懲戒処分”を受けた人物である旨が記載されたメールを送信した。
 原告は、懲戒処分相当に基づく債務の不存在確認等を請求するとともに、メールを送信したことが原告の名誉を毀損しプライバシー権を侵害するものであると主張して慰謝料等110万円の支払を請求した。
【判旨】
「原告は職員に対するパワハラや機密情報漏洩をして被告財団の利益を損ね、そのことで懲戒処分を受けた人物であるとの表現は、原告の社会的評価を低下させるものであることは明らかである。また、本件メールは、不正確ではあるものの原告が本件懲戒処分相当を受けた事実を基にした内容であって、原告のプライバシーを侵害するものといえる。」
「本件メールの送信先は、…被告財団の外部の人物3名であるところ、同人らから別の者へその内容が伝播する可能性は否定できない。また、同人らは、医療分野に関する情報発信・情報交換を目的とする団体に所属しており…、本件メールが同人らに送信されたことそのことのみでも原告の研究発表にも影響が生じ得るものといえ、本件メールの送信は、原告の社会的評価を低下させるものとして名誉毀損に当たり、プライバシーを侵害するものと認められる。」

不法行為責任を否定した裁判例

D-① 名古屋地判令和4年11月30日2022WLJPCA11306007

【事案の概要】
 C-②参照。不法行為責任が肯定されたメール送信のほか、被告財団は、神戸市のホームページ上に、「ア 職員Bが、ハラスメント調査に対し、不当に干渉した。※1」「イ 職員Bが、正当な理由なく重要な会議を欠席した。」「ウ 職員A、Bが、外部の人物に対し、被告財団の内部情報や被告財団に対する誹謗中傷等を含むメールを複数回送信した。※2」「エ 職員Bについては、上記※1、2の2件から、減給処分相当と認定した(職員Bは既に退職しているため、相当とした。)。減給相当額(平均賃金の1日分の半額)については、今後自主返納を求める。」という内容を含む記者発表資料を掲載した。
 原告は、ホームページに掲載されたことに関し記者発表資料は原告の名誉を毀損するものであると主張して慰謝料等110万円の支払及び掲載資料の削除を請求した。
【判旨】
「神戸市は、ある外郭団体における不正行為が発覚したことを契機に、外郭団体の不適切事案の有無に関する調査を実施することとなり、被告財団においてもその一環として調査が実施され、本件懲戒処分相当をするに至ったものであって、本件記者発表資料は、上記の調査結果を市民に情報提供するためのものとして重要な意義を有するものと解され、公共性・公益性が認められ、かつ、これまで述べたところによれば、本件記者発表資料に記載された事実…については、いずれも真実であると認められる。」
「そして、本件記者発表資料では、原告は『職員B』と記載されて匿名とされている。確かに、『職員B』は既に退職している旨も記載されているため、原告がその頃に被告財団を退職した事実を知る人物にとっては『職員B』を原告と推知することが可能といえるものの、その他の者には原告と同定することができないよう配慮され、原告の名誉を毀損するものとはいえない。」
「以上のことからすれば、本件記者発表資料を神戸市のホームページに掲載したことについては、不法行為は成立せず、この点に関する原告の損害賠償請求及び神戸市のホームページ上からの本件記者発表資料の掲載削除請求は、いずれも理由がない。」

D-② 鹿児島地判令和5年3月29日2023WLJPCA03296011

【事案の概要】
 B-②参照。被告法人は、報道機関に対し、同病院に勤務する60歳代の医長が、看護部等の職員に診療上の指示をする中で、人格を否定するような発言及び威圧的な発言をしたため、停職10日間の懲戒処分とした旨を発表し、その旨の報道がされた。
【判旨】
「報道機関に対する発表については、…病院には8名の医長が在籍し、うち60歳代のものが原告を含む3名であり、同病院のd室がb科にあったと認められ、そして、原告が当時b科の医長であったことを踏まえれば、少なくとも発表を踏まえた報道に接した同病院の職員は、人格を否定する発言等を行い10日間の停職処分を受けた医長が原告であることを特定することができたといえ、これにより原告の社会的評価が低下したと認められる。」
「しかしながら、原告がa病院の看護部及びd室の職員に診療上の指示をする中で、人格を否定する発言及び威圧的な発言をしたこと並びに被告が原告を10日間の停職処分としたことが真実であることはこれまで説示したとおりである。また、被告は国の医療政策として機構が担うべきものの向上を図り、もって公衆衛生の向上及び増進に寄与することを目的とする独立行政法人であり…、独立行政法人として国から交付金を受け得る立場にあるから…、被告の業務が適正に行われることは国民の関心事であって、被告の職員による非違行為及びこれに対する被告の対応は公共の利害に係る事項であると認められる。そして、…被告は、国民に対する説明責任を果たすという公益目的で報道機関に対する発表をしたと認められる。これらの事情を踏まえれば、本件公表のうち報道機関に対する発表は、違法性がなく、不法行為を構成しないというべきである。」

D-③ 京都地判令和6年5月14日2024WLJPCA05149004

【事案の概要】
 被告大学と無期雇用契約(無期転換後)を締結する原告が、A教授のメールを無断開封・閲覧したり、機密資料を持出したりしたこと等を理由として懲戒解雇されたもの。被告大学は、ホームページ上で、本件研究所非常勤職員を懲戒解雇処分にした旨を公表したが、原告の氏名は公表されていない。
 原告は、地位確認(被告大学が原告を懲戒解雇とした点については、懲戒事由該当性について一部被告大学の主張を採用し得ないとしたものの、その有効性は肯定)や未払賃金の支払を請求するとともに、本件懲戒解雇の公表を受けて名誉権ないし名誉感情を侵害されたとして(A教授からハラスメントを受けたことなどと併せて)、慰謝料100万円の支払を請求した。
【判旨】
「公表文には原告の氏名も表示されていないが、勤務先(所属)、担当業務の内容等、公表文に記載された内容からすれば、一般の読者を基準としても、当該職員が原告を指すものであると理解する余地があるというべきである。仮に、当該職員を原告のことであると同定できるとすれば、この公表文は、原告の社会的評価を低下させるものであるから、その名誉を侵害するものといえる。しかしながら、懲戒事由について、これまで検討してきたところによれば、懲戒事由該当性について、当裁判所の判断と異なる部分はあるものの、被告が懲戒処分の理由として発表した事実には公共性があり、公表目的の公益性や、公表事実がその主要部分において真実であるとも認められることから、原告の名誉権又は名誉感情の侵害により、不法行為を構成することはなく、原告の主張は採用できない。」

若干の考察

 いずれの裁判例も、名誉毀損に関する一般的な枠組み(社会的評価の低下の有無、違法性阻却事由の有無)に沿った判断がなされています。懲戒処分の公表との関係で特異と思われる点としては、①社会的評価の低下が認められるか否かの考慮要素において、氏名の公表の有無について言及されていること(氏名の公表がなくても、同定可能性の有無にも言及されていること)、②違法性阻却事由の有無において、懲戒処分の適法性、公表に関する就業規則の定めの有無等が考慮されていることが挙げられます。
 懲戒処分の公表の目的は、再発防止のための周知を行う点にあるのであって、処分の対象となる行為を行った従業員に対する制裁ではありません。そうすると、再発防止のための周知にあたり、当該従業員の氏名まで公表する必要があるケースはほとんどないと思われますので、公表にあたって当該従業員の匿名化は必須でしょう。
 また、当然のことながら、懲戒処分の前提となる事実の認定、懲戒処分の量定の選択等、懲戒処分そのものの有効性も慎重に検討すべきです。
 懲戒処分の公表には、上記のようなリスクを伴いますので、公表に至るまでの手続・検討は入念に行うことが必要です。


