弁護士清水大地のブログ

日頃考えたことを徒然なるままに書き散らします。

旅行法令研究〔第9回〕~旅行業法編:旅行業・旅行業者代理業の登録制度⑤(第6条の2)~

 今回は、旅行業法における登録制度を支える重要な要素の一つである、有効期間に関する規定について概観します。

 前回の記事はこちら↓↓↓

ds-law.hatenablog.jp

 

 

旅行業の登録の有効期間

 旅行業法6条の2は、旅行業の登録の有効期間を、登録の日から起算して5年とする旨を定めています。

○旅行業法
(登録の有効期間)
第六条の二 旅行業の登録の有効期間は、登録の日から起算して五年とする。

 

 「登録の日」とは、登録行政庁に備える登録簿に搭載された日をいいます(登録申請書類等を提出した日ではありません。)。登録日は、登録行政庁から送られてくる通知等で確認することができます。

 旅行業法は、消費者保護の観点から、3条以下で登録制度を採用しており、登録にあたっては、登録範囲に応じた財産的基礎が要求されています(法6条1項10号)。財産的基礎は、登録の可否の基準の中で最も重要であり、旅行業者が営業を継続する間この要件を満たし続けなければ消費者保護に欠けてしまいます。そのため、旅行業者が財産的基礎の要件を満たしているか否かのチェックは、登録申請時だけでは不十分であり、定期的な確認が必要です。そのため、旅行業法は、旅行業の登録の有効期間を設けて、5年ごとに登録基準に適合しているか否かを確認することとしました*1

 なお、この有効期間は、かつては登録の日から3年とされていましたが、許可等の有効期間の延長に関する法律(平成9年法律第105号・同年11月21日施行)*215条に基づく法改正により、5年に延長されました。

 

本条の適用範囲

 本条は、「旅行業の登録の有効期間」と規定されていることから分かるように、旅行業に対してのみ適用されます。したがって、旅行業者代理業に対しては本条の適用はないため、旅行業者代理業の登録には有効期間の定めはありません。

 旅行業者代理業については、登録審査に当たり、財産的基礎の確認が行われないうえ(法6条1項10号)、経営者・役員の適格性や旅行業務取扱管理者の存否に対する確認は、所属旅行業者の登録の更新を通して行われるとともに、随時行う立入検査(法70条3項、4項)によって担保されるため、あえて有効期間を設けて適格性を審査する必要性が乏しいからです*3

 

本条違反の効果

 有効期間を過ぎた登録によって旅行業を営むことは、当然に無登録営業となり、罰則(法74条1号)の適用があるほか、再度の登録審査における欠格事由(法6条1項2号)となります。

 

まとめ

 以上のように、旅行業の登録の有効期間は、旅行業の登録制度を支える重要な要素の一つです。旅行業を5年を超えて継続するのであれば、当然に登録を更新する必要がありますが、登録の更新時期に合わせて登録範囲の変更等を考える場合には、有効期間内に登録範囲の変更手続も間に合うように留意が必要です。

 

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*1:旅行法制研究会『旅行業法解説〔第3版〕』(トラベルジャーナル,1992年)83頁

*2:この法律は、平成9年2月の閣議決定「申請負担軽減対策」に基づき、申請等に伴う手続きの簡素化、電子化、ペーパーレス化などを迅速かつ強力に推し進め、今世紀中に申請等に伴う国民の負担感を半減することを目標として、諸対策の実現に努めるとされたところ、その一環として、有効期間のある許認可等について、「明らかに不適切なものを除き、原告の有効期間を倍化する。倍化が困難なケースでも最大限延長する。」という方針に沿って見直しを行い、16法律にわたる改正を一括法として取りまとめたものです。第141回国会衆議院本会議第8号小里貞利中央省庁改革等担当大臣発言006。

*3:前掲旅行業法解説83頁

旅行法令研究〔第8回〕~旅行業法編:旅行業・旅行業者代理業の登録制度④(第6条)~

 前回は、登録申請を受けた行政庁の手続について触れましたが、今回は、登録申請を受けた行政庁が、その登録を拒否する場合について概観します。

 前回の記事はこちら↓↓↓

 

 

登録拒否の目的

 旅行業法6条は、旅行業・旅行業者代理業の登録申請を受けた行政庁が、その登録を拒否しなければならない場合として11の欠格事由を掲げています。

○旅行業法

(登録の拒否)
第六条 観光庁長官は、登録の申請者が次の各号のいずれかに該当する場合には、その登録を拒否しなければならない。
 第十九条の規定により旅行業若しくは旅行業者代理業の登録を取り消され、又は第三十七条の規定により旅行サービス手配業の登録を取り消され、その取消しの日から五年を経過していない者(当該登録を取り消された者が法人である場合においては、当該取消しに係る聴聞の期日及び場所の公示の日前六十日以内に当該法人の役員であつた者で、当該取消しの日から五年を経過していないものを含む。)
 禁錮以上の刑に処せられ、又はこの法律の規定に違反して罰金の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなつた日から五年を経過していない者
 暴力団員等(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成三年法律第七十七号)第二条第六号に規定する暴力団員又は同号に規定する暴力団員でなくなつた日から五年を経過しない者をいう。第八号において同じ。)
 申請前五年以内に旅行業務又は旅行サービス手配業務に関し不正な行為をした者
 営業に関し成年者と同一の行為能力を有しない未成年者でその法定代理人が前各号又は第七号のいずれかに該当するもの
 心身の故障により旅行業若しくは旅行業者代理業を適正に遂行することができない者として国土交通省令で定めるもの又は破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者
 法人であつて、その役員のうちに第一号から第四号まで又は前号のいずれかに該当する者があるもの
 暴力団員等がその事業活動を支配する者
 営業所ごとに第十一条の二の規定による旅行業務取扱管理者を確実に選任すると認められない者
 旅行業を営もうとする者であつて、当該事業を遂行するために必要と認められる第四条第一項第三号の業務の範囲の別ごとに国土交通省令で定める基準に適合する財産的基礎を有しないもの
十一 旅行業者代理業を営もうとする者であつて、その代理する旅行業を営む者が二以上であるもの
 略

 このように、旅行業法が予め欠格事由を定めているのは、旅行業法そのものの目的によります。すなわち、第2回の記事で取り上げたように、旅行業法が制定された目的は、①旅行業務に関する取引の公正の維持,②旅行の安全の確保,③旅行者の利便の増進の3つでした。適正な旅行業者・旅行業者代理業者が適切に業務を遂行するのでなければ、旅行者の利益が害されるおそれがあります。したがって、これらの目的達成のためには、予め旅行業者・旅行業者代理業者となろうとする者に対して、業務の適正を維持させるための一定の要件を課し、これを満たさない者については、適正な業務が期待できないものとして旅行業者・旅行業者代理業者から排除する必要があります*1。この一定の要件を掲げ、登録制度の実効性を確保しているのが法6条1項です。

 

欠格事由

欠格事由の分類

 上記のように、法6条1項は、欠格事由を11項目規定しています。これらの欠格事由は、主に次の3つの観点から分類されます*2

⑴ 信頼性の確保

  •  旅行業法を遵守しなかった旅行業者・旅行業者代理業者、またはそれに準ずる者の一定期間の排除(法6条1項1号、4号、5号、7号)
  •  無登録で営業を行った者の一定期間の排除(法6条1項2号、5号、7号)
  •  一般に刑罰(特に詐欺、横領などの財産に関するものを含む)に処せられた者の一定期間の排除(法6条1項2号、5号、7号)
  •  暴力団の排除(法6条1項3号、8号)

⑵ 健全経営の確保

  •  一般的に財産管理能力がないとされている者の排除(法6条1項6号、7号)
  •  旅行業を営んでいくのに最低限必要と思われる財産的基礎のない者の排除(法6条1項10号)

⑶ 旅行業法遵守の確保

  •  前記⑴①②と同様
  •  旅行業務取扱管理者を選任することができない者の排除(法6条1項9号)
  •  取引関係の不明確さをもたらすような者の排除(法6条1項11号)

 

欠格事由各論

第1号事由(登録取消し後の一定期間拒否)

 法19条及び法37条は、法の規定に違反する行為(以下「法違反行為」といいます。)を行った者に対して、行政上のペナルティとして、6か月以内の業務停止又は登録取消しを行うことができる旨を定めています。本号は、このうち、より処罰の程度が重い登録取消しが行われた者に限定して、再度の登録を一定期間拒否する旨を規定しています。

 かっこ書きは、法19条により、法人が旅行業の登録を取り消された場合において、取消処分のときには役員でなかった者でも、取消事由となった事柄に役員として参画していたときには、その者にも責任があるから、5年間は旅行業の登録を与えない趣旨です*3。ここでいう「役員」とは、例えば、①株式会社にあっては取締役、執行役、会計参与(会計参与が法人であるときは、その職務を行うべき社員)及び監査役、②合名会社、合資会社及び合同会社にあっては定款をもって業務を執行する社員を定めた場合は当該社員、その他の場合は総社員、③公益財団法人、公益社団法人一般財団法人及び一般社団法人にあっては理事及び監事、④独立行政法人等にあっては、総裁、理事長、副総裁、副理事長、専務理事、理事、監事等法令により役員として定められている者をいいます(旅行業法施行要領第二.2.6))。

 

第2号事由(刑罰を受けた者の拒否)

 本号は、法違反行為か否かに関わらず禁錮以上の刑に処せられた者、又は法違反行為により罰金刑に処せられた者の登録を一定期間拒否する旨を定めています。

 刑事罰における刑の軽重は、【重い方←】死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留、科料【→軽い方】の順となりますので(刑法9条、10条1項)、「禁錮以上の刑」とは、死刑、懲役及び禁錮をいいます。したがって、拘留や科料の刑に処せられたに留まる者は、本号の欠格事由には該当しません。また、刑法上あるいは旅行業法以外の特別法違反を理由とする罰金刑に処せられた者も、本号の事由には該当しませんが、旅行業法に違反する行為を理由に罰金刑に処せられた者は、本号の欠格事由に該当します。

 なお、現在、懲役及び禁錮を拘禁刑に一本化する旨の刑法の改正が行われ、これが令和7年6月1日に施行される予定ですが、これに伴い、本号の「禁錮以上の刑」も「拘禁刑以上の刑」に改められます(刑法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整理等に関する法律(令和4年法律第68号)367条)。

 

「この法律に違反して罰金の刑に処せられ」の意義

 第1号事由において説明したように、法違反行為に対しては、業務停止又は登録取消しの処分も定められていますが、第1号事由では、このうち、登録取消処分だけが欠格事由に該当することになっています。このことから、法は、業務停止処分に留まった者に対しては登録拒否までは行わないという態度を明らかにしているものと考えられます。

 一方で、法違反行為の多くに対しては罰金刑が定められていますが、行政上の処分が業務停止に留まる場合にも罰金刑を受けたことをもって登録拒否するとなれば、第1号事由において業務停止に留まる者を除外した取扱いと矛盾してしまいます。

 そのため、「この法律の規定に違反して罰金の刑に処せられ」は、無登録で営業していたため、法74条により100万円以下の罰金刑を受けた者が、旅行業者となることを5年間禁ずるためのものであり、それに限られると解されています*4

 

第3号事由(暴力団員等の拒否)

 本号は暴力団員が旅行業界に参入するのを阻止するための規定です。本号は、通訳案内士法及び旅行業法の一部を改正する法律(平成29年法律第50号・平成30年1月4日施行)による法改正で新設されたものです。

 「暴力団員」とは、暴力団の構成員をいい(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律2条6号)、「暴力団」とは、その団体の構成員(その団体の構成団体の構成員を含む。)が集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれがある団体をいいます(同条2号)。

 登録審査の実務においては、登録申請者が暴力団員等に該当するか否かの確認は、登録申請者から暴力団員等に該当しない旨の誓約書の提出を受けることをもって担保しています*5

 

第4号事由(不正行為者の拒否)

 本号は、旅行業務に関し不正な行為をしたことがある者を一定期間排除する旨を定めています。

 「旅行業務に関し不正な行為をした」とは、旅行業者、旅行業者代理業者又は旅行サービス手配業者の役員又は使用人として横領、脱税、詐欺、粉飾決算等の主に経済事犯に問われた場合のほか、旅行業者又は旅行業者代理業者及び旅行サービス手配業者の登録の取消処分のための聴聞通知を出したところ、事業廃止届出書を提出してきたため、処分されなかった場合も含まれます(旅行業法施行要領第三.1)*6

 

第5号事由(未成年者の拒否)

