弁護士清水大地のブログ

日頃考えたことを徒然なるままに書き散らします。

旅行法令研究〔第3回〕~旅行業法編:定義規定(第2条)①~

 前回から,旅行業法の特集となっていますが,今回から各論,逐条で条文を見ていく回になります。前回記事はこちら ↓ ↓ ↓

ds-law.hatenablog.jp

 

 第1条の目的規定は前回記事で取り上げているので,今回と次回に分けて第2条の定義規定をみていくこととします。

 

 

定義規定の意義

 近年立法される法律には,その多くに定義規定が置かれており,その法律の中で登場する主な用語の定義が一つ一つ示されています。この定義規定は,その法律において使用される用語が社会通念からすればその意義に広狭があり,あるいはいろいろに解釈される余地があるため,法律を分かりやすくし,また解釈上の疑義を少なくするために設けられています*1

 条文を読んでいて,ある用語がどのような意味で使われているのかよく分からないという場合には,定義規定に戻って,その法律でその用語がどのように使われているのかを確認することが有用です。

 

「旅行業」の定義

(定義)
第二条 この法律で「旅行業」とは、報酬を得て、次に掲げる行為を行う事業(専ら運送サービスを提供する者のため、旅行者に対する運送サービスの提供について、代理して契約を締結する行為を行うものを除く。)をいう。
 旅行の目的地及び日程、旅行者が提供を受けることができる運送又は宿泊のサービス(以下「運送等サービス」という。)の内容並びに旅行者が支払うべき対価に関する事項を定めた旅行に関する計画を、旅行者の募集のためにあらかじめ、又は旅行者からの依頼により作成するとともに、当該計画に定める運送等サービスを旅行者に確実に提供するために必要と見込まれる運送等サービスの提供に係る契約を、自己の計算において、運送等サービスを提供する者との間で締結する行為
 前号に掲げる行為に付随して、運送及び宿泊のサービス以外の旅行に関するサービス(以下「運送等関連サービス」という。)を旅行者に確実に提供するために必要と見込まれる運送等関連サービスの提供に係る契約を、自己の計算において、運送等関連サービスを提供する者との間で締結する行為
 旅行者のため、運送等サービスの提供を受けることについて、代理して契約を締結し、媒介をし、又は取次ぎをする行為
 運送等サービスを提供する者のため、旅行者に対する運送等サービスの提供について、代理して契約を締結し、又は媒介をする行為
 他人の経営する運送機関又は宿泊施設を利用して、旅行者に対して運送等サービスを提供する行為
 前三号に掲げる行為に付随して、旅行者のため、運送等関連サービスの提供を受けることについて、代理して契約を締結し、媒介をし、又は取次ぎをする行為
 第三号から第五号までに掲げる行為に付随して、運送等関連サービスを提供する者のため、旅行者に対する運送等関連サービスの提供について、代理して契約を締結し、又は媒介をする行為
 第一号及び第三号から第五号までに掲げる行為に付随して、旅行者の案内、旅券の受給のための行政庁等に対する手続の代行その他旅行者の便宜となるサービスを提供する行為
 旅行に関する相談に応ずる行為
 (略)
 この法律で「企画旅行契約」とは、第一項第一号、第二号及び第八号(同項第一号に係る部分に限る。)に掲げる旅行業務の取扱いに関し、旅行業を営む者が旅行者と締結する契約をいう。
 この法律で「手配旅行契約」とは、第一項第三号、第四号、第六号(同項第三号及び第四号に係る部分に限る。)、第七号(同項第三号及び第四号に係る部分に限る。)及び第八号(同項第三号及び第四号に係る部分に限る。)に掲げる旅行業務の取扱いに関し、旅行業を営む者が旅行者と締結する契約をいう。
 (略)

 

 法2条1項柱書を読むと,「旅行業」の定義が示されています。ここでは「報酬を得て、次に掲げる行為を行う事業……をいう」とされているため,「旅行業」といえるための要件は,①次に掲げる行為,すなわち法2条1項各号に該当する行為を行うこと,②法2条1項各号の行為を事業として行っていること,③法2条1項各号の行為を報酬を得て行っていること,の3つとなります。

 