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旅行法令研究〔第10回〕~旅行業法編:旅行業・旅行業者代理業の登録制度⑥(第6条の3)~

 今回は、旅行業の更新登録に関する規定について概観します。前回の記事はこちら↓↓↓

ds-law.hatenablog.jp

 

 

更新登録の概要

 前回の記事で説明したように、旅行業の登録は、登録の日から5年間が有効期間とされています(法6条の2)。そのため、登録の日から5年間が経過すると、適法な旅行業の登録がなされていない状態になりますので、旅行業の遂行を継続できなくなります。そこで、有効期間を超えて旅行業の遂行を継続しようとする場合は、更新登録を受けなければならないこととされています。

 更新登録の内容及び手続は、法6条の3に規定されています。

〇旅行業法
(有効期間の更新の登録)
第六条の三 旅行業の登録の有効期間満了の後引き続き旅行業を営もうとする者は、国土交通省令で定めるところにより、観光庁長官の行う有効期間の更新の登録を受けなければならない。
 第五条から前条までの規定は、有効期間の更新の登録について準用する。この場合において、第五条第一項中「登録番号」とあるのは、「登録番号並びに有効期間の更新の登録の年月日」と読み替える。
 前条の登録の有効期間の満了の日までに更新の登録の申請があつた場合において、その申請について前項において準用する第五条第二項又は第六条第二項の通知があるまでの間は、当該申請に係る登録は、前条の登録の有効期間の満了後も、なおその効力を有する。
 前項の場合において、有効期間の更新の登録がなされたときは、その登録の有効期間は、従前の登録の有効期間の満了の日の翌日から起算するものとする。

 

更新登録の手続

 更新登録の手続については、新規登録の手続に関する規定(法5条から法6条の2まで)が準用されています(法6条の2第2項)。「準用」とは、ある事項に関する規定を、他の類似の事項について、必要な修正を加えてあてはめることをいいます。

 これにより、更新登録の場合も、新規登録の場合と同様に、更新登録申請書を、その旅行業者の登録区分に応じた所轄行政庁に提出することになります。所轄行政庁は、第1種旅行業者は観光庁長官、第2種・第3種旅行業者は主たる営業所の所在地を管轄する都道府県知事です(施行規則1条の2)。

〇旅行業法施行規則
(新規登録及び更新登録の申請手続)
第一条の二 法第三条の規定による旅行業又は旅行業者代理業の登録(以下この節において「新規登録」という。)又は法第六条の三第一項の規定による有効期間の更新の登録(以下「更新登録」という。)の申請をしようとする者は、次の区分により、当該各号に掲げる行政庁に、第一号様式による新規登録(更新登録)申請書を提出しなければならない。この場合において、更新登録の申請については、有効期間の満了の日の二月前までに提出するものとする。
 業務の範囲が次条に規定する第一種旅行業務である旅行業の新規登録又は更新登録の申請をしようとする者 観光庁長官
 業務の範囲が次条に規定する第二種旅行業務、第三種旅行業務又は地域限定旅行業務である旅行業の新規登録又は更新登録の申請をしようとする者 主たる営業所の所在地を管轄する都道府県知事
 旅行業者代理業の新規登録の申請をしようとする者 主たる営業所の所在地を管轄する都道府県知事

 更新書類の添付書類については、施行規則1条の5の規定によります。新規登録申請書の添付書類と共通しています(施行規則1条の4第1項1号はイからヘまで、同項2号はイからホまであり、1号ヘと2号ホはそれぞれ旅行業者代理業に関する書類であるため、旅行業者には固より無関係の規定です。)。

○旅行業法施行規則

 (更新登録の添付書類)
第一条の五 更新登録の申請をしようとする者は、次に掲げる書類を更新登録申請書に添付して提出しなければならない。
 一 申請者が法人である場合にあつては、前条第一項第一号イからホまでに掲げる書類
 二 申請者が個人である場合にあつては、前条第一項第一号ハ及び第二号イからニまでに掲げる書類
2、3 略

 添付書類には、最近の年度の会計書類の提出が求められていますが(施行規則1条の4第1項1号ニ⑴)、新型コロナウイルス感染症が拡大していた時期は、旅行業者の経営状況が著しく悪化したことを踏まえて、特例として、令和6年3月までに更新登録の申請期限を迎える旅行業者の申請分までは*1、令和2年1月以前に確定した決算書において更新を行うことも認めるなど、柔軟な対応がなされているようです*2

 所轄行政庁による更新登録の審査も、新規登録の場合と同様となりますが(施行要領第四.2)、所轄行政庁が更新登録の申請を行った旅行業者に対して、従前の業務遂行の状況についてヒアリングを行い、その回答如何によっては必要な指導が行われることもあるようです*3。申請手続や登録審査に関する詳細は、法4条法5条法6条の各記事をご覧ください。

 

更新登録特有の定め

更新登録申請書の提出期限

 更新登録申請書は、有効期間満了の日の2か月前までに提出する必要があります(施行規則1条の2)。

 これは、更新登録の審査においても、登録拒否事由の有無の確認、聴聞の実施など、手続に時間を要することが見込まれるため、有効期間満了までの時間的猶予を設ける趣旨と考えられます*4

 なお、新規登録の登録審査の標準処理期間も60日とされていますので、審査に要すると見込まれる期間は、新規登録も更新登録もほとんど異なりません。更新登録の審査が新規登録のそれと同様のものだからと考えられます。

 

更新登録審査の遅延に伴う措置

 更新登録申請書が有効期間満了の日の2か月前までに提出されたにもかかわらず、前述のように更新登録の審査が拒否事由の有無の確認、聴聞の実施等に相当期間の時間を要し、有効期間満了の日までに審査結果を旅行業者に通知できないことがあり得ます。このような場合、有効期間満了の日の翌日から更新登録がなされる日まで、形式的に考えると旅行業の登録が消滅した状態となりますが、所轄行政庁の審査という旅行業者に落ち度のない事情によって旅行業の登録がなく適法な業務の遂行ができないという事態は相当ではありません。

 そこで、法6条の3第3項は、所轄行政庁から審査結果についての通知があるまでの間は、従前の登録は、そのまま有効である旨を規定しています。この規定によれば、有効期間満了の日の翌日以降に審査結果の通知があり、結果的に登録拒否事由があるとして登録が拒否されたとしても、当該通知がなされた日までの旅行業の営業が違法になるものではありません。

 なお、有効期間満了の日の翌日以降に登録する旨の通知がなされた場合、更新登録の有効期間の起算は、当該通知がなされた日ではなく、従前の登録の有効期間の満了の日の翌日となります(法6条の3第4項)。

 

手数料の納付

 更新登録については、登録免許税の納付は不要ですが*5、手数料の納付が必要となります(法22条1項)。

○旅行業法

 (手数料)
第二十二条 第六条の三第一項の規定による有効期間の更新の登録の申請をする者(第六十七条の規定により都道府県知事が行うこととされる事務に係る申請をする者を除く。)は、実費を勘案して政令で定める額の手数料を納めなければならない。
2、3 略

 