 本号は、未成年者による旅行業の登録を原則として拒否する旨を規定しています。

 「未成年者」とは、年齢18歳に達しない者をいいます(民法4条)。

 「行為能力」とは、法律行為を自分一人で確定的に有効に行うことができる資格をいいます*7

 「営業に関し成年者と同一の行為能力を有しない未成年者」とは、一種若しくは数種の営業を許されていない未成年者、これを許された未成年者であるものの当該営業に旅行業等が含まれない未成年者、旅行業等を含んだ営業を許されたものの法定代理人にその許可を取り消され、又は制限された未成年者をいいます(民法6条参照)。

 未成年者は、原則、法律行為をするにあたり法定代理人の同意を要し(民法5条1項)、法定代理人の同意を得ずに行われた法律行為は取り消すことができ(同条2項)*8、取消権の行使として取消しの意思表示がされると、当該法律行為は初めから無効であったものとみなされます(民法121条)。そのため、全ての未成年者が旅行者との間で旅行に関する法律行為を行うことができるとすると、都度、法定代理人の同意を得る必要があるうえ、未成年者側が同意を得ずして旅行業に関する法律行為を行った場合にはいつでもこれを取り消して無効とすることができてしまいます。それでは、旅行者からすれば、法律関係が不安定になり、不測の不利益を与えることになりかねません。そこで、旅行業の登録をするに当たっては、未成年者が予めその法定代理人から許可を得て、旅行業に関する法律行為を単独で有効に行うことができる状態にあることを必要としています。

 なお、未成年者が営業を行うときは、その登記をする必要があります(商法5条)*9法定代理人の許可を公示する一般的な方法はありませんが、上記登記の申請をする際には、法定代理人の許可を得たことを証する書面を申請書に添付する必要があるため(商業登記法37条1項)*10、上記登記をもって事実上法定代理人の許可を受けているか否かを前もって確認することができます。

 

第6号事由(心身故障者等の拒否)

 本号は、業務の適正な遂行が期待できない者及び破産手続開始決定後復権を得ていない者について登録を拒否するものです。

 

心身故障者等の場合

 「心身の故障により旅行業若しくは旅行業者代理業を適正に遂行することができない者として国土交通省令で定めるもの」については、施行規則2条の2にその定めがあります。

○旅行業法施行規則
(心身の故障により旅行業又は旅行業者代理業を適正に遂行することができない者)
第二条の二 法第六条第一項第六号の国土交通省令で定める者は、精神の機能の障害により旅行業又は旅行業者代理業を適正に遂行するに当たつて必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者とする。

 本号の心身故障者等に関する部分は、従前、「成年被後見人若しくは被保佐人」(以下「成年被後見人等」といいます。)と定められていました。しかし、成年後見制度の利用の促進に関する法律(平成28年法律第29号)*11に基づく措置として、成年被後見人等の人権が尊重され、成年被後見人等であることを理由に不当に差別されないよう、成年被後見人等を資格・職種・業務等から一律に排除する欠格条項を設けている各制度について、心身の故障等の状況を個別的・実質的に審査し、各制度ごとに必要な能力の有無を判断する規定へと適正化する必要がありました。その一環として、旅行業に登録する者の欠格事由についても、個別的審査を可能とするように改正がなされました(成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律(令和元年法律第37号・同年9月14日施行)151条)。

 なお、上記の改正経緯に関連して、同じく業法である警備業法において、被保佐人であることを欠格事由とする定めがおかれていたところ、この規定が制定当初から憲法14条、22条1項に反するものであり、国会が同規定を改廃しなかったのが国家賠償法の適用上違法であるとされた裁判例があります*12。この裁判例では、家庭裁判所における保佐開始の審判の手続においては、自己の財産を管理・処分する能力を離れ、認知能力、判断能力等の全般的な能力や警備業務を適正に行うことが期待できるか否かが医学的に診断ないし鑑定されるものではないこと、警備業務として盗難等から財産を守るのに、契約等についてその利害得失を判断する能力や抽象的、概念的思考等が必要とされているとは考え難いし、交通誘導の警備業務において、他人の財産を預かり管理することが求められているとは通常考えられないことなどが指摘されています。それでは、旅行業法においてもかつて被後見人等が欠格事由とされていたことについて、同様に違憲違法といえるかが問題となりますが、旅行業においては旅行者から財産を直接財産を預かって旅行商品を提供したり旅行者に代わって運送サービス等の手配を行うこと、そのため旅行業者には財産的基礎が要求されていることなどからすると、旅行業の営業にあたっては自己の財産を管理・処分する能力そのものが問題とされることとなります。そうすると、旅行業法が、被後見人等を欠格事由としていたことが不合理であるとは直ちにはいえないと思います。したがって、上記裁判例の射程は、旅行業法のケースには及ばないものと考えます。

 「精神の機能の障害により旅行業又は旅行業者代理業を適切に遂行するに当たって必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うこと」ができるか否かの確認は、厚生労働省社会・援護局福祉基盤課が関係部署に宛てた通達において、誓約書等により候補者本人にこれらの者に該当しないことの確認を行う方法で差し支えなく、必要に応じて医師の診断書等により確認することが考えられる旨述べていることが参考になります。上記のような本号の改正の趣旨からすれば、成年被後見人又は被保佐人であることのみをもって本号の欠格事由に当たるとすることはできません。観光庁は、第1種旅行業の登録申請の際に、本号所定の事由を包含した欠格事由に該当しない旨の誓約書を提出させることとしており*13都道府県においても概ね同様の宣誓書を提出させることとしているようです。

 

破産者の場合

 「復権」とは、破産者が破産手続開始決定により喪失した法律上の資格を回復することをいいます。

 「破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者」とは、破産手続開始決定を受けた者で、破産法255条1項各号事由に該当せず、同法256条1項の復権の決定を受けていないものをいいます。

○破産法
復権
第二百五十五条 破産者は、次に掲げる事由のいずれかに該当する場合には、復権する。次条第一項の復権の決定が確定したときも、同様とする。
 免責許可の決定が確定したとき。
 第二百十八条第一項の規定による破産手続廃止の決定が確定したとき。
 再生計画認可の決定が確定したとき。
 破産者が、破産手続開始の決定後、第二百六十五条の罪について有罪の確定判決を受けることなく十年を経過したとき。
 略
復権の決定)
第二百五十六条 破産者が弁済その他の方法により破産債権者に対する債務の全部についてその責任を免れたときは、破産裁判所は、破産者の申立てにより、復権の決定をしなければならない。
 略

 

第7号事由(一定の法人の拒否)

 本号は、法人が旅行業の登録をしようとするときに、当該法人の役員の中に第1号事由から第4号事由まで又は第6号事由のいずれかに該当する者がある場合に、登録を拒否する旨を定めています。

 

第8号事由(暴力団員等支配事業活動者の拒否)

 本号は、第3号事由において規定される暴力団員等に事業活動を支配されている者の登録を拒否する旨を定めています。

 例えば、暴力団員を反復的に利用したり、便宜供与等を通じて暴力団と一体であるとみなせる場合は本号の欠格事由に該当すると考えられます*14。産業廃棄物処理業の事案ですが、産業廃棄物処理業を営む法人の実質的な経営者が、暴力団を脱退後も当該暴力団の構成員と頻繁に連絡をとっていた等の事情を考慮して、暴力団員等がその事業活動を支配する者に該当すると判断したものとして、名古屋地判平成15年6月25日判時1852号90頁が参考になります。

 また、暴力団員等が事業活動を支配しているか否かについて、同様の欠格事由が定められている住宅宿泊事業者の場合は、住宅宿泊事業者に係る情報を警察と共有し、連携を図りながら把握していくこととされていますが*15、旅行業者についても同様の措置が採られているものと思われます。

 

第9号事由(旅行業務取扱管理者選任要件)

 本号は、旅行業務取扱管理者を必要な人数配置できない者の登録を拒絶する旨を定めています。

 「旅行業務取扱管理者を確実に選任すると認められない者」とは、旅行業取扱管理者としての資格を有する者が、社員として自社の営業所の数に匹敵するだけいないような者をいいます*16。旅行業務取扱管理者は、原則、他の営業所の旅行業務取扱管理者となることができません(複数の営業所を掛け持ちすることが許されません)ので(法11条の2第4項)、営業所の数だけ旅行業務取扱管理者の人数が必要です(例外として複数の営業所を掛け持ちできる場合がありますが、これは法11条の2について扱う回で詳説します。)。

 営業所とは、案内所、出張所、連絡書、サービスステーション等の名所の如何を問わず、実質的に旅行業務を取り扱う場所をいい(旅行業法施行要領第ニ.2.1))、営業所の登録が必要になりますが(法4条1項2号)、登録した営業所には旅行業務取扱管理者の選任が必要となります。

 なお、旅行業務取扱管理者は、どの営業所にも1人選任すればよいというものではなく、所属する従業員が10名以上の大規模な営業所において1人の旅行業務取扱管理者では所定の業務に関し管理、監督が十分できない場合には、2人以上の旅行業務取扱管理者を選任しておく必要があり(旅行業法施行要領第八.1))、この点も登録申請時に審査されるようです(例えば、東京都産業労働局「旅行業の新規登録を申請される方へ(第2種・第3種・地域限定)」第3⑸③参照)。

 

第10号事由(財産的基礎要件)

 本号は、登録業務範囲に応じて定められた基準資産額を満たさない者の登録を拒否する旨を定めています。

 基準資産額については、規則3条及び4条に定めがあります。

○旅行業法施行規則
(財産的基礎)
第三条 法第六条第一項第十号の国土交通省令で定める基準は、次条に定めるところにより算定した資産額(以下「基準資産額」という。)が、次の各号に掲げる区分に従い、当該各号に定める額以上であることとする。
 登録業務範囲が第一種旅行業務である旅行業(以下「第一種旅行業」という。)を営もうとする者 三千万円
 登録業務範囲が第二種旅行業務である旅行業(以下「第二種旅行業」という。)を営もうとする者 七百万円
 登録業務範囲が第三種旅行業務である旅行業(以下「第三種旅行業」という。)を営もうとする者 三百万円
 登録業務範囲が地域限定旅行業務である旅行業(以下「地域限定旅行業」という。)を営もうとする者 百万円
第四条 基準資産額は、第一条の四第一項第一号ニ又は第二号ハに規定する貸借対照表又は財産に関する調書(以下「基準資産表」という。)に計上された資産(創業費その他の繰延資産及び営業権を除く。以下同じ。)の総額から当該基準資産表に計上された負債の総額及び法第八条第一項に規定する営業保証金の額(新規登録の申請に係る基準資産額を算定する場合であつて申請者が保証社員(法第四十八条第一項に規定する保証社員をいう。以下同じ。)となることが確実であるとき、又は更新登録の申請に係る基準資産額を算定する場合であつて申請者が保証社員であるときには、法第四十九条の規定により納付すべきこととされる弁済業務保証金分担金の額)に相当する金額を控除した額とする。
 前項の場合において、資産又は負債の評価額が基準資産表に計上された価額と異なることが明確であるときは、当該資産又は負債の価額は、その評価額によつて計算するものとする。
 第一項の規定にかかわらず、前二項の規定により算定される額に増減があつたことが明確であるときは、当該増減後の額を基準資産額とするものとする。

 「繰延資産」とは、会社計算規則74条に規定する繰延資産をいい、「営業権」とは、同規則74条に規定するのれんをいいます(旅行業法施行要領第三.2.1)、2))。

 施行規則4条2項により資産の増加が認められる場合とは、固定資産の市場評価額が高騰しているなど市場性のある資産の再販売価格の評価額が、基準試算表計上額を上回る旨の証明があった場合とされ、同項により資産の額が減額される場合とは、①債権が保全されておらず、請求権の行使ができない資産、又は相手方の倒産等により回収不能と認められる資産を計上していた場合、②債権の存在が明らかでない資産を計上していた場合とされています(旅行業法施行要領第三.2.3)、4))。

 同条3項により資産の増減がなされる場合とは、①公認会計士又は監査法人による監査証明を受けた中間決算による場合、②増資、贈与、債務免除等があったことが証明された場合とされています(旅行業法施行要領第三.2.5))。

 本号は、旅行業を営もうとする者に対してのみ適用され、旅行業者代理業を営もうとする者に対しては適用されません。旅行業者代理業者は、所属旅行業者を代理して業務を行うものですので、所属旅行業者が財産的基礎要件を満たしていれば、旅行者が不利益を被ることはないためです*17*18

 なお、旅行業界は利益率が、第1種旅行業者であっても1%未満であること*19から、基礎資産要件を緩和すべきとの意見も出ています。これに対して、国土交通省は、現時点では、旅行業者の状況に応じ、資産の再評価や増資を通じて基準資産要件を満たすことを確認するなど、柔軟な対応を行っているものの、消費者保護の観点から基準資産要件を抜本的に見直すことは考えていない旨述べています*20私見としても、旅行者の利益を保護する観点から設けられた基準資産要件を緩和するのは、妥当とは言えないと考えます。