①法2条1項各号に掲げる行為

 「旅行業」にあたるかどうかを考える上で,まずは,一つ目の要件である,法2条1項各号に掲げる行為にあたるかどうかの判定を行います。これから行おうとする行為が,法2条1項各号のいずれにも該当しないという場合には,その行為は「旅行業」にはあたらないため,旅行業の登録を受けることなく行うことができるということになります。

 旅行業は,「基本的旅行業務(運送又は宿泊についての業務)」と「付随的旅行業務(運送又は宿泊以外のサービスについての業務)」とに区分されます(旅行業法施行要領第一.1.3))。以下では,各号の行為について,これらの区分に従って確認していきます。

 

基本的旅行業務

1号の行為(企画旅行)

 1.概要

 1号は,基本的旅行業務としての企画旅行についての規定です。企画旅行を行う事業者は「旅行業者」の登録が必要となることが示されています。企画旅行は,「募集型企画旅行」と「受注型企画旅行」に二分されますが,本号はその両者について規定しています。これらの業務の取扱いに関し,旅行業者と旅行者とが締結する契約を「企画旅行契約」といいます(法2条4項)。

 2.改正の経緯

 現在の「企画旅行」の概念は,旅行業法が平成17年4月1日に改正された時に導入されたもので,それまでは「主催旅行」と「企画手配旅行」という概念で区別されていました。「主催旅行」とは,旅行会社が予めツアーの日程やコース,価格等を設定し,参加する旅行者を募集して実施する形態の旅行を指します。一方,「手配旅行」とは,旅行会社が予めツアーを組むのではなく,旅行者の求めに応じて,交通機関や宿泊施設の予約等を行い実施する形態の旅行を指します。そして,手配旅行のうち,旅行会社が,旅行者から個別の依頼を受けて,単発の手配だけでなく旅行計画全体を策定するものを「包括料金特約付企画手配旅行」といいました。当時の旅行業法では,主催旅行契約を締結した旅行業者に対しては,旅程管理責任や旅程保証責任が課せられていましたが,企画手配旅行契約を締結した旅行業者にはこれらの責任が課せられていませんでした*2

 平成17年改正当時,旅行需要がますます多様化,高度化する中で,旅行者の依頼に応じて,旅行業者が自らの知見や取引関係を利用し,旅行者の個別の希望に対応しながら旅行計画を作成する旅行形態が増加するとともに,苦情や紛争も,旅行計画の作成から旅程管理に至るまで,幅広く生じるようになってきました。そのため,旅行者の保護の充実を図ることが重要な課題となっていました*3

 そこで,新たな旅行契約の態様として,あらかじめ又は旅行者からの依頼により,旅行に関する計画を作成するとともに,運送又は宿泊のサービスの提供に係る契約を自己の計算において締結する企画旅行契約を設定し,この企画旅行の実施について旅程管理業務を講ずることとされました。そして,ここでの企画旅行は「募集型企画旅行」と「受注型企画旅行」の2つに分け,従来の主催契約を前者,従来の包括料金特約付企画手配旅行を後者に位置づけました*4

 つまり,ここでの改正の最大の狙いは,従来の包括料金特約付企画手配旅行についても,旅行業者の旅程管理責任,旅程保証責任を負わせる点にあったといえます(旅程管理責任や旅程保証責任の詳細については,各項目で触れることとします。)。

 3.企画旅行の種類と内容

 企画旅行は,前述のように,「募集型企画旅行」と「受注型企画旅行」の2つに区別されます。

 

 -募集型企画旅行-

  a.概要

 募集型企画旅行とは,従来の主催旅行のことで,いわゆるパッケージツアーのことを意味します。上記の条文では,「旅行の目的地及び日程、旅行者が提供を受けることができる運送又は宿泊のサービス……の内容並びに旅行者が支払うべき対価に関する事項を定めた旅行に関する計画を、旅行者の募集のためにあらかじめ……作成するとともに、当該計画に定める運送等サービスを旅行者に確実に提供するために必要と見込まれる運送等サービスの提供に係る契約を、自己の計算において、運送等サービスを提供する者との間で締結する行為」の部分が募集型企画旅行のことを示しています。

