弁護士清水大地のブログ

日頃考えたことを徒然なるままに書き散らします。

確定申告無申告者の休業損害・逸失利益算定上の基礎収入の認定

 休業損害や逸失利益の算定においては、その前提となる基礎収入の認定が必要となります。個人事業主等の場合には、確定申告を行っていれば、申告所得額をもって基礎収入を認定することができますが、確定申告をしていない人の場合にはどのように認定すべきなのかが問題となります。
 本稿では、裁判例を中心に、確定申告無申告者の基礎収入の認定について取り上げます。

1 裁判例の状況

 調べた範囲での裁判例の傾向は、次のとおり整理されます(番号は末尾に掲げる裁判例一覧の番号に対応しています。)。
 ⑴ 賃金センサスをそのまま適用するもの①②④⑨⑫
 ⑵ 賃金センサスの80%とするもの…⑮
 ⑶ 賃金センサスの70%とするもの…⑤⑯⑱
 ⑷ 賃金センサスの50%とするもの…③
 ⑸ 賃金センサスの40%とするもの…⑭
 ⑹ 原告の主張をそのまま認定したもの…⑦
 ⑺ 0円としたもの…⑧⑩⑬
 ⑻ その他…⑥⑪⑰⑲⑳

2 無申告所得の立証方法

 確定申告のない所得の認定に当たっては、通常の業務の過程で作成される会計帳簿、伝票類、日記帳、レジの控え、取引の過程で作成される契約書、納品書、請求書、領収書、金銭の移動を立証するための預金通帳等による立証が考えられます。会計帳簿には、売上及び経費について網羅的に記載されているのが一般的と思われるところ、その信用性については、その基となった預金通帳、伝票、日記帳、レジの控え等の裏付けとなる証拠を参照して、文書の体裁、記載内容、作成経緯等から厳格に判断する必要があることが指摘されています*1
 上記1⑹の裁判例は、具体的にどのような証拠資料が提出されたのか不明ですが、これらの立証に成功したものと考えられます。

3 立証不十分の場合

 ⑴ 上記2の立証が不十分とされる場合であっても、被害者の年齢、性別、健康状態、学歴、職業のほか、営業規模や出入金の状況、営業の状況、仕事の形態、家族を含めた生活状況、認定可能な事故前の現実収入などの諸事情を考慮し、賃金センサスの平均賃金を得られる相当の蓋然性が認められる場合には、当該平均賃金に相当する基礎収入額を算定することになります*2
 ⑵ 賃金センサスを適用する裁判例では、賃金センサスを100%適用するもの(上記1⑴)と、70%の限度で適用するもの(上記1⑶)が多くありました。
 賃金センサスを100%適用するものは、被害者が事故当時心身ともに健全で就労し収入を得ており、その収入によって生計を維持していたこと等に言及があり、上記⑴の諸要素を考慮したうえで賃金センサスの平均賃金を得られる相当の蓋然性が認められるとの判断をしていることが窺われます。
 賃金センサスを限定的に適用するものは、被害者による立証によっては賃金センサスの平均賃金を得られる相当の蓋然性が認められないものの、一定程度の所得を得られる相当の蓋然性の範囲で認められることに言及があります。したがって、上記⑴の立証がされていない場合であっても、就労の事実や収入を得ていた事実がある程度立証されている場合には、賃金センサスを限定的に適用するものと考えられます。具体的に何%に限定して適用すべきかを判断するに当たっても、上記⑴の諸要素を考慮して判断するものと考えられます。
 ⑶ 上記1⑺の裁判例では、いずれも、そもそも就労の事実や収入を得ていた事実の立証が不十分と判断されています。

4 賃金センサス以外の方法による認定

 なお、⑰⑲⑳のように、賃金センサスの平均賃金を得られる相当の蓋然性が認められない場合に、賃金センサスを基準とせず、事故前後の売上や経費等から、具体的な基礎収入を認定している裁判例も存在します。

5 裁判例一覧表


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*1:豊島英征「賃金センサスによる基礎収入額認定上の問題点」日弁連交通事故相談センター編『民事交通事故訴訟損害賠償算定基準2019年〔下巻〕』28頁

*2:湯川浩昭「事業者の基礎収入の認定」日弁連交通事故相談センター編『民事交通事故訴訟損害賠償算定基準2006年〔下巻〕』19頁