 

第11号事由(二者以上の代理の禁止)

 本号は、旅行業者代理業を営もうとする者が複数の旅行業者を代理する場合に、その登録を拒絶する旨を定めています。

 財産的基礎のない旅行業者代理業者が、自己の名において、または無権代理によって業務を行ったとすれば、旅行者の利益が害されてしまいます。そこで、本号は、旅行業者代理業者は所属旅行業者の専属として、所属旅行業者の監督責任を強化しようとする趣旨に出たものです。所属旅行業者の専属とすることで、仮に無権代理行為が発生した場合であっても、所属旅行業者の表見代理が成立し、旅行者の保護が図られる余地が高くなります*21

 

登録拒否の通知

 登録申請を受けた行政庁が採るべき手続は、次のとおり定められています。

○旅行業法
(登録の拒否)
第六条 略
 観光庁長官は、前項の規定による登録の拒否をした場合においては、遅滞なく、理由を付して、その旨を申請者に通知しなければならない。

 

 登録申請を受けた行政庁は、登録拒否をした場合には、申請者に対して、理由を付したうえで登録拒否した旨を通知する必要があります。行政処分の手続の公正を確保するとともに、登録拒否された申請者に対して不服申立ての資料を提供する趣旨で行われるものです。

 当該通知の法的性質等については、第7回の記事において詳説しましたので、そちらをご確認ください。

 

まとめ

 旅行業の登録審査は、行手法の適用があるため、欠格事由に対する審査基準がある程度明確に定められています。登録申請を行う際には、各登録行政庁のホームページ等を確認するようにしてください。

 

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*1:東京高判平成26年6月20日高刑速平成26年67頁は、法3条の合憲性を判断するに当たり、登録の拒否の必要性について、「同法の目的が旅行業務に関する取引の公正の維持,旅行の安全の確保及び旅行者の利便の増進を図ることにある(同法1条)からであり,その目的のためには,一定の不適格者を事前に排除し,無登録者が不当な利益のために旅行者と運送等サービス提供者との間に介入する行為等を防止する必要性が高い。」と説示した原判決を是認しています。

*2:旅行法制研究会『旅行業法解説〔第3版〕』(トラベルジャーナル、1992年)79頁

*3:前掲旅行業法解説80頁

*4:前掲旅行業法解説80頁

*5:観光庁参事官「改正旅行業法による暴力団排除規定の運用について」(平成29年12月28日)

*6:前掲旅行業法解説80頁

*7:佐久間毅『民法の基礎Ⅰ総則〔第4版〕』(有斐閣、2018年)84頁

*8:この場合に当該法律行為を取り消す資格(取消権)は、未成年者と法定代理人の双方に発生します。

*9:商業登記には、未成年者の氏名、出生年月日、住所、営業の種類、営業所が登記されることになります(商業登記法35条1項)。

*10:新規登録の添付書類としても必要です(施行規則1条の4第1項2号ロ)。

*11:この法律は、認知症、知的障害その他の精神上の障害があることにより財産の管理や日常生活等に支障がある者を社会全体で支え合うことが、高齢社会における喫緊の課題であり、かつ、共生社会の実現に資することであるところ、成年後見制度はこれらの者を支える重要な手段であるにもかかわらず十分に利用されていないことに鑑み、成年後見制度の利用の促進に関する施策を総合的かつ計画的に推進するため、成年後見制度の利用の促進について、その基本理念等を定めるとともに、成年後見制度利用促進会議を設置する等の措置を講ずるものとして制定されたものです。厚生労働省成年後見制度促進」参照

*12:名古屋高判令和4年11月15日判タ1514号54頁

*13:観光庁旅行業法における各種様式」欠格事項に該当しない旨の宣誓書参照

*14:毛利信二政府参考人発言024(建設業法における本号と同様の欠格事由に関する発言)

*15:第193回国会参議院国土交通委員会第20号田村明比古政府参考人発言069

*16:前掲旅行業法解説80頁

*17:前掲旅行業法解説81頁

*18:かつては、旅行業者代理業者(当時の代理店業者)が、自ら取引の主体となって営業している例がみられ、これを防止するためにあえて「資力信用」が要求されていましたが、旅行業者代理業者の業務は、第一次的には本人たる旅行業者が責任をもって管理することが本来の姿であることから、財産的基礎の要件を外すとともに、本人の管理監督が万全となるよう、複数の者を代理することを禁止するようになりました(前掲旅行業法解説82頁)。

*19:国土交通省平成18年版観光白書

*20:第211回国会参議院決算委員会第9号斉藤鉄夫国交相大臣発言

*21:前掲旅行業法解説81頁

旅行法令研究〔第7回〕~旅行業法編:旅行業・旅行業者代理業の登録制度③(第5条)~

 前回まで、旅行業又は旅行業者代理業の登録を受けようとする申請者(以下「登録申請者」といいます。)側の手続について概観しましたが、今回は、「登録申請者から申請を受ける側」について取り上げます。前回の記事はこちら↓↓↓

ds-law.hatenablog.jp

 

登録申請者による申請の法的性質

 前回の記事でも解説したように、登録申請者は、その登録を受けようとする業種の別にしたがって、それぞれに対応した行政庁に登録申請を行います。

 ここまで、登録申請者が行政庁に対して登録を求める行為のことを「申請」と呼称してきており、法5条1項でも「申請」という言葉が使われています。

 

○旅行業法
(登録の実施)
第五条 観光庁長官は、前条の規定による登録の申請があつた場合においては、次条第一項の規定により登録を拒否する場合を除くほか、次に掲げる事項を旅行業者登録簿又は旅行業者代理業者登録簿に登録しなければならない。
 前条第一項各号に掲げる事項
 登録年月日及び登録番号
 (略)

 

 このような「申請」という言葉を見たとき、それが行政手続法2条3号にいう「申請」に該当するのかが問題となり得ます。

 

○行政手続法
(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
 (略)
 申請 法令に基づき、行政庁の許可、認可、免許その他の自己に対し何らかの利益を付与する処分(以下「許認可等」という。)を求める行為であって、当該行為に対して行政庁が諾否の応答をすべきこととされているものをいう。
四~ (略)

 

 行政手続法上の「申請」に該当するのであれば、行政手続法上の「申請に対する処分」の手続が保障されるほか、申請に対する行政庁の応答は「処分」に当たり、これに不服がある場合には、審査請求(行政不服審査法3条)、取消訴訟及び申請満足型義務付け訴訟(行政事件訴訟法3条6項2号)で争うことができるようになります*1

 もっとも、法文上「申請」という言葉が使われていても、それが直ちに行政手続法上の「申請」に該当するわけではありませんので、別途判断を必要とします*2

 

授益処分を求める行為であること

 法文から分かるように、「申請」の概念の中心的要素は、自己に対し何らかの利益を付与する処分(授益処分)を求める行為であることです*3

 法文上は「行政庁の許可、認可、免許」が明記されていますが、これは例示的列挙であって、これらに限定されるものではなく、承認、認定、決定、検査、登録等も含まれます*4

 旅行業法では「登録」制度を採用しています。「登録」とは、第5回の記事(旅行法令研究〔第5回〕~旅行業法編:旅行業・旅行業者代理業の登録制度①(第3条)~ - 弁護士清水大地のブログ)でも触れたように、一定の法律事実又は法律関係を行政庁等に備える公簿に記載することをいいます。したがって、登録の主たる効果は、これらの法律事実又は法律関係の存否を公に表示し、または証明することにあり、旅行業法上の登録にあっても、ある者が旅行業を営む資格を有する者である旨、その者の住所、営業所所在地等の事項を公に表示するという効果をもちます*5。また、登録を受けて初めて旅行業を営むことができるという旅行業法の建前からすれば、旅行業法上の登録の効果は、営業の許可の方法としても使われています*6。このような効果からすれば、旅行業法上の登録は、申請者に対し、旅行業を営んでもよいという地位を付与する行為であるといえるため、登録のための申請は授益処分を求める行為であるということができます。

 

法令に基づくものであること

 法文から明らかなように、授益処分を求める行為が法令に基づいて行われる必要があります。

 この点、旅行業又は旅行業者代理業の登録を求める行為は、旅行業法に基づいて行われるものですので、この要件は満たします。

 

当該行為に対して行政庁が諾否の応答をすべきこととされているものであること

 行政手続法上の「申請」にあたるのは、当該申請に対して行政庁が諾否の応答義務を課せられている場合、すなわち、申請人の側に法令上申請権がある場合に限られます。したがって、申請に対する行政庁の応答が、行政庁の裁量にあるにすぎない場合には、行政手続法上の「申請」にはあたりません*7。申請人に法令上申請権が認められているかどうかの判断は、当然ですが、行政手続法の規定ではなく、個別法の規定の解釈によって行われます*8

 この点、旅行業法は、登録行政庁は、申請者が第6条に規定する登録拒否事由に該当しないのであれば登録しなければならず(法5条1項柱書)、登録をした場合であっても、登録の拒否をした場合であっても、その旨を申請者に通知しなければならないと規定しています(法5条2項、6条2項)。このように、登録行政庁においては、申請者から申請があれば、登録をするかしないかの判断を行い、その判断を申請者に対して示さなければならない仕組みになっていることからすれば、登録行政庁は、申請者による申請に対して応答すべき義務があり、それはすなわち申請者が登録行政庁に登録の認否を要求する権利を有するものと解されます。

 したがって、旅行業法上の申請は、これに対して行政庁が諾否の応答をすべきこととされているものと考えられます。

 以上から、旅行業法上の申請は、行政手続法上の「申請」に該当すると解されます。

 

実際に「申請に対する処分」として扱われていること

 以上述べたとおり、旅行業法上の登録の申請は行政手続法上の申請に該当すると解されますが、観光庁は、旅行業法上の登録が行政手続法上の申請に対する処分に該当することを前提として各種取扱いを定めており、実務上も旅行業法上の登録の申請が行政手続法上の申請に該当するものとして取り扱われています。

 行政手続法上の申請に対する処分を行う場合には、当該処分をするにあたっての審査基準を設定・公表することが義務付けられている(行政手続法5条)とともに、申請があってから処分を行うまでの標準処理期間を定めておく努力義務が課せられます(行政手続法6条)。

○行政手続法
(審査基準)
第五条 行政庁は、審査基準を定めるものとする。
 行政庁は、審査基準を定めるに当たっては、許認可等の性質に照らしてできる限り具体的なものとしなければならない。
 行政庁は、行政上特別の支障があるときを除き、法令により申請の提出先とされている機関の事務所における備付けその他の適当な方法により審査基準を公にしておかなければならない。
(標準処理期間)
第六条 行政庁は、申請がその事務所に到達してから当該申請に対する処分をするまでに通常要すべき標準的な期間(法令により当該行政庁と異なる機関が当該申請の提出先とされている場合は、併せて、当該申請が当該提出先とされている機関の事務所に到達してから当該行政庁の事務所に到達するまでに通常要すべき標準的な期間)を定めるよう努めるとともに、これを定めたときは、これらの当該申請の提出先とされている機関の事務所における備付けその他の適当な方法により公にしておかなければならない。

 観光庁は、旅行業法上の登録について、その審査基準を「旅行業法」、「旅行業法施行規則」、「旅行業者等が旅行者と締結する契約等に関する規則」、「旅行業法施行要領」とし、標準処理期間を60日とする旨定めています*9

 また、例えば、東京都では、申請から登録決定までの標準処理期間を30~40日としています*10

 

行政庁による登録審査

 旅行業の登録を希望する者が、必要書類をまとめて所轄の行政庁に申請を行うと、当該行政庁において、登録審査が行われます。

 

○旅行業法
(登録の実施)
第五条 観光庁長官は、前条の規定による登録の申請があつた場合においては、次条第一項の規定により登録を拒否する場合を除くほか、次に掲げる事項を旅行業者登録簿又は旅行業者代理業者登録簿に登録しなければならない。
 前条第一項各号に掲げる事項
 登録年月日及び登録番号
 観光庁長官は、前項の規定による登録をした場合においては、遅滞なく、その旨を登録の申請者に通知しなければならない。

 

「次条第一項の規定により登録を拒否する場合を除くほか」

 法5条1項は、法6条1項の規定により登録を拒否する場合を除くほかは、申請に係る登録を行わなければならない旨規定しています。つまり、行政庁は、法6条1項所定の事由が認められる場合に限って登録を拒否することができるのであり、その他の場合にまで裁量的に登録拒否を行ってはならないわけです。したがって、行政庁が審査を行うのは、法6条1項所定の事由の該当性のみです。