  b.「募集」の意義

 本号でいう「募集」とは,旅行契約の申込みを(不特定又は多数の)旅行者に対し誘引することをいいます(旅行業法施行要領第一.3.3)(1))。一定の参加基準が設けられていたとか,参加の可否を募集人が決定できたといった事情は「募集」該当性の判断を左右しません*5。また,上記の定義からして,運送事業者又は宿泊事業者の代理人として運送契約又は宿泊契約の申込みを誘引するにすぎないものは,ここでいう「募集」にはあたりません。このため,単一の運送事業者又は宿泊事業者によって提供されるサービスについての宣伝,広告であって,契約の当事者が当該運送事業者又は宿泊事業者であることが明示されているものは,ほとんどの場合,旅行者の募集に該当しません(旅行業法施行要領第一.3.3)(1))。

 募集の方法は問わないため,新聞等への広告,ポスター,パンフレット,ちらし,口頭による勧誘,ダイレクトメール,インターネットのいずれであっても,それが旅行契約の申込みを誘引するものであれば「募集」となります(旅行業法施行要領第一.3.3)(2))。 

  c.「自己の計算において」の意義

 「自己の計算において」とは,旅行業者が運送事業者,宿泊事業者等の旅行サービス提供機関との間で,数量・価格その他の取引条件に付いて自由に交渉を行い,合意の内容に沿って旅行サービスを仕入れ,その結果として,当該旅行サービスで構成される旅行商品の販売価格についても自己のリスクにおいて任意に設定できることをいいます。したがって,その取引から生じた経済的損益は旅行業者に帰属します。(旅行業法施行要領第一.3.4))。

 たとえ旅行業者が,旅行契約中の一部である運送や宿泊について第三者に手配を依頼したために,それに関して自由な料金設定をすることができないとしても,自らの判断で運送サービスに係る費用を含んだ旅行価格を設定し,その経済的効果がその旅行業者に帰属するのであれば,その運送サービスの提供に係る部分についても,自己の計算によるものとされます*6

 なお,旅行業者は,仕入取引の条件について,旅行者に対して開示する必要はありません(旅行業法施行要領第一.3.4))。

 

 -受注型企画旅行-

 受注型企画旅行とは,前述のように,従来の包括料金特約付企画手配旅行のことで,旅行者から依頼を受けて旅行サービスの内容等を定めた旅行計画を作成・実施する旅行をいいます。上記の条文では,「旅行の目的地及び日程、旅行者が提供を受けることができる運送又は宿泊のサービス……の内容並びに旅行者が支払うべき対価に関する事項を定めた旅行に関する計画を、……旅行者からの依頼により作成するとともに、当該計画に定める運送等サービスを旅行者に確実に提供するために必要と見込まれる運送等サービスの提供に係る契約を、自己の計算において、運送等サービスを提供する者との間で締結する行為」の部分が受注型企画旅行のことを指します。

 募集型企画旅行は旅行業者が旅行サービスの内容等を全て策定するのに対し,受注型企画旅行は旅行者の方から注文して旅行サービスの内容等を決めていくことができる点が異なります。このように旅行計画の内容が旅行者の意向に依存しているため,一度契約内容が確定した後でも,旅行者がこれを変更することができます*7(標準旅行業約款〔受注型企画旅行契約の部〕第3章参照)。

 なお,「自己の計算において」の意義は,募集型企画旅行の場合と同義です。

 

 -募集型企画旅行と受注型企画旅行の区別-

 企画旅行の多様化に伴い,その旅行形態が募集型企画旅行なのか受注型企画旅行なのかの判別が難しくなってきています。両者の区別が判然としない場合には,これを考えるにあたっての一定の方向性が旅行業法施行要領に示されているので,これを参照して決定することになります。

3 企画旅行契約について(法第2条第4項)

 1) (略)

 2) 旅行に関する計画の要件について

  (1) (略)

  (2) 以下のような事例は、複数の旅行に関する計画が、参加する旅行者の募集をするためにあらかじめ定められているもの(募集型企画旅行)として扱う。

     (例)① 出発日が一定期間中何時でも可とするもの

        ② 幾つかのオプションを組み合わせることができるアラカルト型の旅行であるもの

  (3) 旅行の目的地が明示されないミステリーツアー等の場合であっても、当該旅行の性質上、単に明示されていないだけであるから、旅行に関する計画が、参加する旅行者の募集をするためにあらかじめ定められているもの(募集型企画旅行)として扱う。