更新登録の法的効果

 更新登録がなされると、旅行業者は、従前と同様に、適法に旅行業の遂行を継続することができます。この場合の新たな有効期間は、従前の有効期間の満了の日の翌日から5年間となります(法6条の2)。

 一方で、更新登録の申請を行わず、又は更新登録の拒否がなされた場合には、旅行業者は、有効期間満了の日の翌日以降(法6条の3第3項が適用される場合には、登録拒否の通知がなされた日の翌日以降)、適法に旅行業を遂行することができず、これに反して旅行業の遂行を継続した場合には無登録営業となります。

 

まとめ

 旅行業の遂行を継続する場合には、5年ごとに更新登録を行う必要があり、煩瑣であるように感じる旅行業者もあるかもしれませんが、登録制度が旅行業法の要となる制度の一つであることからすれば不可欠の手続であると考えますので、これを怠ることがないようにする必要があります。

 

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*1:観光庁参事官「新型コロナウイルスの影響を受けた旅行業者に対する旅行業法に係る関係事務の取扱いについて」(観参第544号、令和4年12月13日)

*2:第211回国会参議院決算委員会第9号斉藤鉄夫大臣発言277

*3:第96回国会衆議院運輸委員会第7号西村康雄政府委員発言049

*4:旅行法制研究会『旅行業法解説〔第3版〕』(トラベルジャーナル、1992年)86頁参照

*5:前掲旅行業法解説86頁

旅行法令研究〔第9回〕~旅行業法編:旅行業・旅行業者代理業の登録制度⑤(第6条の2)~

 今回は、旅行業法における登録制度を支える重要な要素の一つである、有効期間に関する規定について概観します。

 前回の記事はこちら↓↓↓

ds-law.hatenablog.jp

 

 

旅行業の登録の有効期間

 旅行業法6条の2は、旅行業の登録の有効期間を、登録の日から起算して5年とする旨を定めています。

○旅行業法
(登録の有効期間)
第六条の二 旅行業の登録の有効期間は、登録の日から起算して五年とする。

 

 「登録の日」とは、登録行政庁に備える登録簿に搭載された日をいいます(登録申請書類等を提出した日ではありません。)。登録日は、登録行政庁から送られてくる通知等で確認することができます。

 旅行業法は、消費者保護の観点から、3条以下で登録制度を採用しており、登録にあたっては、登録範囲に応じた財産的基礎が要求されています(法6条1項10号)。財産的基礎は、登録の可否の基準の中で最も重要であり、旅行業者が営業を継続する間この要件を満たし続けなければ消費者保護に欠けてしまいます。そのため、旅行業者が財産的基礎の要件を満たしているか否かのチェックは、登録申請時だけでは不十分であり、定期的な確認が必要です。そのため、旅行業法は、旅行業の登録の有効期間を設けて、5年ごとに登録基準に適合しているか否かを確認することとしました*1

 なお、この有効期間は、かつては登録の日から3年とされていましたが、許可等の有効期間の延長に関する法律(平成9年法律第105号・同年11月21日施行)*215条に基づく法改正により、5年に延長されました。

 

本条の適用範囲

 本条は、「旅行業の登録の有効期間」と規定されていることから分かるように、旅行業に対してのみ適用されます。したがって、旅行業者代理業に対しては本条の適用はないため、旅行業者代理業の登録には有効期間の定めはありません。

 旅行業者代理業については、登録審査に当たり、財産的基礎の確認が行われないうえ(法6条1項10号)、経営者・役員の適格性や旅行業務取扱管理者の存否に対する確認は、所属旅行業者の登録の更新を通して行われるとともに、随時行う立入検査(法70条3項、4項)によって担保されるため、あえて有効期間を設けて適格性を審査する必要性が乏しいからです*3

 

本条違反の効果

 有効期間を過ぎた登録によって旅行業を営むことは、当然に無登録営業となり、罰則(法74条1号)の適用があるほか、再度の登録審査における欠格事由(法6条1項2号)となります。

 

まとめ

 以上のように、旅行業の登録の有効期間は、旅行業の登録制度を支える重要な要素の一つです。旅行業を5年を超えて継続するのであれば、当然に登録を更新する必要がありますが、登録の更新時期に合わせて登録範囲の変更等を考える場合には、有効期間内に登録範囲の変更手続も間に合うように留意が必要です。

 

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*1:旅行法制研究会『旅行業法解説〔第3版〕』(トラベルジャーナル,1992年)83頁

*2:この法律は、平成9年2月の閣議決定「申請負担軽減対策」に基づき、申請等に伴う手続きの簡素化、電子化、ペーパーレス化などを迅速かつ強力に推し進め、今世紀中に申請等に伴う国民の負担感を半減することを目標として、諸対策の実現に努めるとされたところ、その一環として、有効期間のある許認可等について、「明らかに不適切なものを除き、原告の有効期間を倍化する。倍化が困難なケースでも最大限延長する。」という方針に沿って見直しを行い、16法律にわたる改正を一括法として取りまとめたものです。第141回国会衆議院本会議第8号小里貞利中央省庁改革等担当大臣発言006。

*3:前掲旅行業法解説83頁

旅行法令研究〔第8回〕~旅行業法編:旅行業・旅行業者代理業の登録制度④(第6条)~

 前回は、登録申請を受けた行政庁の手続について触れましたが、今回は、登録申請を受けた行政庁が、その登録を拒否する場合について概観します。

 前回の記事はこちら↓↓↓

 

 

登録拒否の目的

 旅行業法6条は、旅行業・旅行業者代理業の登録申請を受けた行政庁が、その登録を拒否しなければならない場合として11の欠格事由を掲げています。

○旅行業法

(登録の拒否)
第六条 観光庁長官は、登録の申請者が次の各号のいずれかに該当する場合には、その登録を拒否しなければならない。
 第十九条の規定により旅行業若しくは旅行業者代理業の登録を取り消され、又は第三十七条の規定により旅行サービス手配業の登録を取り消され、その取消しの日から五年を経過していない者(当該登録を取り消された者が法人である場合においては、当該取消しに係る聴聞の期日及び場所の公示の日前六十日以内に当該法人の役員であつた者で、当該取消しの日から五年を経過していないものを含む。)
 禁錮以上の刑に処せられ、又はこの法律の規定に違反して罰金の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなつた日から五年を経過していない者
 暴力団員等(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成三年法律第七十七号)第二条第六号に規定する暴力団員又は同号に規定する暴力団員でなくなつた日から五年を経過しない者をいう。第八号において同じ。)
 申請前五年以内に旅行業務又は旅行サービス手配業務に関し不正な行為をした者
 営業に関し成年者と同一の行為能力を有しない未成年者でその法定代理人が前各号又は第七号のいずれかに該当するもの
 心身の故障により旅行業若しくは旅行業者代理業を適正に遂行することができない者として国土交通省令で定めるもの又は破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者
 法人であつて、その役員のうちに第一号から第四号まで又は前号のいずれかに該当する者があるもの
 暴力団員等がその事業活動を支配する者
 営業所ごとに第十一条の二の規定による旅行業務取扱管理者を確実に選任すると認められない者
 旅行業を営もうとする者であつて、当該事業を遂行するために必要と認められる第四条第一項第三号の業務の範囲の別ごとに国土交通省令で定める基準に適合する財産的基礎を有しないもの
十一 旅行業者代理業を営もうとする者であつて、その代理する旅行業を営む者が二以上であるもの
 略