 なお、登録審査とは直接関係しませんが、都道府県によっては、法人が申請する場合には、商号が既存旅行業者と類似することを避けるため、申請書提出前に電話確認を必要とする場合や、定款等所定の目的に旅行業の登録を申請するときは「旅行業」あるいは「旅行業法に基づく旅行業」、旅行業者代理業の登録を申請するときは「旅行業者代理業」あるいは「旅行業法に基づく旅行業者代理業」の記載を必要とする場合がありますので、注意が必要です*11

 

「旅行業者登録簿又は旅行業者代理業者登録簿」

 登録が行われると、旅行業者は「旅行業者登録簿」に、旅行業者代理業者は「旅行業者代理業者登録簿」に、それぞれ登録が行われます。この「旅行業者登録簿」及び「旅行業者代理業者登録簿」がどのようなものかについては、施行規則2条に定めがあります。

 

○旅行業法施行規則
(旅行業者登録簿及び旅行業者代理業者登録簿の様式)
第二条 法第五条第一項の旅行業者登録簿及び旅行業者代理業者登録簿の様式は、第三号様式とする。

 

 「第三号様式」の見本は、こちらから見ることができます。

 この様式にあるように、登録が行われると、氏名・住所・営業所の所在地等が記載された登録簿が作成され、公に表示されることとなります(法21条)。

 

「遅滞なく」

 法5条2項は、登録を行った場合には、その旨を、遅滞なく登録の申請者に通知することを定めています。

 「遅滞なく」とは、時間的即時性を強く表す場合に用いられる語です。もっとも、「直ちに」とは異なり、正当な又は合理的な理由による遅滞は許容されるものと解されています*12*13

 

「通知」

 登録行政庁は、旅行業等の登録申請に対して登録を行った場合には、登録申請者に対して、登録を行った旨の通知を行うものとされています。この通知は、登録通知書等の書面によってされます。

 登録通知書には、登録された旅行業者等の名称又は氏名、商号、登録番号、登録年月日、登録有効期間等が記載されており、この記載のとおり登録された旨が記載されています。

 

第7回のまとめ

 旅行業・旅行業者代理業の登録手続は、上記のように登録申請が行手法上の申請とされているため、各登録行政庁において具体的に定められていることが多いです。旅行業等の登録申請を行う場合には、予め、各登録行政庁のホームページ等で手続を確認しておくのがよいでしょう。

 

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*1:曽和俊文ほか『事例研究行政法〔第3版〕』(日本評論社,2016年)52頁

*2:この点について、宇賀克也『行政法概説Ⅰ行政法総論〔第7版〕』(有斐閣,2020年)452頁は、「行政手続法の制定過程では,同法の『申請』に該当するものにはどのようなものがあり,『届出』に該当するものにはどのようなものがあるかについての検討はなされたが,たとえば,個別の法律で『申請』という用語が使用されていても,行政手続法にいう『届出』に該当する場合に,個別の法律を改正して用語を整理するという作業までは行われなかった。したがって,個別の法律で使用されている用語にとらわれず,行政手続法の『申請』か『届出』かを検討する必要がある。」と指摘しています。

*3:室井力ほか『コンメンタール行政法Ⅰ〔第2版〕行政手続法・行政不服審査法』(日本評論社,2008年)25頁

*4:一般財団法人行政管理研究センター『逐条解説行政手続法〔改正行審法対応版〕』(ぎょうせい,2016年)22頁

*5:旅行業法制研究会『旅行業法解説〔第3版〕』58頁

*6:前掲旅行業法解説58頁

*7:宮田三郎『行政手続法』(信山社,1999年)83頁

*8:塩野宏行政法Ⅰ〔第6版〕行政法総論』(有斐閣,2015年)317頁

*9:観光庁参事官(産業政策担当)「旅行業法における申請に対する処分の審査基準及び標準処理期間について」観観産第622号・平成29年12月28日

*10:東京都「旅行業の新規登録を申請される方へ(第2種・第3種・地域限定)

*11:東京都「旅行業の新規登録を申請される方へ(第2種・第3種・地域限定)」第3⑵、大阪府旅行業登録制度・主な手続きについて(大阪府)

*12:法令用語研究会『有斐閣法律用語辞典〔第5版〕』(有斐閣,2020年)781頁

*13:法令上、時間的即時性を求める場合には、「直ちに」、「速やかに」、「遅滞なく」の3種類が用いられます。「直ちに」という場合には、「遅滞なく」に比べて一切の遅滞が許されず、「速やかに」比べて急迫の程度が高いものとして用いられることが多いです(前掲法律用語辞典763頁)。「速やかに」という場合には、「直ちに」や「遅滞なく」に比べて中程度の時間的近接性を求めるもので、「できるだけ」、「できる限り」などを付けて又はそのままで訓示的な意味で用いられます(前掲法律用語辞典664頁)。

温浴施設における転倒事故と施設の責任

はじめに

 公共施設において転倒事故が発生した場合、その転倒の原因に施設の不備が関係する場合、施設側の責任が問題となることがあります。特に、温泉施設、スーパー銭湯等の温浴施設では、床面が温泉成分等を含んだぬめりのある水で濡れていることが珍しくなく、そのために床面がその他の施設に比べて滑りやすいという性質があり、転倒事故が後を絶えません。このような場所において、施設側がどのような対策をすれば責任を免れることができるのかについて、いくつかの裁判例をもとに考察してみようと思います。

第1 裁判例の紹介

1 施設側の責任を肯定した裁判例

⑴ 盛岡地判平成23年3月4日判タ1353号158頁

ア 事案の概要
 当時48歳の男性が、ホテルの大浴場を日帰り入浴のために利用していたところ、内風呂の中央部分に設置されていた2段の階段で転倒したというものです。階段部分には御影石が使用され、ジェットバーナー仕上げ等がされていました。
 この訴訟は、ホテル側が、自らには責任がない(損害賠償債務が存在しない)ことの確認を求めて提訴され、男性側がホテルの責任を争ったものです。

イ 判旨(抜粋)
(ア)土地工作物責任について
 「本件階段部分に用いられている御影石は、十和田石よりも濡れたときに滑りやすいものであることは否定し難いが、ジェットバーナー仕上げ等がされており、一般的に浴場の床材に使用されているものである。しかも、当該ホテルの浴場は源泉かけ流しとはいえ、平成21年7月当時も毎日床の清掃がされていたことがうかがわれる。そして、当該ホテルは開業から20年以上経っているとはいえ、その程度の期間経過により、直ちに温泉施設の床として通常備えているべき安全性を欠くに至ったとまでいえるかは疑問もあり、証拠上、本件階段部分の床がそのような安全性を欠いていたとまで認めることもできない。」
 「内風呂の中央部分に階段があることについては、確かに、階段がないのがベストであるとはいえるものの、構造上や設計上その他の必要から階段を設置した場合に、そのことが直ちに「瑕疵」とまでいえるかは疑問がある。現に、温泉施設に階段を含めた段差が設けられている例もあるところ、そのような段差があれば、相当の確率で転倒事故が発生するとまで認めることはできずこれまで他に本件階段部分での転倒による重大事故は発生していないことをも考慮すれば、階段が設置されていることが直ちに「瑕疵」であるということはできない。」
 「以上より、工作物責任に関する被告の主張は理由がない。」

(イ)安全配慮義務について
a 規範部分
 「浴場の利用者は通常、床を素足で歩く」うえ、「本件階段部分は浴場の中央部分であり、近くに浴槽や洗い場があることからすると・・・濡れていることが多いと考えられる。・・・御影石はジェットバーナー仕上げ等をしたとしても十和田石よりも滑りやすいことは否定し難い。」「本件転倒事故の現場は階段になっており、階段を上り下りしようとするときは片足を上げた状態になり、しかも体の重心が前後に移動することもあって、瞬間的に、体の中心よりも後ろ側に重心が傾き、結果として背部から転倒しやすくなる・・・。・・・本件階段部分の横の長さは約3メートルであり、相当広いといえる。」「そうすると、本件階段部分の床が水分で濡れている状態で、素足で歩くと、滑り抵抗値が少なくなる結果、滑ってしまう可能性があり、いったん滑ってしまうと転倒は避けられないと認められる。なお、本件階段部分の御影石にはグラインダーで溝がつけられているというものの、その溝は大した深さではなく、溝と溝との間隔も広いから、滑った際にそれを食い止める程の力はないことが明らかである。」
 「本件階段部分に至る通路の床材は原告も最も滑りにくいという十和田石であるのに対し、本件階段部分はジェットバーナー仕上げ等がされているとはいえ、濡れると滑りやすい御影石であり、通路を通って本件階段部分に至ると滑りやすさが変わるという事情も認められる。・・・滑りにくい場所から滑りやすい場所に来たときには、滑る可能性を意識しづらい結果、予期せずして滑ってしまうことも想定される。」「温泉にはリラックスをしに行く場合も多く、注意が散漫になりがちであり、しかも、本件の階段は横に広く、段差がわずか2段であるがゆえに、利用者が滑らないように注意をしなければという気持ちを抱きにくいという特殊性も認められる。」
 「そして、当該ホテルは客室だけで750名の収容が可能な岩手県でも有数のホテルであり、浴場の利用者も多く、その年齢等もまちまちであることがうかがわれる。」「当該ホテルの大浴場には、内風呂の奥に檜風呂があったり、外に露天風呂があったりし、大浴場内で度々移動することが予定されており、この移動に伴う滑りの危険性への対策の必要性がより認められるところである。」
 「以上のことを踏まえると、原告には、浴場の利用者に対する信義則に基づく安全管理上の義務として、利用者が本件階段部分において滑って転倒しないように配慮すべき義務があったというべきである。ただし、温泉施設の床が滑りやすいことは一般的に認識されていることであり、施設の設置者だけに一方的な義務があると考えることは相当ではなく、上記義務は利用者が一定の注意を払うことを前提としたものと理解すべきと考えられる。」「具体的には、利用者に分かりやすく転倒への注意喚起の表示をしたり、床についてさらなる滑りへの対策をしないのであれば、利用者の動線上に手すりを設置したりするなど、利用者が注意を払うことと相まって、トータルとして転倒を防止することができる程度の対策を講じたりすべき義務があると考えられる(床材を十和田石のような滑らないものにしたり、本件階段部分にマットを敷いたりすることによって滑り自体を生じなくすることも一つの対策の講じ方と考えられる。)。」

b あてはめ
 「確かに、内風呂の入り口付近に転倒への注意喚起の立看板や表示がされていたが、・・・本件階段部分には他の部分よりも滑りやすいという特性があるのであり、温泉施設全般に関する注意喚起とは別に、分かりやすく本件階段部分に対する注意喚起の表示をすべきであったと考えられる。しかし、本件階段部分には注意喚起の表示はされていなかったというのである。」「また、本件階段部分の床について、ジェットバーナー仕上げにして溝をつけただけで、それ以上の滑りへの対策は特にされていなかったし、本件階段部分付近に手すりも設置されていなかったというのである。」「なお、原告は本件階段部分の浴槽とは反対側に袖壁があると指摘しているが、・・・階段の横の長さは約3メートルであり、浴槽側を通る場合には、袖壁を手すりとして用いることはできないことになり、袖壁があるから滑りへの対策が十分であるということにはならない。」
 「そうすると、原告は、私法上、利用者に対して果たすべき上記義務を十分に履行していなかったといわれても仕方ないと考えられる。」

2 施設側の責任を否定した裁判例

⑵ 東京地判平成26年1月16日判例集未搭載

ア 事案の概要
 当時50歳代の女性が、浴場施設を利用していたところ(なおこの女性は月1回程度のペースで通い、10回以上利用していたようです。)、外湯の源泉岩風呂から出ようとして階段に足をかけた際に滑って転倒したというものです。
 女性側は、転倒事故の発生について、施設側に土地工作物責任及び安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求をしました。

イ 判旨(抜粋)
(ア)土地工作物責任について
 「たしかに、本件浴場の泉質はややph値が高いが、本件階段部分の床は、表面が凸凹した美濃石を乱貼りにしてあり、温泉場の防滑対策としては一般的な仕様であるものと認められ、転倒防止のための手すりが片側に付いていた。」「本件階段部分は、手すりの根本が、源泉岩風呂の腰をかける円状の座面部分から設置されているために、入浴客が手すり根本の周囲に腰をかけ、通行が妨げられることもあると思われ、また本件階段の幅からして、入る客と出る客が同時に階段を通行することも想定され、本件階段部分には、両側に手すりを設置することが望ましいと考えるが、源泉岩風呂の大きさから、同時に入浴できる客の数はそう多くはないと思われることも踏まえると、本件階段の片側のみに手すりを設置したことが、設置の瑕疵にあたるとまではいい難い。」「そして、本件階段床部分の石が、開業からの期間経過により、温泉施設の床として通常備えているべき安全性を欠くに至ったと認めるに足る証拠はなく、本件浴場は、毎日清掃が実施されていて、本件階段部分に保存の瑕疵があったということもできない。」
 「以上により、土地工作物責任に関する原告の主張には理由がない。」