  (4) 旅行業者が手配すべき個々の運送・宿泊期間等を予め選定し、その中から旅行者がサービスを選択して旅行計画を組み立てる旅行取引(いわゆる「ダイナミックパッケージ」)については、旅行計画を構成する個々のサービスを旅行業者が予め選定すること自体が募集のための計画作成と認められ、さらに、個々のサービスについて旅行業者が自らの計算において対価を定め、最終的に旅行代金として包括して徴収するものであることから、募集型企画旅行に該当する。

 3) 募集について

  (1),(2) (略)

  (3) 旅行業者又は旅行業者代理業者以外の者(以下「オーガナイザー」という。)が旅行者の募集に関与する場合の取扱いについては、以下による。

     イ) (略)

     ロ) 次の例のように、相互に日常的な接触のある内部団体で参加者が募集され、オーガナイザーが当該団体の構成員であることが明らかな場合におけるオーガナイザーによる参加者の募集は、企画旅行の実施のための直接的な旅行者の募集とみなされない。この場合、旅行業者は、参加者全体の契約責任者としてのオーガナイザーからの依頼を受けて実施する企画旅行(以下「受注型企画旅行」という。)又は手配旅行として引き受けて差し支えない。

       (例)① 同一職場内で幹事が募集する場合

          ② 学校等により生徒を対象として募集する場合

          ③ 権利能力なき社団の機関決定に基づき、当該遮断の構成員を対象として募集する場合

     ハ) 次の例のように、オーガナイザーが参加者の旅行代金の全額を負担する場合における参加者の募集は、オーガナイザーによる企画旅行の実施のための直接的な旅行者の募集とみなされない。この場合、旅行業者は、受注型企画旅行又は手配旅行として引き受けて差し支えない。

       (例)① 企業等が自ら旅行代金の全額を負担して参加者を募集する場合(いわゆる招待旅行)

          ② 企業等が取引先の従業員等を対象として、旅行代金の全額を自ら負担して参加者を募集する場合

          ③ 企業等が従業員を対象に実施するレクリエーション旅行や研修旅行であって、企業等が自ら旅行代金の全額を負担して実施する場合

     ニ) ロ)、ハ)に規定する以外のオーガナイザーからの依頼があった場合には、当該オーガナイザーの集客募集等が実質的に旅行業者による企画旅行の実施のための直接的な旅行者の募集と類似しており、旅行者に混乱を与え得るものであることから、旅行業者は旅行者の直接的な募集により実施する企画旅行(募集型企画旅行)として取り扱わなければならない。この場合に旅行業者は、当該オーガナイザーを関与させることなく、直接に旅行者から旅行代金を収受して旅行契約を締結しなければならない。

 

 4.企画旅行契約の範囲

 企画旅行契約は,旅行業務の取扱いに関する契約であり,旅行業務の取扱いの結果成立した運送契約,宿泊契約及び食事,観光,ガイドその他の運送等関連サービスの提供に係る契約は含みません(旅行業法施行要領第一.3.1))。

 また,特に募集型企画旅行契約については,旅行業者がパンフレット等に記載した旅程のうちどの範囲までが契約の内容となっているのかが問題となることもあります。これは契約解釈の問題ですので,詳細は別の項目で取り上げることとします。

 

3号の行為(手配旅行)

 3号は,「旅行者のため、運送等サービスの提供を受けることについて、代理して契約を締結し、媒介をし、又は取次ぎをする行為」とされています。「運送等サービス」は,1号と同様に,「旅行者が提供を受けることができる運送又は宿泊のサービス」を指します。

 ここで,「代理」,「媒介」,「取次ぎ」という3つの形態が示されています。

 「代理」とは,AがBのためにCとの間で意思表示をし,又は意思表示を受けることによって,その法律効果がBに直接に帰属する制度です*8

 「媒介」とは,いわゆる周旋のことで,他人の間に立って,他人を当事者とする法律行為の成立に尽力する事実行為です*9。例えば,旅行エージェントが,旅行者とホテルとの間の宿泊契約を締結するため,電話だけかけて旅行者の部屋をとってあげる行為は「媒介」にあたります*10。この場合には,旅行者とホテルとの間で直接に宿泊契約が締結されることになります。