 このように、旅行業法が予め欠格事由を定めているのは、旅行業法そのものの目的によります。すなわち、第2回の記事で取り上げたように、旅行業法が制定された目的は、①旅行業務に関する取引の公正の維持,②旅行の安全の確保,③旅行者の利便の増進の3つでした。適正な旅行業者・旅行業者代理業者が適切に業務を遂行するのでなければ、旅行者の利益が害されるおそれがあります。したがって、これらの目的達成のためには、予め旅行業者・旅行業者代理業者となろうとする者に対して、業務の適正を維持させるための一定の要件を課し、これを満たさない者については、適正な業務が期待できないものとして旅行業者・旅行業者代理業者から排除する必要があります*1。この一定の要件を掲げ、登録制度の実効性を確保しているのが法6条1項です。

 

欠格事由

欠格事由の分類

 上記のように、法6条1項は、欠格事由を11項目規定しています。これらの欠格事由は、主に次の3つの観点から分類されます*2

⑴ 信頼性の確保

  •  旅行業法を遵守しなかった旅行業者・旅行業者代理業者、またはそれに準ずる者の一定期間の排除(法6条1項1号、4号、5号、7号)
  •  無登録で営業を行った者の一定期間の排除(法6条1項2号、5号、7号)
  •  一般に刑罰(特に詐欺、横領などの財産に関するものを含む)に処せられた者の一定期間の排除(法6条1項2号、5号、7号)
  •  暴力団の排除(法6条1項3号、8号)

⑵ 健全経営の確保

  •  一般的に財産管理能力がないとされている者の排除(法6条1項6号、7号)
  •  旅行業を営んでいくのに最低限必要と思われる財産的基礎のない者の排除(法6条1項10号)

⑶ 旅行業法遵守の確保

  •  前記⑴①②と同様
  •  旅行業務取扱管理者を選任することができない者の排除(法6条1項9号)
  •  取引関係の不明確さをもたらすような者の排除(法6条1項11号)

 

欠格事由各論

第1号事由(登録取消し後の一定期間拒否)

 法19条及び法37条は、法の規定に違反する行為(以下「法違反行為」といいます。)を行った者に対して、行政上のペナルティとして、6か月以内の業務停止又は登録取消しを行うことができる旨を定めています。本号は、このうち、より処罰の程度が重い登録取消しが行われた者に限定して、再度の登録を一定期間拒否する旨を規定しています。

 かっこ書きは、法19条により、法人が旅行業の登録を取り消された場合において、取消処分のときには役員でなかった者でも、取消事由となった事柄に役員として参画していたときには、その者にも責任があるから、5年間は旅行業の登録を与えない趣旨です*3。ここでいう「役員」とは、例えば、①株式会社にあっては取締役、執行役、会計参与(会計参与が法人であるときは、その職務を行うべき社員)及び監査役、②合名会社、合資会社及び合同会社にあっては定款をもって業務を執行する社員を定めた場合は当該社員、その他の場合は総社員、③公益財団法人、公益社団法人一般財団法人及び一般社団法人にあっては理事及び監事、④独立行政法人等にあっては、総裁、理事長、副総裁、副理事長、専務理事、理事、監事等法令により役員として定められている者をいいます(旅行業法施行要領第二.2.6))。

 

第2号事由(刑罰を受けた者の拒否)

 本号は、法違反行為か否かに関わらず禁錮以上の刑に処せられた者、又は法違反行為により罰金刑に処せられた者の登録を一定期間拒否する旨を定めています。

 刑事罰における刑の軽重は、【重い方←】死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留、科料【→軽い方】の順となりますので(刑法9条、10条1項)、「禁錮以上の刑」とは、死刑、懲役及び禁錮をいいます。したがって、拘留や科料の刑に処せられたに留まる者は、本号の欠格事由には該当しません。また、刑法上あるいは旅行業法以外の特別法違反を理由とする罰金刑に処せられた者も、本号の事由には該当しませんが、旅行業法に違反する行為を理由に罰金刑に処せられた者は、本号の欠格事由に該当します。

 なお、現在、懲役及び禁錮を拘禁刑に一本化する旨の刑法の改正が行われ、これが令和7年6月1日に施行される予定ですが、これに伴い、本号の「禁錮以上の刑」も「拘禁刑以上の刑」に改められます(刑法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整理等に関する法律(令和4年法律第68号)367条)。

 

「この法律に違反して罰金の刑に処せられ」の意義

 第1号事由において説明したように、法違反行為に対しては、業務停止又は登録取消しの処分も定められていますが、第1号事由では、このうち、登録取消処分だけが欠格事由に該当することになっています。このことから、法は、業務停止処分に留まった者に対しては登録拒否までは行わないという態度を明らかにしているものと考えられます。

 一方で、法違反行為の多くに対しては罰金刑が定められていますが、行政上の処分が業務停止に留まる場合にも罰金刑を受けたことをもって登録拒否するとなれば、第1号事由において業務停止に留まる者を除外した取扱いと矛盾してしまいます。

 そのため、「この法律の規定に違反して罰金の刑に処せられ」は、無登録で営業していたため、法74条により100万円以下の罰金刑を受けた者が、旅行業者となることを5年間禁ずるためのものであり、それに限られると解されています*4

 

第3号事由(暴力団員等の拒否)

 本号は暴力団員が旅行業界に参入するのを阻止するための規定です。本号は、通訳案内士法及び旅行業法の一部を改正する法律(平成29年法律第50号・平成30年1月4日施行)による法改正で新設されたものです。

 「暴力団員」とは、暴力団の構成員をいい(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律2条6号)、「暴力団」とは、その団体の構成員(その団体の構成団体の構成員を含む。)が集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれがある団体をいいます(同条2号)。

 登録審査の実務においては、登録申請者が暴力団員等に該当するか否かの確認は、登録申請者から暴力団員等に該当しない旨の誓約書の提出を受けることをもって担保しています*5

 

第4号事由(不正行為者の拒否)

 本号は、旅行業務に関し不正な行為をしたことがある者を一定期間排除する旨を定めています。

 「旅行業務に関し不正な行為をした」とは、旅行業者、旅行業者代理業者又は旅行サービス手配業者の役員又は使用人として横領、脱税、詐欺、粉飾決算等の主に経済事犯に問われた場合のほか、旅行業者又は旅行業者代理業者及び旅行サービス手配業者の登録の取消処分のための聴聞通知を出したところ、事業廃止届出書を提出してきたため、処分されなかった場合も含まれます(旅行業法施行要領第三.1)*6

 

第5号事由(未成年者の拒否)

 本号は、未成年者による旅行業の登録を原則として拒否する旨を規定しています。

 「未成年者」とは、年齢18歳に達しない者をいいます(民法4条)。

 「行為能力」とは、法律行為を自分一人で確定的に有効に行うことができる資格をいいます*7

 「営業に関し成年者と同一の行為能力を有しない未成年者」とは、一種若しくは数種の営業を許されていない未成年者、これを許された未成年者であるものの当該営業に旅行業等が含まれない未成年者、旅行業等を含んだ営業を許されたものの法定代理人にその許可を取り消され、又は制限された未成年者をいいます(民法6条参照)。

