弁護士清水大地のブログ

日頃考えたことを徒然なるままに書き散らします。

祝日と法令~令和3年の祝日はどのように決まるのか~

  明けましておめでとうございます。私は,今月からついに弁護士業務を始めました。皆様どうぞよろしくお願い致します。

 さて,正月三が日が終わり,もう仕事に戻られた方がほとんどかと思います。つい先日までの自由な時間を取り戻したい気持ちで頭がいっぱいだという方もいるかもしれませんが,諦めて真面目に仕事をしましょう。

 ところで,正月三が日が休みになるのは慣習の側面が強いですが,1月1日だけは特別です。それは,1月1日は「元日」という祝日とされているからです。我が国では,この元日をはじめとして,様々な祝日が設けられていますが,この祝日はどのようにして定められているのでしょうか。今日は,祝日の根拠は何なのかについて触れてみたいと思います。

 

 

国民の祝日の根拠法令

国民の祝日に関する法律

 国民の祝日は,実は,すべて法律によって決められています。その法律とは,「国民の祝日に関する法律」というそのままの名前の法律です(以下「祝日法」といいます。)。この祝日法2条に,すべての祝日が定められているのです。どのように定められているのか,下記の表をご覧ください。

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 このように,各祝日の名前はもちろん,その日付や,なぜその祝日が設けられたのかという趣旨まで条文として掲げられています。この条文があることによって,はじめて祝日というものが出来上がるのです。これを機に,それぞれの祝日がどのような趣旨で設けられたのかを知っておくと,今後の祝日の迎え方が少し変わるかもしれません。

 もっとも,これらの日を「祝日」と決めただけでは,単なるお祝いをすべき日という意味でしかならず,さらに休日としての効力が当然に発生するわけではありません。そこで,さらに祝日法の条文をみると,3条1項に下記のような規定があります。

第三条 「国民の祝日」は、休日とする。

2,3 (略)

 ここに,国民の祝日は休日にすると定められています。この条文があることによって,ようやく祝日が休日となるわけです。したがって,そもそも祝日がいつなのかを定めた2条と,その祝日を休日にすると定めた3条1項があわさることによって,各祝日が休日となるのです。

 

祝日を変えたり新しく設けたりするには

 祝日が法律で決められているということは,もし祝日の名称や日付を変えたいということになると,この祝日法を改正しないといけません。

 最近でいえば,「体育の日」が「スポーツの日」に名称変更されたほか,天皇陛下の退位に伴い天皇誕生日が12月23日から2月23日に変更されました。また,「山の日」というのも新たに付け加えられました。これらも全て祝日法を改正したからこそ変更できたわけです。

 体育の日の名称変更については「国民の祝日に関する法律の一部を改正する法律(平成30年法律第57号)」,天皇誕生日の日付変更については「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」の附則10条,山の日の新設については「国民の祝日に関する法律の一部を改正する法律(平成26年法律第43号)」が,それぞれの改正根拠法となります。

 体育の日の名称変更と山の日の新設は,それぞれ「国民の祝日に関する法律の一部を改正する法律」というまさに祝日法を改正する法律によって改正されているのに,天皇誕生日の日付変更はそれによらず皇室典範特例法によって改正されているのは,前者は祝日自体を変える,あるいは新設するというのがメインであるのに対して,後者は天皇が変わることがメインにあってそれに伴って祝日を変更するにすぎないからです。

 

建国記念の日春分の日秋分の日はどう決まるのか

 ところで,上の【表】を見ると,建国記念の日春分の日,そして秋分の日は,具体的な日が決められていないようですが,それではこれらの祝日の日付はどのように決められているのでしょうか。

 

春分の日秋分の日の決め方

 まず,春分の日秋分の日はそれぞれ「春分日」「秋分日」とされています。この「春分日」と「秋分日」というのは,天球上の太陽の通り道である黄道と,赤道を天まで伸ばしていってできる天の赤道とが交差する「春分」と「秋分」を含む日のことをいいます。下の【図】もご覧ください。ちなみにこの【図】を作るのに何回も失敗してめちゃくちゃ時間がかかりました。

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 太陽の見かけ上の動きは地球の公転運動に伴って生じますから,公転運動に変化が生ずれば春分秋分もズレることになります。したがって,春分日・秋分日も,毎年同じ日になるとは限らないのです。このズレについては,国立天文台が観測を行っており,毎年2月1日に翌年の春分日・秋分日が官報で発表されることになっています。

 このように,春分日・秋分日は毎年異なるため,法律でこの日だというのを決めることができず,あくまで春分日・秋分日とするにとどめているということになります。もしも法律で,春分の日は○月○日だと決めてしまい,仮にその日が春分日ではなかったことが判明した場合に,本来の春分日に春分の日を修正するとなると,前述のように法律の改正を行う必要が出てきてしまい,かなり面倒なことになってしまいます。