 「取次ぎ」とは,自己の名をもって他人の計算において,法律行為をすることを引き受ける行為です*11。例えば,旅行エージェントが,旅行者からの委託を受けて,旅行エージェントの名義でバス会社との間に運送契約を締結することは「取次ぎ」にあたります*12。この場合には,旅行者と旅行エージェントとの間で委任契約が締結され,旅行エージェントとバス会社との間で運送契約が締結されていることになります。

 

4号の行為(手配旅行)

 4号は,3号と同様に,「代理」,「媒介」する行為について規定するものですが,3号が「旅行者のため」にするのであったのに対し,4号は「運送等サービスを提供する者のため」にする場合を想定しています。

 「代理」,「媒介」の意義は,3号に定めるものと同様です。例えば,航空会社の代理人として旅行者と運送契約を締結することなどが考えられます*13

 

5号の行為

 5号は,いわゆる利用運送,利用宿泊といった行為のことを指します。旅行業者が自ら旅行者に対して運送や宿泊のサービスの提供行為を行うこととなり,あたかも,旅行業者が運送業,宿泊業を営んでいることになります。

 現在,このような行為は,貨物の分野では認められているものの(貨物利用運送事業法参照),旅客の分野では免許取得等の関係上認められていません*14

 

付随的旅行業務

 付随的旅行業務は,基本的旅行業務に付随して行われる業務です。基本的旅行業務の存在を前提とするため,基本的旅行業務が行われておらず付随的旅行業務だけ単体で行われても(例えば,プレイガイド,ガイド等),「旅行業」には該当しないことになります(旅行業法施行要領第一.1.3②))。

 

2号の行為

 2号の行為は,1号(企画旅行)の実施にあたり,運送・宿泊業務以外のサービスを旅行者に提供するために,そのサービスを提供する者との間で契約を締結する行為です。

 

6号の行為

 6号の行為は,3号から5号までの手配旅行に付随して,旅行者のために行われる,運送等関連サービスの提供を受けることについての代理・媒介・取次行為を規定するものです。

 同号の行為は付随的旅行業務であって,前述のように基本的旅行業務に付随しなければ「旅行業」に該当しません。したがって,例えば,運送事業者が自ら行う日帰り旅行,宿泊事業者自らが行うゴルフや果樹園との提携企画等運送又は宿泊サービスを自ら提供し(代理,媒介,取次ぎ,利用のいずれにも該当せず,したがって基本的旅行業務とならない。)これに運送,宿泊以外のサービスの手配を付加して販売する場合は,旅行業に該当しません(旅行業法施行要領第一.1.3)①)。

 

7号の行為

 7号の行為は,3号から5号までの行為に付随して,運送等関連サービス提供者のために行われる,運送等関連サービスの提供についての代理・媒介行為を規定するものです。

 例えば,テーマパークの入場券を旅行者に販売する行為がこれにあたります*15

 

8号の行為

 8号の行為は,いずれの基本的旅行業務を問わずこれに付随して行われる,旅行者の便宜となるサービスをていきょうするこういを規定するものです。

 例えば,旅行者のパスポート需給のため,行政庁に対して,手続の代行を行う行為がこれにあたります*16

 

9号の行為

 9号は,「旅行に関する相談に応ずる行為」とあります。

 旅行相談を受けたり,旅行先のアドバイスをしたりする行為は,これにあたります。

 なお,法2条1項1号にいう「旅行」とは,運送や宿泊の各サービスを利用して場所的に移動することや一定地域で逗留することを広く含むものであると考えられている*17ことからすると,相談内容に運送・宿泊サービスが含まれていない場合には本号にあたらない可能性がありますが,その際限は不明確であるため,運送・宿泊サービスについて相談を行わない場合でも,旅行業の登録の要否は慎重に検討する必要があります。

 

②事業として行うこと

 「事業」とは,一般的には,一定の目的をもって反復継続的に遂行される同種の行為の総体を指します*18

 本条における「事業」にあたるかどうかは,旅行業務に関する対価の設定,募集の範囲,日常的に反復継続して実施されるものであること等を踏まえ,総合的な判断を要するとされています(旅行業法施行要領第一.1.1))。したがって,単純な類型化によって「事業」の認定をすることはできません。