 未成年者は、原則、法律行為をするにあたり法定代理人の同意を要し(民法5条1項)、法定代理人の同意を得ずに行われた法律行為は取り消すことができ(同条2項)*8、取消権の行使として取消しの意思表示がされると、当該法律行為は初めから無効であったものとみなされます(民法121条)。そのため、全ての未成年者が旅行者との間で旅行に関する法律行為を行うことができるとすると、都度、法定代理人の同意を得る必要があるうえ、未成年者側が同意を得ずして旅行業に関する法律行為を行った場合にはいつでもこれを取り消して無効とすることができてしまいます。それでは、旅行者からすれば、法律関係が不安定になり、不測の不利益を与えることになりかねません。そこで、旅行業の登録をするに当たっては、未成年者が予めその法定代理人から許可を得て、旅行業に関する法律行為を単独で有効に行うことができる状態にあることを必要としています。

 なお、未成年者が営業を行うときは、その登記をする必要があります(商法5条)*9法定代理人の許可を公示する一般的な方法はありませんが、上記登記の申請をする際には、法定代理人の許可を得たことを証する書面を申請書に添付する必要があるため(商業登記法37条1項)*10、上記登記をもって事実上法定代理人の許可を受けているか否かを前もって確認することができます。

 

第6号事由(心身故障者等の拒否)

 本号は、業務の適正な遂行が期待できない者及び破産手続開始決定後復権を得ていない者について登録を拒否するものです。

 

心身故障者等の場合

 「心身の故障により旅行業若しくは旅行業者代理業を適正に遂行することができない者として国土交通省令で定めるもの」については、施行規則2条の2にその定めがあります。

○旅行業法施行規則
(心身の故障により旅行業又は旅行業者代理業を適正に遂行することができない者)
第二条の二 法第六条第一項第六号の国土交通省令で定める者は、精神の機能の障害により旅行業又は旅行業者代理業を適正に遂行するに当たつて必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者とする。

 本号の心身故障者等に関する部分は、従前、「成年被後見人若しくは被保佐人」(以下「成年被後見人等」といいます。)と定められていました。しかし、成年後見制度の利用の促進に関する法律(平成28年法律第29号)*11に基づく措置として、成年被後見人等の人権が尊重され、成年被後見人等であることを理由に不当に差別されないよう、成年被後見人等を資格・職種・業務等から一律に排除する欠格条項を設けている各制度について、心身の故障等の状況を個別的・実質的に審査し、各制度ごとに必要な能力の有無を判断する規定へと適正化する必要がありました。その一環として、旅行業に登録する者の欠格事由についても、個別的審査を可能とするように改正がなされました(成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律(令和元年法律第37号・同年9月14日施行)151条)。

 なお、上記の改正経緯に関連して、同じく業法である警備業法において、被保佐人であることを欠格事由とする定めがおかれていたところ、この規定が制定当初から憲法14条、22条1項に反するものであり、国会が同規定を改廃しなかったのが国家賠償法の適用上違法であるとされた裁判例があります*12。この裁判例では、家庭裁判所における保佐開始の審判の手続においては、自己の財産を管理・処分する能力を離れ、認知能力、判断能力等の全般的な能力や警備業務を適正に行うことが期待できるか否かが医学的に診断ないし鑑定されるものではないこと、警備業務として盗難等から財産を守るのに、契約等についてその利害得失を判断する能力や抽象的、概念的思考等が必要とされているとは考え難いし、交通誘導の警備業務において、他人の財産を預かり管理することが求められているとは通常考えられないことなどが指摘されています。それでは、旅行業法においてもかつて被後見人等が欠格事由とされていたことについて、同様に違憲違法といえるかが問題となりますが、旅行業においては旅行者から財産を直接財産を預かって旅行商品を提供したり旅行者に代わって運送サービス等の手配を行うこと、そのため旅行業者には財産的基礎が要求されていることなどからすると、旅行業の営業にあたっては自己の財産を管理・処分する能力そのものが問題とされることとなります。そうすると、旅行業法が、被後見人等を欠格事由としていたことが不合理であるとは直ちにはいえないと思います。したがって、上記裁判例の射程は、旅行業法のケースには及ばないものと考えます。

 「精神の機能の障害により旅行業又は旅行業者代理業を適切に遂行するに当たって必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うこと」ができるか否かの確認は、厚生労働省社会・援護局福祉基盤課が関係部署に宛てた通達において、誓約書等により候補者本人にこれらの者に該当しないことの確認を行う方法で差し支えなく、必要に応じて医師の診断書等により確認することが考えられる旨述べていることが参考になります。上記のような本号の改正の趣旨からすれば、成年被後見人又は被保佐人であることのみをもって本号の欠格事由に当たるとすることはできません。観光庁は、第1種旅行業の登録申請の際に、本号所定の事由を包含した欠格事由に該当しない旨の誓約書を提出させることとしており*13都道府県においても概ね同様の宣誓書を提出させることとしているようです。

 

破産者の場合

 「復権」とは、破産者が破産手続開始決定により喪失した法律上の資格を回復することをいいます。

 「破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者」とは、破産手続開始決定を受けた者で、破産法255条1項各号事由に該当せず、同法256条1項の復権の決定を受けていないものをいいます。

○破産法
復権
第二百五十五条 破産者は、次に掲げる事由のいずれかに該当する場合には、復権する。次条第一項の復権の決定が確定したときも、同様とする。
 免責許可の決定が確定したとき。
 第二百十八条第一項の規定による破産手続廃止の決定が確定したとき。
 再生計画認可の決定が確定したとき。
 破産者が、破産手続開始の決定後、第二百六十五条の罪について有罪の確定判決を受けることなく十年を経過したとき。
 略
復権の決定)
第二百五十六条 破産者が弁済その他の方法により破産債権者に対する債務の全部についてその責任を免れたときは、破産裁判所は、破産者の申立てにより、復権の決定をしなければならない。
 略

 

第7号事由(一定の法人の拒否)

 本号は、法人が旅行業の登録をしようとするときに、当該法人の役員の中に第1号事由から第4号事由まで又は第6号事由のいずれかに該当する者がある場合に、登録を拒否する旨を定めています。

 

第8号事由(暴力団員等支配事業活動者の拒否)

 本号は、第3号事由において規定される暴力団員等に事業活動を支配されている者の登録を拒否する旨を定めています。

 例えば、暴力団員を反復的に利用したり、便宜供与等を通じて暴力団と一体であるとみなせる場合は本号の欠格事由に該当すると考えられます*14。産業廃棄物処理業の事案ですが、産業廃棄物処理業を営む法人の実質的な経営者が、暴力団を脱退後も当該暴力団の構成員と頻繁に連絡をとっていた等の事情を考慮して、暴力団員等がその事業活動を支配する者に該当すると判断したものとして、名古屋地判平成15年6月25日判時1852号90頁が参考になります。

 また、暴力団員等が事業活動を支配しているか否かについて、同様の欠格事由が定められている住宅宿泊事業者の場合は、住宅宿泊事業者に係る情報を警察と共有し、連携を図りながら把握していくこととされていますが*15、旅行業者についても同様の措置が採られているものと思われます。

 

第9号事由(旅行業務取扱管理者選任要件)

 本号は、旅行業務取扱管理者を必要な人数配置できない者の登録を拒絶する旨を定めています。

 「旅行業務取扱管理者を確実に選任すると認められない者」とは、旅行業取扱管理者としての資格を有する者が、社員として自社の営業所の数に匹敵するだけいないような者をいいます*16。旅行業務取扱管理者は、原則、他の営業所の旅行業務取扱管理者となることができません(複数の営業所を掛け持ちすることが許されません)ので(法11条の2第4項)、営業所の数だけ旅行業務取扱管理者の人数が必要です(例外として複数の営業所を掛け持ちできる場合がありますが、これは法11条の2について扱う回で詳説します。)。