 

建国記念の日の決め方

建国記念の日の根拠法令

 建国記念の日については,「建国記念の日となる日を定める政令」というものが出されています。この政令は,たった1条しか条文がない短い政令です。その条文には以下のように書かれています。

国民の祝日に関する法律第二条に規定する建国記念の日は、二月十一日とする。

 ここには,建国記念の日を2月11日にすると定められています。これが建国記念の日の根拠規定となるわけです。

 ここで気になるのは,なぜ建国記念の日だけ祝日法ではなく政令で日付を決めているのか,ということです。春分の日秋分の日のように,毎年建国の日が異なるということもないはずですから,具体的な日付を決めてしまっても良さそうにも思えます。

 

建国記念の日の制定経緯

  建国の日を記念日としたのは明治時代の頃のようですが,これを国民の祝日とするに至ったのは,国民の祝日に関する法律が制定された昭和23年から18年も経過した昭和41年です。

 そもそも2月11日というのが何の日なのかというと,神武天皇が即位されたとされている日です。しかしこれは,明治時代に那珂通世博士が唱えた説であり,客観的科学的根拠があるわけではないのです。また,国というものは自然人とは異なる観念的なものであるため,何をもって建国といえるのかについても一義的に定まらない性質があります*1。そのため,建国記念の日を本当に2月11日にしていいのか,国会でかなり争われました(当時の会議録を見ると色んな専門家の先生が意見を述べられていますので,興味のある方は会議録検索で調べてみてください。)。

 最初は2月11日を祝日法に条文として明記することを目指していましたが,以上のように2月11日とするのがふさわしいかどうかについては争いがあったため,総理府(現在は内閣府に統合)に建国記念日審議会をおき,そこでの審議を経たうえで具体的な日を決めることとしました。そのため,祝日法に2月11日と明記することまではできず,あくまで審議会での審議を踏まえて制定された政令で定める日とされたわけです。国民の祝日に関する法律の一部を改正する法律(昭和41年法律第86号)の附則をみると,上記の論争の痕跡が窺えます。

建国記念の日となる日を定める政令の制定)

 改正後の第二条に規定する建国記念の日となる日を定める政令は、この法律の公布の日から起算して六月以内に制定するものとする。

 内閣総理大臣は、改正後の第二条に規定する建国記念の日となる日を定める政令の制定の立案をしようとするときは、建国記念日審議会に諮問し、その答申を尊重してしなければならない。

 ちなみにこの修正案に基づく改正法は昭和41年6月25日施行となっていますが,この修正案が提出されたのは同月7日の内閣委員会の直前ですので,ギリギリまで対応に苦慮していたことが窺われます。

 

祝日法2条に掲げられていない休日

 以上の祝日のほかに,ある条件のもとで休日が発生することがあります。それが,祝日法3条2項及び3項に定められた休日です。

第三条 (略)
 「国民の祝日」が日曜日に当たるときは、その日後においてその日に最も近い「国民の祝日」でない日を休日とする。
 その前日及び翌日が「国民の祝日」である日(「国民の祝日」でない日に限る。)は、休日とする。

 3条2項は,国民の祝日が日曜日にきてしまった場合には,その分の休日を別でとるという条文です。祝日の日付が「第○月曜日」と決まっている成人の日や海の日などは,日曜日になりようがないのでこの規定の適用はありませんが,「○月○日」という形で決められている山の日や文化の日は,その日が年によっては日曜日になることがあります。祝日は,国民ができるだけ休日として過ごすことが望ましいとして設けられているため*2,これがもとから休日とされている日曜日と被ってしまうと意味が薄れてしまいます。そのため,日曜日としての休日とは別に休日を設けるのが適切との考えから,日曜日より後の日を休日として扱います。このときの休日を「振替休日」と呼ぶこともあります。

 3条3項は,祝日と祝日の間にはさまれた日も休日にしてしまおうという条文です。この規定は,国民の文化的でゆとりある生活を実現し,あすへの英気を養うために設けられたものと説明されています*3。祝日の谷間で1日だけ仕事に出るというのもなかなか落ち着かないので,ありがたい規定です。

 

令和3年の祝日は例年と異なる

 祝日法が存在し続ける限り,我が国の祝日は同法に従って必ず訪れることになります。今年も例に漏れず,基本的には祝日法に定められたとおり,決まった日に祝日がやってきます。

 しかし,今年は,祝日の日付が例年とは異なるところがあります。それは,「海の日」,「スポーツの日」,「山の日」です。今年(令和3年)に限って,「海の日」は7月19日(月)から7月22日(木)に,「スポーツの日」は10月11日(月)から7月23日(金)に,「山の日」は8月11日(水)から8月8日(日)に,それぞれ移動します。