(イ)安全配慮義務について
 「浴場の利用者は床を素足で歩くのであり、本件浴場は、内湯、外湯に他種類の風呂が設置され、浴場内の客の移動が予定されているから、移動に伴う客の転倒防止等への配慮が求められるところであり、被告には、浴場の利用者に対する信義則上の義務として、利用者が本件階段部分において滑って転倒しないように配慮すべき義務があったというべきである。ただし、温泉施設の床が滑りやすいことは一般的に認識されていることであるから、上記義務は利用者が一定の注意を払うことを前提としたものと理解すべきと考えられる。」「これを本件についてみるに、本件浴場における転倒防止への注意喚起は、入浴する客が必ず通る動線上の脱衣場入り口の暖簾をくぐった正面ロッカー壁面及び多数の者が目にすると思われる浴場内のかけ湯の壁面に掲示され、本件階段床の防滑状況は前記のとおりであり、源泉岩風呂からかけ流された湯は、本件階段部分ではなく、隣接する岩風呂に流されていたので、本件階段部分は、入浴客の出入り等で濡れることはあっても、常時水が溜まる状況だったとまでは認められず、また、原告は浴槽から上がるところであったので、体全体及び足の裏が濡れていたものと推認され、足元が滑りやすくなっていたから、原告において、手すりのある側を通るように一定の注意を払うことも期待されるところ、これが困難であった事情はうかがえず、原告の供述からすると、本件事故発生時に原告が本件階段の手すり自体にあまり注意を向けていなかったことは否定しがたい。」
 「原告の転倒自体については、被告がした上記の安全対策をして、安全配慮義務違反があるとは認められない。」

⑶ 旭川地判平成30年11月29日判時2418号108頁

ア 事案の概要
 当時85歳の女性が、温泉施設を利用していたところ、脱衣場から通路を通って浴場に足を踏み入れた際に、足を滑らせて転倒したというものです。浴場の入口付近には、約8cmの段差があり、段差の浴場側部分には滑り止めのゴムマットが敷かれていませんでした。
 女性側は、転倒事故が発生したのは、施設側に安全配慮義務違反があったためであるとして、施設に対して、不法行為に基づく損害賠償請求をしました。

イ 判旨(抜粋)
 「浴場は、人が体を洗ったり、お風呂に入ったりする場所であるので、その入口付近では、体を洗った際の石鹸水等が流れ込んでくることもあれば、浴場と脱衣所の間の通路のバスマットは、浴場から出て来た人の体に付着した水分を吸い込むことで濡れていることがあると思われるが、浴場施設の利用者としてはそういったことがあることを想定し、転倒しないように注意して行動すべきであって」「被告に、本件浴場入口部分にある段差の浴場側にゴムマットを敷いたりする義務があったとはいえない。」
 「被告は、本件転倒事故以前から、本件浴場入口側のスライドドアの右側ガラス戸に「浴場内は、スベリますので、ご注意願います。」という横書きの掲示板を、掲示していたことが認められる。そうすると、被告は浴場が滑りやすいことを注意しており、その点に関して、被告には注意義務違反はない。」
 「以上によれば,本件転倒事故につき,被告に安全配慮義務違反があったとは認められない。」

第2 若干の考察

1 土地工作物責任について

 土地工作物責任における、設置又は保存に瑕疵があったとみられるかどうかは、当該工作物の構造、用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的個別的に判断すべきものとされています(最判昭和53年7月4日民集32巻5号809頁(国賠法上の営造物責任についての判示))。
 上記3つの裁判例のうち、土地工作物責任の主張が出されていたのは⑴盛岡地判と⑵東京地判ですが、いずれも施設側の土地工作物責任を否定しています。その際に考慮していたポイントを抽出するとすれば、①床の材質・状態が滑りやすいか、②防滑対策として何が行われていたか(床の加工や手すりの設置など)、③掃除がどのくらいの頻度で行われていたか、④過去に転倒事故が起きているか、という点が挙げられます。この中でも、やはり工作物そのものの危険性に関わる①、②の事情を重要視することになろうと思われます。いずれの裁判例も、階段での転倒事故が問題とされていますが、いずれも床面の材質や防滑対策が温浴施設では一般的なものであることに言及しています。
 一方で、床面がかなり特殊な素材を使用していて、一般的な素材よりもはるかに滑りやすいというような事情があれば、当然土地工作物責任を肯定する方向に傾きます。土地工作物責任が問題となった場合には、まず転倒場所の床面が、一般的な温浴施設と比較してどれほど滑りやすいのかという点を検討する必要があろうと思われます。

2 安全配慮義務について

 不法行為と構成するか債務不履行と構成するかはここでは触れませんが、いずれの裁判例においても安全配慮義務違反の主張が出されています。ここでも、裁判例で考慮されているポイントを挙げるとすれば、①床の材質・状態が滑りやすいか、⑤階段など転倒場所が転倒を誘発しやすいか、⑥床が滑りやすいことの注意喚起の有無、⑦水が濡れやすい場所・溜まりやすい場所だったか、⑧構造上客が度々移動することが予定されていたか、⑨被害者の直前の行動、という点が挙げられます。
 温浴施設によっては、湯船近くには防滑対策をしているが、その他の場所にはしていないなど、全面的に防滑対策をしていないところがあります。そうすると、利用客にとっては、滑りにくい床だと信じて油断していると急に滑りやすい場所が現れて転倒してしまうという危険が生じることもあります。この場合、全面的に滑りにくい材質の床に張り替える対策をとるのが無難ですが、コストの問題から現実的でないことが多いです。そのため、このような施設においては、特に滑りやすい箇所に注意喚起の掲示をする、多くの来場客の動線となる場所については水濡れ対策として掃除を頻繁にする、階段付近には上り下りをする人の手の届く範囲に手すりを設置しておくなど、可能な限りの対応をとっておくことが、のちの紛争に備えた対策となると思われます。

3 まとめ

 いずれにしても、諸般の事情を考慮して決することになりますので、一概にこれをやっていれば責任を免れられるというものではないですが、責任を肯定した盛岡地判の判示内容を参考にして、可能な限りの転倒防止対策を講じておくことが肝心です。

取引上の評価損に関する最近の裁判例

※令和5年8月30日更新:令和3年12月22日から令和4年9月13日までの裁判例を15件追加しました。

はじめに

 自動車が絡む交通事故では、車両に損傷が生じる場合がほとんどですが、この事故に起因して修理によっても技術上の限界等から機能や外観に回復できない欠陥が残る場合(これを「技術上の評価損」などといいます。)や、そのような欠陥が残らずとも、事故歴があるという理由で当該車両の交換価値が下落する場合(これを「取引上の評価損」などといいます。)が考えられます。
 技術上の評価損については、加害者に賠償責任が生じることに争いはほぼ見られませんが、取引上の評価損については、従来からこれを損害として認めるべきか否かの議論があります。もっとも、現在の裁判実務では、取引上の評価損についても、当該車両の初度登録からの期間、走行距離、損傷の部位、車種等を考慮して損害を認めるケースも存在します。この点についての詳細な解説は、いわゆる赤い本2002年度295頁以下の影浦直人裁判官「評価損をめぐる問題点」にてまとめられているところですが、この講演録で取り上げられている裁判例が若干古いものとなってきていることから、この記事では、最近の裁判例(令和に入ってからのもの)で取引上の評価損が問題となった43件をまとめました。

修理費の40%程度を認めた裁判例

①東京地判令和元年10月9日判例集未掲載

  • 車種 ベンツG550
  • 損傷箇所 左フロントインサイドパネルの凹み
  • 登録後 3年10月
  • 走行距離 2万9500km
  • 修理費 140万円
  • 評価損 60万円

修理費の30%程度を認めた裁判例

②名古屋地判令和2年2月7日判例集未掲載

  • 車種 ベンツS560ロング
  • 損傷箇所 右リアドア、右リアフェンダー、リアバンパー、リアアクスル等損傷
  • 登録後 7月
  • 走行距離 8470km
  • 修理費 435万0330円
  • 評価損 130万5099円

③大阪地判令和2年11月24日判例集未掲載

  • 車種 レクサスLC500S
  • 損傷箇所 Rrパンパカバー・ナンバープレートリヤ・リヤディフューザTRD交換、ボディーコート再施工、左右Rrコンビネーションランプ脱着、ロアバックパネルASSY修理等
  • 登録後 1月
  • 走行距離 863km
  • 修理費 47万5000円
  • 評価損 14万2500円

④東京地判令和2年11月24日判例集未掲載

  • 車種 日産GT-R
  • 損傷箇所 右側部損傷、フロントピラー等修理
  • 登録後 1年2月
  • 走行距離 6529km
  • 修理費 163万1329円
  • 評価損 48万9398円

⑤東京地判令和3年1月13日判例集未掲載

  • 車種 アウディS5スポーツバック
  • 損傷箇所 前部グリル擦過傷、ボンネット交換等
  • 登録後 1年4月
  • 走行距離 2万8000km
  • 修理費 91万4639円
  • 評価損 30万円

⑥福岡地行橋支判令和3年1月19日判例集未掲載

  • 車種 クラウンマジェスタ
  • 損傷箇所 バックパネル交換等
  • 登録後 1年8月
  • 走行距離 1万8979km
  • 修理費 35万8760円
  • 評価損 10万7628円

修理費の25%程度を認めた裁判例

⑦大阪地判令和元年10月17日判例集未掲載

  • 車種 ポルシェカイエンGTS TIP
  • 損傷箇所 ホイールアーチ・バンパーの擦過痕等
  • 登録後 2年10月
  • 走行距離 1万9494km
  • 修理費 40万9752円
  • 評価損 10万円

⑧静岡地浜松支判令和元年12月20日自保2087号146頁

  • 車種 BMWミニクーパー
  • 損傷箇所 エンジンフード・LED技術ヘッドライト等の損傷
  • 登録後 1月
  • 走行距離 1628km
  • 修理費 141万円
  • 評価損 35万円

修理費の20%程度を認めた裁判例

⑨大阪地判令和元年12月19日判例集未掲載

  • 車種 ベンツ
  • 損傷箇所 リアバンパーの擦過傷、左リアマフラーの押込み、トランクから右クォーターの立付狂い(チリ狂い)、トランクパネルの沈込み等
  • 登録後 3年
  • 走行距離 3万3712km
  • 修理費 129万9726円
  • 評価損 26万円

⑩名古屋地判令和3年12月24日自保2118号127頁

  • 車種 三菱アウトランダーPHEV
  • 損傷箇所 リアバンパーの取替えやテールゲートパネルの取替え等
  • 登録後 5日
  • 走行距離 200km未満
  • 修理費 40万1328円
  • 評価損 8万0266円

⑪大阪地判令和4年2月25日交民55巻1号226頁

車両①

  • 車種 メルセデス・ベンツ・Cクラス
  • 損傷箇所 不明
  • 登録後 1年3月
  • 走行距離 1万5007km
  • 修理費 53万4384円
  • 評価損 10万6876円

車両②

  • 車種 メルセデス・ベンツ AMG GLE63S
  • 損傷箇所 不明
  • 登録後 3年6月
  • 走行距離 4万9664km
  • 修理費 173万7849円
  • 評価損 34万7569円

⑫大阪地判令和4年2月25日交民55巻1号240頁

  • 車種 メルセデス・ベンツ
  • 損傷箇所 左前部が大きく損傷
  • 登録後 7月
  • 走行距離 不明
  • 修理費 257万9995円
  • 評価損 51万5999円

⑬東京地判令和4年3月28日2022WLJPCA03288024

  • 車種 メルセデスベンツGLE43AMG
  • 損傷箇所 リアバンパ
  • 登録後 3月
  • 走行距離 680km
  • 修理費 115万6431円
  • 評価損 23万1286円

⑭名古屋地判令和4年4月27日自保2129号107頁

  • 車種 コルベットグランスポーツコンバーチブル
  • 損傷箇所 前部右側を中心に複数か所の損傷
  • 登録後 1年3月
  • 走行距離 1万0901km
  • 修理費 183万4577円
  • 評価損 36万6915円

修理費の15%程度を認めた裁判例

⑮名古屋地判令和3年12月22日2021WLJPCA12228040

  • 車種 普通貨物自動車
  • 損傷箇所 ラジエーターサポート・フロントサイドメンバー・フロントクロスメンバー・フロントピラー・ダッシュパネル等に及ぶ損傷
  • 登録後 7月
  • 走行距離 4882km
  • 修理費 225万5000円
  • 評価損 33万8250円