 営業所とは、案内所、出張所、連絡書、サービスステーション等の名所の如何を問わず、実質的に旅行業務を取り扱う場所をいい(旅行業法施行要領第ニ.2.1))、営業所の登録が必要になりますが(法4条1項2号)、登録した営業所には旅行業務取扱管理者の選任が必要となります。

 なお、旅行業務取扱管理者は、どの営業所にも1人選任すればよいというものではなく、所属する従業員が10名以上の大規模な営業所において1人の旅行業務取扱管理者では所定の業務に関し管理、監督が十分できない場合には、2人以上の旅行業務取扱管理者を選任しておく必要があり(旅行業法施行要領第八.1))、この点も登録申請時に審査されるようです(例えば、東京都産業労働局「旅行業の新規登録を申請される方へ(第2種・第3種・地域限定)」第3⑸③参照)。

 

第10号事由(財産的基礎要件)

 本号は、登録業務範囲に応じて定められた基準資産額を満たさない者の登録を拒否する旨を定めています。

 基準資産額については、規則3条及び4条に定めがあります。

○旅行業法施行規則
(財産的基礎)
第三条 法第六条第一項第十号の国土交通省令で定める基準は、次条に定めるところにより算定した資産額(以下「基準資産額」という。)が、次の各号に掲げる区分に従い、当該各号に定める額以上であることとする。
 登録業務範囲が第一種旅行業務である旅行業(以下「第一種旅行業」という。)を営もうとする者 三千万円
 登録業務範囲が第二種旅行業務である旅行業(以下「第二種旅行業」という。)を営もうとする者 七百万円
 登録業務範囲が第三種旅行業務である旅行業(以下「第三種旅行業」という。)を営もうとする者 三百万円
 登録業務範囲が地域限定旅行業務である旅行業(以下「地域限定旅行業」という。)を営もうとする者 百万円
第四条 基準資産額は、第一条の四第一項第一号ニ又は第二号ハに規定する貸借対照表又は財産に関する調書(以下「基準資産表」という。)に計上された資産(創業費その他の繰延資産及び営業権を除く。以下同じ。)の総額から当該基準資産表に計上された負債の総額及び法第八条第一項に規定する営業保証金の額(新規登録の申請に係る基準資産額を算定する場合であつて申請者が保証社員(法第四十八条第一項に規定する保証社員をいう。以下同じ。)となることが確実であるとき、又は更新登録の申請に係る基準資産額を算定する場合であつて申請者が保証社員であるときには、法第四十九条の規定により納付すべきこととされる弁済業務保証金分担金の額)に相当する金額を控除した額とする。
 前項の場合において、資産又は負債の評価額が基準資産表に計上された価額と異なることが明確であるときは、当該資産又は負債の価額は、その評価額によつて計算するものとする。
 第一項の規定にかかわらず、前二項の規定により算定される額に増減があつたことが明確であるときは、当該増減後の額を基準資産額とするものとする。

 「繰延資産」とは、会社計算規則74条に規定する繰延資産をいい、「営業権」とは、同規則74条に規定するのれんをいいます(旅行業法施行要領第三.2.1)、2))。

 施行規則4条2項により資産の増加が認められる場合とは、固定資産の市場評価額が高騰しているなど市場性のある資産の再販売価格の評価額が、基準試算表計上額を上回る旨の証明があった場合とされ、同項により資産の額が減額される場合とは、①債権が保全されておらず、請求権の行使ができない資産、又は相手方の倒産等により回収不能と認められる資産を計上していた場合、②債権の存在が明らかでない資産を計上していた場合とされています(旅行業法施行要領第三.2.3)、4))。

 同条3項により資産の増減がなされる場合とは、①公認会計士又は監査法人による監査証明を受けた中間決算による場合、②増資、贈与、債務免除等があったことが証明された場合とされています(旅行業法施行要領第三.2.5))。

 本号は、旅行業を営もうとする者に対してのみ適用され、旅行業者代理業を営もうとする者に対しては適用されません。旅行業者代理業者は、所属旅行業者を代理して業務を行うものですので、所属旅行業者が財産的基礎要件を満たしていれば、旅行者が不利益を被ることはないためです*17*18

 なお、旅行業界は利益率が、第1種旅行業者であっても1%未満であること*19から、基礎資産要件を緩和すべきとの意見も出ています。これに対して、国土交通省は、現時点では、旅行業者の状況に応じ、資産の再評価や増資を通じて基準資産要件を満たすことを確認するなど、柔軟な対応を行っているものの、消費者保護の観点から基準資産要件を抜本的に見直すことは考えていない旨述べています*20私見としても、旅行者の利益を保護する観点から設けられた基準資産要件を緩和するのは、妥当とは言えないと考えます。

 

第11号事由(二者以上の代理の禁止)

 本号は、旅行業者代理業を営もうとする者が複数の旅行業者を代理する場合に、その登録を拒絶する旨を定めています。

 財産的基礎のない旅行業者代理業者が、自己の名において、または無権代理によって業務を行ったとすれば、旅行者の利益が害されてしまいます。そこで、本号は、旅行業者代理業者は所属旅行業者の専属として、所属旅行業者の監督責任を強化しようとする趣旨に出たものです。所属旅行業者の専属とすることで、仮に無権代理行為が発生した場合であっても、所属旅行業者の表見代理が成立し、旅行者の保護が図られる余地が高くなります*21

 

登録拒否の通知

 登録申請を受けた行政庁が採るべき手続は、次のとおり定められています。

○旅行業法
(登録の拒否)
第六条 略
 観光庁長官は、前項の規定による登録の拒否をした場合においては、遅滞なく、理由を付して、その旨を申請者に通知しなければならない。

 

 登録申請を受けた行政庁は、登録拒否をした場合には、申請者に対して、理由を付したうえで登録拒否した旨を通知する必要があります。行政処分の手続の公正を確保するとともに、登録拒否された申請者に対して不服申立ての資料を提供する趣旨で行われるものです。

 当該通知の法的性質等については、第7回の記事において詳説しましたので、そちらをご確認ください。

 

まとめ

 旅行業の登録審査は、行手法の適用があるため、欠格事由に対する審査基準がある程度明確に定められています。登録申請を行う際には、各登録行政庁のホームページ等を確認するようにしてください。

 

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*1:東京高判平成26年6月20日高刑速平成26年67頁は、法3条の合憲性を判断するに当たり、登録の拒否の必要性について、「同法の目的が旅行業務に関する取引の公正の維持,旅行の安全の確保及び旅行者の利便の増進を図ることにある(同法1条)からであり,その目的のためには,一定の不適格者を事前に排除し,無登録者が不当な利益のために旅行者と運送等サービス提供者との間に介入する行為等を防止する必要性が高い。」と説示した原判決を是認しています。

*2:旅行法制研究会『旅行業法解説〔第3版〕』(トラベルジャーナル、1992年)79頁

*3:前掲旅行業法解説80頁

*4:前掲旅行業法解説80頁

*5:観光庁参事官「改正旅行業法による暴力団排除規定の運用について」(平成29年12月28日)