 先述のように,祝日の日付は祝日法に定められたものですから,1年に限ってとはいえ,これを変更するには法律の改正が必要です。改正の根拠となる法律は,「令和三年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会特別措置法」というバカみたいに長い名前の法律です(以下「祝日法特措法」といいます。)。この法律の32条2項には,このように書かれています。

第三十二条 令和二年の国民の祝日国民の祝日に関する法律(昭和二十三年法律第百七十八号。以下この条において「祝日法」という。)第一条に規定する国民の祝日をいう。次項において同じ)に関する祝日法の規定の適用については、祝日法第二条海の日の項中「七月の第三月曜日」とあるのは「七月二十三日」と、同条山の日の項中「八月十一日」とあるのは「八月十日」と、同条スポーツの日の項中「十月の第二月曜日」とあるのは「七月二十四日」とする。

 令和三年の国民の祝日に関する祝日法の規定の適用については、 祝日法第二条海の日の項中 「七月の第三月曜日」とあるのは「七月二十二日」と、同条山の日の項中「八月十一日」とあるのは「八月八日」と、同条スポーツの日の項中「十月の第二月曜日」とあるのは「七月二十三日」とする。

  ここに書かれているように,祝日法2条の海の日,山の日,スポーツの日のそれぞれの日付を修正する形で規定されています。もっとも,この条文は,つい最近,12月28日に改正されたばかりで,それ以前は32条1項にあたる条文しかありませんでした(つまり,令和2年の祝日を移動させる条文しか存在せず,令和3年分の条文は存在しませんでした。)。なぜこのような改正が行われたのでしょうか。

 そもそも,なぜこのような祝日の変更が行われたのかといえば,令和2年に東京オリンピックが開催される予定だったからです。オリンピック開催中は東京に人が多く集まることが見込まれ,特に開会式・閉会式が行われる時期は都心部での混雑が予想されます。そのため,アスリート,観客等の円滑な輸送と,経済活動,市民生活の共存を図るために,開会式・閉会式前後を連休としています*4。そのために,当初は「平成三十二年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会特別措置法」という名称の法律で,令和2年文の祝日を移動させていました。

 しかしながら,ご承知のように東京オリンピックは令和3年に延期されることとなりました。オリンピックが令和3年に延期となれば,令和3年の祝日も移動させる必要が生じてきます。どのようにして令和3年の祝日を変更するのかといえば,皆さんももうお気づきのように法律の改正です。

 今度は「平成三十二年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会特別措置法等の一部を改正する法律」というさらに長い名前の法律によって,祝日法を改正する根拠となっていた祝日法特措法をさらに改正する形となりました。条文は以下のとおりです。

第一条 平成三十二年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会特別措置法(平成二十七年法律第三十三号)の一部を次のように改正する。

 題名を次のように改める。

 令和三年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会特別措置法

(中略)

 第三十二条中「平成三十二年」を「令和二年」に、 「)第一条」を「。以下この条において「祝日法」という。 ) 第一条」に、 「いう」を「いう。次項において同じ」に、 「同法」を「祝日法」に改め、 同条に次の一項を加える。

 令和三年の国民の祝日に関する祝日法の規定の適用については、 祝日法第二条海の日の項中 「七月の第三月曜日」とあるのは「七月二十二日」と、同条山の日の項中「八月十一日」とあるのは「八月八日」と、同条スポーツの日の項中「十月の第二月曜日」とあるのは「七月二十三日」とする。

 この条文によって,まず祝日法特措法の正式名称である「平成三十二年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会特別措置法」が「令和三年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会特別措置法」に改題されました。さらに,上に掲げた祝日法特措法32条に新たに2項を追加する形で,令和3年の祝日の変更について規定する形になっています。ここで,上で見た,今年の海の日,山の日,スポーツの日の移動が行われています。このように,祝日法というものに対して修正に修正を重ねて,ようやく令和3年の祝日が移動できているのです。

 また,8月8日(日)に山の日が移動する結果,祝日が日曜日となるため,祝日法3条2項により,翌日の8月9日(月)が振替休日となります。

 以上のことをまとめると,令和3年の祝日は以下のようになります。

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さいごに

 祝日を1つ決めるのにも様々な法令が関係していることが理解していただけたかと思います。今年の祝日移動が手帳に反映されていないという方は,早いうちに修正しておきましょう。

 

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*1:第26回国会衆議院内閣委員会公聴会第1号

*2:第71回国会衆議院内閣委員会第9号山下元政府委員発言

*3:第103回国会参議院本会議第9号林寛子発言

*4:首相官邸2021年の祝日移動について