修理費の10%程度を認めた裁判例

⑯東京地判令和元年7月19日判例集未掲載

  • 車種 ポルシェG2H40Aパナメーラターボ
  • 損傷箇所 左フロントドア・リアドアの広い範囲で軽度の凹み損傷
  • 登録後 3月
  • 走行距離 2346km
  • 修理費 107万5356円
  • 評価損 10万7535円

⑰大阪地判令和元年11月15日判例集未掲載

  • 車種 BMW640iグランクーペ
  • 損傷箇所 リアバンパー・トランクリッド等の軽度損傷
  • 登録後 3年
  • 走行距離 3万5458km
  • 修理費 55万4090円
  • 評価損 5万円

⑱東京地判令和3年10月12日判例集未掲載

  • 車種 ベンツCクラス
  • 損傷箇所 フロントドアパネル等
  • 登録後 3年
  • 走行距離 1万9400km
  • 修理費 193万9966円
  • 評価損 19万3996円

⑲東京地判令和3年11月30日判例集未掲載

  • 車種 国産高級車
  • 損傷箇所 不明
  • 登録後 4月
  • 走行距離 不明
  • 修理費 63万0713円
  • 評価損 6万3071円

⑳名古屋地判令和4年3月25日2022WLJPCA03258051

  • 車種 ベントレーFLYINGSPUR
  • 損傷箇所 車体左前面部はラジエータグリルウィズナンバーB/K・左ヘッドランプ・左ベントグリル、車体左側面部は左ウイング・左フロントドア・左リヤドアパネル・左フロントタイヤ・左フロントホイール・左ドアミラー、車体左後平面部はトランクパネル・左クォータパネルの損傷
  • 登録後 4年
  • 走行距離 9257km
  • 修理費 628万4170円
  • 評価損 62万8417円

㉑東京地判令和4年7月6日2022WLJPCA07068010

  • 車種 ホンダフリードプラス
  • 損傷箇所 左フロントバンパー・左ヘッドライト・左フロントフェンダーパネルに損傷、左フロントバルクヘッド部への押込み、左フロントピラーに損傷、左フロントドアミラーが破損し脱落
  • 登録後 16日
  • 走行距離 235km
  • 修理費 40万5410円
  • 評価損 4万0541円

修理費の5%以下を認めた裁判例

㉒東京地判令和元年9月20日判例集未掲載

  • 車種 ベンツS550L
  • 損傷箇所 左側面リアバンパーからリアフェンダー付近に顕著な擦過痕、左リアドアまで擦過痕
  • 登録後 3年
  • 走行距離 5万6404km
  • 修理費 389万5614円
  • 評価損 12万円(修理費の3%)

㉓大阪地判令和2年3月10日交民53巻2号364頁

  • 車種 国産軽自動車
  • 損傷箇所 フロントホイールハウスロワメンバ、フロントホイールハウスバックプレート、バンパー、右フロントヘッドライト
  • 登録後 4月
  • 走行距離 不明
  • 修理費 47万円
  • 評価損 2万3500円(修理費の5%)

㉔東京地判令和2年12月11日判例集未掲載

  • 車種 フォルクスワーゲンティグアン
  • 損傷箇所 右サイドミラー交換、右フロントフェンダー塗装
  • 登録後 1年6月
  • 走行距離 9883km
  • 修理費 33万8751円
  • 評価損 1万7000円(修理費の5%)

取引上の評価損を認めなかった裁判例

㉕東京地判令和元年6月12日交民52巻3号702頁

  • 車種 軽自動車
  • 損傷箇所 リアアームコンプリート・ハンドルレバー・ボディフロントロワー等の破損
  • 登録後 不明
  • 走行距離 不明
  • 修理費 38万9511円
  • 評価損 0円

㉖名古屋地判令和元年10月17日判例集未掲載

  • 車種 アイシス5Dワゴン
  • 損傷箇所 右フロントフェンダ・右フロントドア・右サイドマッドガード・右フロントタイヤホイール等の損傷
  • 登録後 4年3月
  • 走行距離 4万5000km
  • 修理費 29万7573円
  • 評価損 0円

㉗大阪地判令和2年1月30日判例集未掲載

  • 車種 国産軽自動車
  • 損傷箇所 フロントパンパ・左ヘッドランプの押込み、左ヘッドランプ・左フロントフェンダ・ロアグリルの擦過傷、左フロントダンパハウジングの曲損等
  • 登録後 5月
  • 走行距離 2163km
  • 修理費 26万4600円
  • 評価損 0円

㉘さいたま地判令和2年2月26日自保2074号102頁

  • 車種 不明
  • 損傷箇所 バンパー等に擦過痕等
  • 登録後 10年
  • 走行距離 10万km
  • 修理費 49万2704円
  • 評価損 0円

㉙名古屋地判令和2年5月27日判例集未掲載

  • 車種 プリウス
  • 損傷箇所 右リアディスクホイールを中心とする擦過傷
  • 登録後 6月
  • 走行距離 不明
  • 修理費 38万0716円
  • 評価損 0円

㉚大阪地判令和2年8月25日交民53巻4号995頁

  • 車種 ポルシェ
  • 損傷箇所 後部バンパー押込み変形、マフラー直撃入力
  • 登録後 5年2月
  • 走行距離 2万4400km
  • 修理費 40万6080円
  • 評価損 0円

㉛大阪地判令和2年10月23日判例集未掲載

  • 車種 不明
  • 損傷箇所 バックドア、リヤパンパ、ナンバープレート
  • 登録後 不明
  • 走行距離 不明
  • 修理費 不明
  • 評価損 0円

㉜東京地判令和3年3月17日判例集未掲載

  • 車種 キャラバン
  • 損傷箇所 フロントバンパー取替え、左フロントドアパネルの板金、塗装等
  • 登録後 7年5月
  • 走行距離 9万km
  • 修理費 17万6165円
  • 評価損 0円

㉝東京地判令和3年3月22日自保2100号175頁

  • 車種 ベントレー
  • 損傷箇所 左後輪タイヤ・タイヤフレーム
  • 登録後 10年7月
  • 走行距離 不明
  • 修理費 62万4240円
  • 評価損 0円

㉞東京地判令和3年3月24日判例集未掲載

  • 車種 不明
  • 損傷箇所 不明
  • 登録後 11年6月
  • 走行距離 5万6000km
  • 修理費 58万4096円
  • 評価損 0円

㉟東京地判令和3年3月29日判例集未掲載

  • 車種 マツダCX-8
  • 損傷箇所 右フロントドア・リヤドア
  • 登録後 3月
  • 走行距離 4233km
  • 修理費 38万8403円
  • 評価損 0円

㊱東京地判令和3年4月16日判例集未掲載

  • 車種 ベンツ
  • 損傷箇所 リヤバンパーフェースとロアカバーの分離、ブラケットの変形、ブラケットとリヤパネルの接合箇所の一部剥がれ
  • 登録後 4年3月
  • 走行距離 7万9415km
  • 修理費 59万0897円
  • 評価損 0円

㊲東京地判令和4年1月27日2022WLJPCA01278020

  • 車種 アウディA6アバント
  • 損傷箇所 左ドアミラー前面の前方からの衝突痕及び左フロントドア中央部の前方からの擦過痕
  • 登録後 5年
  • 走行距離 13万km
  • 修理費 112万3405円
  • 評価損 0円

㊳東京地判令和4年3月4日2022WLJPCA03048009

  • 車種 BMW
  • 損傷箇所 左ヘッドライト付近,フロントバンパー左前側にかけて凹損等
  • 登録後 5年8月
  • 走行距離 5万3756km
  • 修理費 61万1820円
  • 評価損 0円

㊴名古屋地判令和4年3月30日2022WLJPCA03308026

  • 車種 自家用普通乗用自動車
  • 損傷箇所 各種ピラーの折損等
  • 登録後 2年8月
  • 走行距離 5万1659km
  • 修理費 102万1269円
  • 評価損 0円

㊵名古屋地判令和4年6月3日2022WLJPCA06038001

  • 車種 ダイハツ ムーヴ
  • 損傷箇所 不明
  • 登録後 1年9月
  • 走行距離 3万3420km
  • 修理費 22万4000円
  • 評価損 0円

㊶東京地判令和4年7月22日2022WLJPCA07228004

  • 車種 国産SUV車
  • 損傷箇所 不明
  • 登録後 7月
  • 走行距離 8665km
  • 修理費 65万5074円
  • 評価損 0円

㊷名古屋地判令和4年8月9日2022WLJPCA08098003

  • 車種 レクサスIS 2500IS300h
  • 損傷箇所 左ロッカアウタパネル等の内板・骨格部位に損傷が生じているものの、板金修理に留まり取替修理まではされていない
  • 登録後 6年9月
  • 走行距離 6万9500km
  • 修理費 114万3340円
  • 評価損 0円

㊸大阪地判令和4年9月13日2022WLJPCA09138001

  • 車種 不明
  • 損傷箇所 リアバンパーの凹み等
  • 登録後 不明
  • 走行距離 不明
  • 修理費 75万3394円
  • 評価損 0円

若干の考察

 前掲の赤い本講演録では、評価損を認めた裁判例における算定方法を、

  1. 事故時のあるべき時価から修理後の価値を控除したもの
  2. 事故後の車両価格の何パーセントとするもの
  3. 修理費の何パーセントとするもの
  4. 修理費の何パーセントと事故前の時価から修理費を控除した額との低い方の額をもって評価損とするもの
  5. 諸要素を斟酌し金額で示すもの

の5パターンに整理されたうえで、上記3の修理費の何パーセントとするものが裁判例の趨勢であるとしていました*1。これに対して、令和に入ってからの裁判例で取引上の評価損を認めるものの大多数は、上記3の修理費の何パーセントとして認定しており、従来の認定傾向をより強めてきたものといえます。
 また、前掲の赤い本講演録では、「初度登録から1月程度の事故による損傷についても修理の20パーセントとするものもあるなど、運用が硬直化している傾向にあるので、初度登録から間もない事故については、対修理費のパーセントも50パーセントを超える認定をすべきだと思います。」との指摘がありましたが*2、令和に入ってからの裁判例においても上記裁判例③のように初度登録から1月程度の事故であっても30パーセントの認定にとどまっており、取引上の評価損の認定傾向の硬直化は解消されていないように思われます。
 以上のように、取引上の評価損に関する裁判例の傾向は、従前から特段目立った変更はないように思われ、引き続き、初度登録からの期間、走行距離、損傷の部位、車種等を考慮して損害の有無を把握する必要があると思われます。


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*1:前掲影浦299頁

*2:前掲影浦299頁

確定申告無申告者の休業損害・逸失利益算定上の基礎収入の認定

 休業損害や逸失利益の算定においては、その前提となる基礎収入の認定が必要となります。個人事業主等の場合には、確定申告を行っていれば、申告所得額をもって基礎収入を認定することができますが、確定申告をしていない人の場合にはどのように認定すべきなのかが問題となります。
 本稿では、裁判例を中心に、確定申告無申告者の基礎収入の認定について取り上げます。

1 裁判例の状況

 調べた範囲での裁判例の傾向は、次のとおり整理されます(番号は末尾に掲げる裁判例一覧の番号に対応しています。)。
 ⑴ 賃金センサスをそのまま適用するもの①②④⑨⑫
 ⑵ 賃金センサスの80%とするもの…⑮
 ⑶ 賃金センサスの70%とするもの…⑤⑯⑱
 ⑷ 賃金センサスの50%とするもの…③
 ⑸ 賃金センサスの40%とするもの…⑭
 ⑹ 原告の主張をそのまま認定したもの…⑦
 ⑺ 0円としたもの…⑧⑩⑬
 ⑻ その他…⑥⑪⑰⑲⑳

2 無申告所得の立証方法

 確定申告のない所得の認定に当たっては、通常の業務の過程で作成される会計帳簿、伝票類、日記帳、レジの控え、取引の過程で作成される契約書、納品書、請求書、領収書、金銭の移動を立証するための預金通帳等による立証が考えられます。会計帳簿には、売上及び経費について網羅的に記載されているのが一般的と思われるところ、その信用性については、その基となった預金通帳、伝票、日記帳、レジの控え等の裏付けとなる証拠を参照して、文書の体裁、記載内容、作成経緯等から厳格に判断する必要があることが指摘されています*1
 上記1⑹の裁判例は、具体的にどのような証拠資料が提出されたのか不明ですが、これらの立証に成功したものと考えられます。