 1.対価の設定(営利性)

 法2条1項各号に掲げる行為によって利益が上がれば,それを再投資にまわすことが可能となり,同様の行為が繰り返し行われる可能性が高まります。したがって,営利性が認められると,当該行為が事業として継続される蓋然性が高く,法により行為規制をかける必要性が大きくなります*19

 営利性の判断は,同一社内における他事業からの補填も含め,総合的に収支を確認することによって行います。取り扱う全ての旅行商品について利益が出ない対価設定になっているなど,事業形態として構造的に利益が出ないようになっていれば,営利性はないと考えられます*20

 なお,営利性があることは,あくまで考慮要素の一つにすぎないため,収益が上がる可能性がない行為であっても,それが反復継続的に行われていれば「事業」に該当する可能性は残されています*21

 2.募集の範囲(不特定多数性)

 募集の範囲については,募集の不特定多数性があるかどうかが考慮されています。もっとも,不特定多数性はあいまいな概念であるため,過去の例から類似するケースを探して判断するしかありません。例えば,A市が市内の小学生を対象として行っサマーキャンプには募集の不特定多数性がないとされた一方,ある事業者が全国の小学生を対象として実施しようとした夏の中学受験合宿は募集の不特定多数性が認められています*22

 3.反復継続性

 反復継続性は,「事業」該当性の判断の上で特に重要な要素であると考えられます。

 定量的に日常的に反復継続して実施しているかどうかを判断することは困難ですが,①旅行の手配を行う旨の宣伝,広告が日常的に行われている場合や,②店を構え,旅行業務を行う旨看板を掲げている場合などでは,行為の反復継続の意思が認められやすくなります(旅行業法施行要領第一.1.5))。他方で,B市が市内の独身男女を対象として行った婚活ツアーは年に1度の開催であったため,日常的に反復継続して実施していたとまではいえないとされた例もあります*23

 ここで注意すべきは,実際に反復継続的に行為が行われた場合はもちろん,1回の行為であっても,それが反復継続する意思のもとに行為を行ったと認められる場合には,「事業」にあたる可能性がある点です*24(つまり1回目の行為が,その回限りのものであれば反復継続性は認められず,他方今後も継続して行う意思のもとにされた場合には反復継続性が肯定される可能性があるということです。)。

 

③報酬を得ていること

 「報酬」とは,労務の提供,仕事の完成,事務の処理等の対価として支払われる金銭,物品をいいます*25

 本条における「報酬を得て」とは,法2条1項各号に掲げる行為を行うことによる対価を得てという意味です*26。つまり,法2条1項各号の行為を行うにあたり,その対価となる金銭や物品を受け取れば,それは本条の「報酬を得て」を満たすということになります。したがって,逆に言えば,法2条1項各号の行為を無償で行う場合には,「報酬を得て」行ったとはいえないため,その行為は「旅行業」にはあたらないということになります。

 なお,対価を受けた結果として利益が生ずることまでは必要ではないため,旅行者からいわゆる実費に相当するものしか収受していなくとも,それが法2条1項各号の行為の対価として支払われているのであれば,「報酬を得て」行ったものと認められます*27

 この「報酬」は,運送等サービス等の履行前に旅行者から受ける対価に限られません。したがって,例えば,観光会社がリゾートホテルから金員を得て,同ホテルのために,数回にわたり,同ホテルに対し集客した旅行者の宿泊予約をするなどし,同ホテルが旅行者との間で宿泊契約を締結するのを媒介したのであれば,ここで得た金員は「報酬」にあたります*28

 また,旅行者からの金員の徴収がない場合や,行為と収入との間には直接的な対価関係がない場合でも,①旅行者の依頼により無料で宿を手配したが,後にこれによる割戻し(いわゆるキックバック等)を旅館から受けている場合や,②留学あっせん事業において,留学あっせんと運送又は宿泊のサービスに係る対価を包括して徴収している等,旅行業以外のサービスに係る対価を支払う契約の相手方に対し,不可分一体のものとして運送又は宿泊のサービスを手配している場合のように,相当の関係があれば,報酬を得ていると認められます(旅行業法施行要領第一.1.2)(2))。旅行者からは金員を徴収しないが,旅行者・サービス提供者とは関係のない第三者からの集金(寄付等)によって収益を上げている場合でも,当該第三者から支払われる金員が,法2条1項各号に掲げる行為の対価であると認められる場合には報酬に該当します*29