*6:前掲旅行業法解説80頁

*7:佐久間毅『民法の基礎Ⅰ総則〔第4版〕』(有斐閣、2018年)84頁

*8:この場合に当該法律行為を取り消す資格(取消権)は、未成年者と法定代理人の双方に発生します。

*9:商業登記には、未成年者の氏名、出生年月日、住所、営業の種類、営業所が登記されることになります(商業登記法35条1項)。

*10:新規登録の添付書類としても必要です(施行規則1条の4第1項2号ロ)。

*11:この法律は、認知症、知的障害その他の精神上の障害があることにより財産の管理や日常生活等に支障がある者を社会全体で支え合うことが、高齢社会における喫緊の課題であり、かつ、共生社会の実現に資することであるところ、成年後見制度はこれらの者を支える重要な手段であるにもかかわらず十分に利用されていないことに鑑み、成年後見制度の利用の促進に関する施策を総合的かつ計画的に推進するため、成年後見制度の利用の促進について、その基本理念等を定めるとともに、成年後見制度利用促進会議を設置する等の措置を講ずるものとして制定されたものです。厚生労働省成年後見制度促進」参照

*12:名古屋高判令和4年11月15日判タ1514号54頁

*13:観光庁旅行業法における各種様式」欠格事項に該当しない旨の宣誓書参照

*14:毛利信二政府参考人発言024(建設業法における本号と同様の欠格事由に関する発言)

*15:第193回国会参議院国土交通委員会第20号田村明比古政府参考人発言069

*16:前掲旅行業法解説80頁

*17:前掲旅行業法解説81頁

*18:かつては、旅行業者代理業者(当時の代理店業者)が、自ら取引の主体となって営業している例がみられ、これを防止するためにあえて「資力信用」が要求されていましたが、旅行業者代理業者の業務は、第一次的には本人たる旅行業者が責任をもって管理することが本来の姿であることから、財産的基礎の要件を外すとともに、本人の管理監督が万全となるよう、複数の者を代理することを禁止するようになりました(前掲旅行業法解説82頁)。

*19:国土交通省平成18年版観光白書

*20:第211回国会参議院決算委員会第9号斉藤鉄夫国交相大臣発言

*21:前掲旅行業法解説81頁

旅行法令研究〔第7回〕~旅行業法編:旅行業・旅行業者代理業の登録制度③(第5条)~

 前回まで、旅行業又は旅行業者代理業の登録を受けようとする申請者(以下「登録申請者」といいます。)側の手続について概観しましたが、今回は、「登録申請者から申請を受ける側」について取り上げます。前回の記事はこちら↓↓↓

ds-law.hatenablog.jp

 

登録申請者による申請の法的性質

 前回の記事でも解説したように、登録申請者は、その登録を受けようとする業種の別にしたがって、それぞれに対応した行政庁に登録申請を行います。

 ここまで、登録申請者が行政庁に対して登録を求める行為のことを「申請」と呼称してきており、法5条1項でも「申請」という言葉が使われています。

 

○旅行業法
(登録の実施)
第五条 観光庁長官は、前条の規定による登録の申請があつた場合においては、次条第一項の規定により登録を拒否する場合を除くほか、次に掲げる事項を旅行業者登録簿又は旅行業者代理業者登録簿に登録しなければならない。
 前条第一項各号に掲げる事項
 登録年月日及び登録番号
 (略)

 

 このような「申請」という言葉を見たとき、それが行政手続法2条3号にいう「申請」に該当するのかが問題となり得ます。

 

○行政手続法
(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
 (略)
 申請 法令に基づき、行政庁の許可、認可、免許その他の自己に対し何らかの利益を付与する処分(以下「許認可等」という。)を求める行為であって、当該行為に対して行政庁が諾否の応答をすべきこととされているものをいう。
四~ (略)

 

 行政手続法上の「申請」に該当するのであれば、行政手続法上の「申請に対する処分」の手続が保障されるほか、申請に対する行政庁の応答は「処分」に当たり、これに不服がある場合には、審査請求(行政不服審査法3条)、取消訴訟及び申請満足型義務付け訴訟(行政事件訴訟法3条6項2号)で争うことができるようになります*1

 もっとも、法文上「申請」という言葉が使われていても、それが直ちに行政手続法上の「申請」に該当するわけではありませんので、別途判断を必要とします*2

 

授益処分を求める行為であること

 法文から分かるように、「申請」の概念の中心的要素は、自己に対し何らかの利益を付与する処分(授益処分)を求める行為であることです*3

 法文上は「行政庁の許可、認可、免許」が明記されていますが、これは例示的列挙であって、これらに限定されるものではなく、承認、認定、決定、検査、登録等も含まれます*4

 旅行業法では「登録」制度を採用しています。「登録」とは、第5回の記事(旅行法令研究〔第5回〕~旅行業法編:旅行業・旅行業者代理業の登録制度①(第3条)~ - 弁護士清水大地のブログ)でも触れたように、一定の法律事実又は法律関係を行政庁等に備える公簿に記載することをいいます。したがって、登録の主たる効果は、これらの法律事実又は法律関係の存否を公に表示し、または証明することにあり、旅行業法上の登録にあっても、ある者が旅行業を営む資格を有する者である旨、その者の住所、営業所所在地等の事項を公に表示するという効果をもちます*5。また、登録を受けて初めて旅行業を営むことができるという旅行業法の建前からすれば、旅行業法上の登録の効果は、営業の許可の方法としても使われています*6。このような効果からすれば、旅行業法上の登録は、申請者に対し、旅行業を営んでもよいという地位を付与する行為であるといえるため、登録のための申請は授益処分を求める行為であるということができます。

 

法令に基づくものであること

 法文から明らかなように、授益処分を求める行為が法令に基づいて行われる必要があります。

 この点、旅行業又は旅行業者代理業の登録を求める行為は、旅行業法に基づいて行われるものですので、この要件は満たします。

 

当該行為に対して行政庁が諾否の応答をすべきこととされているものであること

 行政手続法上の「申請」にあたるのは、当該申請に対して行政庁が諾否の応答義務を課せられている場合、すなわち、申請人の側に法令上申請権がある場合に限られます。したがって、申請に対する行政庁の応答が、行政庁の裁量にあるにすぎない場合には、行政手続法上の「申請」にはあたりません*7。申請人に法令上申請権が認められているかどうかの判断は、当然ですが、行政手続法の規定ではなく、個別法の規定の解釈によって行われます*8

 この点、旅行業法は、登録行政庁は、申請者が第6条に規定する登録拒否事由に該当しないのであれば登録しなければならず(法5条1項柱書)、登録をした場合であっても、登録の拒否をした場合であっても、その旨を申請者に通知しなければならないと規定しています(法5条2項、6条2項)。このように、登録行政庁においては、申請者から申請があれば、登録をするかしないかの判断を行い、その判断を申請者に対して示さなければならない仕組みになっていることからすれば、登録行政庁は、申請者による申請に対して応答すべき義務があり、それはすなわち申請者が登録行政庁に登録の認否を要求する権利を有するものと解されます。

 したがって、旅行業法上の申請は、これに対して行政庁が諾否の応答をすべきこととされているものと考えられます。

 以上から、旅行業法上の申請は、行政手続法上の「申請」に該当すると解されます。

 

実際に「申請に対する処分」として扱われていること

 以上述べたとおり、旅行業法上の登録の申請は行政手続法上の申請に該当すると解されますが、観光庁は、旅行業法上の登録が行政手続法上の申請に対する処分に該当することを前提として各種取扱いを定めており、実務上も旅行業法上の登録の申請が行政手続法上の申請に該当するものとして取り扱われています。