3 立証不十分の場合

 ⑴ 上記2の立証が不十分とされる場合であっても、被害者の年齢、性別、健康状態、学歴、職業のほか、営業規模や出入金の状況、営業の状況、仕事の形態、家族を含めた生活状況、認定可能な事故前の現実収入などの諸事情を考慮し、賃金センサスの平均賃金を得られる相当の蓋然性が認められる場合には、当該平均賃金に相当する基礎収入額を算定することになります*2
 ⑵ 賃金センサスを適用する裁判例では、賃金センサスを100%適用するもの(上記1⑴)と、70%の限度で適用するもの(上記1⑶)が多くありました。
 賃金センサスを100%適用するものは、被害者が事故当時心身ともに健全で就労し収入を得ており、その収入によって生計を維持していたこと等に言及があり、上記⑴の諸要素を考慮したうえで賃金センサスの平均賃金を得られる相当の蓋然性が認められるとの判断をしていることが窺われます。
 賃金センサスを限定的に適用するものは、被害者による立証によっては賃金センサスの平均賃金を得られる相当の蓋然性が認められないものの、一定程度の所得を得られる相当の蓋然性の範囲で認められることに言及があります。したがって、上記⑴の立証がされていない場合であっても、就労の事実や収入を得ていた事実がある程度立証されている場合には、賃金センサスを限定的に適用するものと考えられます。具体的に何%に限定して適用すべきかを判断するに当たっても、上記⑴の諸要素を考慮して判断するものと考えられます。
 ⑶ 上記1⑺の裁判例では、いずれも、そもそも就労の事実や収入を得ていた事実の立証が不十分と判断されています。

4 賃金センサス以外の方法による認定

 なお、⑰⑲⑳のように、賃金センサスの平均賃金を得られる相当の蓋然性が認められない場合に、賃金センサスを基準とせず、事故前後の売上や経費等から、具体的な基礎収入を認定している裁判例も存在します。

5 裁判例一覧表


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*1:豊島英征「賃金センサスによる基礎収入額認定上の問題点」日弁連交通事故相談センター編『民事交通事故訴訟損害賠償算定基準2019年〔下巻〕』28頁

*2:湯川浩昭「事業者の基礎収入の認定」日弁連交通事故相談センター編『民事交通事故訴訟損害賠償算定基準2006年〔下巻〕』19頁

赤い本講演録タイトル一覧

(令和5年2月11日0時52分更新:令和5年版を追加しました。)

(令和6年2月20日21時15分更新:令和6年版を追加しました。)

 

 交通事故事件においては,公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部が編集発行する『民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準』(その表紙の色から「赤い本」と呼ばれます。)を参照することが多くあります。特に,東京地裁民事第27部の裁判官による講演録は,近時の交通事故事件における問題点の整理・分析がされており,事件処理にあたりとても有益な情報が記載されていることが少なくありません。この講演録には,毎年,赤い本の改訂にあわせて最新の講演が収録されるため,これまでに掲載された講演数はかなりのものになります。そこで,本記事では,必要な講演へのアクセスをスムーズに行うことができるよう,各年度の赤い本掲載の講演タイトルを整理しています。Ctrlキー+Fキーでキーワード検索をするなど,適宜の方法でご活用ください。

 

2024(令和6年)版

損害賠償額の算定について

  1. 伊東智和「自転車同士の事故に関する過失相殺について」7頁
  2. 村松悠史「既存障害のある被害者の損害算定について」49頁
  3. 松本美緒「若年労働者の逸失利益算定における基礎収入」99頁

その他の講演

  1. 菊池憲久「最近の東京地裁民事交通訴訟の実情」1頁
  2. 敷島敬悟「眼外傷の診断と後遺症」133頁

 

2023(令和5年)版

損害賠償額の算定について

  1. 平山 馨「いわゆる人傷一括払における代位に関する協定の効力」5頁
  2. 大瀧泰平「高次脳機能障害の等級認定」19頁
  3. 戸取謙治「受傷の有無が争点となる事案について」75頁
  4. 千葉健一「特殊車両の休車損害など」115頁

その他の講演

  1. 森田浩美「最近の東京地裁民事交通訴訟の実情」1頁

 

2022(令和4年)版

損害賠償額の算定について

  1. 島﨑卓二「後遺障害逸失利益について定期金賠償方式が認められる事案~最判令和2年7月9日(民集74巻4号1204頁)の射程~」5頁
  2. 久保雅志「減収がない場合の消極損害(休業損害及び逸失利益)」17頁
  3. 今村あゆみ「代車費用に関する諸問題(①将来の代車費用,②相当な代車費用の範囲等)」53頁
  4. 林 漢瑛「非接触事故の過失割合について」73頁

その他の講演

  1. 森田浩美「最近の東京地裁民事交通訴訟の実情」1頁

 

2021(令和3年)版

損害賠償額の算定について

  1. 川﨑博司「盗難車両と車両所有者の責任」27頁
  2. 齊藤恒久「重度後遺障害の将来介護費の算定に関する諸問題~施設関係費用,介護保険給付の扱いを中心に」59頁
  3. 小沼日加利「脊柱変形の障害による労働能力の喪失について」73頁
  4. 田野井蔵人「間接損害(従業員が死傷した場合の会社の損害)」

その他の講演

  1. 中村さとみ「最近の東京地裁民事交通訴訟の実情」1頁

 

2020(令和2年)版

損害賠償額の算定について

  1. 鈴木秀雄「後遺障害等級3級以下の場合の将来介護費」7頁
  2. 中 直也「債務不存在確認請求訴訟をめぐる諸問題について」37頁
  3. 綿貫義昌「外貌醜状に関する逸失利益,慰謝料をめぐる諸問題」47頁
  4. 前田芳人「民事交通訴訟における債権法改正の影響」65頁

その他の講演

  1. 中村さとみ「最近の東京地裁民事交通訴訟の実情」1頁
  2. 小林一女「耳の後遺障害について」75頁

 

2019(平成31年)版

損害賠償額の算定について

  1. 石井義規「全損事故における損害概念及び賠償者代位との関係」11頁
  2. 豊島英征「賃金センサスによる基礎収入額認定上の問題点」25頁
  3. 野々山優子「非器質性精神障害をめぐる問題」49頁

その他の講演

  1. 谷口園恵「最近の東京地裁民事交通訴訟の実情」1頁
  2. 横田道明「労災保険における障害認定実務と第三者行為災害」

 

2017(平成29年)版

損害賠償額の算定について

  1. 磯尾俊明「被害者死亡の場合における近親者固有の慰謝料」5頁
  2. 川原田貴弘「物損(所有者でない者からの損害賠償請求)について」55頁
  3. 山﨑克人「心因的要因を理由とする減額」65頁

その他の講演

  1. 谷口園恵「最近の東京地裁民事交通訴訟の実情」1頁
  2. 川合雅信=齋藤正利「自動車の構造と修理技法」81頁

 

2016(平成28年)版

損害賠償額の算定について

  1. 神谷善英「時間的,場所的に近接しない複数の事故により同一部位を受傷した場合における民法719条1項後段の適用の可否等」
  2. 向井宣人「後部座席シートベルト,チャイルドシート不装着の場合における過失相殺」27頁
  3. 家入美香「入院付添費について」53頁

その他の講演

  1. 森冨義明「最近の東京地裁民事交通訴訟の実情」1頁
  2. 朝妻孝仁「胸・腰椎の疾患と外傷」65頁

 

2015(平成27年)版

損害賠償額の算定について

  1. 村主隆行「責任能力の有無が微妙な年齢の未成年者が自転車事故を起こした場合の親権者の損害賠償責任」7頁
  2. 中村修輔「運行供用者責任(バス乗降中の事故)」27頁
  3. 俣木泰治「オープン・エンド方式のオペレーティング・リース契約を中途解約した場合,ユーザーが負担する中途解約違約金について」43頁
  4. 松川まゆみ「映像記録型ドライブレコーダーに記録された情報と交通損害賠償訴訟における立証」55頁

その他の講演

  1. 白石史子「最近の東京地裁民事交通訴訟の実情」1頁
  2. 酒本九十九「交通鑑識活動による事案の解明について」63頁

 

2014(平成26年)版

損害賠償額の算定について

  1. 古市文孝「運転者の疾患による責任無能力と賠償義務」7頁
  2. 松本 真「赤字事業を営む経営者の休業損害と逸失利益の算定における基礎収入額」25頁
  3. 小河原寧「高齢者の損害算定に伴う諸問題」45頁
  4. 波多野紀夫「自転車同士の事故の過失相殺」53頁

その他の講演

  1. 白石史子「最近の東京地裁民事交通訴訟の実情」1頁
  2. 堀川直史「交通事故に関係する精神医学的問題」67頁

 

2013(平成23年)版

損害賠償額の算定について

  1. 髙木健司「症状固定について」7頁
  2. 有冨正剛「CRPS(RSD)の後遺症による損害の額の算定について」23頁
  3. 小林邦夫「特殊な職業と後遺障害による逸失利益」41頁
  4. 小河原寧「定期金賠償判決に伴う諸問題」71頁

その他の講演

  1. 阿部 潤「最近の東京地裁民事交通訴訟の実情」1頁
  2. 古川 修「先進安全自動車の開発からみた交通事故」81頁

 

2012(平成24年)版

損害賠償額の算定について

  1. 小河原寧「交通事故の被害者に成年後見人が選任された場合に伴う諸問題」5頁
  2. 川﨑直也「退職金差額請求について」15頁
  3. 小西慶一「緊急自動車が当事車両となる交通事故の過失相殺について」35頁
  4. 三木素子「人身傷害補償保険金の支払による保険代位をめぐる諸問題」53頁

その他の講演

  1. 阿部 潤「最近の東京地裁民事交通訴訟の実情」1頁
  2. 川俣貴一「外傷による脳損傷の基礎知識」67頁

 

2011(平成23年)版

損害賠償額の算定について

  1. 山田智子「重度後遺障害の将来介護費の算定に関する諸問題~職業付添人による介護を中心として」5頁
  2. 鈴木尚久「外貌の醜状障害による逸失利益に関する近時の裁判実務上の取扱いについて」39頁
  3. 小野瀬昭「駐車場内における事故の過失相殺について」57頁
  4. 森 健二「人身傷害補償保険金と自賠責保険金の代位について」93頁

その他の講演

  1. 中西 茂「最近の東京地裁民事交通訴訟の実情」1頁
  2. 松本守雄「頚椎加齢性疾患と頚部損傷」105頁

 

2010(平成22年)版

損害賠償額の算定について

  1. 千葉和則「後遺障害と消滅時効除斥期間について」5頁
  2. 鈴木正弘「横断自転車と左折四輪車との衝突事故における過失相殺」25頁
  3. 飯畑勝之「被害者側の過失」33頁
  4. 山田智子「子の自動車事故と親の運行供用者責任」49頁
  5. 中辻󠄀雄一朗「共同運行供用者と他人性」71頁

その他の講演

  1. 中西 茂「最近の東京地裁民事交通訴訟の実情」1頁
  2. 八木一夫自賠責保険における被害者保護制度について」87頁

 

2009(平成21年)版

損害賠償額の算定について

  1. 齊藤 顕「飲酒運転をめぐる関係者の損害賠償責任」5頁
  2. 中辻󠄀雄一朗「生活費控除を巡る問題」39頁
  3. 鈴木祐治「素因減額」51頁
  4. 小野瀬昭「過失相殺に関する若干の問題点について~ETC車線における追突事故と過失相殺・非常点滅表示灯の使用の有無と過失相殺~」69頁

その他の講演

  1. 八木一洋「最近の東京地裁民事交通訴訟の実情」1頁
  2. 加藤義治「下肢骨折の形態と機能障害,その問題点」85頁

 

2008(平成20年)版

損害賠償額の算定について

  1. 中園浩一郎「減収がない場合における逸失利益の認定」9頁
  2. 浅岡千香子「物損に関連する慰謝料」41頁
  3. 齊藤 顕「交通事故訴訟における共同不法行為」63頁
  4. 小林邦夫「12級又は14級の後遺障害等級において労働能力喪失率表より高い喪失率が認められる場合」111頁
  5. 湯川浩昭「施設入所中の重度後遺障害者の損害算定に関する諸問題」131頁

その他の講演

  1. 八木一洋「最近における東京地裁民事交通訴訟の実情」1頁
  2. 堀野定雄「映像記録型ドライブレコーダーを活用した事故分析と交通安全」157頁

 

2007(平成19年)版

損害賠償額の算定について

  1. 湯川浩昭「レンタカー同乗者の『運行供用者性』及び『他人性』について」7頁
  2. 中園浩一郎「非接触事故における過失相殺」41頁
  3. 小林邦夫「むち打ち症以外の原因による後遺障害等級12級又は14級に該当する神経症状と労働能力喪失期間」75頁
  4. 齊藤 顕「逸失利益の算定における賃金センサス」97頁
  5. 桃崎 剛「人身傷害補償保険をめぐる諸問題」131頁
  6. 浅岡千香子「損害算定における中間利息控除の基準時」171頁
  7. 蛭川明彦「後遺障害等級3級以下に相当する後遺障害を有する者に係る介護費用及び家屋改造費について」209頁