 さらに,企画旅行のように包括料金で取引されるもので,収支の内訳が明確でなく,法2条1項各号の行為を行うことにより得た経済的収入によって支出を償うことができていないことが明らかでない場合は,旅行業務に関し取引をする者から得た報酬により利益が出ているものとみなされます(旅行業法施行要領第一.1.2)(3))。

 

例外規定

 以上の3つの要件を充足する行為であっても,一定の行為については「旅行業」にあたらないとされています。

 法2条1項柱書かっこ書きには「専ら運送サービスを提供する者のため、旅行者に対する運送サービスの提供について、代理して契約を締結する行為を行うものを除く。」と書かれています。航空運送代理店やバス等の回数券販売所等がこれにあたりますが,これらのものは「旅行業」に該当しないことになります(旅行業法施行要領第一.1.4)①)。もっとも,これらの行為を旅行業者が行う場合には旅行業務に該当するため,旅行業者等の営業所として登録が必要となります(旅行業法施行要領第二.2.3))。

 また,ウェブサイトを介して旅行取引を行う場合で,旅行者と旅行業者又はサービス提供事業者との間での取引に対し働きかけを行わない場合(遅くとも予約入力画面から予約確認画面に移行する際(すなわち,予約入力画面に入力された情報を送信する際)までに,旅行者と旅行業者又はサービス提供事業者との間で取引となる旨が明確に表示されている場合)には,法2条1項各号のいずれにも該当しないため,「旅行業」には該当しません(旅行業法施行要領第一.1.4)②)。

 

第3回のまとめ

 今回は,定義規定のうち「旅行業」の部分に焦点をあてて,該当する条文の内容を確認してきました。法2条1項は旅行業にあたり得る行為を細かく類型化して規定していますので,どのような行為がどの規制にかかるのかをよく確認しておく必要があります。また,報酬や事業性についても,旅行業法に限らず,各分野における同様の規定に関する裁判例等が集積されているので,それらも参考にしながら適切に該当性を判断する必要があります。

 次回は,定義規定の残りの部分,「旅行業者代理業」や「旅行手配サービス業」について確認していくこととします。

 

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*1:参議院法制局法律の[窓] 法律における用語の定義

*2:国土交通省総合政策局旅行振興課「「旅行業法令・約款」改正について~平成17年4月1日からの新制度の円滑な施行に向けて~」5頁

*3:第159回国会衆議院国土交通委員会第12号石原国務大臣発言005

*4:前掲「旅行業法令・約款」改正について3頁

*5:松山簡判平成23年11月24日2011WLJPCA11246007

*6:高松高判平成25年1月29日高刑速平成25年259頁

*7:前掲「旅行業法令・約款」改正について4頁

*8:法令用語研究会編『有斐閣法律用語辞典〔第5版〕』(有斐閣,2020年)759頁

*9:前掲法律用語辞典941頁

*10:第65回国会衆議院運輸委員会第9号住田政府委員発言015

*11:前掲法律用語辞典899頁

*12:前掲運輸委員会第9号住田政府委員発言015

*13:前掲運輸委員会第9号住田政府委員発言015

*14:佐々木正人『最新改訂版 改正旅行業法・約款の解説』(中央書院,2005年)20頁

*15:前掲佐々木20頁

*16:前掲佐々木20頁

*17:前掲高松高判平成25年1月29日

*18:前掲法律用語辞典480頁

*19:観光庁旅行業法施行要領の一部改正(平成30年7月改正)に関する参考資料」問13

*20:前掲施行要領改正参考資料問14

*21:前掲高松高判平成25年1月29日

*22:前掲施行要領改正参考資料問8

*23:前掲施行要領改正参考資料問10

*24:前掲施行要領改正参考資料問9,前掲高松高判平成25年1月29日参照

*25:前掲法律用語辞典1052頁

*26:東京高判平成26年6月20日高刑速平成26年67頁

*27:前掲松山簡判平成23年11月24日

*28:前掲東京高判平成26年6月20日

*29:前掲施行要領改正参考資料問4