 行政手続法上の申請に対する処分を行う場合には、当該処分をするにあたっての審査基準を設定・公表することが義務付けられている(行政手続法5条)とともに、申請があってから処分を行うまでの標準処理期間を定めておく努力義務が課せられます(行政手続法6条)。

○行政手続法
(審査基準)
第五条 行政庁は、審査基準を定めるものとする。
 行政庁は、審査基準を定めるに当たっては、許認可等の性質に照らしてできる限り具体的なものとしなければならない。
 行政庁は、行政上特別の支障があるときを除き、法令により申請の提出先とされている機関の事務所における備付けその他の適当な方法により審査基準を公にしておかなければならない。
(標準処理期間)
第六条 行政庁は、申請がその事務所に到達してから当該申請に対する処分をするまでに通常要すべき標準的な期間(法令により当該行政庁と異なる機関が当該申請の提出先とされている場合は、併せて、当該申請が当該提出先とされている機関の事務所に到達してから当該行政庁の事務所に到達するまでに通常要すべき標準的な期間)を定めるよう努めるとともに、これを定めたときは、これらの当該申請の提出先とされている機関の事務所における備付けその他の適当な方法により公にしておかなければならない。

 観光庁は、旅行業法上の登録について、その審査基準を「旅行業法」、「旅行業法施行規則」、「旅行業者等が旅行者と締結する契約等に関する規則」、「旅行業法施行要領」とし、標準処理期間を60日とする旨定めています*9

 また、例えば、東京都では、申請から登録決定までの標準処理期間を30~40日としています*10

 

行政庁による登録審査

 旅行業の登録を希望する者が、必要書類をまとめて所轄の行政庁に申請を行うと、当該行政庁において、登録審査が行われます。

 

○旅行業法
(登録の実施)
第五条 観光庁長官は、前条の規定による登録の申請があつた場合においては、次条第一項の規定により登録を拒否する場合を除くほか、次に掲げる事項を旅行業者登録簿又は旅行業者代理業者登録簿に登録しなければならない。
 前条第一項各号に掲げる事項
 登録年月日及び登録番号
 観光庁長官は、前項の規定による登録をした場合においては、遅滞なく、その旨を登録の申請者に通知しなければならない。

 

「次条第一項の規定により登録を拒否する場合を除くほか」

 法5条1項は、法6条1項の規定により登録を拒否する場合を除くほかは、申請に係る登録を行わなければならない旨規定しています。つまり、行政庁は、法6条1項所定の事由が認められる場合に限って登録を拒否することができるのであり、その他の場合にまで裁量的に登録拒否を行ってはならないわけです。したがって、行政庁が審査を行うのは、法6条1項所定の事由の該当性のみです。

 なお、登録審査とは直接関係しませんが、都道府県によっては、法人が申請する場合には、商号が既存旅行業者と類似することを避けるため、申請書提出前に電話確認を必要とする場合や、定款等所定の目的に旅行業の登録を申請するときは「旅行業」あるいは「旅行業法に基づく旅行業」、旅行業者代理業の登録を申請するときは「旅行業者代理業」あるいは「旅行業法に基づく旅行業者代理業」の記載を必要とする場合がありますので、注意が必要です*11

 

「旅行業者登録簿又は旅行業者代理業者登録簿」

 登録が行われると、旅行業者は「旅行業者登録簿」に、旅行業者代理業者は「旅行業者代理業者登録簿」に、それぞれ登録が行われます。この「旅行業者登録簿」及び「旅行業者代理業者登録簿」がどのようなものかについては、施行規則2条に定めがあります。

 

○旅行業法施行規則
(旅行業者登録簿及び旅行業者代理業者登録簿の様式)
第二条 法第五条第一項の旅行業者登録簿及び旅行業者代理業者登録簿の様式は、第三号様式とする。

 

 「第三号様式」の見本は、こちらから見ることができます。

 この様式にあるように、登録が行われると、氏名・住所・営業所の所在地等が記載された登録簿が作成され、公に表示されることとなります(法21条)。

 

「遅滞なく」

 法5条2項は、登録を行った場合には、その旨を、遅滞なく登録の申請者に通知することを定めています。

 「遅滞なく」とは、時間的即時性を強く表す場合に用いられる語です。もっとも、「直ちに」とは異なり、正当な又は合理的な理由による遅滞は許容されるものと解されています*12*13

 

「通知」

 登録行政庁は、旅行業等の登録申請に対して登録を行った場合には、登録申請者に対して、登録を行った旨の通知を行うものとされています。この通知は、登録通知書等の書面によってされます。

 登録通知書には、登録された旅行業者等の名称又は氏名、商号、登録番号、登録年月日、登録有効期間等が記載されており、この記載のとおり登録された旨が記載されています。

 

第7回のまとめ

 旅行業・旅行業者代理業の登録手続は、上記のように登録申請が行手法上の申請とされているため、各登録行政庁において具体的に定められていることが多いです。旅行業等の登録申請を行う場合には、予め、各登録行政庁のホームページ等で手続を確認しておくのがよいでしょう。

 

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*1:曽和俊文ほか『事例研究行政法〔第3版〕』(日本評論社,2016年)52頁

*2:この点について、宇賀克也『行政法概説Ⅰ行政法総論〔第7版〕』(有斐閣,2020年)452頁は、「行政手続法の制定過程では,同法の『申請』に該当するものにはどのようなものがあり,『届出』に該当するものにはどのようなものがあるかについての検討はなされたが,たとえば,個別の法律で『申請』という用語が使用されていても,行政手続法にいう『届出』に該当する場合に,個別の法律を改正して用語を整理するという作業までは行われなかった。したがって,個別の法律で使用されている用語にとらわれず,行政手続法の『申請』か『届出』かを検討する必要がある。」と指摘しています。

*3:室井力ほか『コンメンタール行政法Ⅰ〔第2版〕行政手続法・行政不服審査法』(日本評論社,2008年)25頁

*4:一般財団法人行政管理研究センター『逐条解説行政手続法〔改正行審法対応版〕』(ぎょうせい,2016年)22頁

*5:旅行業法制研究会『旅行業法解説〔第3版〕』58頁

*6:前掲旅行業法解説58頁

*7:宮田三郎『行政手続法』(信山社,1999年)83頁

*8:塩野宏行政法Ⅰ〔第6版〕行政法総論』(有斐閣,2015年)317頁

*9:観光庁参事官(産業政策担当)「旅行業法における申請に対する処分の審査基準及び標準処理期間について」観観産第622号・平成29年12月28日

*10:東京都「旅行業の新規登録を申請される方へ(第2種・第3種・地域限定)

*11:東京都「旅行業の新規登録を申請される方へ(第2種・第3種・地域限定)」第3⑵、大阪府旅行業登録制度・主な手続きについて(大阪府)

*12:法令用語研究会『有斐閣法律用語辞典〔第5版〕』(有斐閣,2020年)781頁

*13:法令上、時間的即時性を求める場合には、「直ちに」、「速やかに」、「遅滞なく」の3種類が用いられます。「直ちに」という場合には、「遅滞なく」に比べて一切の遅滞が許されず、「速やかに」比べて急迫の程度が高いものとして用いられることが多いです(前掲法律用語辞典763頁)。「速やかに」という場合には、「直ちに」や「遅滞なく」に比べて中程度の時間的近接性を求めるもので、「できるだけ」、「できる限り」などを付けて又はそのままで訓示的な意味で用いられます(前掲法律用語辞典664頁)。