その他の講演

  1. 佐久間邦夫「最近における東京地裁民事交通訴訟の実情」1頁
  2. 有田英子「痛みとは~痛みのメカニズムとその種類~」239頁

 

2006(平成18年)版

損害賠償額の算定について

  1. 湯川浩昭「事業者の基礎収入の認定」13頁
  2. 髙取真理子「RSD(反射性交換神経性ジストロフィー)について」53頁
  3. 小林邦夫「代車の必要性」77頁
  4. 桃崎 剛「交通事故訴訟における共同不法行為と過失相殺」97頁
  5. 浅岡千香子「加重障害と損害額の算定」129頁
  6. 蛭川明彦「労働能力喪失の認定について」177頁

その他の講演

  1. 芝田俊文「最近における東京地裁民事交通訴訟の実情」1頁
  2. 守谷悦男「核医学とは何か~画像から何がわかるのか~」201頁

 

2005(平成17年)版

損害賠償額の算定について

  1. 松本利幸「会社役員の休業損害・逸失利益」11頁
  2. 髙取真理子「慰謝料増額事由」37頁
  3. 本田 晃「高次脳機能障害の要件と損害評価」67頁
  4. 瀬戸啓子「労働能力喪失の認定について」93頁
  5. 桃崎 剛「歩行者が加害者となった場合の過失相殺」117頁
  6. 蛭川明彦「改造車における修理費用及び車両価格の算定」153頁

その他の講演

  1. 芝田俊文「最近における東京地裁民事交通訴訟の実情」1頁
  2. 川井 真「高度救急救命治療の実際」173頁

 

2004(平成16年)版

損害賠償額の算定について

  1. 松本利幸「間接損害-直接被害者の近親者の損害」311頁
  2. 髙取真理子「重度後遺障害に伴う諸問題~将来の介護費用を中心として」332頁
  3. 本田 晃「交通損害賠償訴訟におけるPTSD」384頁
  4. 片岡 武「労働能力喪失率の認定について」425頁
  5. 森  剛「休車損害の要件及び算定方法」472頁
  6. 石田憲一「定期金賠償の動向」

その他の講演

  1. 芝田俊文「最近における東京地裁民事交通訴訟の実情」299頁
  2. 上山 勝「わが国における交通事故再現の現状と今後の課題」268頁

 

2003(平成15年)版

損害賠償額の算定について

  1. 松本利幸「同乗減額と共同不法行為」275頁
  2. 鈴木順子「家事労働の逸失利益性」294頁
  3. 本田 晃「逸失利益の現価算定の基準時」303頁
  4. 片岡 武「東洋医学による施術費」322頁
  5. 来司直美「代車使用の認められる相当期間」344頁
  6. 石田憲一「高速道路における停車車両の過失相殺」357頁

その他の講演

  1. 河邉義典「民事交通訴訟の現状と課題」259頁
  2. 平林 洌「後遺障害等級認定にかかわる医学的基礎知識」246頁

 

2002(平成14年)版

損害賠償額の算定について

  1. 村山浩昭「事故後の親族関係の異動と生活費控除率等への影響」278頁
  2. 渡邉和義「労災保険給付がある場合における損害の填補額の計算(第三者行為災害事例)」285頁
  3. 鈴木順子「内縁配偶者と相続人の損害賠償請求権の関係」291頁
  4. 影浦直人「評価損をめぐる問題点」295頁
  5. 片岡 武「駐車車両等に衝突した運転者の過失割合」305頁
  6. 来司直美「交通事故による損害賠償請求権の消滅時効の起算点について」336頁

その他の講演

  1. 河邉義典「民事交通訴訟の現状と課題」268頁
  2. 八島宏平「自動車損害賠償保障法改正に伴う損害調査業務について」349頁

 

2001(平成13年)版

損害賠償額の算定について

  1. 村山浩昭「異時衝突事故により修理代の合計額が車両価格を超えた場合の損害額」293頁
  2. 渡邉和義「休業損害をめぐる二,三の問題について」298頁
  3. 山崎秀尚「醜状痕を理由とする後遺障害慰謝料及び醜状痕が残った男性被害者の後遺障害の評価」306頁
  4. 馬場純夫「三者関与事故の過失割合」314頁
  5. 影浦直人「交通事故の被害者の自殺と因果関係の判断」320頁
  6. 来司直美「【運転補助者該当性の判断基準】~『運行』概念の拡大と『運転補助者』概念の縮小~」325頁

その他の講演

  1. 河邉義典「民事交通訴訟の現状と課題」282頁
  2. 山中唯志「最近の損害保険業界の動きについて」335頁

 

2000(平成12年)版

損害賠償額の算定について

  1. 村山浩昭「後遺障害発生後死亡事案の逸失利益」266頁
  2. 渡邉和義「高速道路上における事故車両の後続事故に関する責任」273頁
  3. 山崎秀尚「リース・割賦販売と損害の範囲」279頁
  4. 馬場純夫「交通事故と医療過誤の競合と寄与度減責の可否」287頁

その他の講演

  1. 井上繁規「最近における東京地裁民事交通訴訟の実情」258頁
  2. 大内健資「医療機関向け解説書の概要について-後遺障害等級認定に必要な医療情報-」301頁

 

1999(平成11年)版

損害賠償額の算定について

  1. 村山浩昭「保険料差額は賠償請求できるか」218頁
  2. 松谷佳樹「ゼブラゾーンと過失相殺」223頁
  3. 山崎秀尚「シルバーマーク標識を付けた高齢者の事故」228頁
  4. 馬場純夫「駐停車車両の事故に対する責任」237頁
  5. 田原美奈子「従業員の借りた車両に対する使用者・貸与者の責任」243頁

その他の講演

  1. 園部秀穗「新民事訴訟法下の交通事件訴訟の運用」212頁
  2. 大内健資「後遺障害診断書に見られる問題点について」249頁

 

1998(平成10年)版

損害賠償額の算定について

  1. 竹内純一「公的給付が損害額算定に与える影響」172頁
  2. 松谷佳樹「有識者の後遺障害による逸失利益」178頁
  3. 栗原洋三「身体的素因と寄与減額」182頁
  4. 河田泰常「自賠法3条の「他人性」について」186頁
  5. 中村 心「評価損が認められる場合とその算定方法」192頁

その他の講演

  1. 飯村敏明「最近における東京地裁民事交通訴訟の実情」164頁
  2. 近江悌二郎「自賠責保険の損害調査について」196頁

 

1997(平成9年)版

東京地方裁判所民事第27部裁判官を囲む座談会

  1. 竹内純一「年金未受給者についての年金の逸失利益」186頁
  2. 堺 充廣「被害者死亡後における将来の治療費等の請求」191頁
  3. 栗原洋三「道交法上の信号機以外の規制・誘導に従った場合の過失相殺と責任」197頁
  4. 河田泰常「外国で交通事故に遭った日本人被害者と日本の裁判所」202頁
  5. 波多江久美子「高額所得者が看護した場合の付添看護費」209頁

その他の講演

  1. 飯村敏明「最近における東京地裁民事交通訴訟の実情」178頁
  2. 平野 孝「保険業法改正のポイント-欧米との比較を踏まえて-」212頁

 

1996(平成8年)版

東京地方裁判所民事第27部裁判官を囲む座談会

  1. 竹内純一「搭乗者傷害保険金の給付と損害賠償」125頁
  2. 堺 充廣「後遺障害非該当の場合の逸失利益」131頁
  3. 渡邉和義「退職金・年金の生活費控除」138頁
  4. 河田泰常「過失相殺率等の示談の法的拘束力」144頁
  5. 波多江久美子「外国人が本国で治療を受けた場合の治療費等」150頁

その他の講演

  1. 南 敏文「最近における東京地裁民事交通訴訟の状況について」119頁
  2. 岩瀬康雄「自賠責保険における後遺障害の認定について」155頁

 

1995(平成7年)版

東京地方裁判所民事第27部裁判官を囲む座談会

  1. 大工 強「運転補助者の概念」114頁
  2. 齋藤大巳「内縁配偶者の賠償請求権の損害額の算定」120頁
  3. 松井千鶴子「物損-休車損の問題」126頁
  4. 渡邊和義「時効の中断」131頁
  5. 湯川浩昭「既往症がある場合の過失相殺の適用の問題」136頁

その他の講演

  1. 南 敏文「最近における東京地裁民事交通訴訟の状況について」109頁
  2. 三坂則夫「自賠責保険及び任意対人賠償保険の支払基準の改訂・車両保険・対物賠償保険の収支改善のための対策」144頁

 

1994(平成6年)版

東京地方裁判所民事第27部裁判官を囲む座談会

  1. 大工 強「症状固定前後の転倒による損害拡大と因果関係」114頁
  2. 嶋原文雄「事故態様の解明や医学鑑定等の方法」119頁
  3. 小西義博「重度後遺障害の場合の近親者慰謝料を認める現実的なめやす」124頁
  4. 近藤宏子「整骨院等における施術費の認められる範囲」129頁
  5. 湯川浩昭「味覚,嗅覚及び性的能力の喪失・減退など生活能力の喪失・減退をもたらす後遺障害の財産的損害としての評価」134頁

その他の講演

  1. 南 敏文「民事交通訴訟についての最近の判例と雑感」110頁
  2. 大友重雄「自賠責保険における後遺障害認定上の着眼点」140頁

 

1993(平成5年)版

東京地方裁判所民事第27部裁判官を囲む座談会

  1. 小泉博嗣「任意退職と解雇の場合の損害賠償について」108頁
  2. 嶋原文雄「慰藉料基準化の要素について」115頁
  3. 小西義博「レンタカー会社・リース会社の責任について」119頁
  4. 見米 正「保険契約(約款)の説明義務と保険会社の責任について」122頁
  5. 江原健志「市場価格のなくなった中古車の損害評価について」126頁

その他の講演

  1. 小川英明「最近における東京地裁民事交通訴訟の感想」102頁
  2. 柏井譲二「平成4年8月1日改定に伴う自賠責保険及び任意対人賠償保険の支払基準について」130頁

 

1992(平成4年)版

東京地方裁判所民事第27部裁判官を囲む座談会

  1. 原田 卓「傷害慰謝料について」108頁
  2. 長久保守夫「外国人が被害者の場合の慰謝料等について」111頁
  3. 石原稚也「被用者の損害を使用者が支払った場合における使用者の加害者に対する直接請求の根拠について」120頁
  4. 見米 正「積極損害に関する相当因果関係について」125頁
  5. 江原健志「時効と弁済について」130頁

その他の講演

  1. 稲葉威雄「交通事故訴訟における基準の役割」
  2. 伊藤文夫「自賠責保険における損害調査並びに後遺障害の認定手続」135頁

 

1991(平成3年)版

東京地方裁判所民事第27部裁判官を囲む座談会

  1. 原田 卓「個人会社の休損,逸失利益に関する諸問題」73頁
  2. 長久保守夫「後遺障害について」76頁
  3. 石原稚也「代行運転について」81頁
  4. 森木田邦裕「複数車両が関係する事故についての責任」86頁

その他の講演

  1. 原田敏章「最近の交通事故訴訟の動向について」70頁
  2. 坂井達朗「自損事故保険と搭乗者傷害保険の支払実務」92頁

 

1990(平成2年)版

東京地方裁判所民事第27部裁判官を囲む座談会

  1. 原田 卓「被害者の素因について」71頁
  2. 石原稚也「中間利息控除の基準点と遅延損害金の起算点」74頁
  3. 長久保守夫「胎児死亡の場合の損害賠償の算定」77頁
  4. 森木田邦裕「無職者・高齢者の休業損害」82頁
  5. 竹野下喜彦「好意同乗減額の可否」86頁
  6. 岡本 岳「路上駐車の不法行為責任」89頁

その他の講演

  1. 柴田保幸「最近の交通事故訴訟の動向等について」64頁
  2. 加戸浩二「(一)自動車損害賠償責任保険損害査定要綱、自動車対人賠償保険支払基準の改定について (二)医療費をめぐる諸問題」95頁

 

1989(平成元年)版

東京地方裁判所民事第27部裁判官を囲む座談会

  1. 竹野下喜彦「共同不法行為者間の求償権と保険金」74頁
  2. 中西 茂「債務不存在確認訴訟について」77頁
  3. 原田 卓「将来の介護料について」80頁
  4. 石原稚也「責任能力ある未成年者が自転車で事故を起こした場合の親の責任について」83頁
  5. 岡本 岳「物損の再調達費用、物損の慰謝料について」86頁
  6. 竹野下喜彦「買替諸費用について」89頁

その他の講演

  1. 柴田保幸「交通事故訴訟における弁護士の義務・倫理等について」68頁
  2. 山口三惠子「米国における交通事故の問題点」94頁
  3. 中村大利「海外旅行者の増加にともなう事故と保険対応」104頁